「よし!これなら今日は大丈夫ね」
翌朝、起きた私は熱を測ると、無事熱は下がっており学校に行けそうだった。だけど、外の天気は雨で晴れ晴れとした気分にはなれなかった。
私は制服に着替えるとリビングに行く。リビングにはちょうど荷物を確認しているママがいて、私に気付くとママは顔を上げる。
「おはよう、善子。風邪は治ったみたいね」
「おはよ、ママ。熱は無かったから今日は学校に行ってもいいでしょ?」
「そうね。前までは登校拒否してたのに、今では学校に行きたがるなんて、ほんといい友達に恵まれたわね」
「別にそう言う訳じゃ……」
「そう?まぁ、いいんだけど。そうだ、一応、治りかけかもなんだから、マスクはしていきなさいよ」
「分かったわ。いってらっしゃい」
ママはそう言うと、出かけていった。最近は朝練の時間には出かけていったのに、今日は少し遅いけど大丈夫なのかしら?まぁ、平気なんだろうけど。
そんな心配をすると、テーブルに置かれていた朝ごはんを食べ始める。テレビをつけるとやっぱり星座占いのコーナーがやっていた。でも、なんとなくわかっていることがあった。
「どうせ今日も最下位なんでしょ」
『今日の十二位は蟹座のあなた。片づけをしていたら何かを無くすかも?ラッキーアイテムは緑のリボンです』
「やっぱり……つまり、今日も誰かが?うーん。あとあの夢だとどんなことが起きてたかしら?」
四日連続で最下位なので、なんとなく今日も誰かが大変な目に遭う気がした。そして、あの夢の通りになっているから、その状況を思い出そうとするも、時間がだいぶ経っているせいか思い出せなかった。わかっているのは、たぶん千歌と果南とダイヤの三人のうちの誰かということ。だから、今日は三人に注意して見るしかないのかしら?
テレビの内容を他所に私は考える。あの三人の誰かがおそらくだろうけど、一体誰が……。
朝ごはんを食べ終え、お皿を洗うと私は部屋に一度戻る。その間もずっと、どんな事態が起きるだろうか考えていた。そして、教科書類を鞄に入れると、制服のポケットにペンダントを入れて私は家を出た。早めに学校に行っておけば、何か情報が得られるかもしれない。
「って、そう言えば、エレベータが使えなくなってたわね」
エレベータの前まで行ったところで私は一人呟いた。エレベータの前には使用禁止の張り紙が張られていた。昨日の夕方に、一階から乗ろうとした人がボタンを押した瞬間エレベータが落ちて来て、一個が大破したらしい。近くにいた人たちは破片で少し怪我をしたけど、死者は出ず、もう一個も安全の確認ということで使用禁止となった。だから、当分の間はこのマンションに住む人は階段で昇り降りをしなくてはいけなくなった。
病み上がりの私としては十階分も降りなくてはならず、正直辛い。でも、それ以外に降りる手段もないから、のんびりと降りて行くことにする。
「ふぅ、やっと降りきった」
それなりに時間をかけて降り終えると、傘を差してバス停まで行く。雨が降っている中歩くのも嫌ね。濡れたらまた風邪がぶり返しそうだし。
そんなわけで、私は濡れないように気を配りながら歩き、バスに乗るといつもの場所に座る。一日ぶりだけど、なんか久しぶりな感じね。まぁ、昨日を繰り返したわけだから二日振りの気分ではあるんだけど。
「おはよう。善子ちゃんだけ?」
バスに揺られて淡島前のバス停に止まると、果南がバスに乗り、私に気付くとそう声をかけた。曜は一本先か後なのかこのバスには乗っておらず、だから果南がそう言った感じだった。他の皆はもう少し先のバス停から乗る訳だし。
「で、なんで私の隣に座ったの?」
「嫌だった?」
「別にそう言う訳じゃないけど。そう言えば、今日はマリーと一緒じゃないのね」
「まぁね。鞠莉は理事長の仕事だって。手伝うって言ったら、理事長の書類を学生に見せる訳にはいかないからって、やんわり断られちゃってね。それに、今日は家の準備をしてたから」
理事長の書類を見るのは確かにまずそうだと思うと、だったらダイヤの方を手伝わなくていいのかという疑問があった。
「だったら、ダイヤの方は手伝わなくていいの?」
「え?何の話?鞠莉が理事長の仕事で忙しいのと、善子ちゃんが風邪ひいたから、皆もちゃんと休もうってことで今日の朝練が無くなったんでしょ?昨日みんなでそんな話をしたわけだけど」
「そうなの?私は昨日来たリリーから生徒会の仕事も溜まってるからって聞いてたけど」
「ほんと?うーん、てことは知ってたのは三人だけなのかな?鞠莉がダイヤに仕事を振っただろうし、それを途中で梨子ちゃんが聞いたとすれば……他の皆も知ってるのかな?」
「さぁ?」
どうやら、ダイヤは一人で貯め込んでいるようで、果南は知らないらしかった。もしかしたら、曜がここにいないのは知ってて手伝いに行ってるからなのかしら?
「まぁ、後でダイヤには文句を言うとして、善子ちゃんの風邪の調子はどうなの?マスクしてるけど」
「別に問題ないわよ。咳ももう出ないし。一応付けてるってだけだから」
「そっか。でも、今日も練習は厳しいかな?病み上がりの善子ちゃんに無理させるわけにもいかないし」
「平気よ。昨日、一昨日と練習できなかったわけだから取り戻さないと」
私としては、遅れを取り戻したいから練習をしたいところ。だから、放課後には沼津に移動して練習したいなぁ。流石に、病み上がりだから皆に迷惑をかけちゃいそうだけど。
時間が経ち、千歌達が乗るバス停に差し掛かる。しかし、バス停には二人の姿が無かったためバス停を通り過ぎる。二人が乗ってこなかったってことはやっぱり果南だけ知らないで、二人は手伝いに行ったのかしら?
「あっ、千歌だ」
「あっ、ほんとだ」
通り過ぎた所で振り返ると、千歌が走って来てバス停の前に着き、どうやら単純に千歌が寝坊しただけらしかった。どうやら、生徒会の仕事が溜まっていることを千歌は知らなさそうね。リリーは知ってるから手伝いに行ったんだろうけど。
「とりあえず、千歌は知らなかったみたいだし、知らなかったのは私だけって訳じゃなさそうだね」
「ええ。そうみたいね」
知らなかったのが果南だけでは無かったということで、とりあえず果南がのけ者にされてたって訳じゃないことが分かって、少し嬉しそうだった。
それから、ルビィたちが乗るバス停を過ぎ、浦女前まで着いてしまった。いつもなら乗って来るのに、今日は乗らないことに珍しさを感じるけど、久しぶりに朝練が無かったからかしら?でも、一昨日も無かったような?
~☆~
「で、どうして私たちで倉庫の片づけをしなくちゃならないのよ」
「あはは。さっさか片付けて全員で練習をしたいからね」
「別に、わたくし一人でも……」
「ダーイーヤ」
放課後、私は校舎の最も近くにある倉庫にダイヤ、果南、曜と一緒に来ていた。本当は沼津で練習するはずだったんだけど、想像以上に生徒会の仕事が残っているせいか放課後にもやることになってしまった。ダイヤは一人残って作業をするつもりでいたけど、皆で手伝えばすぐ終わるだろうという果南の提案に賛成して、今に至っている。生徒会室にはリリーとルビィとずら丸が書類の整理をしていて、マリーは理事長の仕事を片付けている。千歌は「家の仕事が~」とか言って帰ってしまった。
最初ダイヤは「悪いから」と、手伝ってもらうのを断っていたんだけど、登校した後に生徒会室にまっすぐに向かった果南に文句を言われたから、それ以上言えなかった感じだった。
「それで、なんでこんなに散らかってる訳?」
「どうやら、皆さんが必要な物だけ探して持って行った結果ですわね」
「それもそれで問題がある気もするんだけど」
「言ってても仕方ないしササッとやっちゃお」
倉庫の中に入ると、結構散らかっていた。たぶん探し回った際に物が散乱したり、埃が積もっていたりと悲惨だった。なんでかこの倉庫にはチョークやら石灰やら予備電源やらと色んなものが保管されてて、それが後から適当に棚に詰め込まれたのかぐちゃぐちゃだった。
「これはそもそも使用時にももう少し考えてもらった方がよさそうね」
「まぁ、言っていてもしょうがないですし、始めますか」
「だよね。というか、書類整理を二人にして、もう一人来て貰うべきだったんじゃ?」
「それは無理ですわね。梨子さんにはある程度どの書類が問題ないか伝えてあるので、あちらに居てもらわないとですし、ルビィたちに力仕事は……」
「私病み上がりなんだけど?」
「でも、練習でる気でしょ?なら、大丈夫でしょ」
「……さっさかやるわよ!」
果南は一切悪気がないような様子でそう言う。だから、文句を言うことはできなくて、私はさっさか始めるように促す。練習できるから、力仕事もできるって考えはちょっとあれな気もするんだけど。
「なんで、バットがここにあるのよ!体育倉庫の方じゃないの?」
「いや、そのバットはソフトボール部の物ですから、部の倉庫の方にないと……」
「どっちにしろここにあるのはおかしいってことね」
「あっ、バスケットボールだ」
片づけを始めてすぐ、私たちはこの掃除がそうとう難しいものだと理解した。本来ここにないはずのものまでここにあるせいで。箒、チョークなどの予備、印刷用紙の束、予備電源、数本のバット、荷車など多種多様の物があった。浦女には小さめの倉庫がいくつかあり、用途に応じてしまってある物を分けているはずだった。でも、ここには無いはずの物が平気で置いてあり、分別して本来あるべき場所に戻す必要があった。
そんなわけで整理を始めた訳なんだけど。
「この人数じゃやっぱりきつくない?」
「まぁ、結構量はあるよね」
「ですわね。これは、向こうが早くに終わらせて手伝いに来てくれると助かるのですが……」
「だよね。で、そんなすぐ終わる量なの?」
「そうですわね……スムーズに進めばすぐでしょうけど」
「時間がかかりそうなのね」
どうにも量が多くて私はぼやくと、三人も同意する。もしかしたらリリーたちが手伝いに来てくれる可能性もあったけど、望み薄そうな感じだった。どんだけ仕事が溜まっているのよ。
「とりあえず、移動させるものはこんなもんかな?」
「ですわね。とりあえず、ここにあっても邪魔ですし、移動させてしまいましょうか」
「そうね。じゃぁ、この荷車に乗せて運んじゃいましょ」
移動させるものをある程度纏め終えたから、それらを荷車に乗せる。この荷車も体育倉庫に本来ある物らしい。たぶん、たくさんの荷物を纏めてここに運んだ際に、戻さずにここに置いて行ったんだろうけど。
「それにしても、外荒れてきたわね」
「そうだね。一昨日大荒れで、昨日が晴れてって、もしかして知らないうちに台風でも来てた?」
「いえ、台風は来ていないはずですわ。これはただ単に荒天なだけでしょう。さっさか運び出しますわよ」
「はーい」
外の天候が不安定で心配を口にすると、ダイヤはだからこそさっさか終らせようと声をかけ、私たちは返事をする。
「じゃ、私が運んでおくから、三人はこのままやっといて」
「一人で平気ですか?」
「大丈夫、大丈夫。荷車含めて全部体育倉庫に持って行くものでしょ?部の倉庫に運ぶ奴はまだここに残っちゃってるし」
「まぁ、そうだよね。曜、任せたよ」
「ヨーソロー!」
曜はそう言って荷車を押しながら走って倉庫を出て行った。別に走らなくてもいいような気もするんだけど?
「さて、曜さんが戻ってくるまでにどんどん進めておきましょうか」
「それもそうね」
「だね。関係のないものが減ったおかげでだいぶスペースができた訳だし……て、さっきより風強くなってない?」
作業を再開しようとすると、果南は外の様子に首を傾げる。言われて、倉庫に吹き付ける風の音が大きくなっていることに気付いた。でも、帰る時に収まってないと傘が壊れそうだなぁと思うくらいで、誰も深くは考えずに作業を再開した。あまり時間をかけすぎると、明日もやらなくちゃいけなくならそうだし。
と思ってたんだけど……。
グラグラ……ガタッ
「ちょっ!」
「ヤバッ!」
なんだかヤバそうな音が倉庫に響き、私たちは慌てて外に出ようとする。明らかに中にいたらヤバそうな感じがしたから。
私は走って倉庫を出ようとした結果、
「痛ッ!」
「善子ちゃん!?」
「善子さん!?」
地面に落ちていたチョークを踏んで、その結果こけて膝を地面に打ち付けた。まさか、こんな時に不運が起こるなんて。そして、二人はこけた私に気付き、声を上げる。どうして、二人とも焦っているのかと疑問に思うも、すぐにその理由を理解した。
「嘘……」
顔を上げると、倉庫が崩落し始めていて、今すぐ駆けだせばまだ間に合いそうで、私は立ち上がると走り出そうと踏み込む。しかし、今さっき打ち付けたひざに激痛が走り、いつも通りの走りができなかった。
「ダイヤ!」
「ええ!」
二人はそれだけで、お互いに考えていることを共有でもしたのか、同時に私の腕を取り、私の腕を首にかけて走り出す。
そして……その数秒後。倉庫遭崩落して、周囲に粉塵が舞ったのだった。