ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 ロシア編が終わったら、キャラ投票を行いたいなーって思ってます。

 詳しい説明はその時に行いますが、上位七名に関しては短編を書こうかなーって思ってます。

 多くの投票、来たらいいなぁ……(ちらっちらっ

 そんなわけで、ちょっとだけ報告なのです。



第二十項 暗部同士

 地下街に黒づくめの特殊部隊が雪崩れ込んできた。

 その現実を前に流砂がとった行動は、とてもシンプルなものだった。

 

「頼む、沈利っ!」

 

「了解!」

 

 キュガッ! という轟音を奏で、麦野が放った光線が特殊部隊を横一線に薙ぎ払った。

 一瞬で下半身を根こそぎ奪われた男たちが、何のリアクションも起こさずにボトボトと地面へと落下していく。今の攻撃で敵全員を殲滅できたわけではないが、八割ほどの戦力は根こそぎ消し飛ばせたはずだ。大丈夫、単純な戦力で言えば、こちらの方にまだ分がある。

 流砂の記憶が間違っていなければ、この特殊部隊たちの目的は『浜面仕上の殺害』だ。暗部抗争で死ななければならなかった下っ端を殺すためだけに、コイツらはこの地下街に雪崩れ込んできたはずだ。

 だが、その理論で行くならば、流砂も命を狙われている可能性が高い。原作では死んでいるハズの人間が今この場で生き延びている以上、学園都市の統括理事会理事長であるアレイスターが何の対策も講じないとはとてもじゃないが思えない。そろそろ潮時かな、と流砂は流れる冷や汗を手で拭う。

 物陰に隠れながらも着実にこちらに向かって進撃してくる特殊部隊を迎撃しつつ、麦野は流砂に叫ぶ。

 

「おい流砂! 一旦逃げた方がいいんじゃないの!? 今の私じゃこれ以上乱発できないわよ!?」

 

「分かってる! だから、えーっと、俺と絹旗が殿やるから、お前は浜面達連れて先に行け! 再会したらキスでも何でもしてやっから、今はとにかく俺の命令を聞いてくれ!」

 

「その約束ぜっっっっったいに忘れるんじゃないわよ!」

 

「ったりめーッスよ!」

 

 「ほらっ、その粗末なナニ焼かれたくなかったらさっさと立て!」「ちょっ、オイ! 草壁はどうすんだよ!」「いいから急げっつってんだ!」「……ゴーグルさん!」「お前もいつまでも駄々こねてんじゃねえ!」ドタドタドタッ! と騒ぎ立てながら地下街の外へと駆け上がっていく麦野たち。最年少のシルフィが凄く心配だったが、流石にこの場においていくことなんてできるわけがないので、あれが彼女にとっての最善策なのだ。大丈夫、間違っちゃいない。

 「ほら、立てるか?」「流石に私を見縊り過ぎじゃないですか? これでも一応、元警備員なんですよ?」麦野の攻撃によって片腕を失っているステファニーに肩を貸し、彼女をなんとか立ち上がらせる。失血量がどう考えてもヤバいところまで達しているせいか、ステファニーの顔色は優れない。今すぐにでも病院に連れて行く必要があるだろう。

 青褪めた顔のステファニーを支えながら隣に立っている流砂に怪訝な表情を浮かべ、絹旗は「はぁぁぁ」と深い溜め息を吐く。

 

「相っっっ変わらず超凄まじいほどに善人ですね、草壁。敵である女を助けるなんて」

 

「お前にとっちゃ敵なんかもしんねーけど、俺にとっちゃただのケガ人なんだよ。故に、俺のこの行動は間違っちゃいねーんス。――ンなことより、ちゃんと体力は残ってるんだろーな? 戦闘中にスタミナ切れとか、笑い話にもなんねーッスよ?」

 

「誰に言ってるんですか、超草壁。少なくとも、あなたに後れを取ることは超ありませんよ」

 

「そーかいそーかい。相っ変わらず俺にゃ厳しーな、お前」

 

「超お互い様です」

 

 相変わらずのツンケンな会話を終わらせ、二人はぞろぞろと物陰から出てくる特殊部隊に視線をやる。三十人以上は倒しているハズなのに、そこにはまだ四十人ほどの戦力が存在していた。結構本気かよ、と流砂は深い溜め息を吐く。

 浜面の逃走。特殊部隊の登場。――そして、絹旗の戦闘が終了。

 タイミング的にもバッチリなのだが、やはりこのイベントに関しては腑に落ちない点が多すぎる。コイツらがどこに潜んでいたかがまず分からないし、そもそも絹旗たちの戦闘が終了するのを待つ意味が分からない。本当にこのタイミングで来たばかりなのかもしれないが、あの統括理事会理事長の考えること。予想したところで全てが徒労に終わるに違いない。

 故に、流砂は口を開く。

 この特殊部隊――『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の残党を率いてやってきているであろう、能力者の名前を呼ぶために。

 

「そこにいるんスよね、さっさと出てきたらどーッスか? ――心理定規(メジャーハート)さん?」

 

「あら、気づいてたんだ? 気配は消してたつもりだったのだけど」

 

 『猟犬部隊』の奥から出てきたのは、赤いドレスとふわっとした金髪が特徴の、十四歳ぐらいの少女だった。

 心理定規。

 つい先日壊滅した暗部組織『スクール』の構成員で、今現在は新しい暗部の正規構成員となっているハズの少女だ。――そして、流砂のかつての商売仲間。

 流砂と絹旗とステファニーに銃口を向けている『猟犬部隊』を従えつつ、心理定規は心底がっかりした様子で肩を竦める。

 

「まさかこんなところで『スクール』の生き残りに会えるとはね。どう、草壁? 私たちのチームに入らない?」

 

「その誘い自体は途轍もねー程に嬉しーんスけど、超遠慮させてもらうッス。俺の前にゃ、やるべきことが山積してるんでね」

 

「あらら。フラれちゃったわ」

 

 初めから断られると分かっていたのか、心理定規はあまり残念そうにはしていない。

 現在進行形で仲間であるはずの心理定規を睨みつけ、絹旗は怪訝な表情を浮かべながら心理定規に問いただす。

 

「こんなところにわざわざ雪崩れ込んできて……超何のつもりですか?」

 

「私としても、とても不可解な命令なのよね。というか、『猟犬部隊』の残党と仕事をさせられるなんて、私が文句を言いたいぐらいだわ」

 

 心理定規の言いたいことが分からない、と言った様子の絹旗。それは部外者であるステファニーも同様で、脂汗を流しながらも小さく首を捻っている。

 だが、流砂はある程度の事情を把握している。コイツらがどういう理由でここに来たのかも知っているし、アレイスターの狙いが一体誰なのかも重々承知しているつもりだ。

 故に、流砂は言葉を紡ぐ。

 無駄なイベントは省くとでも言いたげに、流砂はさっさと核心を突く。

 

「浜面仕上の抹殺。上条当麻や一方通行とは違う、アレイスターの『プラン』に完膚なきまでのダメージを与えてしまうかもしれない存在である浜面を、早急に抹殺する。――それが、お前らの目的ッスね?」

 

「あら? あらら? これは驚いたわね。あなた、昔に比べて情報収集能力が上がったんじゃない? うわぁ、ますます欲しい人材だわ」

 

 わざとらしく感嘆の声を上げる心理定規に構うことなく、流砂は続ける。

 

「浜面は暗部抗争の日に、麦野沈利に殺されていなければならなかった。それがアレイスターの『プラン』の流れであり、あらかじめ決められていた運命のようなものだった。――だが、浜面は生き残った。あろうことか、麦野沈利を倒し、更に滝壺理后を奪取する形で」

 

「そうそう。だからこそ、アレイスターはここらでその芽を摘んでおくことにしたそうよ? 『プラン』に多大なダメージを与えかねない浜面仕上を、学園都市の全力を以って抹殺しようとしているらしいわ。アレイスターでも予想ができない何かを掴みとろうとしているあの無能力者を、早急に抹殺する必要があるってね。――あの無能力者にそこまでの価値があると思う?」

 

「少なくとも、俺たちみてーなクズよりは何百倍も価値があるッスよ」

 

「……あなた、本当に帝督に似てきたわね」

 

「ありがとう。最高の褒め言葉ッス」

 

 ニヤリ、と流砂は笑みを浮かべる。

 やっぱり、コイツらの目的は浜面仕上だった。そこは原作通りで助かったな、と流砂はとりあえず安堵する。

 だが、問題はここからだ。

 浜面仕上の理論で行くならば、流砂の存在自体もアレイスターの『プラン』に反している可能性がある。というか、その可能性はとてつもない程に高いだろう。浜面と同じく麦野沈利に殺されていなければならなかった存在である草壁流砂は、アレイスターの『プラン』に多大なダメージを与えかねない。――まぁ、ただの自意識過剰かもしれないが。

 そんなことを考えているのがばれたのか、心理定規は今度こそ少しだけ残念そうな表情を浮かべる。

 

「それで、どうやらあなたも狙われてるみたいなのよね――草壁流砂?」

 

「言われるまでもなく分かってるつもりッスよ。麦野沈利に殺される予定だったのに生き延びて、尚且つ麦野沈利を学園都市に反逆させてしまった張本人なんスからね。これで普通に見逃してもらえたら、俺は学園都市の未来を嘆くことになるだろーな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 草壁が超死ぬ予定だった? 浜面が何かを掴みかけている? あなた達は超一体何を言ってるんですか!?」

 

 何の説明もなしに進んでいく会話を前に、絹旗が声を荒げる。

 「詳しー説明は後だ。今はとりあえず落ち着いてくれ」流砂はそんな絹旗を片手で制しつつ、心理定規を真正面から見据える。

 まだ、ピースが足りない気がする。浜面が狙われて流砂が狙われて、それで本当に学園都市の作戦は終了なのか? もっとこう、浜面や流砂以上に大切な存在がいるんじゃないのか? 

 麦野沈利。――いや、アイツは『プラン』には何のダメージを与えないはずだ。基本的に浜面を倒すためだけに復活したような感じだから、勝手気ままに振舞っていても大して問題に放っていないハズ。

 滝壺理后。――可能性としては高いかもしれないが、それでもやっぱり違うと思う。彼女の『能力追跡(AIMストーカー)』は学園都市の全機能を賄うことができる未来を持っている最重要能力だが、それでも今の段階ではそこまで重要視されてはいないハズ。

 ――ということは、コイツらが狙っているもう一人の人間は……。

 

「シルフィ=アルトリアの存在について、説明を求めてもイイッスか?」

 

「……もしかして、気づいちゃった?」

 

「気づくもなにも、ただの消去法で導き出しただけだ。沈利は狙われない、滝壺は後で回収すればいい。そして、さっき逃げた中で一番正体不明なのが、シルフィ=アルトリアだった。ただそれだけの話ッスよ」

 

「本当に情報収集が得意みたいだね。そんなあなたを評価して、ここは私がちゃんと暴露させてもらうことにしましょうか」

 

 はぁぁーやれやれ、と肩を竦め、心理定規は話を始める。

 

「シルフィ=アルトリアはね、『世界を救う可能性を秘めている原石』なんだ」

 

「世界を、救う……?」

 

「ええ。シルフィ=アルトリアの能力は、『回帰媒体(リスタート)』。自分の命を脅かす危険を十秒程前に察知する能力、っていう説明が妥当かな。とにかく、あの子は科学では説明ができないような能力を持っているのよ」

 

「そんな理由で狙われるわけねーッスよね? この学園都市にゃ『原石』なんて十何人もいる。そんな中で、シルフィだけが狙われる。どー考えてもそれ以上の理由があるだろーが」

 

 あえて例を挙げるなら、『最大原石』と呼ばれる超能力者がいる。

 世界最高の原石と評価されているその超能力者は、本当の意味での非科学的な能力を扱う能力者だ。今まで何十人もの研究者がその能力者を研究してきたが、全員が例外なく匙を投げてしまったらしい。――それほどまでに、『原石』というのは科学からかけ離れた未知の存在なのだ。

 流砂の問いに心理定規は艶のある笑みを浮かべ、

 

「これはもしかしたらの話だけれど。シルフィ=アルトリアの能力が今後更なる進化を経て、一日前には既に危険を察知することができるようになったとするわ。そんな『どんな機械よりも正確な予知ができる能力者』を量産して世界中にばらまけば、この地球の危機は早急に避けられるとは思わない?」

 

「もしかして、『妹達(シスターズ)』と同じコトをやるつもりなんスか……ッ!?」

 

「あれは電気系統能力故の『ミサカネットワーク』があってこその量産体じゃない。――けど、シルフィ=アルトリアのクローン化計画はそんなネットワークを必要としない。だって、ただの予知システムに、ネットワークなんて必要ないでしょう?」

 

「…………誰が、その計画を立案したんだ。そんな非人道的な計画を、どこの誰が立案したんスか?」

 

木原利分(きはらりぶん)。あの『木原一族』の一人で、世界を救うためならどんな犠牲も厭わないという、生粋のマッドサイエンティストよ」

 

 木原利分。

 世界を救うためならどんな犠牲も厭わない……その肩書きからして凄まじく矛盾しているのだが、その研究者があの『木原一族』の一人だというのだから妙に納得してしまえる。

 科学の発展には必ず関わってきた、世界で一番凶悪な研究者一族。科学の研究のためならどんな犠牲も厭わないくせに、人類が望む結果だけは確実に提示する異常者の集まり。――そんな奴らの一人に、シルフィが目を付けられた。

 クローン化計画というが、説明されたシステム通りならば、シルフィのクローンには感情というものが一切合財排除されてしまうのだろう。ただ危険を察知して伝える。それだけの機能を持った人形として、冷凍食品のようにスイッチ一つで量産されてしまうのだろう。

 ふざけんな、と流砂は歯を噛み締める。ただ珍しい能力を持っているだけで、何で人権ごと剥奪されなければならないんだ。なんであの幼気な少女が、そんな地球規模の計画に巻き込まれなければならないんだ。

 ふざけんな、ともう一度流砂は吐き捨てる。この街の理不尽さを改めて理解した流砂は、本気で奥歯を噛み締める。

 十分な説明はしたわね、と心理定規は息を吐く。

 それが合図だったのか、『猟犬部隊』の残党達の銃口が一斉に流砂たちに向けられた。

 

「絹旗最愛は捕獲。それ以外は殺しても構わないわ。まぁ、私としては、草壁は殺さずに仲間にしたいわけなんだけど……流石にアレイスターに逆らう訳にはいかないしね」

 

「相っ変わらず学園都市の飼い犬に成り下がっちゃってるんスね、心理定規さん。『猟犬部隊』と結構マッチしてるんじゃねーの?」

 

「それが辞世の句でいいのね」

 

 スッ、と心理定規の腕が上がった。あの腕が振り下ろされた瞬間、流砂たちに無数の銃弾が突き刺さることになるのだろう。絶対防御能力を持つ絹旗と流砂は別に大したダメージを受けないが、生身の人間でしかもケガ人であるステファニーは確実に死んでしまうだろう。それだけは絶対に避けなければならない。

 「…………絹旗。俺が合図したら、ステファニー抱えて後ろに向かって走れ」「草壁、超何をするつもりなんですか……?」「説明はしねー。イイから、ステファニーのコト頼んだぞ」心理定規には聞こえないほどの音量で会話を終わらせ、流砂はステファニーを絹旗に預ける。

 そして絹旗たちの前へ一歩踏み出し、心理定規の前に立ち塞がる。

 

「……どういうつもり、なのかしら?」

 

「言っとくけど、俺はこの状況をある程度予想できてたんだよ。情報収集能力っつーことになるんだろーけど、とにかく俺はこの日のために最大限の準備を行ってきた。――そんなわけで、俺は今からお前らに全力で反抗するつもりなんスよ」

 

「私たちから逃げられると思ってるの? 私たちの戦力は、学園都市の全てなんだよ? そんな少数精鋭だけで、逃げられるわけないでしょう?」

 

「いやいや、そんなコトねーッスよ。物語はいつも少数精鋭が生き延びる。そーゆー風に、世界は成り立ってるんスよ」

 

「無駄な抵抗というヤツね。まぁ一応、何をするかぐらいは教えてもらってもいいかしら? 元仲間としての誼で、ね」

 

 そう言いながらレディース用の拳銃を構える心理定規。その銃口は流砂の眉間に向けられていて、引き金にはご丁寧に人差し指がかけられている。

 だが、流砂は脅えることも怖れることもしない。

 ただ、携帯電話を右手に持っているだけだ。

 そして、その画面に親指が触れている。

 にやぁぁ、と口を三日月状に裂けさせ、流砂は腹の底からあらん限りの音量で叫びを上げる。

 

「出番だぜ、ナンバーセブン!」

 

『いよっしゃぁあああああああっ! すごいパーンチ!』

 

 そんなふざけた掛け声の直後。

 地下街に暴力の嵐が吹き荒れた。

 




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 次回もお楽しみに!

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