ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。

 今回はまさかの過去最大文字数――九千字!



第十四項 本当の強さ

 ラジオゾンデ要塞については、結構あっさり終了した。

 魔術を使用したことがある一方通行が無理を承知で龍脈・地脈を読み取り、ラジオゾンデ要塞の発信機が埋め込まれていたコンクリートの床を浜面仕上が重機を駆使して破壊し、その発信機を上条当麻が『幻想殺し』を駆使して破壊した。

 これでラジオゾンデ要塞の落下を防ぐことができ、ひと時の平和を取り戻すことができた。

 だが、そんな中――

 

「俺、今回のパーティに必要ねーよーな気がするんスよね。ラジオゾンデ要塞を止めるとき、スゲー役立たずだったし」

 

 ――草壁流砂は上条宅でお留守番だった。

 浜面の様にピッキングが出来るわけでもなし、一方通行の様に最強の能力と少しの魔術使用経験があるわけでもなし、上条の様に異能を打ち消す右手があるわけでもない。

 不安定な欠陥品の能力と、既に必要のなくなった前世の遺産。――そんな役立たずなアドバンテージしか所持していない。

 

 能力を駆使して敵を撃破? ――そんなの一方通行の方が適任だ。

 

 移動手段をすぐに確保? ――そんなの浜面仕上の方が適任だ。

 

 魔術師を確実に撃破? ――そんなの上条当麻の方が適任だ。

 

 唯一の長所は他の面子に潰されていて、長所も長所でいざというときには発動しない欠陥品。今までは運と機転だけで生き延びてこられたが、今後は彼ら三人の足を引っ張るだけの存在となってしまうかもしれない。流砂は基本的にそういう立ち位置を気にしない男だが、今回ばかりは『役立たず』という烙印に苦しめられてしまっていた。

 先ほど、一方通行と浜面仕上がバードウェイの言葉を聞いて、納得のいかなそうな様子で上条宅から出ていった。――だが、彼らはバードウェイの言った通りの行動をとるだろう。そこまで長い付き合いではないが、流砂が知る『一方通行』と『浜面仕上』ならば、自分を犠牲にしてでも『グレムリン』の暴挙を止めにかかるはずだ。

 自分の無力さに気づいた流砂は、上条宅のベッドの上で暗い表情で俯いている。

 そんな流砂を眺めながら、コタツに両脚を突っ込んでいるバードウェイはケロッとした表情で言葉を並べる。

 

「自分が特別な存在じゃないと気づいた途端にこれとは……お前は昔流行った『ゆとり世代』というヤツか?」

 

「…………」

 

 バードウェイの皮肉に流砂は沈黙を返す。

 バードウェイはやれやれといった様子で肩を竦め、

 

「あえてお世辞のような本音を言っておくが、私は別にお前を役立たずだとは思ってはいないぞ? 世の中には色々と強いヒーローが多数存在するが、お前はその中のどれにも当てはまらない――世界で唯一のヒーローだと言えるからな」

 

「…………俺は別に、ヒーローなんかじゃねーッスよ。ただ運が良かっただけで、ただ周りの奴らが強かっただけ。俺は何にもしてやれてねーし、俺は何にも守れちゃいねーんス」

 

「それはお前が決めることじゃないな。お前によって助けられた奴は少なからずいるはずだし、お前自身も誰かを救えてよかったと心のどこかで思っているはずだ」

 

 それに、とバードウェイは付け加え、

 

「今のお前の発言は、お前に助けられた奴全員を侮辱するのと同義だよ。お前という存在が無かったら死んでしまっていた奴がいるかもしれない。そんな奴を目の前にして、お前はその台詞を堂々と胸張って伝えられるのか?」

 

「……それは……」

 

「もう一度考え直してみるといい。そうだな、近いところで――お前の大切な奴らにでも話を聞いてみるといい」

 

 いい返事を期待しているよ、というバードウェイの言葉が、やけに胸に引っかかった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 沈利との約束の前に一旦家に帰ろう。

 血だらけ傷だらけな体に応急処置だけでもしておきたいし、一旦シャワーでも浴びて頭をリセットしたい。そんな意志の下に住居であるマンションの一室へと帰ってきた流砂だったが、

 

「……おかえり、ゴーグルさん」

 

「随分と遅かったじゃないですか。も、もしかして、夜遊びでもしていたとか!?」

 

「結局、私も来ちゃったって訳よ!」

 

「麦野と大人の階段を上るとかそういう以前の問題で、久し振りに超楽しい時間を過ごしてみましょうよ、草壁」

 

「みんなでお前の帰りを待ってやってたんだからなー? 感謝しなさいよ、流砂」

 

 何故かヒロイン勢揃いだった。いや、自分で彼女たちのことをヒロイン呼ばわりするのも如何なものかとは思うけど。

 シルフィに手を引かれる形でソファに腰を下ろすと、左右から麦野と絹旗がほぼ同時のタイミングで腕を組んできた。突然すぎるが最近やっと慣れ始めたアクションだったので、流砂は大してリアクションを起こさなかった。

 麦野たち二人に続く形でシルフィが膝の上にちょこんと乗る。ステファニーとフレンダはテーブルを挟んだ向かいにある一人用のソファの上でにっこりと笑みを浮かべていた。額に青筋が浮かんでいるところがなんとも言えない程に恐ろしい。ついでに言うならば、金髪コンビの手の中に得物が握られているところも恐怖に拍車をかけている。

 流砂たち六人の間にあるテーブルの上には、『今日ってクリスマスかなんかだったっけ?』と疑問の声を上げてしまいそうなほどに豪勢な料理が並んでいた。どう考えても流砂の貯金を切り崩して買ったものだと思われるが、意気消沈気味な流砂はツッコミできなかった。

 そんな流砂の違和感に気づいたのは、やっぱりというかなんというか――

 

「何かあったの、流砂? さっきと比べて大分元気がないみたいだけど」

 

 ――第四位の超能力者・麦野沈利だった。

 流砂のことを世界中の誰よりも愛している第四位だからこそ気づいた、微妙な違和感。他の四人は麦野の言葉によってその違和感にやっとのことで気づけたようで、ほぼ同時のタイミングで流砂に心配そうな表情を向け出していた。……相変わらず優しい奴らだな、と流砂は思わず零れそうになる涙をぐっと堪える。

 流砂は少しだけ俯きがちに、麦野の質問に答える。

 

「俺自身が思っていたよりも『草壁流砂』は随分と役立たずなんだな――ってコトをついさっき実感しちまったんだ。目立った長所なんてものはないくせに他人に偉そうに説教垂れたり立ち向かったりする――そんな大馬鹿野郎だってコトに、な」

 

 予想もしていなかった答えに、麦野たちから笑顔が消える。流砂が本気で落ち込んでいるのを一度だけ目撃し、更にぶん殴って元気を出させた経験がある絹旗ですら、心配そうな顔を彼に向けることしかできなくなっていた。――それぐらいに、流砂の落ち込みは異常だった。

 しかし、唯一、彼にいつも通りに言葉を並べる者がいた。

 麦野沈利。

 人に遠慮する事を知らない、超絶的唯我独尊ヤンデレ少女だった。

 麦野は流砂の腕から手を離し、頭をガシガシと掻く。

 そして人を全力で小馬鹿にするような態度で、

 

「で? そんな今更過ぎる(・・・・・)ことに今更気づいたお前は、私達に慰めてもらいたいとでも思ってるのかにゃーん? もしそうだとするなら――お前は随分と世界に甘えているんだな」

 

「ッ!」

 

 気づいた時には、麦野の襟首を掴み上げていた。心の底からキレているせいか、能力が自動で発動されてしまっている。麦野は流砂の腕を引き剥がそうとするも、圧力操作が原因で上手くいっていないようだった。

 「む、麦野!」「誰も手ェ出すな!」「麦野!?」反射的に助けに入ろうとしたフレンダ達を言葉で制し、麦野は流砂の襟首を掴み返しながら言葉を並べる。

 

「お前が役立たずだってことぐらい、この場にいる奴らは全員分かってんだよ。大して強くもないくせに当たり前のように意地を張っていたお前に、私達が何度苦労させられてきたと思ってんだ?」

 

「そんなコト、俺が一番誰よりもよく分かってんだよ! 俺はただ運がイイだけの奴だってことぐらい、俺が草壁流砂が世界中の誰よりも自覚してんだよ!」

 

 流砂の目から涙が零れる。

 

「だけど、だけど! いつまでもこのままじゃダメだってコトも分かってんだ! もっと強くならねーとダメなんだってコトぐらい、ずっと前から分かってたんだよ!」

 

「草壁……」

 

「分かってん、だよ……!」

 

 麦野の襟首から手を離し、流砂はそのまま膝から床に崩れ落ちる。絹旗が心配そうな様子で駆け寄ろうとするが、それを麦野が視線で制した。ここで甘えさせてはいけない、という麦野なりの優しさで。

 ぽた、と流砂の頬を伝った涙が床に染みを作る。彼の肩は小刻みに震えていて、両手は血管が浮かぶ程の力で握られていた。

 そんな女々しい流砂の横っ面を、麦野は思い切り蹴り飛ばす。

 テーブルとは反対側に転がった流砂の襟首を掴み上げ、麦野は――

 

「ふざけんな。ふざけんなふざけんな。ふざっけんなぁあああああああああああ!」

 

 ――涙を流しながら腹の底から叫び声を上げた。

 呆気にとられる流砂たちに構うことなく、涙を止めようともせずに、麦野は続ける。

 

「誰がアンタに強くなってほしいなんて願ったよ! 誰がアンタ一人に頑張らせたよ! 私たちはお前を支えようとずっとずっと頑張ってきた! それを無視して一人で我武者羅に頑張った奴は――どこのどいつだよ!」

 

「しず、り……?」

 

「別にお前が強くなくたっていい! 別にお前が役立たずのままでもいい! 私が好きになったのは、愛しているのは、支えたいのは――『私達を救ってくれた草壁流砂』ただ一人だ!」

 

「ッ!?」

 

 流砂の目が驚愕に見開かれる。

 そんな流砂を思い切り抱きしめ、麦野は喚く。

 泣き喚く。

 

「落ち込んでじゃねぇよ悟ってんじゃねぇよ達観してんじゃねぇよ! お前はお前だ、他の誰でもない! 私たちをこの平和な日常にまで連れてきてくれた草壁流砂は、他の誰でもない――お前自身なんだ!」

 

「……でも、今のままじゃ、俺は……」

 

「今のままで何が悪いんだ!? 今から無理して無理に強くなったところでお前は単純に壊れちまうだけだ! 『体晶』でも使うのか? 研究者たちに体の中を弄られたいのか? 非人道的な実験に自ら参加するのか? そんなことをやったところで、アンタが望んでるような『強さ』は絶対に手に入れられねぇんだよ!」

 

「―――ッ!」

 

 その言葉は、流砂の胸に深く突き刺さった。

 復讐のために身体の外も中も弄られた麦野の言葉だからこそ、流砂の胸に深く深く突き刺さった。突き刺さった言葉は『返し』がついた釣り針の様にしっかりと食い込んだ。

 麦野に抱かれているせいで、麦野の身体の震えが直に伝わってくる。こんなに子供のように悲しんでいる麦野を見るのは、もしかすると初めてなのかもしれない。

 麦野は言う。自分の大切な人に言いたいことをしっかりと伝えるために、彼女は言う。

 

「私はお前に変わって欲しくない。これ以上、無駄な戦いに参加して欲しくない。――でも、それが言ったところで無駄なことだってのも分かっている。アンタはそういうヤツなのよ。誰かを助けるためなら自分を平気で犠牲にするくせに、大切な人からの忠告をいとも簡単にシカトする。まず何よりも他者優先で、その他者が幸せなら自分も幸せ。――そんな、バカな男なのよ、お前は……!」

 

「…………ごめん」

 

「謝るな、謝らないで。アンタは何も悪くない。悪くないけど許さない。許さないけどこれだけは聞いてほしい。分かってほしい。理解してほしい。――世界の全てを敵に回したとしても、私だけはずっとお前の傍にいる。弱いお前を護る為に、強い私が傍にいてあげる。居続けてあげる。私を闇から解き放ってくれたたった一人の草壁流砂(ヒーロー)のためなら、私はどんなことでもしてやるよ。世界だって滅ぼしてやる」

 

 それは、麦野なりの気遣いだった。

 強くなりたい変わりたい。草壁流砂という人間は常日頃からそんなことを願うような人間だった。そんな人間が自分の弱さを実感したら、ただ我武者羅に強さを追い求めようとすることは一目瞭然だった。かつての一方通行の様に、かつての麦野沈利の様に――。

 だが、そんな『強さ』は何も生まない、生み出せない。何もかもを破壊するしか能のない『強さ』は、人に笑顔を与えることなんてできるわけがない。

 それならば、『人に笑顔を与えることができる弱さ』を持っている草壁流砂の方が、何百倍もマシじゃないか。強くなることでその長所が消えてしまうのなら、麦野は全力で止めにかかる。その結果として流砂に嫌われてしまうことになろうとも、麦野は彼を止めてみせるだろう。

 麦野は涙塗れの顔で――涙でぐしゃぐしゃになった顔で、言い放つ。

 

「だから、だからそんな――お前に(・・・)救われた奴等を(・・・・・・・)全否定する(・・・・・)ようなことは、言わないでよ……!」

 

「……ごめん」

 

「だから謝るなっつってんだろうが……!」

 

 大粒の涙を零しながら震える麦野の身体を、流砂はしっかりと抱き締める。

 そのタイミングを待っていたかのように、流砂の肩に手を置く者がいた。

 絹旗最愛。

 流砂と最も長い時間一緒に居た、世界最高の相棒のような存在の少女だった。

 

「私はあなたが大好きです。超大好きです。愛していると言っても過言ではありません。――ですが、今回ばかりは麦野の意見に超賛成です」

 

「……絹旗」

 

「大体、なんであなたが強くならなくてはいけないんですか? 弱くてバカで優しいからこその草壁なのに、そんな長所を捨ててまで強くなる必要が一体どこにあるんですか? 私には超分かりませんし、これからも超分かろうとは思いません」

 

 それに、と絹旗は付け加え、

 

「あなたは私達を救えるほどには強いはずです。実力のことではありません――人間性が超強い、ということを言いたいんです」

 

「人間性……?」

 

「あなたは『超』がつくほどのお人好しです、偽善者です、馬鹿野郎です。――ですが、そんなお人好しで偽善者で馬鹿野郎な草壁だからこそ、私は心の底から超好きになってしまったんだと思います」

 

 そこまで言ったところで、絹旗は流砂の唇に自分の唇を重ねた。それを見た麦野が目を見開いて驚愕していたが、そんなことで退くつもりなど毛頭なかった。

 ぷはっ、と唇を離し、絹旗は続ける。

 

「これが報われない恋だとしても、私は超諦めるつもりはありません。私は絶対にあなたを自分のものにしてみせる。最悪の場合、ハーレムルートでも可ですしね!」

 

「いやそれはない」

 

「オイコラいきなり本調子で超全否定ってどういうことですかコラァ!」

 

 むきゃーっ! と肩を怒らせる絹旗に、流砂は苦笑を浮かべる。

 次に、腰元に抱き着いてくる者がいた。

 シルフィ=アルトリア。

 偶然に偶然が重なったことで流砂に救われた、『原石』の少女だった。

 

「……私も、ゴーグルさん大好き。上手くは言えないけど、ゴーグルさんと一緒に居ると、胸の辺りがぽわぁって暖かくなる」

 

「…………シルフィ」

 

「……私は、ゴーグルさんに救われた。ゴーグルさんのおかげで学校にも通えるようになった。友達もできた。――凄く嬉しい、んだと思う」

 

 身寄りもおらず物心つく前からずっと研究所で暮らしてきたシルフィは、流砂と出会ったことによって『仲間の大切さ』を知った。『友達』と過ごす時間の楽しさを知った。

 故に、シルフィは笑顔を浮かべる。

 生まれて初めて浮かべた心の底からの笑顔で――シルフィは言う。

 

「……頑張って欲しい。私は、ゴーグルさんに頑張って欲しいなっ」

 

「…………ああ。お前の期待に応えられるぐらい、弱いながらに頑張ってみせるよ」

 

「……うんっ!」

 

 優しく頭を撫でられ、シルフィは気持ちよさそうに目を細める。

 バシッ! と背中を勢いよく叩く者がいた。

 ステファニー=ゴージャスパレス。

 流砂によって復讐以外の解決法を提示してもらえた、殺し屋崩れの女性だった。

 

「流砂さんと出会っていなかったら、今の私は無かったんじゃないかと思います。砂皿さんだって、今みたいな充実した入院生活を送れなかったんじゃないかって、私はそう思ってます」

 

「ステファニー……」

 

「あなたは私と砂皿さんの恩人です。……でも、そんなことは関係なく――私はあなたのことが大好きです。誰にでも分け隔てなく優しく接することができるあなたが、どんなに強大な敵だろうとも全力で立ち向かうあなたが。そして、凄く格好いいあなたが――私は心の底から大好きです」

 

 そう言ってステファニーは流砂を後ろから抱きしめ、彼の頬にキスをした。愛を誓い合うためのキスではなく、感謝の気持ちを伝えるためのキスとして。

 

「男の子なんですし、やりたいことをやってきたらいいんじゃないですか? その結果として泥塗れになって帰ってきたとしても、私はまず最初にこの家であなたを笑顔で出迎えます。あなたの帰る場所は、居場所は――私がずっと確保しておきますよ」

 

「……ありがとう、ステファニー。本当に、ありがとう……ッ!」

 

 涙が堪え切れなかった。どこまでも優しくてどこまでも姉御肌なステファニーに、どこまでも甘えたくて仕方がなかった。――だが、ここで甘えるわけにはいかない。甘えるのは、全てが終わってから。笑顔で彼女に『ただいま』を告げる――その時までとっておかなければならない。

 トスン、と頭に軽く手刀を落とす者がいた。

 フレンダ=セイヴェルン。

 十月九日に死ぬはずだった、妹思いの少女だった。

 

「結局、草壁は私達がいないと何もできないって訳よ!」

 

「フレンダ……」

 

「でも、それ以上に――私はアンタがいなかったら今この場に立つことすらできなかった」

 

 十月九日に麦野沈利に殺されるはずだった、フレンダ=セイヴェルン。直接的ではないにしろ、彼女は『草壁流砂』という存在がいてくれたおかげで生き延びることができた。流砂が麦野を甘い人間に変えてくれていたからこそ、麦野に『大切な人の存在の大切さ』を教えてくれていたからこそ、今のフレンダが存在出来ているのだ。

 ベレー帽を抑えながら、ニシシッと悪戯っ子のように笑いながら、フレンダは言う。

 

「大好きだよ、草壁。結局、私は草壁のことが世界中の誰よりも――いや、一番はフレメアだけど――大好きだって訳よ!」

 

「……今なんか含まれてなかった?」

 

「フレメアへの愛情だけは譲れないって訳よ! あの子は私の生き甲斐だ! あの子のためなら私は、世界を滅ぼすことだって厭わないって訳よ!」

 

 でもね、とフレンダは付け加える。

 次の言葉を発する前に流砂にキスをし――彼の前歯が唇に当たって思わず悶絶する。

 

「~~~~~~ッ!」

 

 口を押さえて涙目になるフレンダ。相変わらずのドジッ子属性だった。これはもしかしなくても『ドジフラグ』というべきフラグが頭にブッ刺さっているのかもしれない。

 一分程掛けてやっと痛みから解放されたフレンダは、涙目のままに告げる。

 

「仕切り直しで言わせてもらうけど、私が草壁に向けている好意は――フレメアに向けている好意とは別物だって訳よ。あっちの方は『愛情』だけど、こっちの方は『恋心』。『草壁流砂』っていうお人好しを好きになった私の、正直な想いなんだ」

 

 フレンダは満面の笑みを浮かべ、

 

「応援してるよ、草壁! 大変だろうけど、アンタなら大丈夫って訳よ!」

 

「……ああ。頑張らせてもらうッスよ、フレンダ」

 

「当然っ!」

 

 なんて、俺は幸せ者なんだろう。

 ここまで自分のことを想ってくれてる奴らに囲まれて、俺はなんて幸せ者なんだろう。――この幸せを、俺は『強くなりたい』なんつーバカなコトで失おうとしていたのか。彼女たちの想いを――無意識に踏み躙ろうとしていたというのか。

 ホント、どこまでいっても俺はバカだ。バカでバカでバカで――だけど、世界一の幸せ者だ。

 麦野沈利に喝を入れられ、絹旗最愛に元気をもらった。

 シルフィ=アルトリアに気づかされ、ステファニー=ゴージャスパレスに暖かさを与えられ、フレンダ=セイヴェルンに笑顔を貰った。

 強くなるだけじゃ絶対に手に入れることができない宝物を、彼女たちから受け取った。――今度は、俺が彼女たちに報いる番だ。

 

「俺、頑張るよ。どこまでイケるかは分かんねーけど、精一杯頑張ってみる。もちろん、無理なんて絶対にしない。いつも通りの俺らしく――程々のトコまで頑張ってみる」

 

 そう言って笑うと、みんなが笑顔を返してくれた。

 そして打ち合わせをしていたかのように――

 

『頑張れっ!』

 

 ――俺に勇気を与えてくれた。

 

 

 

 

 

「そんな訳で一段落ついたことだし、まずは流砂を泥酔させてみんなで既成事実を作っちゃいましょう!」

 

「シリアスからの一気なギャグ方面への軌道修正は如何なものなんでしょーかねぇ!? ――ってオイコラなんで四人がかりで羽交い絞め!? そして沈利がその手に握っているのは俺が購入していた怪物アルコールでは!?」

 

「超一気! 超一気! 超一気! 超一気!」

 

「絹旗うるさい! え、嘘、嘘だよね? マジでそれを飲ませて既成事実なんて作らねーッスよね?」

 

「……しずり、はりーはりー!」

 

「年齢制限的にシルフィは絶対にアウトだろ! こんな幼気な幼女にお前らいったい何させるつもりだァーッ!」

 

「酔った状態でもしっかりと勃つんですかね? ステファニー、気になります!」

 

「気にならんでイイわボケェ! お前居場所を護る以前の問題で居場所で俺を襲おーとしてんじゃん! スゲーさっきの台詞台無しになってるってステファニーさん気づいてる!?」

 

「結局、草壁は私達に振り回される運命だって訳よ!」

 

「そんな運命はこの俺がぶち殺す!」

 

「はいはい、無駄な抵抗はそこまでにして、そろそろ罰ゲームを執行してしまいましょう」

 

「罰ゲームは滝壺だったんじゃねーんかよ! っつーかこれ何の罰ゲーム? 俺別に何らかのゲームに参加してた覚え全くねーんスけど!?」

 

「えぇい、うるさい! 黙って私の愛を受け取りなさい!」

 

「いやそれマジで意味が分からな――ごぼごぼぼぼぼぼぼぼ!?」

 

 次の日の朝、草壁流砂は起きる前までの数時間の記憶を失くしていて、更に彼の傍には――

 ――あられもない姿で彼に寄り添って寝てる五人の少女の姿があったというが、それはまた、別のお話。

 




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 次回もお楽しみに!

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