ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 今作品史上最大ボリュームです。

 ついに七千字を越えちゃったなぁ、一話で……(汗



第十九項 ステファニー

 麦野沈利、と呼ばれるその女は朱く染まった頬を右手で擦りつつ、草壁流砂と呼ばれる男にとろんとした目を向けていた。

 麦野は左腕から生えている光線のアームを上下左右に動かしつつ、明らかに狂ったような笑みを浮かべて流砂に言う。

 

「あれ? そう言えば流砂ぁ。アンタ、私の名前の呼び方変えてくれたんだ。嬉しいなぁ、うっれしいなぁっ」

 

「た、たりめーだろ。愛する奴のことをいつまでも苗字呼びなんて出来っこねーッスよ。呼ぶなら下の名前、それ一択ッスよ。……沈利」

 

「あぁ、そうねイイね最高ね! お前の声が私の名前を呼んでくれる、お前の口が私の名前を呼ぶためだけに動いてくれる、お前の目が私だけを見てくれる……最高過ぎて今すぐアンタを抱きしめたいぐらいだわ!」

 

 思ってた以上にヤベーなオイ、と流砂は心の中で舌を打つ。

 浜面に倒された後に麦野がおかしくなるというのは分かっていたが、流石にここまでのレベルとは思いもしなかった。攻撃の速度も威力も前とは比較にもならない程に高くなっているし、そもそも麦野に正常な言動が見当たらない。ヤンデレって怖ぇぇ、と流砂はシルフィを抱きしめている腕の力を強くする。

 それが更なる死亡フラグを誘発してしまったのか。それとも単に麦野の意識がそちらに向いてしまっていただけなのか。

 とにかく麦野の視線が、流砂に抱きしめられているシルフィの方へと向いてしまった。

 「あ」と流砂が声を漏らした時にはすでに遅く、麦野の顔には完全無欠に不機嫌そうな表情が浮かび上がっていた。

 

「りゅーうさぁあああああああ? せっかくの私との再会に、お前は一体何をしているのかしら? 地獄の底から舞い戻って来た私をそんなに怒らせたいのかねぇぇぇぇ?」

 

「ち、ちがっ……これには海よりも高く山よりも深い大切な理由が……ッ!」

 

「……ゴーグルさん。あのおばさん、誰?」

 

「おばっ!? ……く、くかかかか。オイコラクソガキ、流砂からとっとと離れてくれないかにゃーん?」

 

「……おばさんなんかに、ゴーグルさんはあげない。ゴーグルさんは、私のだぁりん」

 

「りゅーうさぁああああああああああああああああああああっ!」

 

「待って待って今凄くシリアスな場面のハズだから頼む俺に状況の整理をさせて!?」

 

 年上と年下から訝しげな視線を向けられ、流砂は眉間を指で抑えながら叫びを上げる。

 これからの展開としては、ステファニーが絹旗に撃破され、その後に学園都市の追っ手から浜面達が逃げる、と言った感じだったハズ。とりあえずその場面で麦野が出てきてしまったのには大いに反論したいわけだが、とりあえずそのこと自体は置いておこう。思考はクールに、オーケー?

 既に戻しようがない原作ブレイクが起きてしまっていることは、草壁流砂の生還とシルフィ=アルトリアという少女の出現によって決定づけられている。それはもはや覆しようがない事実であり、抵抗しても避けることができない崩壊フラグだ。今更どうこうしようという気持ちは一切ない。

 だが、それでも一応はシリアスな雰囲気だけは受け継いでいたはずだ。どれだけ理不尽な原作ブレイクが起こっていても、シリアスな雰囲気だけは存在していたはずなのだ。

 なのに、この超ラブコメ展開は一体なんだ? 今この場で何が起こっている?

 アダルティ・コンプレックスなのかロリータ・コンプレックスなのか、というこの人類最悪の選択を、流砂は一体どう処理すればよいのだろうか。どっちも普通じゃなくね? と思われてしまうかもしれないが、流砂は至ってノーマルな少年Aだ。ちょっと年上好きで年下に優しいだけの、普通で平凡で健全なゴーグルの少年なだけなのだ。

 うぐぐ……と流砂は頭を悩ませる。この選択をミスった時点でもはや何度目かも分からない死亡フラグが立ってしまう予感がするし、そもそも麦野を怒らせてしまっては意味が無い。今の彼がやるべきことは麦野沈利をデレさせてハッピーエンドを迎え、『ドラゴン編』及び『ロシア編』を無事に生きて切り抜けることなのだ。

 うんうん、と頭を抱える流砂が凄く面白いのか、絹旗は「ぶふぅ」と笑い声を上げる。

 そして流砂の元までトタタッと駆け寄り、彼の肩に優しく手を置いた。

 

「もしここで私が草壁に超告白した場合、完全無欠の超修羅場が出来上がると思いませんか?」

 

「お前マジで黙ってろよ! 今俺スゲー真剣なの分かってる!?」

 

「くっさかべー。超好きですー。結婚してくださいー」

 

「オイこの映画バカ! こんな場面でンなこと言っちまったら――」

 

「……ゴーグル、さん?」

 

「りゅーうさぁああああああああっ?」

 

「こーなっちまうんですよねぇええええええええええええええええ!?」

 

 あーもーダメだシリアスがどっかに旅立っちまった! と流砂は麦野に襟首を掴み上げられながらも心の中で叫びを上げる。そんな流砂を見て浜面と滝壺が凄く呆れた表情を浮かべているのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 「私だって超真剣なんですけどね……超草壁は超死ねばいいのに」とか呟きながら口を尖らせている絹旗には気づかない様子で、流砂は麦野に必死の弁明を開始する。

 

「俺が愛してるのはお前だけだって沈利! あーそーさ! 俺はお前に告白しに来たんスよ! だからっ、とりあえず俺の話を聞いてくれ!」

 

「告白なんかしなくても分かってるわよ。お前が私だけを愛していて、お前は私以外の女から愛されちゃいけないってことぐらい。お前の愛は私だけのもので、私の愛はお前だけのものなんだ。前も言っただろ? 私はお前を――殺してやりたいぐらいに愛してる、ってさぁ」

 

「やっぱゴメンちょっとだけ考える時間ちょーだいお願い三十円あげるから!」

 

 青褪めた顔で律儀に三十円を差し出す流砂。

 そんな流砂の顔を豊満な胸に押し付けつつ、麦野は火照った顔で話を続ける。

 

「まず最初にどんなことをしてあげようかしらねぇ? 私以外の女に会えなくなるように、四肢を切断してベッドに拘束しちゃおうかしら? そして毎日寝るときにキスをするんだ。それ以上のことだって毎日毎日毎日毎日やってやる。大丈夫、私がリードしてあげるよ。ねぇ流砂、子供の名前は何が良い?」

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああっ! この人ちょっと予想外すぎるぅうううううううううううううううううっ! しっ、シリアスを! 誰か俺にシリアスをください! このままじゃペース持ってかれて結果的に四肢が消えてなくなっちゃう!」

 

 麦野に頭を抑えつけられながらも、流砂はジタバタと必死に足掻く。麦野のヤンデレ自体は受け入れるつもりでいたのだが、流石に自分に肉体的な危険が訪れるとなると話は別だ。出来れば五体満足な状態でハッピーエンドを迎えたい流砂としては、未来的にも現在的にも無駄な死亡フラグを立てるわけにはいかない。先ほどの麦野の提案は、完全な死亡フラグだった。……社会的抹殺的な。

 炎の海に包まれながらラブコメを展開している流砂と麦野とシルフィと絹旗。浜面と滝壺は主に傍観者となっているので数えないが、それでも先ほどまで命のやり取りをしていたとは思えないほどの安堵の表情を浮かべている。出来ればこのまま平和に終わってくれたらいいなー、的な願望ぐらいは抱いているのだろう。

 だが、せっかくの仇討を邪魔されたステファニー=ゴージャスパレスは、この状況が許せなかった。自分が真剣になって考えた戦法であと一歩のところまで絹旗を追い詰めたのに、まさかの邪魔が入ってしまったのだ。しかも、こんなふざけたイチャイチャ展開に、だ。許せるはずがない。

 故に、ステファニーは軽機関散弾銃を構える。窒素の壁とか圧力の壁とか、もはやどうでもよかった。とにかくここで学園都市の人間を一人でも多く殺す。殺して殺して殺しまくって、砂皿緻密への手向けとするのだ。いや、まだ死んではいないけど。意識不明の重体で植物状態なだけだけど、目を覚ますことなく眠り続けている男なんて、死んでいると同じに決まっている。

 カチャ、と人差し指がトリガーに掛けられる。自分でも驚くほどにクールダウンしているステファニーは、今までで最高にヒートアップしていた。この場でこの引き金を引けば、全てが終わる。そう思ってしまったステファニーは――

 

「ふっざけんな! 私の復讐を、砂皿さんへの手向けを、こんな形で有耶無耶にされてたまるかァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 ――何の迷いもなく、引き金を引いた。

 ドババババ! という轟音と共に、大量の銃弾が流砂たちに向かって飛んでいく。目で捉えられるような速度では決してないその銃撃に、地下街の床や壁が物理的な悲鳴を上げてしまっている。このまま銃撃を続行させ続ければ、地下街ごと粉砕することができるかもしれない。

 銃弾の残りが一気に減っていくが、ステファニーは構うことなく引き金を引き続ける。とにかく撃つ。撃って撃って撃ちまくって、絹旗最愛を殺すのだ。さっきの爆発で窒素は減ってしまっているのだから、この機関銃の威力ならばあの少女を殺せるはず。頭にデカい土星の輪のような機械を付けていた少年がいたような気がするが、あいつは端からステファニーの標的リストにはエントリーされていない。銃弾を防御したのには驚いたが、流石にこれだけの量とこれだけの威力を前にして、無事でいられるはずがない。

 

「砂皿さんを叩き潰したくせに、こんな簡単にくたばってんじゃないですよ! 立て! 立って私に殺されろ! 千回殺して千回生き返って、また同じように千回殺されろ! 私はあなたをそれぐらい殺さないと気が済まないんですよ! くそっ、さっさと立ち上がってその姿を見せてみろよ! 絹旗ぁあああああああああああああああああっ!」

 

 圧倒的すぎる散弾の勢いに、地下街の空気が膨張したような突風が吹いた。

 突風によって吹き飛ばされた黒煙が鼻から奥へと侵入し、ステファニーは思わず大きく咳き込んだ。――ところで、やっと彼女は引き金から指を離した。

 黒煙の壁が途切れ、その向こうにある物が見えた。

 この程度で終わりかよ、とステファニーは心底失望したような表情で吐き捨てる。

 そして軽機関散弾銃を肩の上に置いた――その時だった。

 

 

 ぼしゅっ! という歪な音。

 同時に左腕が消し飛ばされ、ステファニーの身体に激痛が走り、そして彼女は見る。

 絹旗と流砂の身体を盾にし、隻腕の女がこちらに向かって狂気的な笑みを向けているのを。

 

 

「な……ん、で……?」

 

 ステファニーは驚いた顔で、隻腕の女――麦野沈利を眺めていた。

 防御が得意な能力者を盾にしたせいか、彼女に目立った外傷はない。左腕と右目が無いのは始めからだから考慮しないにしても、流石に無傷というのは一体全体どういうことだ。

 それに、窒素をほとんど失っていたはずの絹旗が生きているのも納得できない。いくらあの少年よりも内側にいたからと言って、あの散弾に倒れないわけがない。

 その時、ステファニーの靴に何か堅いものが当たった。ぼんやりとした目でそれを見てみると、そこにはアルファベットが刻まれているスプレー缶が転がっていた。

 ステファニーはそれが、元素記号の一つであると記憶していた。

 

「液体、窒素……ッ!?」

 

「私は窒素を操ることしか超できない能力者ですからね。『窒素を奪われたら超どうしようもない』ことを世界の誰よりも超知っている人間であるこの私が、何の対策も講じていないと思いますか? まして私は超暗部の人間なんです。欲しいものぐらい超すぐに手に入れることができるんですよ」

 

 ふふん、と得意気に鼻を鳴らす絹旗。

 対照的に、ステファニーは悔恨の極みとでも言いたげな表情で歯を食いしばっていた。大量に血が出ている左腕の傷口を抑えながら、ステファニーは涙が出るのを必死に堪えていた。

 自分の復讐が、失敗した。全てを捨てる覚悟で挑んだ復讐が、圧倒的敗北という形で失敗してしまった。こんな状態で、砂皿緻密にどういう顔を向ければいいというのだろうか。

 いや、それ以前に、あの麦野沈利とかいう超能力者が奴らの味方をしている意味が分からない。さっきのやり取りからして、敵同士なのではないのか。いや、凄く仲睦まじそうであったが、それでも仲間同士というような空気ではなかった。

 そんなことをステファニーが考えているのを察したのか、麦野は右手で頭をガシガシと掻き、

 

「どれだけ世界が壊れようとも、私は流砂の味方なんだ。確かに、私は流砂を殺したいと思ってる。流砂を自分の心の中だけで生かし続けるために、私は流砂を今すぐにでも殺したい。まぁ、浜面は絶対に今度全力でブチコロシ確定だけどな。でも、浜面も浜面でどうやら流砂の仲間みたいだし? 一応は護ってやんないといけないでしょ」

 

「……結局、あなたは何がしたかったんですか……?」

 

 「あぁ? そんなの決まってるだろ?」苦悶の表情を浮かべながらのステファニーの問いに、麦野は無邪気な子供のような笑顔を浮かべ、

 

「私は流砂を愛してる。学園都市に反逆することになろうがなんだろうが、私の行動理念はそれ一つだ。流砂を殺すのは簡単だけど、私は流砂の笑顔をもっと長く見ていたい。勝手な女だと思うかもしれないけど、勝手で暴虐武人だからこその麦野沈利だ。――まぁどうせ、流砂は私の行いの全部を許してくれるんだろうけどさ」

 

「そんな、勝手な理由で……私の邪魔をしたんですか……っ!?」

 

「だから言っただろ、私は勝手な女だって。私はお前の復讐なんてものにゃ露ほどの興味も無い。私の興味は流砂だけにしか向いちゃいない。故に、私はお前なんかどうでもいいんだ」

 

「ふっざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんなぁああああ! あなたにとっちゃどうでもいいかもしれないけれど、私にとっちゃ大問題なんですよ! 愛する? 仲間? ふざけるのも大概にしろ! そんなお気楽展開は必要ないんですよ! 今ここであなたたちを殺さないと、砂皿さんが救われない! 砂皿さんを救えない! あなたたちなんかに……あなたたちなんかに……私の夢を奪わせてたまるもんかぁあああああああああああっ!」

 

 そう叫びながら、ステファニーは懐から拳銃を取り出した。彼女の派手な商売道具とは違う、とても地味で在り来たりなレディース用の拳銃だった。――だが、その威力は一級品だ。

 ステファニーは拳銃の安全装置を外し、迷うことなく引き金を引く。装填されている弾丸をすべて使い切るまで、彼女は何度も引き金を引き続けた。

 だが、その銃弾が麦野に当たることは無かった。

 理由は簡単。

 麦野の前に、ゴーグルの少年が立ち塞がっていたからだ。

 「いっつつ……流石に咄嗟の行動じゃスマートな防御にはならねーッスね」銃弾が突き刺さったハズの腹部を軽く摩りつつ、流砂は苦笑いを浮かべる。彼の後ろにいる麦野は流砂を見て顔を赤らめているし、本当にコイツらは訳が分からない。

 復讐も怒りも全て止められたステファニーは、ガクンと膝から崩れ落ちた。もはやすべてのことがどうでもいい。何一つ成し遂げられなかった自分には、もう何も残されていないのだから。

 

 

 だが、そんな彼女に手を差し伸べる者がいた。

 

 

 草壁流砂。

 壊滅した暗部組織『スクール』の元構成員である少年は、絶望しきった表情のステファニーに、スッと右手を差し出した。

 「……え?」と呆けた顔をするステファニーに流砂は言う。

 

「お前の師匠の砂皿って人は、俺が所属してた組織に雇われてたんだ。俺は一度も会ったことがねーからその砂皿って人がどんな奴かは知らねーけど、かなり凄腕のスナイパーだってことはリーダーから聞かされてた」

 

「なにが、言いたいんですか……」

 

「俺にゃその砂皿って人を救う義務があるって言いたいんスよ」

 

「――――、は?」

 

 彼の言っている意味が、分からなかった。

 同じ組織の仲間だったからと言って、顔を見たことも無いほぼ赤の他人な砂皿を救うなんて、お人好しも度が過ぎるといったものではなかろうか。こんなどす黒く濁った街に、そんな善人がいるはずがない。

 だが、目の前にいるこの少年は、ステファニーに笑顔で手を差し伸べてくれている。まるで自分が言っていることは何も間違ってはいないとでも言いたげな笑顔を浮かべて、少年はステファニーに手を差し伸べてくれている。

 じわっ、とステファニーの目頭が熱くなる。こんなことで泣いちゃダメって分かっているのに、こんな街の暗部なんかをしている奴に感謝しちゃダメだって分かっているのに、彼女の目頭にはどんどん熱が込められていく。

 顔を歪めることで必死に涙を堪えるステファニー。

 そんなステファニーの右手を無理やり握り、流砂は煤だらけの顔で子供のような笑顔を浮かべ、

 

「大丈夫。腕のイイ医者を知ってるんスよ。患者が死んでいなけりゃ絶対に救ってくれる、学園都市最強の名医をな。だから、お前はもー何も心配はしなくてイイんス。自分の感情を曝け出して、今ここで子供のよーに無邪気に泣いてイイんスよ」

 

「……ふっざけんな……ふざけてんじゃないですか……うぅっ、くそっ…………ありがとう、ございます……っ!」

 

 ぼすっ、と流砂の身体に顔を押し付け、ステファニーは子供のように泣きだした。自分の命を懸けてでも救いたかった人を救ってもらえて、凄く嬉しかったから、彼女は子供のように泣きだした。

 自分の服を噛むことで必死に声を噛み殺しているステファニーに苦笑しつつ、流砂は彼女の頭を撫でる。どう考えてもステファニーの方が年上なのだが、今のこの状況では流砂が兄のように思えなくはない。妹を慰める兄、という言葉が一番しっくり合うのだろう。

 

 

 だが、そんな感動的な状況は、いとも簡単にひっくり返される。

 

 

 その前兆に気づいたのは、麦野の後方で滝壺の身体に抱き着いていた、シルフィ=アルトリアだった。

 シルフィは滝壺の身体にいきなり抱きつき、そのままの流れで全身を震わせ始めたのだ。絹旗たちの戦闘を察知した時のように、麦野の襲来を察知した時のように、シルフィは全身を震わせている。

 「どうしたの、しるふぃ?」震えるシルフィの身体を優しく抱きつつ、滝壺は問う。

 そんな滝壺の問いに答えるようにシルフィは彼女の顔を見上げ、

 

「……逃げないとっ。早くここから逃げないと駄目なの!」

 

『は?』

 

 シルフィの叫びに彼女以外の全員が呆けた声を上げた瞬間。

 地下街に黒づくめの特殊部隊が雪崩れ込んできた。

 




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 次回もお楽しみに!

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