故に、新キャラとか懐かしキャラとか、未登場キャラとかが出てくるのでっす!
そこは学園都市にしては珍しい中高一貫性の学校で、更に珍しいことに、無能力者から大能力者までの学生たちが互いに優越感や劣等感を抱くことなく平和に楽しく暮らしている。校風は結構自由な感じで、中等部と高等部の制服が異なることも特徴か。
とにかく、この学園都市には全く似合わないそんな学園が、第七学区には存在する。
そんな占部学園の高等部一年生である
「うだー……何もしねーままに夏休み前半が終了しちまったですー……」
時は八月七日。
一般生徒のほとんどが学園都市の外――つまりは実家に帰省している中、琉歌はマイノリティながらに学園都市に残っていた。……まぁ、琉歌は既に二週間ほど前に帰省しているので、こうして学園都市で暇な時間を過ごしているわけなのだが。
黒と白が入り混じった髪を跳ねが多いショートカットにしていて、活発そうなぱっちりとしたライトブラウンの目が人形のように綺麗な顔で存在感を放っている。胸は絶望的に貧乳だが、すらりと長い手足とモデル顔負けのくびれがその欠点を見事なまでにカバーしてしまっている。占部学園高等部の女子制服(夏服)である白の半袖ブラウスと黒のミニスカートが、逆に存在感を奪われてしまっているほどだ。
そんな貧乳黒白少女こと琉歌はちゅーっとストローでコーラを飲みつつ、
「はぁぁぁー……兄貴は相変わらず忙しそーだし、友達も根こそぎ帰省中だし、どーしたもんですかねー」
コツン、と長い指でグラスを小突く。
琉歌は目にかかるほどの長さの前髪を指で弄りつつ、
「はぁぁぁー……出会いが欲しーです」
全国の思春期の最大級の悩みをぶっちゃけた。
☆☆☆
草壁琉歌という少女には、出来の悪い実兄がいる。
この学園都市に来たばかりの頃は琉歌と毎日のように遊んでくれていたのに、最近はひと月に顔を一度でも見れればラッキーもの、というぐらいに疎遠になってしまっている。倒したら経験値ががっぽり? という疑問を抱いてしまうほどの少年が、草壁琉歌の実兄だ。
だが、それはその兄が琉歌のことを嫌いになってしまった、というわけではない。
ただ、忙しくて会えないだけ。
そして、琉歌がそれを無駄に気にしてしまっているだけ。
ただ、それだけのことなのだ。
「うーみゅ……出会い欲しさにこーして街に出てみたはイイけど、思ってみれば、占部学園以外の学生も軒並み帰省中だったです……はぁぁぁ」
本日もう何度目か分からない溜め息を吐きながら、琉歌は気怠そうに頭を掻く。こーゆーところは兄貴とそっくりなんですよねー、と苦笑することも忘れない。
夏休み真っ只中の第七学区は夏休み前よりも閑散としていて、学生御用達の商店街は通常では考えられないほどに閑古鳥が大量発生していた。うへー、と顔を引き攣らせた琉歌は悪くない。
食堂からそのまま直接ここに来たので、琉歌の服装は良い意味でも悪い意味でも占部学園の学生スタイルだ。暑さに負けてブラウスのボタンを一個だけ開けてしまっている不良スタイルだが、それでも彼女は占部学園の学生なのだ。優秀とかそうじゃないとか、そんなことはあの学園にとってさほど重要ではない。
だから大覇星祭で勝てねーんでしょーね、と琉歌は欠伸を噛み殺す。
と。
「あ、あのっ! 草壁琉歌さんで正しいでしょうか!」
「ふぇ?」
「あーえと、そーですけど……」突然背後からそんな声を掛けられた琉歌は、間抜けな声を漏らしながらふいっと後ろを振り返った。欠伸中だったので目尻には涙が浮かんでいるのだが、草壁琉歌はあまりそういうことを気にする女の子ではないので、構うことなく声がした方を振り返った。
そこには、琉歌と同じぐらいの身長の少年がいた。
学校の補修帰りだろうか。少年は白のワイシャツに黒のスラックス、というこの学園都市ではとても有り触れた男子学生の格好をしている。胸元の校章はこの第七学区にある底辺校のもので、占部学園の生徒たちの中ではかなり評判のいい底辺校のものだ。いや、成績と評判は反比例するって話がありますから。
そんなことはさておき、琉歌は少年の顔をまじまじと見つめる。
そんなことはさておき、少年は琉歌にはにかみ笑顔を向ける。
そして少年は、目を瞑りながら顔を赤くしながらもじもじしながらびくびくしながらわなわなしながら――琉歌の顔を直視しながら、第七学区全体に響き渡るのではないかというほどの声量で――
「一目惚れしてしまいました! 僕とお付き合いしてください!」
「………………………………へ?」
――琉歌に大量の疑問符をお与えになった。
☆☆☆
とりあえず落ち着こう。
突然の告白で頭が混乱する中、琉歌は自分でも驚くぐらい冷静にそう決断した。兄貴譲りの閃き持ってて良かったです、と帰省以来顔すら見ていない実兄に感謝の念を述べることも忘れない。
さてさて。
そんなわけで第七学区のファミレスにやって来た琉歌は現在、件の少年と向かい合って座っている。もっと詳しく言うならば、テーブルの上にパフェやら定食やらを並べた状態で、琉歌と少年は向かい合った状態で席に腰を下ろしている。
琉歌はパフェにザクザクとスプーンを突き刺しながら、目の前でおどおどとしている少年――無造作な茶髪と中性的な容姿が特徴の、おそらく同級生の男子生徒――に声をかける。
「……で。展開はスゲー遅れちまいましたが、キミの名前ってナニ?」
「あ、はい。僕は
「なんでそこで言い淀んじゃう? 私も無能力者だし、別にそんな畏まる必要ねーですよね?」
「えと、その……はい。ごめんなさい」
「だから何で謝っちまうんですか……はぁぁぁ」
こりゃ重傷みてーですねー、と琉歌は額に手を当てる。
さっきの告白の仕方からはとても予想なんてできないほどの少年の奥手ぶりに、琉歌はすでに五回ほど溜め息を吐いてしまっている。ファミレスに入るだけで「ごめんなさい。えと、二人、です……」とぶんぶん頭を下げまくっていたし、相当気が弱い少年なのだろう。……いや、にしても弱すぎるか。
とにかく詳しい話を聞くためにも自分が話のペースを掴む必要がある。そう思った琉歌はパフェを「あむっ」と一口食べて胃の中に流し込み、
「話を戻しますけど、さっきの告白って、冗談とかそんな感じじゃねーですよね?」
「は、はいっ! 心の底から胸の底から骨の髄まで真剣な告白です! 草壁さん、僕と付き合って下さい!」
「ちょっ!? こ、こんなトコで大声絶叫告白やめてもらってもイイですか!? 周りのお客の目がスゲー生暖かいです! 『あらあら。オアツイわねぇ』ぐれーのコトは絶対思われちまってるぐらいに!」
頭を抱えて顔を赤くして言い放つ琉歌に、白良は「あぁぁあああごめんなさぁああああい!」と椅子から飛び降りて土下座する。周囲からの注目度、三十パーセント上昇。
マズイ。流石にこのままこの少年にペースを持っていかれてしまうのは、社会的にも精神的にも肉体的にもマズイ。
言っておくが、琉歌はそこまで神経が図太い人間ではない。周囲からの視線は凄く気にするし、学校内での自分の評価もすごく気になる――そんな普通の思春期の女の子だ。
そんな女の子が、夏休み中のファミレスで大声で告白される、なんていう異常なイベントに耐えられるわけがない。――故に、琉歌は耳の先まで真っ赤になって目尻には涙すら浮かべてしまっているのだ。
このままじゃいけない。頭はそこまでよくないからなんて言えばいいのかは分からないが、とにかくこの空気を霧散させないことには話が進まない。
故に、琉歌は赤面しながら言い放つ。
周囲の視線を気にしながらも、少年に顔を近づけながら言い放つ。
「殻錐くん、だったですね。どーして私に一目惚れしちまったんですか?」
「……二週間ぐらい前、僕は草壁さんが強盗を取り押さえてるシーンを目の当たりにしました」
「……………………マジ?」
「はい。大マジです」
即答する少年に対し、琉歌の全身の毛穴から大量の汗が噴き出した。
確かに二週間前、琉歌はコンビニ強盗を取り押さえた。無能力者故に通信教育で鍛えている琉歌は赤子の手を捻るように強盗を鎮圧し、警備員から表彰までしてもらった。夏休み中だったので学校で大掛かりな表彰、とまではいかなかったが、それでも警備員の本拠地みたいなところで賞状とありがたい長いお話を与えられた。まぁ正直、嬉しくなかったと言えば嘘になる。
だが、それはあくまでも社会的な面での嬉しさだ。そこら辺にいるような普通の高校一年生の女子生徒が、強盗を殴る蹴るの暴行で鎮圧した。――そんな評判が世間に知れ渡って嬉しい女子高生なんているわけがない。というか、いたらその神経を少しでイイから分けて欲しいと思う。いや、割とマジで。
そんなわけで、強盗を取り押さえるシーンを見られるのは自分の『か弱い女の子』なイメージが音を立てて崩れ落ちてしまうから止めて欲しいわけなのだが、この少年はそのシーンをあろうことか目の当たりにしてしまったらしい。噂で聞いた、ではなく、目の当たりにした。……考えるまでもなく、琉歌の奮闘も見られているのだろう。ミニスカートでの後ろ蹴りとか、ミニスカートでの上段回し蹴りとか。
(い、今思えばスゲー恥ずかしーです!)顔を両手でビッチリと覆って顔を朱くする琉歌。
そんな琉歌におろおろとしつつも、少年は琉歌の手を勢い良く握り、
「か、かっこよかったんです! 相手は強能力者だったのに、草壁さんは臆することなく戦っていました! そんな草壁さんを見て、僕は一目惚れしちゃったんです!」
「あ、あはは……で、でも、野蛮な女の子は、あんまし男の子にはウケないって話があるですよね……」
「僕は、強くて優しくて勇敢な草壁琉歌さんに一目惚れしちゃったんです! 社会の目とか、一般男性の評価とか、琉歌さんの可愛さとか、そういうところではなく、『草壁琉歌』本人に一目惚れしちゃったんです! だ、だから、草壁さん、僕と付き合って下さい!」
さっきまでの臆病っぷりはどこへやら。
自分の手を握って恥ずかしがることも無く告白してくる白良を見て、
「~~~~~~ッ!」
琉歌は先ほどまでとは違う意味で顔を真っ赤にしてしまっていた。
今まであまりモテたことが無かった琉歌は、今回のように真っ直ぐと目を見られて告白される、というシチュエーションに対する耐性を持ち合わせていない。――故に、琉歌のハートは少年に打ち抜かれてしまっていた。
顔を赤くしたまま息を荒げながら、琉歌は胸をギュッと抑える。今まで感じたことも無いようなドキドキに耐えるように、琉歌は制服の上から自分の貧しい胸を抑える。
これまでのやり取りを見るに、この少年は凄まじい程に純粋な少年なのだろう。人に嘘を吐けないような、純粋で清純な正直者。どこまでいっても兄貴の逆ですね、と琉歌は思考する。
この殻錐白良という少年をこんな短時間で信用してしまっていいのかは分からない。琉歌はまだ幼いし、彼女の実兄のように人生経験豊富なわけでもない。そこら辺にいるような、何の変哲もない普通の無能力者の学生なのだ。
だが、いや、だからこそ、琉歌は即決する。
琉歌は白良に手を握られたまま、赤面したまま言葉を紡ぐ。
「わ、私の好物は、きつねうどんです」
「そ、そうなんですか? それなら、今度一緒に食べに行きましょう! あ、いやでも、その前に、答えを聞かせてもらってもいいですか……?」
「あーえと、その……あ、あんまり頭良くねーんで、上手く言えるのかは分からねーですけど……」
恋なんてよく分からないし、愛なんて大それたものも分からない。
何かに脅えるように生きている実兄のように聡いわけでもないし、この街の能力者みたいに自分に自信があるわけでもない。
でも、そんなことを考えること自体、間違っているのかもしれない。
だって、恋って言うのは――
「ふ、不束者ですが、よろしくおねがいします!」
――説明不可能なものなのだから。
今回の話は、非日常な兄と違って、妹の方は甘酸っぱくて平凡な日常を送っている、という感じの話です。
まぁ、何故か新キャラ増えましたけど(汗
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!
あ、あと、
キャラクター人気投票は十月九日まで続いております。因みに、持ち票は七票で、その七票を好きなキャラに割り振る、という形式になっております。
投票は活動報告で募集していますので、どしどし投票お願いします!
第一位から第七位に選ばれて自分が主人公の短編をゲットするのは、果たしてどのキャラクターなのか!