繰り返される堕天   作:猫犬

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9 登校した日2

「ゲホッ、ゲホッ」

 

倉庫の崩落に巻き込まれ、私は地面に倒れていた。どうして、自分が無事なのかとか疑問が尽きないけど、私はどうやら助かったようだった。というか、何かの下敷きになってるのか背中が重い……。

 

「そうだ、果南とダイヤは?」

 

私はあわてて二人はどこにという疑問に駆られる。こけて膝を痛めた私を助けようと、二人して私に肩を貸して外に出ようとして、でも間に合わなくて。

でも、私が無事だった訳なんだから、二人もきっと……。

私は身体を起こそうとするも、背中に何かが被さっているせいで動けない。だから、それを退かそうと触れ、

 

ピチャ

「え?」

 

それに触れた瞬間、生暖かく柔らかい感触とドロッとした液体が私の手に付き……私は嫌な予感がして首を動かしてそれを見た。そんなはずはない。きっと何か別の物だったのだと思いながら。

 

「嘘……果南!ダイヤ!」

 

私に被さるように、果南とダイヤが私の上に倒れていて、二人とも額から血を流していた。二人とも意識がないのか目を瞑っていた。気を失っているだけ。私はそう思いたかった。

ここからだとよくは見えないけど、近くには赤く染まった瓦礫があることから、あれが二人の頭にぶつかって、気を失っているようだった。

 

「よいしょ」

 

私はできるだけ周囲を動かさないようにしながら二人の下から出て立ち上がる。そして、私は知りたくもない事実を知ってしまった。

そこから見える景色には既視感があり、それは薄れていた夢の一部だったことに。そして、二人の背中には倉庫の屋根を支えていた折れた柱が刺さっていて、二人とも気を失っているわけではないということに……。

 

「何事!?」

 

そして、倉庫の崩落音を聞きつけたのか残っていた生徒や先生がやって来て、その中には生徒会室にいた皆やマリー、体育倉庫の方に行っていた曜の姿もあった。

 

「果南!ダイヤ!……善子!ここで何が起きたの!?」

「……いきなり倉庫が崩壊して……それで二人とも私をかばって……」

「嘘……」

「いやっ!」

 

マリーとルビィは私の言葉と目の前に倒れている二人の姿に言葉を失い、二人のそばに駆け寄る。

 

「果南!ダイヤ!返事をして!……返事をしてよ……」

「お姉ちゃん!」

 

普段から気丈に接し、笑みを絶やさないマリーは皆の前で涙を流し、ルビィも涙を流した。二人を同時に失った訳だから、当たり前のことで。

 

「私のせいだ!私が……」

「善子ちゃん!?」

 

曜の声を無視して私は駆けた。こんなこと許さない。絶対に。

 

果南とまともに話すようになったのは三年が加入した後からかしら?その後もあまり話したりはしてなかった気もするけど。

第一印象は、とにかく運動好きで、頼れるかっこいいお姉さんみたいな感じだった。でも、ダイヤとマリーの為に自分の気持ちを押し殺し、でもスクールアイドルが好きって気持ちを押し込め続けることができなくて、隠れてダンスをしてしまう、優しくて可愛い部分もある人だった。さすがに、果南基準で組まれる練習メニューはやめて欲しかったけど。

 

ダイヤとも、果南と同じくらいのタイミングだったかしら?私が加入する前後で一悶着あったりしたけど、ちゃんと話したのは三人が加入した頃だった訳だし。最初の印象はとにかく融通が利かず、硬いイメージの鉄壁の生徒会長って感じだった。でも、一緒に居るうちにただ硬いんじゃなくて、真面目すぎるだけで、それも皆のことを考えてくれている故のモノだと分かった。それに、µ’sのことを好き過ぎる故か隠しているはずなのに微妙に見え隠れしてたり、暴走したりと、好きなことには一直線なところには共感してたかしら?

 

二人とも学年もユニットも違うから、皆と比べれば一緒に過ごす時間は少なかったけど、悩みがあれば相談に乗ってくれてたくさん助けられた。果南は私が悩んでいると意外と察し、そこから悩みを親身になって聞いてくれて、ダイヤはルビィの姉だからか同じように親身に聞いて真面目に考えてくれて、二人ともまるで姉のような感じだった。

私はもっと二人と一緒に過ごしたかった。

 

「諦めたりなんてしないわよ!」

 

部室に着いた私は、二人との日常を思い出すと、はっきりと言葉にする。部室には私たちの荷物が置いてあり、私は自分の鞄の中からペンダントを取り出す。こんなこと絶対に止めてみせる。

 

もしあの時、私が転ばなければ二人は崩落に巻き込まれなかった。

もしあの時、無理してでも二人を止めていれば。

 

「我願う。故に我乞う。果南とダイヤの居る日常を!」

 

私の願いを聞き届けると、水晶は輝き私はその輝きに包まれて意識を手放した。

 

 

~☆~

 

 

「戻ってこれた……あれ?」

 

時計を見ると崩落事故が起きるあの朝で、過去に飛ぶまで膝が痛かったのにいつの間にか嘘のように痛みが無くなっていた。代わりに病み上がりのあの身体の怠さが復活してたけど。

でも、痛みがひいているし、これくらいならいっかとさして気にすることは無かった。それよりも二人を救う方法を考えないと。

 

「手っ取り早いのは倉庫に近づかないことだろうけど、たぶん変えられないわよね。曜の時もリリーの時もそれ自体の回避ができなかったわけだし」

 

私は着替えながら考える。だけど、倉庫に近づかないようにするのは難しそうな気がして、難航する。その結果、思いついたのは……。

 

「転ばないようにするしかないわね」

 

転ばなければ二人が引き返すことも無かったわけで、足元に気を付けることにした。

着替え終わったからリビングに行くと、鞄を肩にかけたママと出くわす。

 

「おはよう、善子。風邪は治ったみたいね」

「おはよ、ママ。熱は無かったから今日は学校に行ってもいいでしょ?」

「そうね。前までは登校拒否してたのに、今では学校に行きたがるなんて、ほんといい友達に恵まれたわね」

「別にそう言う訳じゃ……」

「そう?まぁ、いいんだけど。そうだ、一応、治りかけかもなんだから、マスクはしていきなさいよ」

「分かったわ。いってらっしゃい」

 

ママはそう言うと、出かけていった。

私はママを見送ると、テーブルに置かれていた朝ごはんを食べ始める。テレビをつけると星座占いのコーナーがやっていて、結果はあいかわらずのままだった。まぁ、ループしてるからここは変わる訳がないんだけど。

朝ごはんを食べ終えると、私は学校に行く支度を整えて家を出た。エレベータは使えないからのんびりと階段を降りていく。階段を降りきると傘を差してバス停まで行き、ちょうど来たバスに乗り込んだ。

 

「おはよう。善子ちゃん」

「おはよ、果南」

 

バスに揺られていると、淡島前で止まり果南がまっすぐ私のところに来ると挨拶を交わす。外からバスの中が見えていたのか一切迷いのない足取りだった。ちなみに、やっぱり曜はこのバスに乗っていない。前回の時はただ単に一本遅いのに乗っていただけだったから、今回も同様の理由だと思う。

すると、果南は私の隣に座った。

 

「そう言えば、マリーは?理事長の仕事?」

「うん。理事長の書類は見せる訳にはいかないからって、手伝わさせてくれなくて。それに、今日は家の準備があったんだけどね」

「そう。でも、雨の日に人来るの?」

「どうせ濡れるし、これくらいの雨なら船は出せるからね」

「来るとは明言しないのね」

「まぁね。それで、善子ちゃんはまだ風邪治んない感じ?」

 

雨なのに客が来るのか問題はさておき、話は私の状態のことになった。私は今マスクをしているわけだから、そういった心配が来ることはなんとなくわかっていたけど。

一応の為にマスクをしているだけでだいぶ治ってきていることを伝えると、果南は安堵の表情をした。

 

「そう言う訳だから、練習はやるわよ」

「了解。でも、この雨だから……」

「今日は沼津の方でしょ?」

「まっ、そうなんだけどね」

「おはよー。果南ちゃん、善子ちゃん」

 

千歌の旅館そばのバス停に止まると、なんでか前回は乗り損ねた千歌が乗り込んできた。まぁ、ギリギリだった訳だから今回は乗れる可能性も元からあっただけだったのかもしれないんだけど。

 

「おはよ、千歌」

「おはよう、千歌。あれ?梨子ちゃんは?」

 

果南は挨拶するや、大体リリーと一緒に乗るはずなのに今日は千歌一人だからと首を傾げた。前回、結局リリーはダイヤの手伝いに早めに行っていた訳だから今回も一緒に行ったみたい。でも二人はダイヤがため込んでいることを知らされていないはず。

 

「それがね。梨子ちゃん、チカのこと置いて先行っちゃったみたいなの!」

「あはは。でも、珍しいね。今日はいつも通りの時間だから待っててくれそうなものなのに。何かあったのかな?」

「さぁ?」

 

私たちの前の席に座った千歌と果南は今回も知らなかったみたいでそんな会話をする。知っている私はどうしたものかと悩みながら、まぁ言わなくてもいっかと思うのだった。どうせ、浦女に着けばすぐ発覚することだろうし。

 

 

~☆~

 

 

「はぁ、結局倉庫掃除をなんとかできなかった……」

「なにか言った?」

「なんでもないわ」

 

放課後。私たち四人はあの倉庫に来ていた。本当は倉庫に行かないのが一番だったんだけど、今日中に全部終わらせてしまおうということになってしまった。

なんでも、教室に行ったらダイヤの姿が無くて、もしかしたらと生徒会室に行ったらリリーと一緒に作業しているところを見つかり、果南が怒っただとか。で、果南が提案したことで皆が賛同してしまった。

 

「まぁ、四人いればすぐに終わるんじゃないの?」

「そうですわね。時間は有限ですし手早く済ませてしまいましょうか」

「そうそう。ちゃちゃっとね」

 

三人ともすぐに終わるだろうと思っているようで軽い感じだった。しかし、この後のことを知っている私としてはそんな軽い感じにはなれなかった。

とりあえず倉庫整理が始まり、私は常に外の状態を気にしながら整理を進める。

そうして進めていくうちにこの倉庫に無いはずの物がたくさんあるからと、元々あるはずの場所に戻そうということになり、荷車に乗せていった。

 

「と言う訳で、私は運んでくるね?」

「一人で平気ですか?」

「うん。大丈夫ですよ」

「でも、その量を一人でやるのは……」

「大丈夫、大丈夫」

 

曜は一人で戻しに行こうとして私たちは一緒にやろうかと提案するも、曜は一人で問題ないからかそう言って、荷車を押してパタパタと走って出て行ってしまった。

 

「曜、今日もバタバタしてるね」

「ですわね。まぁ、早く沼津に行って練習したいんでしょうけど」

「……どうしよう」

「まぁ、最近は天気が不安定なところがあるから、曜的には身体を動かしたいところなのかもね」

「それは果南さんもでしょ?」

「あはは。ばれた?」

 

二人がそんな会話をしている中、私は一人考えていた。ここまで今まで通りで、曜が外に出た今、そろそろあれが始まるはず。

 

グラグラ……ガタッ

「ん?」

「はて?」

「この音……」

 

すると、予想通りあの時の音が倉庫内に響いた。

 

「なんかヤバそうだから外出ない?」

「だね」

「ええ」

 

私が言うと、二人もそう感じたのか頷く。そして、私たちは走り出す。前回は落ちてたチョークを踏んだことでこけたけど、今回はそれを踏まえて床は綺麗にしておいた。だから今回はこけることはない。

 

「……嘘」

 

しかし、世の中うまいこと行かないようだった。そばにはチョークをしまっていた棚があり、棚と壁が接していたことで倉庫の揺れを直に受けてチョークが入った箱の一つが落下して床に散らばった。その結果、踏めばあの時の二の舞になる訳で、でもすぐに崩落が始まる訳だから慎重に足場を選んでいる余裕も無かった。

私はどうしようと困り、先を走るダイヤはどうするつもりかと思ってたら、どういう訳かチョークの上を平然と走っていた。

たぶん、バランス感覚のなせる業なのかしら?と、観察してないで私もどうにかしないと。ここでこければ二人が戻ってきちゃいそうだし。

私は意を決してダイヤ同様チョークの上を走る選択をする。流石にチョークのない隙間を縫って走るのは無理だし。

 

「よっ、ほっ……あっ!」

 

結果はダイヤのように見事にチョークの上で安定することはできず、私はバランスを崩して転倒し

 

「よっと!」

 

そうになったところを後ろにいた果南が私の腰に腕を通した。

 

「きゃっ!」

「一気に行くよ!」

 

その結果、果南にお姫様抱っこされるような形になり、私は声を上げるも果南は全く気にしてないのかそのまま走り、私は落ちないように果南にしがみ付くので精いっぱいだった。

 

ドンガラガッシャーン!

 

そして、揺れから十秒ほどで倉庫は崩落したのだった。

 

「ふぅ、間一髪でしたわね」

「だね」

「……」

 

私たちは崩落していく様を外から見ていた。結果から、三人とも無事に済んだ。

 

「で、果南さんはいつまで善子さんをお姫様抱っこしてますの?」

「あっ、軽いから忘れてた」

「……ありがと」

 

ダイヤに言われて私は下ろされ、小さくお礼を言った。

本来なら私が二人を助けるはずだったのに、逆に果南に助けられた自分の不甲斐なさと、果南にお姫様抱っこされたことによる恥ずかしさで声が小さくなってしまったけど。

 

「うん。どういたしまして」

「でも、どうして私を助けられたの?もしかして転びかけるってわかってたの?」

「ん?まさか。でも、善子ちゃん病み上がりだから、もしかしたら何かあるかもって思ってね。私も体調が悪いと動きが鈍くなるからさ」

「確かに体調が悪いと動きが悪くなりますね」

 

果南は至極当然のようにそう言い、そんなものかと思った。

すると、校舎に残っていた生徒や教師が物音を聞きつけてやってきたのだった。

 

 

「後は千歌だけよね?」

 

倉庫崩落によって、安全の為構内で活動していた部活は中止になって帰され、理事長として動かないとということでマリーも練習に出れなくなったことで、あの後は私たちも家に帰された。そして、私は家に帰ると、ペンダントを眺めながら一人呟いた。

 

曜が車に轢かれ、ルビィと花丸が脳出血で死に、リリーとマリーが落下死し、今日ダイヤと果南が崩落に巻き込まれた。全部、この水晶のおかげでどうにか回避することに成功したわけだけど。

そして、残るは千歌一人。つまり、明日は千歌の行動に注意していれば未然に防ぐことが出来るはず。今回こそは絶対に死なせずに乗り越えてみせる。

 

私は一人決意するのだった。


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