ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。

 今回から、一気にシリアスへと進んでいきます。



第三項 リアル鬼ごっこゲーム

 フレメアと別れた後、流砂は何をするでもなく第七学区をふらふらと歩き回っていた。黒白頭が目的も無く歩いている光景は通報ものだったが、幸運にもそんな暴挙に買って出る勇者は存在しなかった。というか、存在したらしたで流砂の肩書きに不名誉なものが増えるだけなのだが。

 そんな小さな幸運に喜びを感じるという凄く悲しい気持ちになった流砂は、ちょうど小腹が空いていたので視界に入ったコンビニへと移動した。

 「なんか新商品とかあるかなー」と呟きながら菓子売り場まで移動し――

 ――携帯電話の着信音が響き渡った。

 流砂は周囲を見渡しながら携帯電話を取り出す。画面には『麦野沈利』と表示されていたので、流砂は迷うことなく通話ボタンを押した。

 

「はいはい、もしもーし?」

 

『流砂ーっ! そっちに浜面来てなぁーい?』

 

「へ? いや、別に浜面の姿は今日一度も見てねーッスけど……なんかあったんスか? 学園都市の殺戮戦闘美少女マシーンに命を狙われているとか?」

 

『……そんな思考にストレートに到達しちまうなんて……同情してあげましょうか?』

 

「マジでやめてくれ悲しくなるから」

 

 流砂は商品棚を漁りながら、電話の向こうの麦野に問いかける。

 

「っつーか、何で浜面を捜してんスか? 今日は一緒に行動してるはずじゃなかったっけ?」

 

『いやまぁそれがねー。あの馬鹿、チンピラを全員引き連れてのリアル鬼ごっこを始めちまったんだよ。んで、私たち三人は仕方なーく浜面を捜してあげてるわけ』

 

「ホントなんでそんなことになったんスか、浜面の奴……」

 

 あの元スキルアウトな世紀末帝王には常々不幸フラグが付き纏っているとは思っていたが、まさか第三次世界大戦後にまでストーキングされていたとは。これは神社でお祓いでもしてもらうしかないのかもしれない。それかもう思い切って諦めるか。

 ……というか、三人?

 

「あれ、フレンダ以外は全員そこにいる感じッスか?」

 

『まぁねー。ちょっと野暮用で四人仲良く歩いてたら、結果的に今の状況に落ち付いちまったって訳だよ。っつか、マジでそっちに浜面いねぇの? こりゃやっぱりあのゲームを始めるしかないのかね』

 

「は? あのゲーム?」

 

『超簡単な話ですよ』

 

 何故か絹旗の声が聞こえてきた。

 続けて彼女はこう言う。

 

『なんかこのままゆっくりしてるのも超退屈なんで、それじゃあ浜面探しを超ゲームにしちゃおうって話です』

 

『罰ゲームとか、凄く楽しそうだよね』

 

『それじゃあ、この三人の中で一番遅く浜面を見つけた奴が罰ゲーム、って事にしよう。……うーん、罰ゲームの内容は何がいいかな……』

 

『どうせなら、超バニーで色気たっぷりのストリップダンスの刑にしましょうよ』

 

「なん……だと……ッ!?」

 

『……何やら勝負には直接関係のない草壁が超鬱陶しい且つウザいテンションになっているんですけど、麦野ってなんでこんな奴とくっついたんですか? そしてそのまま私に譲ってくれてもいいですよというか超早く譲ってください』

 

『本音ダダ漏れじゃねえかコノヤロウ』

 

(あっれぇ!? なにやら向こー側で仁義なき内戦が勃発しよーとしてねぇ!?)

 

 新たな感覚が異常な寒気を感知し始め、流砂は思わず身震いする。麦野と絹旗のやり取りについては、また今度話し合おう。凄く悲しいことだが、優柔不断という日本人の鏡とも呼べる性格の流砂じゃアドリブだけで二人を抑えつけることなんて不可能だ。できてせいぜい、こっ恥ずかしい言葉を並べることぐらいだろうか。

 とりあえずここは電話を切って大人しくしとこーかな。そんな意志を固めて通話を切断するべく指を動かすが、

 

『それじゃあこうしよう。浜面だけじゃなくて、流砂までもを見つけないと罰ゲームってことで。もちろん、滝壺も流砂を見つけないと駄目だからな?』

 

『……大丈夫。くさかべを見つけるなんて、迷子の犬を探すよりも簡単だから……』

 

「ちょっと待て俺って獣畜生以下の存在なんスか!? ナニそれ酷い!」

 

『まぁ、見境なく恋愛フラグを建てる超血気盛んな雄ではありますよね』

 

『それが流砂の良いところだけどな。……今度襲ってみようかね』

 

『あ、その時は私も超誘ってください』

 

「いやいやその展開おかしーッスからね!? っつーか誰が血気盛んな雄だコノヤロウ! 俺は女だったら何でもイイとか言うプレイボーイじゃないッスからね!? ノー雑食、イエス偏食!」

 

『まぁとにかく、この後に浜面にこの事伝えた瞬間、浜面&流砂探しゲームの開始ってことで。よーいドン』

 

 プツッ、と通話が切れた。

 ツー、ツー、と機械染みた音だけが鳴っている携帯電話の液晶画面を眺めながら、流砂は思う。

 今までいろいろと命を失ってしまいそうな事件に巻き込まれてきたが、なんだかんだで中々のハッピーエンドに落ち着いた。ベストじゃないかもしれないが、それでも流砂の友人たちが全員笑顔で過ごせるハッピーエンドを掴むことには成功した。死ぬはずだったフレンダは生き残っているし、植物人間になるはずだった砂皿緻密は病院で患者生活を中々に楽しんでいる。――そして何より、『ゴーグルの少年』が十月九日以降も生きている。

 『前世の遺産』が無ければ、絶対に成し得なかったであろうハッピーエンド。今はもう必要ないものとなってしまっているが、それでも感謝の気持ちは凄まじいほどに抱いている。

 神がくれたものなのかどうかは知らないが、それでも大いに感謝しよう。愛する人や大事な仲間とこれからも平和に過ごせるだけの時間を手に入れるきっかけをくれて、ありがとうございます――と。

 と、そんな風に感謝の気持ちをしみじみと噛み締めていた流砂だったが、

 

(……そーいえば、沈利たちが俺を捜すゲームってことは、俺は逃げるか隠れるかの行動をとらなくちゃなんねーのか?)

 

 むろん、麦野たち的には動かないでいてくれた方がありがたいのだろう。

 しかし、彼女たちが一体どれだけの時間で自分を見つけてくれるのかが分からない以上、流砂はおいそれとウェイトモードには移行出来ない。というか、その時まで耐えられる自信がない。多分だが、退屈過ぎて死んでしまう。

 とりあえず適当に歩き回ってりゃイイか。細部のルール説明がないままにゲームが始まっていたことに驚きながらも、流砂はコンビニから外に出る。

 直後、流砂はポケットの中の携帯電話が震えていることに気づいた。

 (また電話? タイミング的に、沈利たちじゃなさそーだけど……)眉を顰めながらも流砂は携帯電話を手に取る。

 画面には、『フレンダ=セイヴェルン』と表示されていた。

 

「もしもし。どーしたんだ、フレ――」

 

『助けて!』

 

 何故か、切羽詰まった叫びで言葉を遮られた。

 一瞬だけ「間違い電話か?」と思ってしまうが、すぐに今の声がフレンダという少女のものだと認識し、流砂は怪訝な表情で会話を続ける。

 

「お、オイ。一体どーしたんだよ……『助けて』って、どーゆーコトッスか?」

 

『詳しい説明なんてしてる暇はないって訳よ! でも、このままじゃヤバい! ホント、このままじゃ――』

 

 運命というものは、凄く残酷なものだ。

 せっかくの平和を享受していたイレギュラーを、運命は絶対に取り逃がさない。どこまでもしつこく付きまとい、どこまでも絶望的な死亡フラグを提供する。

 さて、ここで問題。

 本来ならば死ぬはずだった人間が生きていた場合、運命と呼ばれる悪戯の悪魔は一体どういう行動をとるのでしょう?

 その答えは、とてもとても簡単なもの。

 それでは正解。

 その、最悪なまでに無慈悲な正解とは――

 

『――フレメアが死んじゃう!』

 

 ――精神的な『死』を与える、だ。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 誰もいない路地裏で、その少女はニヤリと笑う。

 茶髪のポニーテールがチャームポイントなのであろうツナギ姿の少女は、両手で頬を抑えながら、恍惚とした表情で言う。

 

「なぁ、もういいよな? もうそろそろ行動を開始してもいいよな? もう駄目だ。もう我慢できない……ッ!」

 

『……よく頑張ったな、大刀洗。お前の望み通り――時間だよ』

 

「あぁっ! やっと、やっとこの時が来たんだな……ッ!」

 

 狂ったように濁った眼を歪めながら、少女――大刀洗呉羽は息を荒くする。その美しい顔に浮かんでいるのは、歪んだ歪んだ歓喜の表情。

 だらしなく顔を歪め、自分の股を弄る。と同時に胸も弄り、誰もいない路地裏に喘ぎ声を響かせる。

 

「あぁ、やっと帝督の仇が……んっ……仇が取れ、るぅっ。んっくぅ……はぁ、はぁ……んぁああっ」

 

『おいおい、こんな時に発作起こすの止めろよな。誰かに見られたらどうするつもりだ?』

 

「その時……はぁっ! 襲われる前に殺すから、問題……んんっ……ないぃぃ……っっ!」

 

『はぁぁぁ。これじゃあ、シルバークロースに無線を繋ぐこともできやしない』

 

 通話の相手が呆れた様子で溜め息を吐く様子が無線越しで伝わってくるが、呉羽は構うことなく自慰にふける。口からはだらしなく涎が垂れてしまっていて、顔は快楽で歪んでいる。心成しか、身体がぴくぴく震えている。

 そしてそのまま一分ほどが経過し、呉羽の身体がびくんっと跳ねた。

 

「~~~~~~ッッッ!」

 

『うぇぇ……マジでやっちまったのかよ、お前。相っ変わらず第二位のことになると周りが見えなくなるなぁ、大刀洗は』

 

「ふぅーっ……んくぅっ……ありが、とう。……最高の、褒め言葉だ……」

 

 イカレテルな、という言葉を呉羽は黙殺する。

 他人にどれだけ軽蔑されようが、呉羽には関係ない。彼女の存在意義は『垣根帝督』という少年だけが決めるのであり、その他の誰が呉羽をどう思おうが、呉羽の心は叩き折れない。

 ぐっしょりと濡れてしまった股を持ち合わせていたタオルで拭う。濡れてすぐだったおかげか、ある程度は湿気を奪うことに成功した。

 と、そんな呉羽に話しかけてくる馬鹿がいた。

 

「ねぇねぇ、お嬢ちゃん。さっき随分と大胆なコトしてたねぇ」

 

「俺たち良い子だから、さっきの光景、ちゃーんと録画しちゃってるんだよねー」

 

 数としては、二人。身に纏う装束や雰囲気からして、スキルアウトの連中だろう。ちょうどいい性欲の発散台になってくれそうな呉羽を見つけ、鼻息荒くして声をかけた――という感じだろうか。

 男たちは呉羽を取り囲み、馴れ馴れしく肩を掴む。

 

「この映像を流されたくなかったら……分かるよね?」

 

「そーそー。別に俺たち、君を脅そうって訳じゃないんだよねー。ただ? 円満な会話を経てちょーっと刺激的な時間を過ごしたいだけだから、さ?」

 

「…………くくっ」

 

 普通の少女だったら、余りの恐怖に泣き出してしまってもおかしくないであろう状況。

 しかし、大刀洗呉羽の口からは――

 

「くっは……あははははははっ! あーっはっはっはっは!」

 

「んなっ!? 何だコイツ、頭イッちまってんじゃねえか!?」

 

「あぁ? ただ怖すぎておかしくなっちまっただけだろー? 別に驚くことねえって」

 

 突然狂ったように笑いだした呉羽に、一人は驚き一人は呆れる。

 肩を掴まれたまま笑い続ける呉羽に眉を顰めながらも、呆れていた方の男は彼女の豊満な胸を鷲掴みする。予想よりも大きな胸に、「おっ?」と嬉しそうな表情を浮かべる。その行動を見て勇気が湧いたのか、もう一人の男も呉羽の内股に手を触れた。

 しかし、男達はここで気づくべきだった。

 路地裏の奥(・・・・・)にいる(・・・)怪しい影に(・・・・・)

 男たちは盛った雄のように呉羽の身体に触れまくる。――しかしその時、呉羽の顔には氷のように冷たい無表情だけが張り付いていた。

 呉羽は静かに目を閉じ、小さな口を小さく動かす。

 ――こ・ろ・せ――

 直後、呉羽の胸に触れていた男の胸元から、巨大な触手が飛び出した。

 

「―――――、あ?」

 

 自分の体を貫通している血まみれの触手を不思議そうに見ながら放たれたその言葉を最後に、男は大量の血を吐いて絶命する。どうやら心臓を一突きにされているようだ。

 いきなり死んだ仲間を前に、もう一人の男は凍りつく。自分は何を見ている? 自分は何に関わったんだ? と。

 そして、再び呉羽の口が動いた。今度は、男の耳に届くぐらいの音量で――

 ――く・ら・え――

 直後、男の身体に大量の触手が絡みついた。

 「んなぁっ!?」凄まじい圧迫感に表情を歪めながらも、男は見た。

 呉羽の後ろに、何かがいる。

 暗闇のせいで確認はできない。しかし、人間としての本能が必死にアラートを鳴らしている。コイツはヤバイ。今すぐにでも逃げ出せ――と。

 男は恐怖に慄きながらも必死に暴れる。

 しかし、男の身体は解放されるどころか逆に締め付けられていく。

 

「んがぐっ……た、助けて……」

 

「私の身体は、帝督だけのものだ。お前らは、それを形だけとはいえ穢した。――万死に値する」

 

「ろ、録画したのは今ここで削除する! アンタのことも忘れる! だ、だから、殺すのだけはやめてくれぇっ!」

 

「ふんっ、命乞いか。馬鹿馬鹿しい。だが、その汚れきった魂――コイツの餌にはちょうどいい」

 

「ひぃっ……い、いやっ、嫌だ離せぇえええええええええええっ!」

 

 ゆっくりと奥へ奥へと引っ張られていく。正体不明のナニカが、自分を喰らう為に脈動している。

 男は腹の底から叫び、必死に抵抗する。

 呉羽は腹の底から喜び、歪んだ笑みを浮かべる。

 そして―――そして――――――

 ――――――そして。

 

 

 誰もいなくなった路地裏には、胸を貫かれて事切れた男と――踝から先しかない足だけが転がっていた。

 




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 次回もお楽しみに!

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