「なにも起きないわね」
願ったけど特に何も起こらなかった。いつもなら眩い輝きが水晶から出るはずなのに、やっぱり誰も死んでいないからか輝くことは無い。一瞬光った気もするけど、特に何の変化も起きていないから気のせいだろうし。まぁ、なんとなくこうなることは分かっていたから、さして驚きはないけど。
「うーん。いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」
「まぁ、まだ時間は少しあるから考えよ?」
「そうね」
うまくいかなかった以上、考えるしかない。でも、これ以上の情報なんて日記からも読み取ることはできない。そもそも、このペンダントが結局なんなのかもわからないし、それについては一切記していない訳だし。
「それにしても不思議よね。みんな自分が死ぬ夢を一回は見ていて、こういう夢を白昼夢って呼ぶのよね?」
「あれ?白昼夢って、お昼に見る夢なんじゃ」
「そう言う面もあるけど、現実とは思えない不思議な夢のこともそう呼ぶのよ」
「ふぇー」
「はいはい。今はそのような話関係ないでしょう。それにしても、これ以上の情報は見込めませんわね。となると、まずは今日を全員で生き延びることを考えましょう」
「そうね。もしかしたら、善子が死なずに明日を迎えたらとりあえずはこの一週間を抜けることはできるし、その後のことはその後に考えましょ?」
「うーん。でも、どうすればいいんだろ?道にいたら車に突っ込まれ、建物の中にいたら潰されちゃうだろうし」
「じゃぁ、校庭にいるのは?そこなら潰されるものは無いし、車が突っ込むにも柵があって無理だろうし」
「それはありね。今日の七時までいればいいだろうし」
情報収集から、今日を生き延びる方法に話し合いは変わり、結果から言えば、校庭の真ん中にいるという案が出た。今日は雨も降っていないから、ありといえばありかもしれない。でも、
「たぶん、無理ね。前にそれを実践したら、飛行機が降って来たから」
「あ……」
「或いはライオンとか熊が来るかも」
「うーん」
「あとは……」
「とりあえず、色々なことがあって可能性が多いのはわかったわ」
残念ながら。こう提案の場合の死に方がいくつも浮かんでしまう。ならばと、砂浜のような場所という案も出たけど、その場合でも校庭と似た状況になる未来しか見えない。
まぁ、はっきり言うと、
「私が死なずに済む方法が無いわ。そもそも、今回は月曜じゃなくて今朝に飛んだ。つまり、死因はみんなが見たはずのモノになる」
「それって……」
「その時の記憶が無いから予想だけど、たぶん……心臓発作よ」
「え?」
みんなその時の死因が判明する前に飛んできたらしいから、知らない訳で、私の予想を口にすると驚いた声を漏らした。マリーやダイヤ、果南辺りは薄々勘付いていたと思うから驚いた様子はなくて、表情は暗い。
「でも、発作が起きたらすぐに応急処置すれば助かるんじゃないの?」
「たしかに応急処置をすれば助かる可能性はあるよね」
「じゃぁ、どうにかなるんじゃないの?」
応急処置をすれば確かに間に合うかもしれない。でも、可能性の話。助からない可能性もある。
それに可能性の話で言えば。
「でも、起きないかもしれない。そもそも、今回は今までと違うことがいくつもあるから」
「違うこと?」
「もしかして、マルたちが知っちゃったからマルたちにも危害が加わるかもってこと?」
「でも、それはたぶん平気ってさっき結論が出たよね?」
みんなは私の言ったことの意味が分からないみたいで、違う方に解釈していた。確かにそっちも予想の域を出ないけど、私の気にしているのはそっちじゃない。
「そもそも、過去に飛んだのが、今回は私じゃなくて皆の方ってことよ。その結果が月曜じゃなくて土曜になってるから、今まで通り同じことが起こるとは限らない。そもそも、今日の最下位は蟹座じゃなくて蠍座だから」
「え?そうなの?今日は星座占い見てないから知らなかった……って、あれ?」
「困ったね。未だにどうなるのか分かっていない誰の星座でもないパターンが来るって。マルの時はどうして無事だったのか明確な理由が分かってないし」
「ええ。単純に私が死の回避する方を選べていただけなのか、元から死なない程度のことが起きる日だったのか」
最大の問題はそこだった。もう、前例がないことばかりが重なっているから、どうなるのかわかったものじゃない。
「善子ちゃんが私たちの死を変えた時、少し違うことが起きたりした例も日記にはあったから、変わる物があるとは思ったけど、占いの結果が変わるなんて」
「そういうこと。今回は私と居たらみんなに危害が加わる可能性が0とは言い切れない訳だから、場合によっては誰かが私の代わりに死んじゃう可能性もある。もし今までの通りなら私と一緒に居なければ巻き込まれることは無いはず」
「つまり、善子さんのそばにいれば誰かが死に、誰もいなければ善子さんが死ぬと」
「あぁー。じゃぁ、どうやっても誰かが死んじゃうってことなの?」
「ええ。最悪、誰かが死んで、その後に私が死ぬ可能性もあるわ」
考えれば考えるほど、最悪な事態が浮かんで行く。もしかしたら全員死んじゃうなんて事態も考えられたけど、さすがにそれは口にしたくなかったから言わないけど。
「はぁー。考えれば終わりが無いわね」
「そうね。っと、ちょっと気分転換に外の空気を吸って来るわ。ちょっと頭の整理もしたいし」
「そう言ってどこにもいかないよね?」
考えすぎて、少し頭の整理がしたいからそう言うと、リリーにそう聞かれてしまった。みんなもリリーの言葉で私を見る。
確かに、みんなに話す前ならそうしてただろうけど。
「平気よ。今はそんなこと考えてないから。みんなとまだまだ一緒に居たいし」
そう言って、部室を出る。
今はそんな気はさらさらない。そもそもの話、みんながそうさせてくれないだろう……し?
「ねぇ。一つ聞いていい」
「どうしたの?」
外に出てすぐだけど、部室を覗く形で皆に聞く。気のせいならそれでいいんだけど。
「この時間って、まだ私たちだけだし、校舎に入れないわよね?」
「一応職員玄関からなら入れますし、先生方がいると思いますけど?」
「ごめん。聞き方変えるわ。屋上にローブみたいなのを纏った人が一瞬見えたんだけど……今日ってそういう方面のなんかあったけ?」
「はい?」
外に目を向けた際に一瞬屋上に見えた人影。気のせいならいいんだけど、気になったからそう言うと、ダイヤは首を傾げていた。たぶんダイヤの考えていることは分かる。
「ローブを着る生徒なんて善子さん以外にいないでしょう?オカルト系の分もありませんし、何かの催しもありません、よ?」
「てことは……」
『『『不審者?』』』
~☆~
「で、どうするのよ?屋上に来て」
「うん。どうしよっか。警察を呼ぶべきなんだろうけど、これで生徒だった場合はややこしいことになるだろうし」
「とりあえず、確認してから決めましょ?不審者なら警察に連絡すればいいし」
「幸い、屋上から出られるのはここだけだからここを塞げば逃げられないだろうし」
私たちは今、屋上の扉前の踊り場にいる。私が見たのが不審者なのかどうなのかわからないから、その対応に。先生に言えば済むだろうけど、大人が介入すると、生徒の場合かわいそうなことになる。
「とりあえず、本当に人はいるね。ローブで全く顔は見えないけど」
「でも、体型的に同い年くらいの女の子みたい?」
「ええ。となると、生徒と考えるべきでしょうか?」
「よし。私が捕まえてくるよ」
「果南。待って。まだ、生徒と決まった訳じゃない。背丈がそれくらいの大人の可能性も」
「でも、果南ちゃんくらいの身長に見えるよ?」
「それって、十分大人でもいるよね?しかも……」
「千歌ちゃんのお母さんを見た以上はもう……」
「え?なんでお母さんがそこで……ああ。そういうこと」
ローブの人の正体が分からない以上、どうしたものかと悩む。
その結果……
「よし!当たって砕けよう!」
「ヨーソロー!」
果南と曜が飛び出してしまった。勢いよく二人がドアを開けたことでローブの人がビクッと肩を震わせた。
私たちも慌てて追いかけると、二人は取り押さえようと飛びかかり、
「よっと。あっ!」
ローブの人は軽い足取りで二人を回避し、その勢いで塀に突っ込みかけていた二人の手を握って突っ込む前に止めて、二人はその場に尻餅をついた。その身のこなしと、二人分の重量を軽く支えたことからも、そうとうな力持ちなのかもしれない。
そして、二人の顔を見ると、いきなり二人に抱きついた。
「気づいたらここに居て、久しぶりだからここからの景色を見ていたら襲われるなんて、相変わらず私は不運ね。まっ、あの時に比べたらマシか」
「え!?」
この後、どうする気なのか警戒していたけど、独り言の様に呟いたその声に、私は驚きの声を漏らしていた。
その声は聞き覚えしかない。毎日のように私の耳に聞こえている声。
「それに高校時代の曜と果南に会えるなんて!」
うれしそうなその声はやっぱり聴き覚えがあり、抱きつかれながらもローブの中が見えたのか、二人は驚きの表情をしていた。
それで、もう私はローブの人の正体がなんとなく察せられた。
「ふぅ。いつまでも抱きついてるのは悪いし、これくらいにして……」
ローブの人は抱きつくのをやめて立ち上がると、私たちの方に向き直り、フードを捲くって顔をあらわにする。
「久しぶりね。みんな……って言うのも少し変かしら?」
「……私?」
そこに立っていたのは、少し背丈が伸びた私だった。見た限りは二、三年経ったくらいに見える。
でも、みんなは驚きで何も言えない。私が二人いるという状況はそれだけ衝撃的だった。
「あれ?私以外は無反応?」
もう一人の私は反応が返ってこないことに対して首を傾げる。
「さて、今って何年の……いや、今何月何日なの?」
「今は……」
「まっ、普通に考えてあの時だろうね」
なんとなく予想がついているのか、質問しながらも勝手に自己完結する。だったら聞かなくていいじゃない。
でも、その口ぶりから、わかったこともあった。
「あなたは未来の私よね?しかも、その未来にみんなはいない」
「そうよ。今から二年半後の未来から来た津島善子よ。よろしくね。高校生の私とみんな?」
未来の私はそう言って笑みを浮かべてみせた。
~☆~
「わー。懐かしい」
いつまでも屋上にいると、外からも目立つかもだし、まともな話が出来そうにないから部室に戻って来た。未来の私は屋上からここまで戻って来る間ずっとキョロキョロして懐かしそうにしていた。
たぶん、未来の世界だと浦女はもう無いのね。
「では、全てを話してくれますか?」
「マリー。別に敬語にしなくていいよ。あんまり歳は変わらないし。あと、もう一人の私と区別するために、ヨハネってとりあえず呼んで。いちいち未来の善子みたいな感じで呼ばれるのも嫌だから」
「そう。それで、あなたはどうやってここに来たの?」
「そうね。順番に話すべきかもだけど、その質問から答えるか」
ヨハネは変わらぬ調子でそう言うと、真面目な話になるからか表情が変わる。
「私がここに来れたのは、みんなが呼んだから」
「呼んだ?」
「うん。今起きてるこれの真実が知りたいって願ったでしょ?だから、私はここに来た。まぁ、正確に言えば私の意思じゃなくて、勝手にここに飛ばされたんだけど。いきなり私の足元に魔法陣が出てきたときは焦ったわよ」
「え?でも、あれは失敗したんじゃ?」
「うん。そう思っただけで実際は成功していた。だから私がここに居る」
ヨハネの話はにわかに信じがたいけど、私がもう一人いる時点で信じるしかない。どうして成功したのかはわからないけど、とりあえず成功していたことはうれしい。
「あなたがここに来れた理由はわかりました。では、本題に」
「うん。そうだね。ここからが本題だね。まずは、どうして過去の私の周りでこんなことが起きているのかからかな?」
「そうですわね」
「じゃぁ、話そうか。と言っても、どうしてこんなことが始まったのかという理由はわからない。単純に偶然の積み重ねだったのか、神の悪戯なのか」
「そんな」
「だから、そこはそういうものだと割り切って。で、先に言っておくけど、そのペンダントが原因じゃないから。それが無い時からこれは起きてたからさ」
「ペンダントが無い時から起きてた?でも、月曜日の時にはすでにあったんじゃないの?」
「うん。確かにその認識で正しいわ。私がそのペンダントを過去の私、まぁあなたに渡したんだから」
「え?でも、そんな記憶ないわよ?私に会ったのはあなたが初めてだし」
ペンダントを貰った記憶が無いから、いまいちわからない。そもそも、その時の記憶が無い。そもそも、どうしてその時の記憶が無い?そんな忘れるくらい昔にもらったってことなの?
「まぁ、覚えてないのも無理はないよね。忘れちゃったんだから」
「忘れた?つまり、そんな昔にもらったってことなの?」
「ううん。日曜日の夜だよ。渡したのはね。そして、ある事情でその時の記憶を失ったと言う訳」
「待ってください。話についていけないのですが。一体何があったというんですか?まさか、善子さんが日曜の夜に何かが……」
「あっ、ごめん。事故とかは起きてないから。そうだね。まずは、あっちからか。どうして、私がペンダントを渡したのかから」
「そうよ!まずはそこから聞かないと」
「じゃぁ、話そうか。私が経験した歴史を。どうしてペンダントを託したのかを。そして、この一週間を抜ける方法をね」