そう言うところを考慮したうえで、読み進めていってもらえると幸いです。
p.s.
絹旗人気が凄まじい。
ある黒幕の日常と後始末
木原利分は窓の外を見ていた。
第三次世界大戦が終結し、彼女はオッレルスと名乗る冴えない青年に助けられた。利分としてはすぐにでも学園都市に帰りたかったのだが、自分の命を救ってくれた恩人の好意を裏切るわけにはいかない。彼女は歪んだ『正義』を掲げているマッドサイエンティストだが、恩人を裏切れるほど薄情な『正義』ではないのだ。
オッレルス(もう一人、彼の相方にシルビアという美女がいる。妻ではないらしい)は魔術サイドの人間で、利分は科学サイドの人間だ。普通ならば考えるまでも無く敵同士であり、いつ寝首をかかれるか警戒しながら生きていかなければならない関係でもある。
しかし、オッレルスは利分を歓迎した。
困ったときはお互い様だ、という一言だけで。
「今思ってみりゃ、ボクは結構運がいい人種なのかもしれねえなぁ」
仕事として任されたジャガイモの皮剥きを黙々とこなしながら、利分はとても平和そうに呟いた。
さてさて。
利分がいるのはなんの変哲もない普通のアパートメントだ。別段広いという訳でもなく、どの国にも必ずあるんじゃないかと思われるほど、何の変哲もないごく普通の在り来たりなアパートメントだ。……そんな普通で在り来たりなアパートメントで、学園都市を代表する科学者である木原利分は、とても在り来たりな家事をこなしていた。
絶世の美女であるが故に何故か家事があまり似合わない利分は包丁を器用に扱いながらジャガイモの皮剥きをこなしていく。
と。
「おい」
背後から、そんな憎たらしい声が聞こえてきた。
「…………」利分はぴくっと少しだけ反応を見せるが、後ろを振り返ることもせずに再びジャガイモの皮剥き作業を再開した。
だが、そんな利分の行動を許せるほど、その声の主は寛容な心を持っていなかった。
右方のフィアンマ。
第三次世界大戦終盤でアレイスターに右腕を切断されたりちゃっかりオッレルスに拾われたり、なんとなーく利分と仲良くなっている世界最高峰の魔術師だ。
すでに百二十三個目のジャガイモの皮を剥き終えている利分の手が次のジャガイモに伸ばされた瞬間、フィアンマは彼女の手をガッシィィ! と結構ガチなチカラで掴み上げた。
「……なんだよ、ボクに何か用でもあるのか?」
「用があるからこうしてお前を呼んでいるんだろうが。というか、何故俺様を無視した?」
「オマエと関わると碌な目に遭わねえからだよ。この歩くストレッサー」
「俺様を神の右席の頂点、右方のフィアンマと知っての狼藉か……ッ!?」
「上条当麻っつー雑魚に倒されてる奴が頂点とか、神の右席も終わりじゃね?」
「上等だこの野郎! 表に出ろ、実力の差を思い知らせてやる!」
「そういうところがダメなんだって、オマエはさ」
額にビキリと青筋を浮かべてギャーギャー騒ぐフィアンマに対し、利分は耳を塞いで応戦する。見た目とか態度の割には結構幼いフィアンマと見た目の割には結構大人びている利分は、毎日毎日こうして軽口を叩き合うほどの関係にまでは進展していた。……互いに元黒幕ではあるのだが、そういう堅苦しい事情なんてものは心のシェルターにでも放り込んでしまったのだろう。今の彼らはただの科学者と魔術師であり、ただの居候でもあるのだ。
フィアンマとの五分間ぐらいの口論の末、利分はとりあえずの勝利を獲得することに成功した。歪んだ性格故に屁理屈と正論の応酬では絶対に負けないと自負している利分だ。頭が堅苦しい魔術師なんかに負けるわけがない。
そんな訳で、利分は敗者であるフィアンマに鋭い輝きを放つ包丁を差し出した。先ほどまで利分が使っていた、彼女が丹精込めて研いだ切れ味抜群の包丁だ。
フィアンマは差し出された包丁をジト目で見下ろし、
「……何のつもりだ?」
「オマエが負けたんだから、ボクと仕事代われって言ってんだよ。どうせ起きたばっかで何も仕事してねえんだろ? 役立たずの居候なんだから料理の下準備ぐらい手伝いやがれ」
「俺様は隻腕なのだが?」
「………………チッ。結局は役立たずじゃねえかよ」
その一言がきっかけで。
フィアンマと利分のラウンド2が始まった。
☆☆☆
しかしまぁ、結局は引き分けなのだった。
持ち前の近接攻撃を生かした利分が最初は圧していたのだが、不安定な状態に戻ってしまっているがそれ単体の威力はかなりのものである第三の腕を駆使したフィアンマが利分の攻撃を圧倒。そこでフィアンマは勝利を確信したのだが、ちょうどいいタイミングで帰宅してきた家主のシルビアのロープによって二人まとめて縛られてしまい――ドロー。望まぬ形の結末となってしまった。
そんな訳で現在、利分とフィアンマは身体を密着させ合いながら床に転がされている。
「おい、もうちょっと体離せよ! 縄が食い込んで痛ぇんだって!」
「それはこっちのセリフだ! くそ、何故第三の腕でも切れないんだこの縄は……ッ!」
どったんばったん転げまわりながらも争い続ける黒幕コンビ。その争いの中で利分の大きな胸がフィアンマの胸板に当たって大きく形を歪めているのだが、犬猿の仲及び顔も見たくないような間柄である利分とフィアンマはそんな事実には気づかない。人が人で場所が場所ならラブコメが展開するのだろうが、今回はその条件が一つも噛み合わなかった。これが学園都市にいるとあるゴーグルの少年だったら、有無を言わさずラブコメへと展開をシフトしていたことだろう。……まぁ、本人はわざとじゃないだろうが。
だが、言っておくがココはアパートメントの中だ。もちろん、ここには他の住人もいるし大家さんもいる。この間だってどこぞのバカな没落貴族が百人の子供を連れて帰ってきて多大な迷惑をかけてしまった。そんな連続的に騒動を起こすわけにはいかない。
なので、家主兼恐妻枠のシルビアは額にビキリと青筋を浮かべ、黒幕コンビを縛っているロープを片手で勢いよく持ち上げる。
「いい加減にしなさい! 誰の寛容な心のおかげでアンタ達は寝床と食料を獲得できてると思ってるんだ!? 恩を仇で返すを地でやってんじゃないよバカヤロウ!」
「ま、まぁまぁ落ちつけよシルビア。ストレスは美容の大敵だぞ? はい、コーヒー」
「そのストレスの約八割はお前なんだよこの没落貴族がァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
ドゴォッ! と耳を劈くほどの轟音と共に、オッレルスの顔面が思い切り床に叩き付けられた。なんでその威力で床が抜けていないのか甚だ疑問だが、今はそんなことを考えているような場合ではない。どうやってこの怒れる恐妻の怒りを鎮めるか。その一点に全神経を集中させる必要がある。
床に顔面を強打したことによって一瞬で気絶してしまったオッレルスに冷や汗を流しつつ、利分はこれからの行動を一瞬で判断する。因みに、フィアンマも同様の思考回路だった。
故に、利分とフィアンマはアイコンタクト会議を緊急的に開始する。ウマが合わない割には結構仲が良い黒幕コンビは、幸せな未来を築き上げるためだけに全てのチカラを注ぎこむ。
「(この間まで世界統べるつもりだったんだろ!? そんならオマエやれよ予行練習と思ってさぁ!)」
「(俺様が異性の怒りを鎮めるなんて意味不明なことを成し遂げられるはずがないだろうが! というか、同性のお前が行けばいいだろう! 性格も容姿のランクも似通っていることだしな!)」
「(誰があんな鬼ババァと似通ってるってぇ!? ボク以上に可愛い奴なんてこの世界にゃいねえよ! あんな廃れた元メイドとボクを一緒にすんな! 今ここで殺してやってもいいんだぞ!?)」
「(その言葉をそっくりそのまま返してやる!)」
もはやアイコンタクトというよりもテレパシーだった。なんで超能力なんてものを使用できない二人がそんな人外染みたことをできるのかは分からないが、とりあえず学園都市にいるテレパス系能力者の学生たちには金一封でも差し上げた方がいいだろう。その、ほら、色々と残念だから。
だが、そんな黒幕コンビよりも人外染みているのがこの元メイド、オッレルスさん家のシルビアさんだ。因みに、こう見えてかなり強力な聖人でもある。
そんな存在自体が反則級な元メイドは、二人の目の動きだけで話の内容をしっかりと理解できてしまっていた。聖人の洞察力は怖ろしい。
故に、シルビアは黒幕コンビを掴み上げる。片手で人間一人の体重を支えながら、自分のことを全力でバカにしたかつての敗者どもの襟首を掴み上げる。
そしてシルビアは顔全体に無数の青筋を浮かび上がらせ、
「殺す!」
『シンプルに怒りぶつけてんじゃねえよクソババア!』
その後。
気絶していたオッレルスが目を覚ますと、子供のようにしくしくと号泣している黒幕コンビがせっせとキッチンで働いていたらしいが――それはまた、別のお話。
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次回もお楽しみに!
あ、あと、
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