ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 というわけで、人気投票第七位の木原利分の短編です。

 今回は原作SS2のように少し短めになってしまいました。

 ですがまぁ、記念短編一発目と言うことでギャグ一色で行きたいと思います。

 それでは、お楽しみください。



人気第七位 木原利分の不運

 木原利分という科学者がいる。

 世界を救うためにとある原石の少女を捕えて研究に没頭していた利分は、一瞬の隙を突かれてその少女に脱走された。予想はしてたが対処はしていなかった利分は、歯噛みしながらも全力でその少女を捕獲するための行動をとった。全ては世界を救うために。利分は少女を付け狙った。

 だが、利分の目論みはとある大能力者の少年によって中断されてしまった。あえて正確に言うならば、その少年の仲間の手によって利分の目論みは中断されてしまった。言っておくが、利分はその少年に敗北したわけではない。ただ、純粋に引き分けただけだ。

 そして、利分はオッレルスと名乗る魔術師に拾われた。右方のフィアンマとかいうオマケが一緒だったが、そこは深く考えないようにした。元黒幕は元黒幕同士、互いを嫌悪し合っていればいいと思ったからだ。

 そんな訳で、魔神になれなかった魔術師ことオッレルスの仲間となった木原利分は――

 

「ぐおおぉぉぉぉぉ……ちょ、しるびっ、シルビア! この重さは流石に無理だって! ボクの美しい両腕が千切れちまうって!」

 

「はいはーい。泣き言は後でたくさん聞いてあげるから、とりあえずはその岩をどっかの森にでも捨ててきなー。居候は居候らしくキビキビ働きなさい」

 

「こんの……腐れババアがァあああああああああああああッ!」

 

 ――使い勝手のいい労働力としてこき使われていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「殺す殺す殺す殺す。あのメイド野郎、隙見つけたら絶対殺す……ッ!」

 

 高さだけでも五メートルはあったであろう大岩を近所の森にまで運ばされた利分は、自室として与えられている狭い部屋のベッドの上で怒りに打ち震えていた。

 二日ほど前に利分とフィアンマが起こした喧嘩によって出現してしまった大岩なのだから利分が撤去するのは当然なのだが、利分がイラついているのは別にそんな小さなことではない。というか、扱き使われることは慣れっこなので別にどうでもいいのだ。……いや、イラつくのはイラつくのだが、そこはまぁ少し諦め状態なので考えないようにする。

 利分の怒りの約九割を占めているのは、彼女と同じ立場である居候だ。

 右方のフィアンマ。

 かつて第三次世界大戦の中心人物であった、神の右席のリーダーである魔術師。今はまぁ、利分のストレスの要因の一つと化しているなんだか可哀想な青年だったりする。

 利分は赤のパーカーを脱ぎ、ベッドの傍の箪笥から救急箱を取り出す。彼女の目的はただ一つ。大岩を運んだことによって痛めた腰に湿布を貼ることだ。

 慣れた手つきで湿布を取り出し、無駄な脂肪なんてどこにもない腰に湿布を丁寧に貼っていく。

 

「くぅっ……なんでボクがこんな目に遭わなくちゃならねえんだ……とりあえず後でフィアンマ殴る。アイツの顔面ボコボコにするまでボクの怒りはフルスロットルだーっ!」

 

 その直後だった。

 利分の部屋の扉が、ノックも無しに開け放たれたのは。

 

「おい、利分。俺様の本がどこにあるのか知らな――」

 

 そんな何気ない言葉を並べながら入室してきたのは、件の可哀想な魔術師こと右方のフィアンマ。とある偉大な魔術師によって右腕を切り落とされている隻腕の魔術師は、利分の許可をもらうことも無く無断で勝手に入室してきていた。

 そして、そんなフィアンマの目の前には、半裸で腰に湿布を貼っている体勢で凍り付いている利分の姿が。大きな胸を覆っている可愛らしい柄の下着と黒のスラックスが異様な色気を醸し出している。

 硬直する灼髪の青年と凍りつく金髪の少女。

 まるで漫画かライトノベルのようなワンシーンをリアルタイムで体験してしまっている元黒幕コンビは、目をパチパチと何度も瞬きさせながらこの状況を打破する一手を待ち続ける。

 最初に動いたのはフィアンマだった。

 彼は左手でこめかみをポリポリと掻きながら、

 

「…………お前、意外と子供っぽい趣味をしているんだな」

 

「ッ!」

 

 直後。

 顔を真っ赤に染めた利分の渾身の暴力がフィアンマに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 フィアンマを純粋な暴力オンリーでボロ雑巾へと変貌させた利分は、所変わって浴槽で一息ついていた。せっかく湿布を貼ったのにもったいない、とか思われてしまうかもしれないが、先ほどの怒りを鎮めるにはやはり風呂がイイのだ。湿布はもう一度貼り直せばいいし、風呂のお湯に温泉の素を入れれば腰の傷の療養にもなる。一石二鳥とはまさにこのことを言うのだろう。

 水色(ハワイアンブルーの素によってつくられた色。もはや温泉関係ないし)に染まったお湯を手桶で身体に掛けながら、利分は「はぁぁ」と溜め息を吐く。

 

「何でアイツはいつもいつもいつもノックしねえんだろうか……いやまぁ、別にアイツに半裸見られて恥ずかしいとかそう言う訳じゃねえんだけど……ぶくぶくぶく」

 

 お湯に口の上まで浸かりながらぶくぶく鳴らす利分さん。強がりみたいな言葉を並べているようだが、そんな彼女の頬は赤く染まってしまっている。風呂に入っているせいだろうか?

 「チッ。まぁいいや。とりあえずもう一度フィアンマの顔面でも殴ってストレス発散しよーっと」年頃の女性にしてはかなりバイオレンスなことを言いながら、利分は浴槽から出て浴室の扉を開ける。もわぁっとしている空気から少しだけ冷たい空気へとシフトチェンジしたせいか、利分の肌には無数の鳥肌が立っていた。

 とりあえずは風邪を引かないために迅速に水分を拭き取ってドライヤーで髪を乾かそう。利分はぺたーっと顔に張り付いた金髪を指で掻き上げながら、自分の体調管理のための行動を即座に思考する。

 と。

 

 

 コンコン、と脱衣所の扉が鳴った。

 

 

 突然すぎるノックに利分は思わず動きを止める。というか、この家の住人の中で脱衣所に入る際にわざわざノックする奴なんていない。……ということは、さっき体に痛みと共にノックの大切さを叩き込まれたフィアンマの線が濃厚か。いやはや、やはり本気の暴力は相当堪えたらしい。

 とりあえずは返事をして脱衣所には入れないことを教えなくては。そう思った利分は口を開いて声を出そ――

 

 ガラララ、と脱衣所の扉が開け放たれた。

 

 ――うとするまでも無かった。

 開け放たれた扉の向こうでは、顔中に絆創膏やら包帯を巻いている化物状態の青年が不機嫌そうな表情で立っていた。おそらくだが、先ほどの暴力行為について異議を申し立てに来たのだろう。別にそれはいつものことなので問題ない。――だが、問題はそれ以前のところにある。

 現在、利分は脱衣所に設置してある洗濯機の上に置いてある籠の中からタオルを取ろうとしている真っ最中だ。もちろん、彼女の身体はノーガード。俗に云うすっぽんぽん状態だ。更に悪いことに、異性には絶対に見られてはいけないであろう胸の先やら太腿の間までもが見事に露出されてしまっている。

 ピシッと空気が凍りつく音がした。

 それと同時に、利分の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。というか、顔どころか体までもが真っ赤になってしまっていた。まるで乙女のように真っ赤になってしまっている利分をとあるゴーグルの少年が見たとしたら、『…………誰!?』と青褪めることだろう。

 だが、今はそんなことなんてどうでもいい。

 「あ、あはは……」利分は乾いた笑いを零しながら右手をアツく握り締め、

 

「殺す!」

 

「待て待てそれはおかしい理不尽だしかも俺様はちゃんとノックしたはずなのだが!?」

 

 結局、その日が終わるまで、木原利分はフィアンマの顔をまともに直視できなかった。

 




 次回は人気投票第六位、削板軍覇の記念短編です。


 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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