ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 今回は那家乃ふゆい様作『とある科学の無能力者』とのコラボ話です。

 時系列的には大覇星祭の後ぐらい? いやまぁ、あちらの方はまだ大覇星祭始まったばっかなんですけど……こまけぇことは気にすんな!

 というわけで、ゴーグル君×無能力者。

 お楽しみください。


 っつーか、まさかの八千字ってどういうことなんだろう。

 何でコラボに限って最高字数を叩きだすのか……ッ!



コラボ短編 『とある科学の無能力者』

 『スクール』と呼ばれる暗部組織がある。

 メルヘンチックな能力とチンピラホストみたいな容姿を持つ第二位の超能力者がリーダーを務めている暗部であり、正規構成員としてはキャバ嬢のような金髪少女やら頭に土星の輪のようなゴーグルを装着した怪しさ満点の黒白頭、それに戦闘中は常に駆動鎧を装備している無能力者なんてものまで存在する。一応はもう一人スナイパーが正規構成員なのだが、基本的に単独行動をとっているので、リーダーである垣根帝督以外はそのスナイパーの顔を見たことがない。もしかしたら劇画タッチのおっさんで裏社会では有名なスナイパーなのかもしれない。なんとかなんとかサーティーン、みたいな。

 さてさて。

 そんなイロモノ組織『スクール』のアジトでは、今日も仲良くスナイパー以外の正規構成員たちがのんびりと過ごしていた。仕事がないときは基本的に暇なので、彼らはこうして老夫婦もビックリなぐらいにのーんびりとした休日を過ごすことがやけに多かったりする。……別に闇社会でハブられているわけではない。

 赤ドレスの金髪少女は高級そうなソファに座って爪の手入れをしていて、いつもは駆動鎧を着ている無能力者は部屋の隅の方で携帯電話をぽちぽちやっている。

 そして、我らがリーダーとゴーグルはというと――

 

「抜ける俺なら抜ける俺なら抜けるデビルバッ〇ゴースト!」

 

「ハッ、甘ぇんだよ草壁! 俺のヨッ〇ーに常識は通用しねぇ!」

 

「にゃぁああああああああっ! なんでずっとマッハ状態なんだよコンチクショウがァアアアアアアアアアアアッ!」

 

 ――部屋のど真ん中にて携帯ゲーム機でフィーバーしていた。

 チンピラホスト風の少年と頭に土星の輪のようなゴーグルを装着した黒白頭の少年が携帯ゲーム機で盛り上がっているこの光景。何というか凄く異質なものだと思う。

 事の発端としては、ゴーグルの少年こと草壁流砂(くさかべりゅうさ)が「新作のゲーム買ったんスけど、誰かやるッスか? ……ま、垣根さんに負ける気はしねーッスけど」とドヤ顔向けながら言い放ち、

 

「上等だこの野郎。第二位の恐ろしさをその身に刻み込んでくれるわーっ!」

 

 ……と、子供の様な挑発に第二位こと垣根帝督(かきねていとく)がかるーく引っかかってしまった。

 ただ、それだけのことなのだ。

 いつも垣根に言い様にあしらわれている流砂としては「今日こそこの第二位を叩き潰す!」という下剋上精神での宣戦布告をしたわけなのだが……正直、垣根がこのゲームに命を懸けているとは夢にも思わなかった。というか何でこんなに上手いの? 闇の仕事とかサボって遊んでんじゃないの?

 そんな感じで上司の仕事ぶりに疑問を抱いている流砂だったが、そんなことを考えているだけでゲームの勝敗が逆転するわけでもなく、

 

「っしゃ! これで九十二勝零敗だバカヤロウ」

 

「バカなァあああああああああああああッ!」

 

 見事な負けっぷりを披露する羽目になってしまっていた。

 床に崩れ落ちて床をドンドン殴っている流砂を垣根は超絶的なドヤ顔で見下ろす。そんな二人を見て、部屋の隅の方にいた無能力者の少年はあからさまに頬をひくひくと引き攣らせている。俺、この組織に入って正解だったのかなぁ? ぐらいのコトは思っているのかもしれない。

 そんな無能力者の想いなど露知らずなゴーグル流砂は「はぁぁぁ」と大きな溜め息を吐き、

 

「だ、だが、俺がこの組織で一番弱いっつーハズがない! っつーわけで佐倉少年、次の相手はお前だコノヤロウ!」

 

「格下の相手ぶちのめしてそれでいいのか大能力者!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 八十八敗零勝。

 無能力者である元スキルアウトこと佐倉望(さくらのぞむ)に勝負を仕掛けた流砂の戦績は、そんな感じで小学生もビックリなぐらいな惨敗っぷりを披露してしまっていた。というか、頭を使うゲームで大能力者が負けるって何だ。

 さてさて。

 ゲームで勝負を仕掛けたくせに惨敗したゴーグル流砂くんは現在、第七学区のファミレスにいる。理由としては、ウィナー佐倉の「俺が勝ったんですからなんか奢ってくれてもいいですよね?」という悪魔の一言が主だろうか。無能力者に命令される大能力者ってどうなの? と思わないでもないが、とにかく「敗者は下僕」を現在進行形で達成するしかない流砂は渋々ファミレスへと移動したのだった。

 そんな訳でファミレスの隅の方の席を手に入れた流砂と佐倉。

 佐倉はメニュー表を拡げるなり店員さんを即行で呼び、

 

「このページに表記されてるデザート全部で」

 

「スト――――ップ! 流石にそれはおかしすぎやしませんかねぇ!? 確かに奢るとは言ったッスけど、流石にそこまでの多額な出費は予想外すぎるッスよ!? っつーかお前無能力者ならお金の大切さとか知ってるハズじゃね!?」

 

「かしこまりました」

 

「そして店員さんももー少し逡巡して! ――ってあぁあああああああ待って止まって注文拒否ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 ニッコリ笑顔で去って行く店員さんに絶望を覚えながらも、「はぁぁぁぁ……ま、別にイイんスよ? 麦野に殺されちゃうなーとか思っちゃってるけど、別にイイんスよ? 悲しくなんてないんだからねーっ!」とブツクサ文句を言いながら流砂はテーブルに崩れ落ちる。

 ゴーグルをリュックサックに収納していることで黒白頭のただの少年と化している流砂に冷たい視線を向けていた佐倉だったが、何を思ったのかいきなり流砂に声をかけてきた。

 

「あの、ちょっといいですか草壁さん」

 

「なんスかこの敗者の草壁流砂くんに何か用でもあるんスか? あと、そのキモイ敬語は必要ねーッス。お前が敬語に慣れてねーせーかスゲー違和感バリバリなんで」

 

「……お前だって後輩口調だろうが」

 

「俺はこれが素なんスよ」

 

 で、なに? と流砂は首を傾げる。

 えっと……、と佐倉はあえて前置きし、

 

「超能力者と付き合うって、やっぱり大変だよな?」

 

「……………………………………………………惚気話ならそこの街頭でやってきてくれね?」

 

「違ぇよ! 別に惚気話とかそんなんじゃねぇし! 俺が言いてぇのは、そういうことじゃなくて――」

 

 そこまで言ったところで、佐倉の口から言葉が消えた。

 不思議に思った流砂が佐倉の顔を見上げてみると、彼は流砂の後方――つまりはファミレスの入り口の方を見て硬直してしまっていた。はて、何かいるんだろーか?

 そんなことを思いながら、流砂は後ろを振り返る。――そこには、常盤台中学の制服を着た茶髪の少女が立っていた。誰かと待ち合わせでもする気なのだろうか。その少女は一人で入店してきていて、どう考えてもこちらの方をロックオンしていた。

 御坂美琴(みさかみこと)

 第三位の超能力者であり、確かこの佐倉望と恋人関係にある少女ではなかったか。

 瞬間、流砂の口がにやぁと愉快そうに歪む。あの少女を使ってこの無能力者を弄れば、最近溜まりに溜まった鬱憤を発散できるのではないか、と思ったからだ。

 だが、流砂のそんな企みは予想もしない方法で撃ち破られることとなる。

 それの襲来は、凄く突然のものだった。

 最初に聞こえてきたのは、ゴッゴッという窓を叩く音だった。

 ギギギギギ……と流砂は窓の方へと首を回す。

 そこ、には――

 

『テメェ流砂。私の誘い断わっといて暢気に友達とランチタイムってかぁ?』

 

「俺の第四位がこんなに怖いはずがない!」

 

 第四位の超能力者。

 『原子崩し(メルトダウナー)』の麦野沈利(むぎのしずり)がニッコリ笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 修羅場、という言葉の恐ろしさは一般男性の予想を遥かに超える。

 第四位に出口をふさがれ第三位と無能力者を向かい側に座らせた草壁流砂はそんなことを思いながら、絶望一色の表情で頭を抱えていた。というか、さっきから震えが止まらない。何だろうコレ、何だろうコレ!

 だらだらだらと大量の汗を掻く流砂に腕を絡めながら、麦野は目の前にいる少女――第三位の超能力者に鋭い視線を発射しつつ、

 

「……なんでお前がこんなところにいるのよ」

 

「それはこっちのセリフよ。なんでアンタなんかとつるんでる奴が望と一緒に居るのよ」

 

 正直、激しく帰りたかった。

 麦野と御坂の本気の睨みあいのせいで、流砂の精神は順調にガリガリゴリゴリと削られてしまっている。佐倉は佐倉で御坂の横顔を凄いイイ笑顔で見つめているし、もう何が何だか分からない状況となっていた。というか、俺だけ超アウェー。

 流砂がそんなことを考えているなんて露知らずな麦野はぎゅむーっと流砂の腕に抱き着きながら、自分の豊満な胸を流砂の腕に押し付けながら、目の前の怨敵に言葉という名のナイフを投げつける。

 

「分かってないねぇ、第三位。流砂はそこの貧相なガキと違って包容力があってイケメンで面白いんだ。ボケれば全力でツッコんでくれるし私のためならどんなことでもしてくれる。そこら辺のガキと流砂を一緒にしてんじゃねえぞ!」

 

「ハッ! そっちこそ分かってないわね、第四位。望はいつも一生懸命で泥臭くてか弱くて可愛いの。私のツッコミを全力で受け止めてくれるし私のためなら何でもしてくれる。そこら辺の男と望を一緒にしてんじゃないわよ!」

 

『(一緒のこと言ってるって気づかないんだろうか、コイツラ……)』

 

 互いの思い人に腕を絡めながら言い合っている第三位と第四位に、流砂と佐倉は溜め息を吐きながらそんなことを思ってみる。

 だが、ここで彼らは気づくべきだった。彼女たちの言葉の対象はあくまでも自分たちなのであり、その言葉によって自分の精神が良い意味でも悪い意味でもガリガリゴリゴリと削られているということに。恋人に褒められて嬉しいというのは納得できるのだが、それ以上に周囲の視線を気にしろよお前ら。

 麦野は流砂の腕を胸で無意識に挟みながら、御坂は無意識に佐倉の腕に抱き着きながら、渾身の想いと叫びをぶつけ合う。

 

「よーっし分かった! それならどっちの恋人が強いか勝負させてみようじゃねえか! まーどう考えてもウチの流砂が圧勝だろうけどなぁ!」

 

「それはこっちのセリフよ! そんなモノクロテレビから出てきたような男に望が負けるわけないじゃない! いいわよ、その勝負乗ったぁ!」

 

『俺たちの意志とかそこら辺の事情ガン無視で決めんなバカ女!』

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そんなこんなで決闘なのであった。

 

「…………いや、別に俺はイイんスけど……手加減したほうがイイッスか?」

 

「駆動鎧なしで戦うのは完全にヤベェと思うが、まぁ大丈夫だろ。因みに、俺は本気でいかせてもらうぜ」

 

「はぁぁぁ……じゃ、少しのハンデとして、俺はゴーグル無しでやらせてもらいますよーっと」

 

 第七学区にあるとある河原にて。

 草壁流砂と佐倉望は青褪めた顔ながらに向かい合っていた。得物を必要としない流砂は気怠そうに黒白髪を掻いていて、逆に得物を必要とする佐倉は特殊警棒やらその他もろもろの武器の調子を確かめている。互いに『スクール』の構成員なので相手の実力は十分すぎるほどに分かっているのだが、それでもやっぱりこの勝負を諦めるわけにはいかなかった。

 その理由は簡単。

 河原の端の方で恋人たちが勝手に盛り上がっているからだ。

 

「負けるんじゃないわよ流砂ぁーっ! 負けたらブチコロシ確定ね☆」

 

「アンタの本気を見せてやんなさい望! 負けたらビリビリ確定なんだからね!」

 

 勝っても負けても結局どちらかは地獄に堕ちる気がする。

 元気いっぱいに殺人予告をしている第三位と第四位に、流砂と佐倉の顔が先ほどよりも遥かに青く染まる。そろそろ本気で病院に連れて行かないとまずいような色だ。顔の血液は果たして無事なのだろうか。

 さてさて。

 そんな訳で互いの準備を終えた大能力者と無能力者は、二十メートルほどの距離を空けた状態で向かい合う。勝負開始の合図が無いこの戦いにおいて、最初に動いた奴が勝つのか負けるのかは全くと言って良い程に分からない。――だが、彼らはその不明な可能性に全てを賭ける。

 最初に動いたのは、無能力者の佐倉望だった。

 特殊警棒を下段に構えながら、佐倉は勢いよく地面を蹴った。暗部で鍛え上げた脚力を駆使した走りによって、佐倉は二十メートルという距離を一気に詰める。

 

「おらぁっ!」

 

「おっ、とと。流石に速いッスね、佐倉少年! ――でも、俺にゃ物理攻撃は効かねーッスよ!」

 

 顔面に振り下ろされた特殊警棒を圧力の壁で無効化し、流砂は瞬時に佐倉の右腕を掴み上げる。暗部の仕事中ならここで体を爆発させてチェックメイトなのだが、今はあくまでも模擬戦闘。流石にこの場で殺してしまう訳にはいかない。

 故に、流砂は体勢を低くして佐倉の右腕を両手で掴み、

 

「大空への垂直飛行をお楽しみくださぁーい!」

 

「え、ちょっ――――のわぁああああああああああぁぁぁぁぁ……」

 

 佐倉望を思い切り真上に放り投げた。

 スペースシャトルもビックリな角度で天高く消えていく佐倉。あまりの速度で飛行機雲のようなものが出来上がっているのは気のせいか。とにかく、佐倉は凄まじい速度でその姿を小さくしていく。

 これで草壁流砂の圧倒的勝利。そもそも、物理攻撃主体の佐倉が物理防御最強の流砂に勝てるわけがないのだ。この勝敗は戦う前から決まっていたもので、観客も少しは予想していた展開だった。

 

 

 だが、佐倉望はその予想を予想外にも覆す。

 

 

 最初にその異変に気付いたのは、佐倉をブン投げた張本人、草壁流砂だった。

 流石に投げた以上はキャッチしなくてはならないと思った流砂はずっと真上を見上げていたのだが、いつまで経っても佐倉望が落ちてこない。もしかしたら風で煽られて遠くの方へと飛ばされてしまったのかもしれない。あの高さから落下したらどう考えても死亡エンドなので、流石にその結末は流砂としても御免こうむりたい。

 だが、その結末は幸運にも訪れなかった。

 代わりに、佐倉望はちゃんとした軌道で真っ直ぐと落下してきた。

 特殊警棒を(・・・・・)真下に向かって(・・・・・・・)構えながら(・・・・・)

 

「必殺! すごいラァアアアアアアアアアアアアンス!」

 

「いやいやそれどこぞの第七位の技名パクってるしどー考えても非常識だししかもなんでココぞとばかりに能力が発動しねーのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 直後。

 佐倉の特殊警棒が流砂の脳天に突き刺さり――――。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 結局のところ、草壁流砂はギリギリのところで防御に成功した。

 能力の発動が遅れたので頭に激痛が走るのは避けられなかったが、それでもなんとか死亡を免れた流砂は般若フェイスで佐倉を拘束。渾身の連続パンチを鳩尾に叩き込んだのだった。

 もちろん、流砂の攻撃によって佐倉はダウン。無秩序な戦いは流砂の勝利で幕を下ろした。

 そんな訳で現在、佐倉と流砂は二人仲良く先ほどのファミレスに戻ってきていた。

 

「…………いやいやいや、意味分かんねぇし」

 

「しゃーねーだろ? 麦野と御坂は『本当の戦いはここからだっ!』とか言ってどっかに消えちまったし、俺たち自体は行くトコねーからこーしてセーブポイントに戻ってきたわけだし」

 

「え、なんなの? ファミレスってセーブポイントなの? 俺たちのセーブポイントって普通に考えてアジトなんじゃねぇの?」

 

「あそこはほら、魔王と幹部が住んでるッスし」

 

「俺たちが毎日のように通ってんのって魔王城だったのかよ! 何だよその勇者一行結局は何がしてぇんだよ!」

 

「うーん…………下剋上?」

 

「ピンポイントすぎてツッコみ辛ぇ!」

 

 飄々とした態度でボケまくる流砂に、佐倉は渾身のツッコミを入れる。

 ツッコミマシーンSAKURAに「あはは」と笑いを向け、流砂は予め頼んでおいたチョコレートケーキにフォークをブスブスと突き刺しながら、

 

「やぁーっと元気出たみてーッスね、佐倉。アジトにいるときはいつもぶすーっとしててつまらねーッスからねー。いやー、それが素みてーだから安心したッスよ」

 

「ッ……」

 

 へらへらとした態度での流砂の言葉に、佐倉は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 確かに、佐倉は『スクール』のアジトにいるときは基本的にあまり喋らない。それは佐倉が暗部の仕事の重圧に押しつぶされそうになっているのが原因で、別に彼自体がローテンションな人間であるという訳ではない。

 だが、そこで佐倉は流砂に逆に問いたい。

 どうしてお前はそこまで飄々としてられるんだ? と。

 実際にその疑問をぶつけると、返ってきたのは予想外すぎる言葉だった。

 

「特に何も考えてねーからッスかねー」

 

「………………は? いや、あの、何も考えてねぇわけねぇだろ。人を殺す時とか、傷つける時とか、なんか負の感情に押し潰されそうになるはずだろ……?」

 

「いや別に」

 

「なっ――――」

 

 即答する流砂に佐倉の呼吸が一瞬だけ停止した。

 明らかに狼狽している佐倉にへらへらとした笑みを向けつつ、流砂は冷たい目で佐倉を見ながら言い放つ。

 

「油断とか躊躇とか、そーゆー負けフラグのせーで死亡フラグが乱立するのは勘弁ッスからね。故に、俺は仕事中は基本的に感情を押し殺してるんスよ。人を殺す時は、まー、蚊を叩き潰す時みてーな気持ち? っつーか、殺しの仕事の度に罪悪感と戦ってたらこの先――生き残れねーッスよ?」

 

「ッ!?」

 

 それは、端から分かっていたことだった。

 学園都市を闇から支える存在である暗部組織というものは、罪悪感に掻き立てられている余裕があるほど甘い世界ではない。事実、罪悪感としきりに戦っている佐倉は何度も死にかけた。垣根や流砂の存在が無かったら、今頃佐倉は焼却炉で燃えカスにされていたかもしれない。

 だが、佐倉は流砂の様に割り切れない。未だに表の世界に未練がある佐倉は、どうしても心の底から闇に染まることが出来ていない。

 甘いということは分かってる。優しいからだと言い訳するつもりはない。――そして、いつまでもこのままではダメだということも分かっている。

 佐倉は膝の上で両手を握り、項垂れる。どうすればいいのか分からない優しい無能力者は、自分のこれからの行いが分からない佐倉望は、全てに絶望するかのように項垂れる。

 そんな佐倉を見て、流砂は何故か笑顔を浮かべる。

 そんな佐倉を見て、流砂は何故か嬉しそうに笑う。

 そして流砂はフォークをくるくると顔の前で回しつつ、

 

「ま、別にイイんじゃねーの? 表の世界に未練残したまま必死に闇で抗ってりゃ、いつか報われるかもしれねーッスし。――でも、これだけは覚えておいた方がイイッスよ?」

 

「…………なにを、だよ」

 

「いやまーそこまで難しいコトじゃねーんで、先輩からの忠告とかアドバイス程度で捉えれくれりゃイイんスけど……」

 

 流砂はくるくると回していたフォークをピタッと停止させ、フォークの先を佐倉の顔に向ける。

 そして一瞬のうちに真剣な表情を作り上げ、

 

「死亡フラグと生還フラグを見極めろ。その一つのコトさえできりゃ、暗部でも結構長生きできるッス」

 

「……ご忠告感謝するぜ、センパイ」

 

「別にお礼とかイイッスよ。――まぁ、代わりにココの支払してもらうんで俺はここらでアデューグッバイまた来週ぅーっ!」

 

「庶民見捨てて富裕層が食い逃げしてんじゃねぇぶっ殺すぞ草壁流砂ぁあああああああああああああああああああああああッ!」

 

 闇の中で抗う無能力者は、闇の中で戦う大能力者とは相容れない。

 だが、彼ら二人には似通っているものが一つだけある。

 『一つの目標のために全力を尽くす』ことを躊躇わない。

 一人は死亡フラグを回避するために戦い、一人はとある少女を護るだけの力を得るために戦う。

 欠陥品ながらに戦う力を持っている少年と、臆病ながらに戦う力を持っていない少年。

 対照的で正反対な二人の少年は、この先どういう物語を紡いでいくのか。

 ――それは、誰にもわからない。

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!


 あ、あと、

 キャラクター人気投票は十月九日まで続いております。因みに、持ち票は七票で、その七票を好きなキャラに割り振る、という形式になっております。

 投票は活動報告で募集していますので、どしどし投票お願いします!

 第一位から第七位に選ばれて自分が主人公の短編をゲットするのは、果たしてどのキャラクターなのか!


 追伸。

 次の更新は多分、人気投票の結果発表ですかねぇ。

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