やっと、やっとここまで漕ぎ着けたよバーニィ……ッ!
今回も例の如く、絹旗IFエンド仕様となっています。
フレンダIFエンドは賛否両論ありましたが、今回のエンドは一体どうなることやら。
とりあえず、絹旗がメインになるように気を付けながら書きました。
それでは、人気投票短編最終回、スタートです。
「映画を超観に行きましょう、流砂!」
「……………………………はい?」
時は十月七日。
暗部組織『スクール』の正規構成員である草壁流砂は、十三歳ほどの少女にそんなことを提案されていた。滞在しているのがファミレスなため、少女の声は騒音にかき消されて周囲の客には届かない。
茶髪をボブにしていてギリギリ下着が見えない位置までの長さのセーターを着ている、何を考えているのか逆に分かり辛い少女。そんな少女の手には、『カエル・イン・ザ・ダーク』という地雷なのか傑作なのか全く予想できない名前の映画のパンフレットが。だがしかし、どう考えてもC級映画っぽい空気を放ちに放ちまくっている。
絹旗最愛。
暗部組織『アイテム』の正規構成員であり、『窒素装甲』という大能力者級の能力の使い手であり、流砂の恋人でもある少女だ。……別に流砂がロリコンという訳じゃない。断じてない。
弱冠十八歳の流砂は面倒くさそうに黒髪と白髪が入り混じった頭をガシガシと掻き、弱冠十三歳の少女に問いかける。
「あのー、最愛さん? 今あなたが何を言ったのかが上手く分からなかったから、もー一度言ってもらってもイイッスか?」
「久し振りに超傑作の予感がバリバリなんです! そして公開日は超今日だけ! これは今から観に行かずしていつ観るのか――今でしょ!」
「いやいやいやいや、全然意味分からねーッス。しかもその映画、絶対に地雷だって! 何でカエルが闇の中にいるんだよ! どー考えても映画のオチは『カエルは車に引かれそうになったその瞬間、走馬灯を見てぺしゃんこに潰された――』みたいな感じになるんだって!」
「む。そうやって勝手にオチを超決定づけるのは気に入りませんね。よーっし、それではこうしましょう!」
絹旗はちんまりとした体を大袈裟に動かし、
「映画のオチがあなたの言う通りだったら、私があなたの命令に一度だけ超従ってあげましょう!」
「それ結局映画見ること前提じゃねーかよ!」
叫びながらも全力でノーの構えを見せる流砂だったが、絹旗の怪力によって無理やり映画館へと連行された。
☆☆☆
結局、映画のオチは流砂の言う通りのものだった。
ショートフィルムということで、映画の長さは約二十分。その全ての尺がカエルの一生だけで潰されていて、しかもそのカエルというのがどう見てもペーパークラフト。せめて粘土細工にしろよ、という流砂の心の叫び虚しく、ペーパークラフトのカエルは最終的にはダンプカーに潰されてしまった。もちろん、その前にはちゃーんと走馬灯のような回想のシーンが描写されていた。というか何故にダンプカー。
そんないろいろな謎とシュールさだけを残した映画を頭にある意味では深く刻みつけることになってしまった大能力者コンビは、別々の意味で頭を抱えながら第七学区の歩道を歩いていた。
流砂が頭を抱えている理由は、「やっぱり駄作だったなー」という至って普通なもの。
しかし、絹旗が頭を抱えている理由は――
「ぐぁあああああああっ! ま、まさかこの私が、超流砂の性奴隷にならないといけなくなるなんて……ッ!」
「オイやめろそんな言葉吐き出すな周囲の人の視線が痛い!」
アラヤダあの人サイテー、とか囁き合いながら軽蔑の視線と共に小走りで去って行く女子高生に、流砂の精神はガリガリと削られてしまう。というか、絹旗の勝手な決めつけで流砂の評判が著しく落ちていっているこの現実を、誰でもイイからぶち殺してほしい。
頭を抱えて青褪めている絹旗の頭をぺしっと叩き、流砂は小さく溜め息を吐く。
「俺ァ別に、お前にそんな卑猥なコトなんてさせるつもりはねーッスよ。っつーかお前のスタイルでエロいコトなんてできねーだろ? 身の程を弁えろ☆」
「よーっし絹旗ちゃん超本気出しちゃいますよー」
ゴギリ、と指の関節を鳴らす絹旗。流砂は表情を凍りつかせたまま一筋の汗を垂らしてしまう。というか、なんか隣の少女から放たれている鬱屈したオーラがなんとも言えないぐらいに怖い。まるでどっかにスタンドがいるかのような怖ろしさだ。プレッシャー、ともいう。
あはあはは、と乾いた笑いを零しつつ、流砂は思考を開始する。議題は『絹旗にどんな命令を出すか』だ。因みに、エロい命令は端から除外する。そういうのはもっとこう、絹旗の体つきが女性的なものになってから――
「ッッてぇぇええええええッ! て、てめコラ、いきなり弁慶の泣き所クラッシュは反則だろーが! あまりにも突然すぎる不意打ちに能力防御が追い付かんかったわ!」
「なにか超失礼なことを考えている顔をしていましたから、くいっとやっちゃいました。反省はしていません誰でもよくなかったですこの愛を受け取って、ダーリン☆」
「よし分かった今ココで泣かせてやるコノヤロウ」
「超流砂の貧弱なテクじゃ一生かかっても無理ですよ」
お前ら本当に恋人同士か? というツッコミを入れられてしまいそうなやり取りをしながら、大能力者コンビは歩道をずんずん突き進んでいく。因みに、二人の手は仲睦まじく繋がれている。仲が悪そうな言動からは察せないが、これでもかなりの相思相愛なのだ。
そしてちょうど五分が経った時、流砂の口から一回限定の命令が告げられた。
「――俺を『アイテム』に入れてくれ」
☆☆☆
草壁流砂が『スクール』の正規構成員だということを、絹旗最愛は知っている。もちろん、その逆もまた然り、だ。
最初に彼らが出会ったのは、九月の上旬も上旬、大覇星祭の一週間以上前のことだった。きっかけは確か、絹旗が落とした映画のパンフレットを流砂が拾って酷評したのでキレた絹旗が流砂を映画館にまで連行した、というものだったハズだ。
もちろんその映画は予想通りの駄作だったわけだが、その映画単品でC級映画の価値を決められたくなかった絹旗は、流砂の連絡先を自力で調べ上げ、彼を徹底的にマークした。街中で見つけては映画館へと連れていき、ファミレスで見つけては映画館へと連行する。その過程で流砂が『スクール』の正規構成員だということを知ったのだが、同じ暗部所属である絹旗は大して気にしなかった。
互いに暗部の人間であることを打ち明けた後、流砂の頭の中に一つの考えが浮かんだ。それは絹旗と出会っていなければ絶対に成功することがないであろう、ある意味では苦肉の策だった。
――それは。
「『スクール』を裏切って『アイテム』に情報を売り、死亡フラグを回避する――ですか。相も変わらず信じがたい話ですが、まぁあなたの言うことだから超素直に信じてあげましょう。良かったですね、私が超優しい純情乙女で」
「あーはいはいありがとーございますぅー。最愛ちゃんは優しくて良い子ですねー」
「むぅ……頭を撫でられるのは嬉しいのに、子ども扱いなのが妙に超腹立たしいです……」
そう言って口を尖らせながらも頬を朱くしている絹旗を見て、流砂は表情を緩ませる。
絹旗は、流砂が前世の記憶を持っていることを知っている。というか、意を決した流砂が彼女に打ち明けたのだ。
もちろん、最初は信じられなかった。科学の総本山である学園都市で暮らしてきたからだとかそんなことは関係なしに、前世の記憶を引き継いでいるという言葉自体には信憑性の欠片も無かったから。どんなに都市伝説が好きな少女でも、流石に信じられる規定をオーバーしている。
しかし、絹旗は流砂の話を信じることになった。――というか、身を以って信じさせられた。
流砂は自分の話を絹旗に信じさせるため、これから起こる学園都市でのとある事件の詳細を全て彼女に伝えた。『〇九三〇事件』と呼ばれる、学園都市最大の事件について――。
そして九月三十日、彼の予言通りの事件が起こった。もちろん、結末も予言通り。『前方のヴェント』というテロリストの姿を目視しないように気を付けながらその事件の様子を全て自らの目で確認したが、本当の本当で彼の予言は当たってしまった。
ここまで来たら、彼の言葉を信じるしかない。
そんな経緯によって流砂の秘密を信じることになった絹旗は、更に『十月九日』のことを聞かされた。
草壁流砂が麦野沈利に殺されるという、あまりにも酷すぎる結末を――。
「いやまー、別にお前に迷惑かけるつもりはねーんスけど、こっちもこっちで必死ッスからね。使えるモンは最大限利用していくつもりで頑張っていこーかと」
「恋人目の前にして何ぶっちゃけてるんですか、超流砂。それ、普通に考えて超失敗フラグですよ?」
「でも協力してくれるんだろ? 最愛のそーゆーツンデレなトコ、俺は好きッスよ?」
「………………バカ流砂」
絹旗は再び口を尖らせ、直後に流砂の足を踏みつぶした。
☆☆☆
そして、十月九日がやって来た。
流砂は原作通りに『人材派遣』を処分してアジトに戻り、垣根から『ピンセット強奪作戦』についての計画を聞かされた。いちいち『アイテム』の連中と連絡を取ることはできないので、流砂は自分のゴーグルに盗聴器を仕掛け、計画の情報をリアルタイムで『アイテム』に送り続けた。
作戦会議を終えた『スクール』の面々は、隙を置くことなく素粒子工学研究所へと移動。己の能力というたった一つの武器を手に、学園都市への反逆行為を開始する。
「無事に『ピンセット』を奪い取ったら、この研究所を破壊する。逃げきれなかった奴は置いていくが、死ぬ覚悟ぐらいはできてんだろう?」
「私は死にたくはないから、逃げる時は全力疾走ね」
「右に同じッス」
「正直すぎんだよテメェら! もうちょっと俺のやる気を削がねえように気を配りやがれ!」
『………………ハッ!』
「よーっしムカついた。テメェらまとめて愉快な肉塊オブジェに変えてやる」
垣根はそう言いながら額に青筋を浮かべるも、肩で息をして意識を仕事モードへと即座に切り替えた。
そして垣根は研究所の中へと一歩踏み出し、
「――それじゃあ、楽しい楽しい反逆ショーを始めよう」
☆☆☆
研究所へと侵入した直後、流砂はすぐに絹旗と合流した。麦野沈利と滝壺理后、それにフレンダの三人が垣根帝督と心理定規を処分する手筈となっており、絹旗は流砂の身柄の安全を確保する係に任命されていた。というか、絹旗が勝手にその任務に就いているだけで、本当は彼女も迎撃に参加しないといけないのだが。
裏口から外へと出るや否や、流砂は携帯電話を操作し、とある人物へと電話を掛ける。
ワンコール目で繋がった。
『もしもし?』
「久し振りッスね、先生! そして久し振りついでにちょっと俺を匿ってもらえないッスかっ?」
『…………理由を聞いてもいいかな?』
「第二位の超能力者、垣根帝督に殺される可能性がある! 身勝手で我が儘な願いだとは自分でも十分に理解してるッスけど、無理を承知で頼みます! 俺の身柄の安全を保障してください!」
返事は、無かった。
流砂の言葉の直後、何とも言えない沈黙だけが通話口から聞こえてきた。……だが、別に通話が切れたわけじゃない。電話の相手の息遣いが、薄らながらに聞こえてくる。
そして、約一分が経過した頃。
相手が願い通りのリアクションを見せた。
『……病院の三階の一番奥の病室』
「え?」
『そこなら誰の目にも止まらないし、ちょうど空き部屋になっている。君は僕の大事な患者の一人だからね? 患者が必要としているものを揃えるのが僕の仕事だ。――君の安全はこの僕が責任を持って保障しよう』
「っ――――、あ、ありがとうございます、先生!」
目尻に涙を浮かべながら電話を切り、能力を駆使して粉々に砕き割る。『スクール』との関わりは出来るだけ潰しておいた方がイイ、という流砂なりの考えによる行動だ。
流砂のリアクションから全てを悟った絹旗は彼の手をギュッと握り、
「方針が決まれば何とやらです。今すぐにでも超ここから撤退しましょう」
「俺が言うのも何なんスけど、本当に良かったんスか? 結果的にゃ、お前が仲間を裏切るみてーな構図になっちまっ――」
その先の言葉は、絹旗の唇によって遮られた。
襟首を掴まれて引っ張られてのキス、というなんとも強引な行為で、絹旗は流砂の言葉を黙殺する。幼い彼女からは予想もできないほどに、その唇は柔らかかった。
「――ぷはっ」流砂から唇を離した絹旗は、すぐに彼の腕を引いて走り出す。
頬どころか顔全体を真っ赤にした絹旗は大股で走りながら、
「全てを犠牲にしてでも護りたい、って思えるぐらいあなたを好きになっちゃったんです。仲間を裏切るなんて言う最悪な行為を選んででも、私は超あなたを護りたかった」
「…………最愛」
「だーかーらー、そんな超辛気臭い顔を、わざわざ私に見せないでください」
流砂の顔を見ることも無く言葉を紡いでいた絹旗の、走行速度が一段階上がる。腕を引っ張られる痛みに耐えながらも、流砂は置いて行かれないように必死に彼女に食らいつく。
全てを捨てた、二人の大能力者の逃避行。何も変えられずに何も手に入れられずに迎えた結末だが、それでも絹旗は流砂を救う道を選んだ。裏切り者、という汚名を着せられてでも、絹旗は大切な人を護り抜く道を選んだ。
絹旗は流砂の指に自分の指をしっかりと絡め、彼の体温を自分の体に馴染ませていく。
そして更に走りの速度を上げながら――
「ハッピーでもなんでもないエンドかもしれませんが、私にとっては超最高のラッキーエンドなんです!」
――弱々しい子供のように笑った。
麦野ルートは、誰も死なないハッピーエンドで、
フレンダルートは、誰も救われないバッドエンドで、
絹旗ルートは、二人だけが幸せになるラッキーエンド。
選択するヒロインによってエンドが変わる、というコンセプトの下やってみましたが、皆さまはどのエンドが好みでしたか?
とまぁ、その選択は読者の皆様に任せるとして――
ついに次回から、新約編の開始です! ひゃっほぅ!
新約編と言えば、猫耳サイボーグや最強の多重能力者やナチュラルセレクターや木原一族の皆さんやイケメルヘン復活やフレメア覚醒や……エトセトラエトセトラ。
もう魅力が多すぎてひゃっほいですね。 ひゃっほい!
プロットは一応あるにはありますが、原作の新約編が完結するまで油断はできないという胃に超負担がかかる毎日がやってきそうな予感がががが……ッ!
旧約編とか休約編で無駄に伏線張りまくったんで、その回収も一気にやっていく予定です。
それでは、次は新約編で。
P.S.
し、新約編ではフレンダが(ヒロインとして)もっと活躍するかもなんだからねっ!
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!