尚、今回は後書きにて重大な報告があります。
お願いですから、絶対に読み飛ばさないでください!
いやほんと、お願いです!
十月九日。
フレンダ=セイヴェルンは死を覚悟していた。
垣根帝督に脅迫されるがままに『アイテム』の情報を吐きだし、あろうことかスパイとして『アイテム』に戻ろうとしてしまった。――そして、麦野沈利に捕まった。
襟首を掴まれたフレンダは、路地裏の壁に身体を押し付けられる。麦野が持つ怪力によって、フレンダの背骨が悲鳴を上げていた。
「が、ぎぃっ……ッ!」
「何で私たち『アイテム』を裏切った? 無駄な弁明とかいらねえから、簡潔に即座に答えなさい」
「ぐごっ……げほっ! げほごほげほっ!」
裏切りの理由を話すためだけに解放されたフレンダは、地面に這いつくばりながら必死に呼吸する。
汚物でも見るかのような目で見下ろしてくる麦野を涙目で視界に収めながら、フレンダ=セイヴェルンは震える声で言葉を紡ぐ。
「……私には大事な妹がいるの。あの子の傍に居続けるためだったら、私はどんなことでもやってやるって決めたんだ! それが例え仲間を裏切ることになるとしても! 結局、私はあの子を泣かせないために戦うって誓った訳よ!」
「…………」
フレンダの必死の叫びに、麦野はただ沈黙を返した。
もしかしなくても、フレンダはここで殺される。暗部を裏切った罪はどんな罪よりも重く、しかも麦野沈利という女は裏切り行為を絶対に許さない。上半身と下半身を分断されたとしても、裏切り者のフレンダは文句の一つも言えない。――何故なら、それが闇の世界のルールだからだ。
麦野の右手がフレンダの顔面に向かって伸びていく。処刑されるのを待つ死刑囚のような面持ちで、フレンダはギュッと両目を瞑った。妹であるフレメア=セイヴェルンに心の中で謝罪しながら、フレンダ=セイヴェルンは自分の人生の終了の瞬間を涙を流しながら待ち続ける。
だが、麦野はフレンダの予想の斜め上方向の行動をとった。
ぽすん、とフレンダの頭に柔らかい感触が走った。
恐る恐る目を開けてみると、そこには優しい笑顔を浮かべた麦野の姿があった。
理解も思考もできない麦野の奇行にただただ驚愕するフレンダは、何とか言葉を絞り出す。
「なん、で……?」
「大切な奴を護る為の裏切り、か。昔の私だったら、そんな理由なんて露ほどにも気に掛けずにお前を殺してたでしょうね」
だけど、と麦野は付け加え、
「私にも大切な奴がいる。だから、今の私はお前の気持ちが凄く理解できる。大切な奴を護りたいから裏切った。理由としては上々じゃない? 私がお前の立場だったとしたら、多分、同じことをしただろうからな。流砂の傍に居続けるために、少しでも生き延びられる選択をしただろうしね」
あーくそ、私も甘くなったもんだねぇ。苛立ちを隠せない様子で頭を掻く麦野に、フレンダはただただ驚愕の表情を向ける。
そんなフレンダの頭を麦野は優しく小突き、
「はい、粛清完了っと。とりあえず学園都市が平和になるまでどこかに隠れてた方がいいわよ? そうね、例えば……
「――――、へ?」
悪戯を思いついた子供のように肩を震わせる麦野に、フレンダは凄く嫌な予感に襲われた。これが死亡フラグってヤツ!? と身をよじらせることも忘れない。
だが、そんなフレンダに最悪の言葉が投げかけられる。
フレンダの襟首を再び掴んだ麦野は右腕を思い切り振りかぶり、
「とりあえず気絶するまで殴るわね。大丈夫、救急車ぐらいは呼んでやるわよ」
「え、いや、ちょっ、ま」
ドゴグシャメキボギグギャァッ! という打撃音が、路地裏に響き渡った。
☆☆☆
(正直言って、あれは本気で死んだって思っちゃったなー)
ロシアの雪原に倒れ伏している絹旗に駆け寄りながら、フレンダは麦野に見逃してもらえた時のことを回想し、苦笑すると共に冷や汗を流していた。
だが、今はそんな過去のトラウマに恐怖を覚えている場合ではない。
フレンダはショルダーバックから救急箱を取り出し、傷だらけの絹旗に応急処置を施しだした。
「はいはいはーい。痛いかもしれないけど絹旗ならきっと大丈夫って訳よ!」
「その、前に……なんであなたが超生きてるんですか……?」
「詳しい説明は学園都市に帰ったらってことで。というか、そのアホ毛少女は誰? もしかして、草壁が新しい性癖に目覚めちゃったって訳!?」
「風評被害だ超殺すぞバカヤロウ」
☆☆☆
ステファニー=ゴージャスパレスは軽機関散弾銃を肩に担ぎながら、木原利分の下敷きになっている草壁流砂にジト目を向ける。
「……あなたはあなたで何をやっているんですか? なに、ロシアには戦いにじゃなくてラブコメしにやって来たんですか?」
「どこをどー見たらそー見えんだよ! 俺は重傷を負いながらもコイツを倒してる真っ最中! そんなラブコメとか言われる筋合いは微塵もねーッスよ!」
「その巨乳女の胸に手を当てながら言っても説得力ないんじゃないですか? そんなに撃ち抜かれたいんですか? 分かりました殺します今ここで消し炭に変えてあげます」
「状況の整理に演算が追い付かねーんスけど!? っつーか機関銃構えんなコイツと一緒に俺まで殺す気か!」
「大丈夫。跡形もなく終わらせてあげますから」
「どこがどー大丈夫なんか俺にゃ分からねー!」
本気の目で軽機関散弾銃を構えるステファニーに、流砂は結構ガチの叫びをぶつける。
そんな流砂に一瞬のうちに下敷きにされた利分はとても不貞腐れた表情で流砂を睨みつけ、
「……っつーか、早く胸から手ェ退けてくれね? なに、オマエはボクを襲いに来たの?」
「あーいやそんなつもりは毛頭ねーんスよすいません――ってぇっ、今は戦闘中だったよね!? 何だよこの有耶無耶な感じ! ここからあのシリアスを取り戻すなんて絶対に無理じゃね!?」
「知らねえよさっさと退けよ顔面切り刻むぞ」
「無表情で言わないで凄く怖いから!」
ジャキィッ! と指先の刃を構える利分に怯えつつ、流砂は彼女から一気に距離をとった。背中が切り裂かれているとか演算が回復してないとか、そんな堅苦しい事情なんて端から存在していなかったみたいな逃げっぷりだった。正直、戦闘中よりも素早かった。
ズザザザザーッ! とステファニーの傍まで後退した流砂は恐怖で顔を青褪めさせながら、
「木原利分の本当の怖さを知った気分ッス……」
「…………」
「落ちつこーかステファニーさん。俺たちは話せば分かり合えるはずだ」
無言で後頭部に銃口を突きつけるステファニーに、流砂はガチめな要求をする。ステファニーは銃で流砂の頭を殴り、大きな溜め息を吐いた。
ぎゃぁああああああああーっ! と頭を抑えてのた打ち回っている流砂を蹴り飛ばしながらステファニーは木原利分の方を向き、
「で、まだ戦闘を続行する気はありますか? 第三次世界大戦以降、このバカとあなたが回復しきってから再戦、という形の方がよくないですか?」
「…………別にボクはその欠陥品に勝ちてえ訳じゃねえよ。シルフィ=アルトリアを回収して、自分の研究を進めてえだけだ」
「じゃあ、その目的を諦めてすごすご帰ってもらってもいいですか? 正直言って、今のあなたじゃ私には勝てなくないですか? 重症のあなたを処理するなんて、私にとっては朝飯前もいいところです」
「…………ボクをバカにしてんのか?」
「いやいや、事実を言ってるだけじゃないですか」
軽機関散弾銃を構えながら言い放つステファニーに、利分は悔しそうに顔を歪ませる。
確かに、今の利分ではステファニーたちには勝てないだろう。流砂一人に苦戦していたのに更なる増援が来たとなっては、利分に為す術はない。というか、能力を使わない戦いにおいて、利分が彼女たちを圧倒できるわけがない。
利分が絹旗と流砂に勝てていたのは、二人が能力者だったからだ。小型化したAIMジャマーを埋め込んだグローブを駆使して二人の能力を弱体化させることで、利分は絶対の勝利を得ていたのだ。そんな利分が銃を主とするステファニーと爆弾を主とするフレンダに挑んだところで、結果は火を見るよりも明らかだ。正直言って勝てるわけがない。
はぁぁぁ、と利分は大きく溜め息を吐く。ガシガシと気怠そうに頭を掻きながら、木原利分はその場に立ち上がった。直後に腹部の傷から血が噴き出すが、利分は気にする素振りすら見せなかった。
ステファニーに蹴られていた流砂を睨みつけながら、利分はとても嫌そうな顔で言い放つ。
「……とりあえず、シルフィ=アルトリアはオマエに預けといてやるよ。だけど、まだボクは世界を救うことを諦めたわけじゃねえ。ボクは絶対にオマエからその『原石』を奪い返す。――せいぜいその日まで恐怖に震えて過ごすんだな」
「…………震えねーっつの」
「ああ、それと、オマエには死んでもらっちゃ困るからな。特別に学園都市の弱点を置いてってやるよ。『
「…………礼なんて言わねーからな」
「ボクだってオマエから感謝の言葉を述べられるなんて吐き気がするっての。いいから黙って受け取れよ、ボクの最悪の好敵手クン☆」
そんな捨て台詞を残し、木原利分は流砂たちに背を向けた。そして誰が止めるでもない状況の中、彼女はロシアの雪原を突き進んでいく。降りしきる雪のせいで、彼女の姿はすぐに見えなくなった。
利分が消えたことで、流砂たちの間にどうしようもないほどの沈黙が漂い出す。とても居た堪れない空気、とでも言えばいいのか、とにかく、凄く嫌な空気だった。
「あー……えっとー……」そんな中、流砂は包帯が巻かれた頭を軽く掻きながら、
「と、とりあえず、俺たちの街に帰りますかね」
『…………お、おー』
複雑な表情でそう宣言した。
☆☆☆
そして、学園都市のビルの屋上にて、異形の天使は心底愉快そうな笑みと共に、とある少年に向けての賛辞を述べる。
「草壁流砂、か。ふふふ、やはりあの少年は面白いな。この世界の異物ともいえるあの少年は、本当に面白い。あの少年の今後を見るためにも、絶対に手を出さないでほしいものだな――アレイスター」
☆☆☆
麦野沈利は学園都市へと向かう飛行機の中で、携帯電話をじーっと見つめていた。
その電話の画面には『草壁流砂』という名前が表示されていて、麦野の両目はその名前に釘付けになっていた。
麦野が画面を睨みつけている理由は一つ。
流砂に電話しようかしまいか悩んでいるのだ。
と。
そこで、彼女の携帯電話からけたたましい着信音が鳴り響いた。
「ッ! も、もしもし流砂!? 大丈夫五体満足で生き延びてる!?」
死ぬハズだった少年のおかげで変わることができた第四位の超能力者は、ずっと聞きたかった少年の声に、幸せそうに頬を緩ませていた。
☆☆☆
ボロボロに打ちのめされていた。
腹部の痛みに耐えながらロシアの雪原を突き進んでいた木原利分は、雪に埋もれる形で倒れ伏している青年を見つけた。
その青年の姿には見覚えはなかったが、自分が持っている情報から利分はその青年の正体を即座に突き止めた。
「右方のフィアンマ……確か、上条当麻の『
科学サイドに所属している利分だが、『原石』という天然の能力者の情報を集める過程でその存在についてはいくらかの情報を手に入れていた。
超能力とは異なるチカラを扱う、オカルトの集団。学園都市の人間では予想もできないようなチカラ――魔術を扱う、とてつもなくかけ離れた奇跡の存在。
それが、利分が知る限りの魔術師だ。
利分は倒れ伏しているフィアンマの傍に腰を下ろし、彼の首筋に手を当てた。
「……うん。脈はまだ微かだが残ってんな。まぁ、それはそれとして――オマエラは一体何者だ?」
そんなことを言う利分の前には、二人の男女が立っていた。
全体的に煤けた印象を与える青年は、ただ単純に簡潔に短調に返答する。
「オッレルス」
その青年は表情を変化させないまま利分に手を差し伸べる。
オッレルス、と名乗った青年は利分に手を差し出しながら、自嘲するように言い放つ。
「かつて魔神になるはずだった……そして、隻眼のオティヌスにその座をあろうことか奪われてしまった、惨めでバカな魔術師だよ」
一つの戦いが終了した。
歴史史上最も短い期間で行われた第三次世界大戦は、呆気ないほど簡単に幕を閉じた。
死ぬはずだった少年は自分の運命の楔を引き千切り、新たな人生を手に入れることに成功した。
全ての悲劇を喜劇に変えるための戦いは、一先ずの終了となる。
だが、彼の物語は、ここまででやっとプロローグだ。
本当の戦いはここから。
魔術と科学の垣根を越えた、本当の悲劇の戦いが――草壁流砂の前に立ち塞がろうとしていた。
というわけで、旧約編はこれにて終了です。
いやー、まさか約二か月で旧約編を終えられるとは思いませんでした。
後は新約篇に行くだけ――の前に、番外編やら一話完結の短編やらが凝縮された『休約編』を挟みます。
絹旗IFエンドとかフレンダIFエンドとか、そんな感じの短編を投稿していく予定です。
それで、ここからが本題です。
旧約篇完結を記念して、『キャラクター人気投票』なる催しを開催したいと思います!
形式としては、一人の投票は一回までで、持ち票数は七票。
その七票を好きなキャラに割り振り、投票していく――というシステムとなっています。
そして、第七位までに選ばれた七人のキャラは、そのキャラクターを主人公とした短編を書こうと思っています。
某とある魔術のイケメルヘンさんで開催された人気投票に酷似した投票システムです(汗
尚、投票の対象は、この作品に登場しているキャラでも登場していないキャラでも構いません。
ログインユーザーの方は、活動報告にて投票の場を設けますので、そちらでの投票をお願いします。
非ログインユーザーの方は、感想欄にて投票をお願いします。
投票関連の感想はすぐに削除いたしますので、規約違反にはなりません。
これは運営様にあらかじめ確認をとってのシステムですので、気兼ねなく投票をお願いします。
投票の期限は、ゴーグルの少年の命日である『十月九日』の夜『十一時五十九分』まで。
たくさんの投票、お待ちしております!
というか、ぜひ投票してください!
投票ゼロだったら恥ずかしすぎて悲しすぎて死んじゃう!