「リリー!マリー!どこッ!」
慌ててふらつく足取りで階段を降りて一階に着くと、エレベータホールの前は荒れ果てていた。落下した衝撃でエレベータの外側のドアが砕け、エレベータの中が見えていたが、砂煙で二人の姿は見えず、エレベータの残骸に埋もれているのかもしれなかった。
だから、私はフラフラした足取りでエレベータに近づき、
「善子!」
「……ママ?」
エレベータの中に入ろうとしたところで、仕事から帰ってきたママが大声を出した。私は虚ろな目でママを見て呟くと、ママは駆け寄る。
「善子。怪我はない?なんで外に?」
「リリーとマリーが……」
「どういうこと?」
「二人が乗ったエレベータが落下して……早く助けないと!」
「ダメ!下手に触ったら二次災害になるわ!」
「でも、早くしないと二人が!」
「十階から落ちて生きているわけないでしょ!下手に触れば善子まで怪我するわよ!」
そうしている間に、騒ぎを聞きつけた人たちが集まり、砂煙も晴れる。
「リリー!マリー!」
晴れたそこには半分ほど残骸に埋もれて倒れている二人の姿があり、私は駆け寄ろうとするけど、ママは行かせないようにと抱きしめて止め続ける。
「リリー!マリー!返事をしてよ!」
「「……」」
私はその場から声をかけ続けるけど、一切反応はなく、すぐに救急車が来て、十分な安全を確認しながら二人の身体が運ばれた。二人の身体はボロボロですでに亡くなっていた。
私がもっと早くに思い出していれば……。そうすれば二人はこんなことには……。
~☆~
「私のせいだ!私がもっと早くに気付いていれば……そもそも風邪をひいて休んだりしてなければ……」
本当は二人を追って病院に行きたかったのに、私の状態じゃ行っても悪化するだけだからと部屋に戻されてしまった。今頃は二人の両親が病院に行って、皆も連絡を貰って病院にいった頃なのかな?
私は部屋に籠って、ベッドに倒れこんで自分を責めた。
ただでさえ、今日も何かあるかもと考えていたのに、学校で何も起こってなかったって聞いて安心して……。今までだって死んだのはAqoursメンバーなんだから、二人がこの後に死ぬ可能性を考えておくべきだった。
それなのに、私は……。
私は身体を起こすと、机に置いておいたペンダントを手に取る。
まだ、確実に過去に飛ぶ方法が解明できてないけど、今ならきっとできる気がした。
リリーとの出会いはAqoursに加入する少し前。一応駅前でビラを配っている姿やライブでその前から見たことはあったけど。
第一印象は綺麗な人で、おとなしそうな人だなぁと思っていた。でも、ライブではしっかりと自分を出し、自分が地味だからと自信がない人のそれには見えなかった。というか、地味という割に作曲・編曲ができて、誰にでも優しく、犬が苦手で、個性がたくさんあって地味なんかじゃないじゃない!
マリーとの出会いは……あれ?いつなのかしら?ライブの時には見かけてたし、でも、直接会話をしたのはAqoursに加入した時かしら?
生徒で、ハーフで、理事長で、ハイテンションでと、とにかく個性の塊で、最初はきっと私とは相いれないタイプの人間なのだと思った。でも、話していくと常に自分のペースという訳では無く、ちゃんと相手のペースを見極めて的確に行動できる器用な人なのだとわかり、相手のことをよく考えてくれる優しい人だから次第に距離が縮まっていった。マリーは誰かの悩みを察して動けるのに、自分のことは隠そうとするのはどうかと思うけど。
二人とはユニットが一緒になって、最初はこの組み合わせで本当に大丈夫なのか心配だったけど、その心配は必要のないものだった。三人とも個性はバラバラだけど、それがうまくまとまることでいい感じになったから。二人とユニットで一緒に居る時間は、マリーと一緒にふざけてそれをリリーが注意して……とにかく楽しかった。
「取り戻してみせる!」
私は二人との日常を思い出し、あの楽しかった日常を取り戻すために決心する。過去二回からこのペンダントがあれば過去に飛べることは分かっている。後は、願えばきっと。
もしあの時、私が風邪をひいて休んでなければ、二人がこんな目に遭うことは無かった。
もしあの時、もっと早くに気付いていればどうにかなったかもしれない。
「我願う。故に我乞う。リリーとマリーの居る日常を!」
一緒に居る日常を願った直後、過去二回と同様に水晶が輝き、私はその光に包まれたのだった。
~☆~
「戻ってこられた?ゲホッ、ゲホッ」
気が付くと私はベッドの上におり、時計はあの日の朝の時間を差していた。そして、治りかけていた風邪も復活していて、身体は怠かった。どうせなら風邪は治ってたら良かったんだけど。
「善子、体調が悪いのなら今日は休みなさい!」
「平気よ。これくらい」
「そんなフラフラした状態で行かせるわけないでしょ!」
どうにか学校に行こうとしたけど、ママに速攻でばれて、やっぱり休むことになってしまった。二人を救うので一番手っ取り早いのは学校に行ってしまうことだから、そうしたかったんだけど、やっぱり無理ね。よくよく考えれば、学校で倒れて送られてその帰りに二人がって可能性もある訳だし。
ママが学校に連絡を入れてしまったので、今日はもう行くこともできず、私はママを見送るとベッドに寝ころぶ。
「と、皆にも連絡をしとかないと」
皆には今日朝練いけないことも含めて伝えておかないと心配されそうだから、スマホを手に取りアプリを起動させる。
ヨハネ『風邪ひいたから、今日休むわね』
チカ『りょーかーい。ちゃんと休みなよ』
マル『善子ちゃんが風邪って珍しいずら』
ヨハネ『私だって、風邪くらいひくわよ』
リコ『あはは。ご飯はちゃんと食べなよ?そうしないと治る物も治らないから』
カナン『あとは、水分も取らないとね』
ダイヤ『お見舞いに入った方がいいのでしょうか?』
マリ『Oh 確かにそれはいい考えね』
みんな私の心配をしてくれているらしく、こんな私を心配してくれてうれしい気持ちになっていると、私のお見舞いの話が出始める。ここでお見舞いに来られたら二人がエレベータに……。
ヨハネ『大丈夫よ、別に来なくて』
ルビィ『平気なの?』
ヨハネ『問題ないわよ。それに、うつしちゃったら悪いし』
チカ『そっか。じゃぁ、そうするね』
「ふぅー」
なんとかお見舞いに来るという事態を回避した私は安堵の息を漏らす。これで、みんなここには来ないからあの事故が起きることは無い。それに、過去二回とも、その時の事故以外に大きな事故は起きていないから、これで、誰も死んだりするなんてことは無くなった訳よね?
「さて、リリーにも言われた通り、朝ご飯を少しは食べとかないと。何かあればいいんだけど?」
私はフラフラした足取りで、キッチンに行き、冷蔵庫を開けて中を見る。中には鍋にいれて温めれば、すぐにおかゆが食べれるように準備されていて、でもそれ以外は特に無かった。
「あっ、プリンだ……これでいっか」
私はプリンと牛乳を取り出すと、牛乳をコップに注いでレンジで少し温める。このままの状態だと身体が冷えかねない訳だからね。
そうして温まったコップを持ってテーブルに行き、なんとなくテレビを付ける。いつもとチャンネルが違ったけど変えるのも面倒だしとそのままにすると星座占いのコーナーがやっていた。
『今日の第一位は乙女座のあなた。今日は人の言葉を信じるといいことがあるかも?ラッキーアイテムはみかんです。そして十二位は蟹座のあなた。予想外の事態が起きるかも?慌てずに冷静に対応しましょう。ラッキーアイテムは苺です』
「三日連続って……」
三日連続で最下位という事態に私は項垂れる。というか、どんな確率よ!これ。流石に呪われているんじゃないの?
「もういいわ。さっさか寝ましょ」
考えても仕方ないので、私はプリンを食べ終えて牛乳を飲み切ると、コップとスプーンを洗って寝ることにする。
~☆~
ピンポーン
「ん?だれよ?」
夕方に目が覚めて、そう言えばお昼食べてないなぁと思い、身体をタオルで拭くと、冷蔵庫にあったおかゆの材料を鍋に入れて温める。朝に比べるとだいぶ身体の調子はよくなっていたから助かった。流石に良くなってなかったらそのまま寝てただろうし。
すると、インターフォンが鳴った。皆には来るなと言ってあるし、ママなら鍵があるから鳴らす必要も無い。だから、宅配便か何かかな?と思いながら火を止めて画面を見るとそこにはリリーとマリーの姿があった。なんで二人がここに?来なくていいって打っといたはずなのに。
このまま居留守をしようかとも思うけど、家にいるのはわかってるだろうから無理ね。
「なにしに来たの?」
だから私は玄関を少し開けて、ジト目で二人を見る。
「えーと、お見舞いに来たんだけど」
「来なくていいって言ったわよね?」
「善子が強がってるから来ちゃったデース」
「寝てれば治るわよ」
「じゃぁ、寝てないと」
「このまま帰るって選択肢は?」
「「ない(よ)」」
「はぁー。来ちゃったものは仕方ないし、入れば」
仕方ないから二人を中に通す。このまま帰すのも来てくれた二人に悪いし。どうせ、言ってもすんなり帰るとは思えないし。
話を聞くと、どうやら私が強がっているとみんな判断したようで、前回同様じゃんけんで決めたらしかった。今回はじゃんけんで勝ったメンバーだったとのこと。なんで、ここで齟齬が起きてるのよ!でも、二人ともちゃっかり勝ってるけど。
「それで、よっちゃんは何してたの?」
「さっき起きたから、遅めのお昼ごはん?」
「なるほど。料理ができるくらいには回復したのね」
「まぁね。だから、この調子なら明日には復帰できそうよ。たぶん」
二人はソファーに座り、私は遅めのお昼を食べていると、そう言えばとリリーは鞄を漁り、
「はい。ルビィちゃんと花丸ちゃんから。今日の分のノートだって」
「ん、ありがと」
「お礼は明日にでも、二人に直接言ってあげて」
「それもそうね。でも、リリーも届けてくれてありがと」
渡されたルーズリーフを机に置くと、マリーは鞄と一緒に持っていた紙袋を机に置く。
「これは何?」
「お見舞いといったらこれよ」
「果物の盛り合わせ?」
紙袋を覗くと、中にはいくつかの果物が入っていた。
「みかんが入ってるのは嫌がらせ?」
「風邪にはみかんがいいのよ」
「何処情報よ。それ」
「ちかっち情報よ」
「千歌の場合は風邪だろうがなかろうが食べてるじゃない。みかんはリリーにあげるわ」
「貰いものなのに渡しちゃって……あっ、だから千歌ちゃん、今のところ風邪ひいてないんだ」
千歌が言った情報が真実なのかはわからないけど、本人は風邪をひいていない訳だから本当なのかしら?
そうして、おかゆを食べている私に二人は、今日も早めに切り上げてお見舞いに来たこと、通学路の木が一本倒れていたことなど話した。その辺の内容は前回と同様で、特に変わったようなことは無かった。
私がおかゆを食べ終えて、皿やら鍋やらを洗おうとすると、リリーが制止した。
「善子ちゃんはおとなしくしてて。私がやっておくから」
「でも、来てもらったのにやってもらうのは……」
「いいから!」
「梨子もこう言ってるんだから、ありがたくやってもらいなさいよ。梨子、ずっと善子のことを心配してたんだから」
「じゃぁ、お願い」
「うん」
リリーが一歩も引かないでいると、マリーもそう言い、私はお願いすると、リリーは笑顔で頷いたのだった。
「じゃ、私たちは帰るわね」
「今日はありがと」
「どういたしまして。そうだ。明日、朝練は休みよ」
「ん?どうして?もしかして私に気を使ってる?」
「違うよ。ちょっと生徒会とか理事長の仕事が溜まってて、それを朝のうちに片付けちゃいたいんだって」
「そういうことよ」
「分かったわ」
「チャオ」
「じゃ、また明日」
二人はそう言って、エレベータの方に向かい、
「そうだ!今日は二人とも悪いけど階段から帰ってもらったりなんて……」
「ん?」
「階段?」
私は二人がエレベータに乗らずに済む方法がこれしか思いつかず、一応言ってみた。流石に十階から階段で降りるのは嫌だから拒否されるんだろうけど。
「まぁ、嫌ならそれはそれでいいんだけど」
「そうなの?」
「梨子。わかったわ!」
「ん?」
「善子はこう言いたいのよ。あえて階段を使うことでトレーニングをしろという」
「へ?」
マリーが変な方向に勘違いして受け取りそんなことを言った。別にトレーニングの意味合いは無かったんだけど。
「それに、梨子の今日の運勢で人の言葉を信じるといいって言ってたわ」
「そうなの?まぁ、鞠莉ちゃんがそれでいいなら、私は構わないけど」
「と言う訳で、階段で帰るわね」
「よっちゃん、安静にしててね」
「ええ」
二人はそう言って、階段の方に向かい、階段を降りていくのだった。
まさか、マリーもあの占いを見てたとは。占いのおかげで助かったわね。
「さて、二人とも無事家には帰れたみたいね」
部屋に戻って、眠くないけどベッドに横になっていると、皆からチャットで来て、二人も無事家に帰れたことが分かった。流石に階段を使って何かあったら目も当てられなかったわけだし。
まぁ、そんなことは起こらず、今回も乗り越えることができた訳ね。でも、あと三人。たぶん明日にも何かが起きる。
だから、この風邪をさっさか治して万全の状態にしないと。