片方はみんなで呼び寄せちゃった未来の善子ちゃんのお話。
もう一個は熊さんのその後の話です。
【未来の私】
『カクカクシカジカ。ウマウマウシウシと言う訳よ』
みんなが次々に事故で死んでいく。
数歳上の私に聞かされる未来の話。
『ペンダント?あっ、でもこの水晶綺麗ね。まさか、これには過去に飛ぶ力があるって言うの?』
それを乗り越えるための水晶。
『わっ!』
それに触れた瞬間、水晶が輝きもう一人の私が消え、私はその時の記憶を失った。
それからその日の夜にみんなが死んでいく夢を見て、現実で曜が事故に遭い、夢で見た通りに水晶に願うと、その日の朝、或いはその週の月曜日の朝に戻り、それを繰り返していった。
みんなの死は私がそこにいたからと気づいて、私はみんなの前からいなくなろうとした。だけど、みんなは私が生きることを望んでくれて、私はみんなの生きる道を探し、土曜日を乗り越えても続く可能性もあったけど、それ以外に道は無かったから、私は土曜日を乗り越えることを目指した。
「んん~……ここは?」
目を覚ますと、そこは白い天井に白い壁があった。
あの繰り返し続けた一週間の夢を見ると共に失っていた未来の私の話の記憶を思い出した。
ここは何処なのだろうか?
そんな疑問を持ちながら私は身体を起こそうとする。でも、身体が重くて動かなかった。出した声もかすれていて、動くのは首だけ。首を動かして周りを見ると、私はベッドの上に寝ていて、どうやらここは病院のようだった。私の手にはチューブが伸びていて、それはベッドの隣にある点的につながっていた。
でも、どうして私が病院にいるのかわからない。どうして、こんな病人みたいな状態になっているのか。
確かあの時は、みんなで協力して……
「あっ、もう少しのところで心臓発作が起きたんだ」
私は最終的には心臓発作が起きたことを思い出した。
でも、こうして病院にいるってことは助かったってことよね?
ガラガラ
「え?善子ちゃん?」
すると、病室のドアが開き花瓶を持った少女が入って来る。肩にかかるくらいの栗色の髪に、おっとりとした顔の少女は私の顔を見ると、驚いた表情をする。
そして、私のもとに駆けてくると、雑に花瓶を机に置いて私の手を握る。
「良かった。善子ちゃんが目を覚まして」
「もしかして、花丸?」
「うん」
私の知っている花丸よりも少し成長していて、声を聴いてやっとわかった。でも、どうして変わっているのかはわからなかった。
「花丸、雰囲気変わった?」
「あはは。善子ちゃんからしたらそう思うよね」
「?」
「善子ちゃん、あの日から一年近くずっと寝てたんだよ」
「嘘でしょ?」
花丸の言う、一年近く寝ていたという言葉信じられなかった。そんなに長い時間が経っているなんて信じたくなかった。
「信じられないよね?でも……」
花丸はそう言って、スマホを出すと私に日付を見せる。日付は年が一つ上がった九月を表示していた。
これだけなら、まだドッキリかもと思えたけど、直後にインカメに切り替わり、私の顔が映る。
「これが私?」
画面に映る私の顔は点滴等で命を繋いでいたからやつれていて、これが私なのだと思えなかった。でも、事前に作っておいたようには見えず、ここに映る私が今の私であり、月日が経っていることを信じざるを得なかった。
「あの時、本当にいつ死んでもおかしくない状態だったの」
「ええ」
「ギリギリの状態で病院に運ばれて、ずっと寝てたから、もう目を覚まさないんじゃないかって心配してた」
「そう……心配かけたわね」
花丸は私が目を覚ましたことを本当にうれしそうにしていた。だから、ずっと心配をかけていた花丸にそう言った。
「それで、結局あの後ってどうなったの?」
「あっ、うん」
結局あの後のことはわからないからそう問う。記憶が確かなら地割れでできた穴に落ちて、イヤホンもスマホも使え無くなって連絡が取れなくなった。だから、助けが来るのにも時間がかかって間に合わないって私は諦めていた。
「マルたちは地震の影響でドアがなかなか開かなくて善子ちゃんのもとに行くのが遅れちゃって」
それから花丸はあの後にあったことを話してくれた。
花丸たちがどうにか校庭に出た時には穴があって、私が穴の底に倒れているのが見えたから果南が躊躇いなく飛び込んで人工呼吸をしただとか。その間にみんなは救急車を呼んだり、手当てができるように医療用品を取りに行ったりしたらしかった。
その後、私は救急車が到着すると病院に運ばれた。
果南のおかげで手遅れにならずに済み、私は生きることができた。でも、発作の影響か私は昏睡状態になったらしい。
それで、後は今日まで眠っていた。
「そうだったんだ」
「心配したよ。でも、目を覚ましてくれて良かったよ」
私がどうやって助かったかはわかり、それからあった出来事の話など色々なことを聞いた。
私が目を覚ますと信じて私の穴が空いたまま練習を続け、地区予選は敗退してしまったこと。浦の星の統廃合が決定してしまったこと。三年生三人は卒業してそれぞれの道に進んだこと。
浦の星の生徒はみな沼津の高校に編入したこと。
毎日、誰かがお見舞いに来てくれていたこと。
「私のせいだ。私が目を覚まさなかったから……」
「ううん。善子ちゃんのせいなんかじゃない。善子ちゃんがマルたちを生かしてくれたから、マルたちの今はあるんだよ?」
「でも、あれだって私がいたから……」
花丸は私のせいじゃないって言ってくれるけど、私がすぐに目を覚まして一緒に出ていれば、もしかしたら違う未来があったかもしれない。
あの事故の数々だって、私がそばにいたから起こった。私がいなければそもそもみんながあんな目に遭うことは無かったはず。
だからこそ、全部私のせいのはず。
「予選を突破できなかったのも、廃校したのもマルたちの力不足。全てを自分一人のせいにするなんて、善子ちゃんは何様ずら?」
「でも……」
「でもじゃないよ。善子ちゃんのせいだなんて、誰一人思ってない。この結果はみんなのモノ」
「なんで、そんなことが言えるの?私のせいだって、なんで言わないの?」
「今言った通りだよ。じゃぁ、もしもマルが善子ちゃんと同じ状態になってたら、善子ちゃんはマルを責める?」
もし花丸が私の立場になってたら、責めるか?そんなの考えるまでもなく答えは決まってる。
「絶対責めない」
「ふふっ。そう言うこと。善子ちゃんが頑張ってくれたから、お礼の気持ちはあっても、恨みの気持ちなんて全く無いんだよ」
「……はぁー。わかったわ。もう私一人のせいなんて絶対言わないわ」
「うん!」
私一人のせいなんて言えなくなっちゃって、花丸はなんでかにこにこしている。でも、こうして笑顔を見られたから私は頑張ったかいはあったと実感する。誰か一人かけていればきっとこの笑顔もみられなかっただろうから。
「そうだ!善子ちゃんが目を覚ましたことみんなに伝えないと!」
すると、花丸は思い出したようにそう言って立ち上がると、みんなに連絡を入れるために病室を出ていった。バタバタと慌ただしいなぁ、と思いながら私は花丸が戻ってくるまで聞いた話を頭の中で整理するのだった。
その後、私は異常がないかの検査をし、リハビリが始まった。一年近く寝た切りだったから、動くのも大変だった。それと同時に厄介な問題が浮上した。
その問題を聞いたのは私が目を覚ました翌日だった。
「善子、退院して高校に登校する初日に編入試験があるから、勉強もしなさいよ」
「え?」
ママに言われたのはなんでも、高校一年の時の出席に数が足りなくて、このままだと進級できないというものだった。マリーが高校に話を通しておいてくれていたらしく、この編入試験と称した進級試験を突破できないと、高校一年からやり直しだとか。ちなみに、私の退院は一か月後を予定している。リハビリをしつつ、一か月で高校一年の範囲をやるのはそうとう厳しく感じる。
でも、花丸とルビィと一緒に生活したいし、卒業もしたい。というか、二人を先輩なんて絶対に呼びたくない。
そんな訳で、私の戦いは始まった。
「よっちゃん、そこはこの公式を使うんだよ」
「あっ、そうね」
「善子ちゃん、全問正解だよ!」
「ふっ、私にかかれば」
「でも、数学は間違い多いかも」
「うっ」
「チカの勘だと、ここは出ると思うよ」
「当たるの?」
「たぶん!」
「歴史と英語は正解率高いね」
「まぁ、堕天使関係で調べてたから」
「なら、数学を重点的かな?」
試験までの一カ月の間、リリー、花丸、ルビィ、千歌、曜の五人は放課後や休みの日に病室に来て勉強を教えてくれた。みんなに悪いと思ったんだけど、みんなも私と学校生活を送りたい、送ってほしいと思ってくれていた。それでもリリーたち三年生組は受験もあるから私に構ってる暇がないと心配だったけど、一年生の頃の復習になるからだとかで気にしないでと言われてしまった。
それから一カ月が経ち、私は退院して沼津の学校に登校した。試験の結果はみんなのおかげで何事も無く突破できた。
でも、二年前半の授業にすぐに追いつかなくちゃいけなくて、私の勉強漬けの日々はもうしばらく続いたのだった。
お正月。ママの実家に行き、そこでのんびりすると共に、未来の私の言っていた洞窟を探した。お婆ちゃんたちに聞こうとも思ったけど、そうするとあの話もしなくちゃいけなくなるから、一人で探した。洞窟探しは難航すると思ったけど、意外とあっさり見つかった。
そして、私は洞窟の奥で祭壇を見つけた。でも、そこには書物も水晶も無かった。
「あれ?未来の私の置き土産の水晶を私が持ってて、でも、本来の水晶もここにあったはず……同じものを二つあると狂うからそこは修正力が働いたってところか」
本来あるはずの水晶がそこにない理由を、そう当たりを付ける。さらに、水晶が無いから書物も見当たらないと仮定する。それ以外に思い浮かばないし。
失敗した未来――α未来と置いて、今いるのがβ未来とすれば、α未来の私がペンダントを渡すはず。うーん、どうすればいいのやら?とりあえず、いつか私みたいな人が現れた時の為に私はここにペンダントと私が書いた日記を簡潔に、それと同時にこの水晶の分かっている情報を纏めたノートを置いておくことにした。そもそも、私がここに来た目的もこのためだしね。
「まっ、この水晶の力が発動するようなことが起こらないのが一番だけどね」
そして、私は一人呟くようにそう言って洞窟を出るのだった。
それから数か月後、無事テストの成績も問題なく私は三年生に進級できることになりなんだかんだで卒業した。結局、二年の間は遅れを取り戻すのと、情報を纏めてたから二年生のうちはスクールアイドルができなかった。まぁ、体力が激減してたし、あの九人――Aqours以外でやる気はあまりなかったけど。だから、三年生になってもやらなかった。
大学に進学する春休み、部屋にいた私の足元に魔法陣が現れるのだった。この魔方陣が過去に呼ばれるのだとなんとなくわかり、だから私は大きく伸びをすると、みんなとの日常を思い出し、頬を叩いて気合を入れる。
今の未来もいいけど、できれば……
「さて、どうにかしてみせるわ!」
【その後のツキノワさん】
これはあの一週間が終わった数日後にあった出来事。
淡島の看板『熊出ます!』
果南「……」
鞠莉「どうかしたの?果南」
果南「何これ?何処から連れて来たの?」
鞠莉「あの一件で会った熊いたじゃない?あの子たちよ。あのままこの辺りに居たら危ないってことで捕まえちゃった♪」
果南「いや、捕まえたのはいつものことだとして、どうして淡島に放したの?」
鞠莉「ん?ここなら住んでるのは果南の家と私の家だけだから他の人に迷惑かからないだろうし。果南なら襲われても勝てるでしょ?」
果南「いや、流石に熊には勝てないから……それに、そんなことしたらダイビングに来た人襲われない?」
鞠莉「平気よ。こっちから手を出さない限りは襲わないみたいだし。小熊の方もまだ赤ん坊みたいなもんだから甘噛みだし」
果南「いや、甘噛みでも噛んでる時点でアウトじゃない?」
鞠莉「まぁ、平気でしょ?流石に檻に入れちゃうのはかわいそうだから放してるけど」
果南「淡島に人来れなくなっちゃうよ?」
鞠莉「じゃぁ見殺しにするの?善子をライオンから助けてくれたのに……」
果南「それはわかってるけど……」
ザッパーン!
果南「うわっ!」
熊と小熊が海から現れた!
果南「って、ほんとにいたし!」
鞠莉「マリーは嘘なんてつかないわ!」
果南「って、なんかくわえてる」
熊「ガァァ」
小熊「クゥ」
二頭は地面に魚を置いた。
果南「魚を置いた?」
鞠莉「たぶん、果南にあげるってことじゃない?引っ越して来たら近隣の人に何か渡すあれみたいな」
果南「いや、流石に……そうなの?」
熊&小熊「……」コクンッ
果南「鞠莉の言う通りだった」
鞠莉「あの子たちは基本的に山の中にいる予定よ。それに、私も家の者も誰一人襲われてないわ。だから平気よ」
果南「鞠莉がそう言うなら信じたいけど……」
鞠莉「私を信じて!」
果南「……わかった。絶対に人は襲わないでね?」
熊・小熊「……」コクンッ
果南「じゃぁ、よろしくね」
こうして熊二頭は淡島に住み着いた。最初は熊が危険だという事で警察やら猟友会が来たが、鞠莉が小熊と遊んだり、果南が熊と普通に接していたりしたことで数日後には危険が無いと判断され、いつの間にか熊を間近で見られるという事で多くの人が来るようになったのだった。
α未来――みんながいなくなってしまった未来。本編ではあの一週間が始まる日曜日に過去に現れ、ペンダントを渡した善子ちゃんがいる未来。バッド
β未来――みんなは無事だけど、善子ちゃんが一年間昏睡状態になった未来。本編だと九人の願いで召喚された善子ちゃんがいる未来。ノーマル
γ未来――みんなが無事で善子ちゃんも昏睡状態になること無くすぐに目を覚ました未来。本編では頑張ってたどり着いた未来。トゥルー
この三つの未来は、全て並行世界の未来として存在している。α未来とβ未来があったからこそγ未来にたどり着けたという感じ。だから、β未来、γ未来になってもα未来が並行世界として存在してるから、ペンダントは過去に届くという事で。そうしないと色々辻褄が合わなくなる・・・。