ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 二話連続投稿でーす。



第二十一項 削板軍覇

 本日の天気は晴れ。

 所により、暴力の嵐が吹き荒れるでしょう♪

 そんな天気予報が聞こえてくるような状況下にて、草壁流砂は学園都市を駆け抜けていた。

 ゴーグルをカチャカチャと鳴らしながら走る彼の左には、ケガ人の女を抱えた少女がいて、右には白ランで同色のスラックスで白い鉢巻で日本の古い国旗模様のシャツという異様な出で立ちの少年が流砂と同じペースで走っている。

 ナンバーセブン、削板軍覇(そぎいたぐんは)

 学園都市に七人しかいない超能力者の第七位にして、愛と根性を愛するヲトコである。

 羽織った白ランをはためかせながら走る削板にサムズアップしつつ、流砂は純粋な笑顔を浮かべて声を上げる。

 

「作戦どーりだな、削板!」

 

「んっふっふーん。それはお前の根性の利いた作戦がよかったんだ! しかーし! 今はそんなことなどどうでもいい! 今ここで論議するべきなのは、作戦の成功についてではなく、オレの根性が体内から漏れ出てしまうぐらいに満ち溢れているということだーっ!」

 

 走りながら胸を張るという器用な技を削板が披露すると、彼の背後で赤青黄色の煙がドバーン! と噴き出した。どこかに煙幕発生装置でも仕掛けられていたのだろうかと思ってしまうかもしれないが、なんてことはない。これは削板の能力の一つにすぎないのだ。

 本当なら音速の二倍で走れるのに流砂たちに遠慮して速度を落としている削板は、絹旗が抱え上げているステファニーの腰ををむんずと抱え上げ、そのまま流れるような動作でステファニーを絹旗から引っ手繰った。

 それに驚いたのは、今の状況が全く読めていない絹旗だ。

 

「ちょっ、超いきなり何やってんですか!?」

 

「時間がないから手短に説明するが、オレの本当の任務はこのケガ人を根性で病院に送り届けることなのだ! つまり、オレは今からその任務を達成しなければならない! 友との約束を守るのは、根性云々の前に当たり前のことだろう!?」

 

「いやいやいや! 超まったく状況がつかめないんですけど!? ――ってああぁっ! しかも気づいた時にはあの根性バカがもういない! なんて速さですか嵐ですか嵐なんですか!?」

 

 うぎゃぁあああああっ! と叫び声を上げる絹旗に、流砂は露骨な苦笑を浮かべる。

 やっぱアイツ、どこに行ってもシリアスブレイカーだよなー、なんてことを思いつつ、流砂は嵐のような根性さんとの邂逅シーンを思い出していた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 あれは、確か十月十五日ぐらいのことだったと記憶している。

 退院したばかりで特にやることも無かった流砂は、リハビリを兼ねて第七学区を目的も無く歩いていた。ベッドの上で生活していたせいで鈍った体を解す為だったので、別にそこまでの目的地なんてものは彼の中には存在しなかった。ただ単純に散歩するだけ。どこの老人だよというツッコミが来てもおかしくないような時間を、その時の流砂は送っていた。

 最初はアイスを買って食べたり公園の子供たちとサッカーをして遊んだり、なんていう普通の休日を過ごしていたわけだが、そんな普通は彼がとある河原を訪れたことで崩壊する。

 そこには、学園都市が生んだ都市型モンスター。絶対にどこぞの外国人傭兵部隊とかで半年は渡り歩いてきただろお前と言えるような巨漢筋肉ムキムキ人間兵器が、指の関節をパキポキと鳴らしながら立っていた。

 はて、なんかどっかで見たことある気が……うーん、誰だろー? なんてことを思いながら必死に頭を捻る流砂。原作知識を曖昧にしか覚えていない流砂にとって、出番が劇的に少ない原作キャラほど覚え辛いものはない。というか、本当にコイツ見たことあるぞ。

 詳細を確認するためにもう一度河原を見てみると、その人間兵器の向かい側に、やけに目立つ格好の少年が立っていた。無駄な脂肪が一切ない、細マッチョなイケメンさんだった。

 男にしては長い黒髪で、大覇星祭はとっくに終わったのに額には純白の鉢巻が巻いてある。白い学ランを羽織っていて、その下には古き良き大日本帝国の国旗らしき模様がついた白いシャツが。さらに下半身は純白のスラックスに包まれていて、足首から先を覆う靴も更に純白。白い少年こと一方通行のお株を完全に奪った、凄いイレギュラーな少年だった。

 そんなイレギュラーな少年を見た瞬間、流砂の頭に電撃が走る。

 

「もしかしてアレって…………削板軍覇?」

 

 学園都市の第七位の超能力者にして、世界最高の『原石』と言われている天然の能力者。

 能力の詳細及び名称は不明。攻撃手段や防御の解明すらされていない、正体不明説明不能の根性バカ。銃弾が効かずアイスピックが効かず、おまけに遠くにいる敵を遠くから殴り飛ばすという荒業を平気でやってのけるリアルブレイカー。……正直言って、禁書世界で一番キャラが濃いのではなかろうか。

 あの少年が削板だということは、あの人間兵器はモツ鍋ナントカさんか。――もとい、内臓潰しの横須賀さんか。近くにあの一般市民こと原谷矢文くんの姿は無いようなので、どうやら二人は単純な決闘を行いに来ただけみたいだ。…………いや、単純な決闘って何だ。

 とりあえずこれは面白そーだな、と流砂は河原の草原に腰を下ろした。どうせ暇だったし、この二人の戦いで何かしらの戦術のヒントが得られるかもしれない。見ておいて損はないだろ、というのが本音だ。

 流砂の存在には全く気付かない様子で、モツ鍋さんはファイティングポーズをとる。

 

「ふっ、俺は内臓潰しの横須賀。ナンバーセブンこと削板軍覇、今日こそ俺は貴様に勝ぁーっつ!」

 

「すいません! お腹が空きました!」

 

「ちょ、もーっ! 昼飯ぐらい先に済ませとけって! だから、あの、何だ? どこまで話したっけ? あと、えーっと……そうそう、あれだ。削板軍覇! この内臓潰しの横須賀が、今日こそ貴様を叩き潰してや」

 

「すごいパーンチ」

 

「だから最後まで話聞けって! ――って、ぬぅぅぅんっ!」

 

 ………………なんか、削板の一撃をモツ鍋さんが耐えていた。

 流石に出会ってから半年以上経っているせいか、モツ鍋さんの耐久力が原作よりも上がっている。アレって結構戦力になるんじゃね? と流砂は顔を青褪めさせるが、河原にいる二人はそんな流砂に気づくことなく戦いを続行させる。

 「そんな攻撃、俺には効かぬわぁあああっ!」筋肉のカタマリと言っても過言ではないほどの身体で突撃を開始するモツ鍋さん。右腕が振りかぶられている点から、どうやら彼は削板に本気の右ストレートをお見舞いするつもりらしい。どこの喧嘩漫画だよ、と流砂のツッコミが止まらない。

 「ぬぅんっっっ!」という暑苦しい掛け声の直後、モツ鍋さんの拳が削板目掛けて振り下ろされた。その勢い速度共に一級品で、こんなところで不良をしているのがとても残念だと思えるほどに凄まじいパンチだ。いやホント、何でこの人学園都市にいるんだろう。外国で傭兵でもやればいいのに。アックアの相棒でもやってりゃいいのに。

 ダンプのように迫ってくる拳を前にして、削板はとてもシンプルな行動をとった。

 右ストレート。

 ただそれだけのことで、河原に激しい突風が吹き荒れる。

 

「すごいパーンチ!」

 

「ぐ、ぬぬぬぅっ……ま、まだ終わらんぞぉおおおおおおおおおおっ!」

 

 超能力者とマッチョな人間兵器が、互角にやり合っていた。

 体格的にはモツ鍋さんが圧倒的のはずなのに、削板はそんな体格差など関係ないとでも言うようにモツ鍋さんの拳を押し返している。喧嘩漫画というより少年漫画だろコレ! と流砂はもはや何度目かも分からないツッコミを入れるが、それに答えてくれる奴はこの場にはいない。

 そうこうしている間にも、なんか見えないオーラ的なナニカがモツ鍋さんの方へ徐々に迫っていた。ただ殴り合っているだけのはずなのに、何故かそこには異常なオーラが存在していた。モツ鍋さんスゲェエエエエエエエエエッ! と柄にもなく叫んでしまった流砂は悪くない。

 「ぬっ、ぅううぅぅぅううううううぅぅぅうぅうううん!?」と全身の筋肉を脈動させて必死に堪えるモツ鍋さん。どう考えても悪役のはずなのに、何故か流砂はこの筋肉だるまのことを応援したくなっていた。いやホント、何でこの人不良なんかやってるんだろう(二度目)。

 そしてついに、決着の時が来た。

 「今日もいい根性だな、モツ鍋! そんなお前を評価して、今日はオレの根性が最大限に詰まった一撃を与えてやるぜ!」右手を前に突き出しつつ、削板は全身に力を込める。――直後、削板の周囲に七色の煙的なナニカが発生して彼に向かって集束し始めた。

 「うわーお。直で見るとスゲー迫力……」どこぞの宇宙規模の戦闘民族的なオーラを放っている削板をキラキラと光の灯った子供のような目で眺めつつ、流砂は感嘆の声を上げる。

 直後。

 削板の手から巨大なオーラが放出された。

 

「超! すごいパーンチ!」

 

「いやそれ大した進化してねえだろおがぁああああああああああああああうううううんっ!」

 

 レーザー光線のように一直線に突き刺さって来たナニカを両手で受け止め、モツ鍋さんは丸太のような足で地面を全力で踏みしめる。ここで根性負けしてしまう訳にはいかない。彼には彼なりの根性というものがあるのだ。

 おーおーよくあんな攻撃受け止められんなー、と流砂はあくまでも他人事のように感想を述べる。なんか正体不明の突風が吹き荒れているが、きっとあのナンバーセブンのせいなので気にしない。もう何がどうとかあれがどうとか、そういう次元の話ではないことぐらい分かっている。

 だが、そんな油断がいけなかったのか。

 モツ鍋さんが削板の『超すごいパンチ』を流砂の方へと弾き飛ばしたのだ。

 ちょうどいいタイミングで欠伸をしていた流砂の顔が凍りつく。死の直前は全てがスローに見えるというのは本当のことのようで、その時、流砂は時間の流れを超越していた。

 

「――――――、え?」

 

 直後。

 流砂を中心として巨大な爆発が巻き起こった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「そんな感じのことがあってから、俺と削板は友達になったんだ」

 

「意味が分からない! 超意味が分からない! なんでそこからここまでの信頼関係!? 経緯を超省き過ぎなんですよ超草壁ェえええええええええええっ!」

 

 夜の学園都市を駆け抜けつつ、絹旗は頭を抱えて絶叫する。

 まぁ確かに、流砂としても削板と友達になれたのは凄く予想外なことだった。削板の攻撃で人工アフロにされた流砂はお詫びという形で焼き肉店へご招待され、途中から合流した原谷矢文と一緒に削板とモツ鍋さんの根性の会話を傍観した。――そして、そのままの流れでその場にいた全員でメアドと電話番号を交換。後に削板に今回の救援を頼んだ、というわけだ。――いやホント、世の中って素晴らしい。

 絹旗の絶叫に耳を抑えつつ、流砂がやって来たのは第二十三学区。学園都市の航空施設をギュッと凝縮させた、世界最新鋭の空港だ。

 流砂は第二十三学区にある航空機の中でもかなり小型の戦闘機に乗り込み、慣れた手つきで操縦席の機材を弄り始めた。

 そんなわけで、絹旗最愛ちゃんから一言。

 

「超説明してください! あなたは今何をやっていて、これから超何が起こるのか!」

 

「詳しー説明なんてやってる暇ねーんだよ! 行き先はロシア! 目的は学園都市からの逃亡! 今はそれだけで何とか納得してくれ!」

 

「……ぅうあああああああああああっ! もうっ、超何がどうなってるんですかぁあああああ!」

 

 頭を抱えて叫ぶ絹旗だったが、一応は流砂に恋ごこ……もとい信頼を寄せているためか、渋々と言った風に操縦席の機材を弄り始めた。学園都市の暗部は全員戦闘機を動かせるのか、という質問が来たら、この二人は迷わず首を縦に振るだろう。というか、お前らホントに未成年か。

 互いに焦りながら無数のスイッチを弄っていると、画面にカタパルトの図面が表示された。そのまま画面に浮かんだ指示通りに指を動かしていくと、戦闘機のエンジンから低い唸りを上げ始めた。あと数十秒で、この戦闘機は飛び立つことができる。

 「ロシアに着いたらちゃんと説明してくださいよ!?」「分かってる! だからとりあえずシートベルトでもしろよ体消し飛ぶぞ!?」相変わらず騒ぎ立てながらコクピットでてんやわんやする大能力者コンビ。なんか遠くの方で黒づくめの特殊部隊が侵入してきていたが、もう遅い。流砂たちを乗せた戦闘機は既にカタパルトのレールに従って突き進んでいる。

 電磁カタパルトは戦闘機を上り坂のトンネルから地上へと勢いよく飛ばした。人間が紙飛行機を飛ばすかのように、二人が乗った戦闘機は夜空へと放たれる。

 予め自動操縦で設定しているため、流砂と絹旗は下手に操縦桿を握ることはしなかった。自動操縦のプログラムに従うがままに、戦闘機は夜空を超スピードで突き進んでいく。

 

 一つの戦いが終わり、更なる戦いが始まろうとしていた。

 

 誰に教えられなくても、自分の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者。

 

 過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を進もうとする者。

 

 誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者の為にヒーローになれるもの。

 

 ――そして。

 

 定められた運命に抗い、自分の意志に従うままに全ての悲劇を喜劇に変えようとする者。

 

 四者四様の物語が、一ヶ所に集う。

 

 四人の主人公たちが様々な思いを抱き、一ヶ所に集う。

 

 別々の道を歩んでいた、絶対に交わることがないとされてきた彼らの道が交わる時。

 

 世界で最も苛烈な戦場を舞台にした、最悪の物語が幕を開ける。

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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