短編を書く時は何故かSS2みたいな感じで一話が少なくなる……もはやこれは病気じゃね?
そんな感じで相変わらず短めな記念短編ですが、内容は濃いと思いますのでお楽しみください。
十月十八日、午後二時四十三分。
世界では第三次世界大戦とか騒がれてるけど実際問題僕達にはあまり関係なくね? とかいう平和ボケした日本人特有の結論を出しながら第七学区をブラブラしていた
そんな訳で暇じゃないのに確保されてしまった憐れな脇役こと原谷は近くを通りかかったウェイトレスに明太子パスタを注文し、
「あの、一体何の用ですか横須賀さん? これでも僕、結構忙しいんですけど……」
「いや、それについては申し訳ないと思っている。だが、これは貴様にしか頼めないことなんだ。スキルアウトの仲間とかナンバーセブンとかではなく、原谷矢文、貴様にしか頼めないことなんだ」
いつも自分に絡んでくる横須賀からは到底想像もできないような態度に、原谷は大量の疑問符を浮かべる。とりあえずこの内臓潰しことモツ鍋さんが自分に頼みごとをすること自体がイレギュラーだというのに、更に自分にしか頼めないことだと言ってきている。
何だ何だこれは明日戦争でも終わるのか? と顔を引き攣らせている原谷の顔を見ることなく俯きがちな横須賀はテーブルの上で頭を抱えながら、
「どうしたらナンバーセブンに勝てると思う?」
「無理です」
まさかの即答だった。
☆☆☆
そんな訳で。
「勝負だ! 俺と勝負しろナンバーセブン!」
「フッ。根性の利いたイイ宣戦布告じゃねえか、モツ鍋。よーっし分かった。その勝負、この削板軍覇が受けて立つ!」
もはや学園都市の名所となってきている第七学区のとある河原で、モツ鍋さんとナンバーセブンは相変わらずの暑苦しさ全開で向かい合っていた。……もちろん、原谷は勝敗見届け人として連れてこられている。今日は厄日だなぁ、と小市民・原谷矢文は大きな溜め息を吐くことを忘れない。
そんな原谷の心境なんて知る由もない横須賀は全身の筋肉を大きく脈動させながら、
「今日こそは貴様に必殺技を使わせてみせる! 貴様の全力を打ち破ることが出来れば、俺は最強の無能力者として名を轟かせることがで」
「すみませんボーっとしてました!」
「ちょ、もーっ! いつも言ってるけど人の話は最後まで聞けって! あの、えと、どこまで話したっけ? ……ああそうだ。貴様の全力を打ち破ることが出来れば、俺は最強の無能力者として名を轟かせることがで」
「すごいパーンチ」
「だから人の話は最後まで聞けっつって――効かぬわぁっ!」
削板のコブシから放たれた不可視の攻撃を丸太のような腕で殴り落とすモツ鍋さん。どう考えても普通の無能力者の領域から逸脱してしまっている行為だが、それでも彼は更なる強みを目指しているらしい。全てはこのふざけたナンバーセブンに勝つために。ただそれだけのために、横須賀は強さだけを追い求める。
すごいパンチを迎撃した横須賀は体勢を低くし、そのまま勢いよく大地を蹴る。
彼の目的はただ一つ。先手必勝一撃必殺だ。
「毎日のようにトレーニングジムに通い詰めることで鍛え上げられた俺の攻撃に貴様は耐えられるかな!?」
そんなことしてる暇あったらバイトするとか学校行くとかして社会のために役立ってくださいよ、と原谷は思わなくはないのだが、相変わらずラスボス臭丸出しの横須賀には届かない。
巨体を素早く動かして削板に向かって突撃していくモツ鍋さん。電柱ぐらいなら簡単に握りつぶしてしまいそうな巨大な拳を思い切り振りかぶり、全身の筋肉を駆動させて渾身の一撃をくらわせる。
あまりの速さに空気が裂ける音がした。人の腕とはとても思えないほどの速さと威力で放たれた渾身の鉄拳は、まるで大砲かタンクローリーのように削板の身体に襲い掛かる。
だが、どんなにふざけた奴だとしても、削板は学園都市に七人しかいない超能力者だ。
一人で国一つと戦えるような化物ぞろいの末端に位置する彼だが、その実力は世界中の研究機関が匙を投げるほど未知数で解析不能。かの魔神になれなかった男・オッレルスですら一撃では倒せなかった世界最大の原石。――それが、削板軍覇という、世界で一番根性をこよなく愛するアツいヲトコだ。
凄まじい速度で襲いくる鉄拳に、削板は優しく触れる。
そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべ――
「すごいプーッシュ!」
「ぬぁにぃっ!? ――――ビブルチッ!」
――モツ鍋さんを勢いよく地面に叩き付けた。
ゴッシャァアアアアアアアッ! というまるでダンプカーが高層ビルにツッコんだ時のような轟音と共に地面に熱いキスをかますモツ鍋さん。拳を叩かれたはずなのになんで彼の顔面が地面と接触してしまっているのかは甚だ疑問に思うところだが、そこは削板クオリティの為せる業と言うことで納得するしかないだろう。もしくは根性の為せる業か。
トレーニングジムに通い詰めることで生まれた戦闘マシーンを文字通り片手であしらったナンバーセブンに、小市民・原谷矢文は過去最大に青褪める。横須賀と削板の決闘をこれまで何回も見てきた原谷だが、流石に今回は圧倒的すぎた。どういう原理であの威力の攻撃を止めたのか、とか、何で拳を叩いたのに顔面から落ちるのか、とかいう疑問なんてどうでもよくなるぐらいに、今回の削板は強すぎた。
だが、ここでダウンしないのが我らがチャレンジャーモツ鍋さん。
彼はふらふらとしながらも身体に鞭を打つことでギリギリながらに立ち上がり、
「くっ。さ、流石は俺の好敵手だ。どれだけ踏ん張っても攻撃一つ当てられないなんてな……」
戦う以前の問題として、すでに彼の両脚は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えてしまっている。三月に初めて闘ったときは立ち上がることも叶わないぐらいに追い込まれてしまっていたので、これはこれでかなりの成長を遂げていると言えるのかもしれない。……まぁ、それでも負けは負けなのだが。
己の実力を思い知らされた横須賀は「ふっ」ととても悪党とは思えないほどに純粋な笑みを浮かべる。毎回毎回負ける度にしてますよねその純粋スマイル、と原谷は冷静なツッコミを放つが、勝手に盛り上がっているバカ二人には届かない。というか、本当になんで僕ここに居るんだろう。戦闘にも根性にも何も関係ないというのに。
いやまぁそれでも腐れ縁と言うのはどこまでもついて来るモノなので、原谷は諦めムードで二人を見守ることにした。まぁ、見てて飽きるような二人じゃないし、あれでも僕のことを友達と思ってくれてるみたいだから無碍にはできないよなぁ。――みたいなことを思いつつ。
永遠の解説キャラ・原谷が悟りのようなものを開く中、今にも倒れそうな横須賀はぷるぷると震えながらも両手をぐっと顔の前まで上げ――下手くそなファイティングポーズをとった。
そして彼はキラリと光る白い歯を見せながら、
「これは貴様にずっと言っていることなんだが……せめて、最後の一撃ぐらいはまともな必殺技で絞めてくれ。すごいパンチとかすごいアタックとか、すごいプッシュとかそんな感じのギャグ的攻撃じゃなくて――散り際に相応しいような、格好いい正真正銘の一撃を喰らわせてくれ」
これまで幾度となく拳を交えてきたライバルの言葉に、削板は静かに頷いた。
彼はゆっくりと拳を握り、
「すごいパーンチ」
「だから初心に戻る意味が分からねえっつってんだよビブルチッ!?」
今日もモツ鍋さんはナンバーセブンのふざけた攻撃を受け続けるのだった。
次回は人気投票第五位、垣根帝督の記念短編です。
次こそは五千字を越えたいなぁ……。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!