ゴーグル君の死亡フラグ回避目録   作:秋月月日

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第十六項 ロベルト=カッツェ

 『グレムリン』の魔術師との戦闘が始まった。

 そう気づいた時には既に周囲の仲間たちはそれぞれの行動に移っていて、草壁流砂も自分がベストだと思う行動に意識をシフトさせていた。

 チームワークなんて端から存在しない、各々での行動だけで成果を上げていく異色のチーム。

 学園都市最強の超能力者。

 全ての異能を打ち消す右手を持つ少年。

 運と実力だけで生き延びてきた無能力者。

 そして――演算能力に大きな欠陥を持つ大能力者。

 四者四様のヒーローたちは『グレムリン』という共通の敵を屠る為、太平洋沖の孤島でそれぞれの能力を如何なく発揮する。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 流砂がまず向かったのは、空港の外――つまりは野外だった。

 空港内でドンパチ騒ぎを始める以上、空港外でも何らかのトラブルが発生するはず。それに乗じて他のグレムリンの魔術師が暴れたりするかもしれない――という予測に従うがままに、流砂は勢いよく空港外へと脱出する。

 と。

 流砂の後を必死に追いかけてきていたフレンダ=セイヴェルンは空港前のバス停の時刻表に手をついて息を整えながら、

 

「ぜ、ぜぇ……ぜぇ……い、一体全体何事って訳……?」

 

「詳しー説明をしてーのは山々なんスけど、とりあえず捲り上がってるスカートの裾をなんとかすれば?」

 

「ッ!?」

 

 シュバッ! と風よりも速い速度で衣服の乱れを整えていくフレンダ。

 リンゴのように真っ赤になっているフレンダを視界から外し、流砂は吐き捨てるように舌を打つ。

 

「チッ。人でごった返すのは予想してたッスけど、やっぱり魔術師の姿はない、か」

 

「ね、ねぇもう私大丈夫!? どこもダメな場所とかない!?」

 

「そのドジッ娘属性さえなんとかすりゃイイと思うけど?」

 

「う、うわぁ――――ん!」

 

 絶対に指摘されたくはなかった短所を指摘され、フレンダは大口開けて泣き喚く。

 そして直後。

 耳を劈くほどの爆音が引き金となり、空港内から夥しい程の黒煙が噴き出してきた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「っだぁーっ! 結局はフレンダとも逸れちまったどーすんだよコレ!」

 

 空港が内側からの爆発で混乱状態に陥った後、流砂は物理的にフレンダと離ればなれになってしまった。

 というのも、爆発直後に彼女を連れて逃げようとしたのだが、それを邪魔するかのように人の大群が流砂とフレンダを直撃。川の流れに攫われる木屑のように二人は引き離されてしまった、という訳だ。

 アイツ一人で大丈夫かなー、と流砂はゴーグルを装着済みの頭を抱える。

 と。

 

『お、おいおい冗談じゃねぇよミスター。何で自分の支援団体が作った拳銃に撃ち抜かれなくちゃならねぇんだ?』

 

『うるせぇ! こっちにだって事情ってモンがあるんだよ!』

 

 互いに追突する形でスクラップになっている二台の車の傍で、二人の男性が言い争っている光景が視界に移った。

 片や、オートマの拳銃を構えた状態で。

 片や、飄々としながらもどこか焦っているような状態だ。

 このままでは本人に撃つ気はなくとも発砲されてしまい、現実的な殺人事件が成立してしまう――というのは火を見るよりも明らかだ。というか、既にトリガーに添えられている指は緊張でぶるぶる震えてしまっている。あと数秒で最悪の事態、という切羽詰まった状態だ。

 そして、流砂はそこで気づいた。

 拳銃を向けられている男性の顔に、凄く見覚えがあることに。

 

「あのオッサン、まさか……ッ!?」

 

 その言葉を放った直後、流砂は足と地面との間に働く圧力を操作し、スタートダッシュを踏んだ。

 数秒と経たない内に二人の男性の間に割り込んだ流砂は中年男性が持っている拳銃を叩き落とし、男性の身体に触れ――呼吸器を圧迫させることで男性の意識を数秒と掛からずに刈り取った。

 まさに一瞬の出来事。

 これが、暗部育ちの凶悪的暗殺術。

 ふぅ、と人仕事を終えた事で安堵の息を漏らした流砂は持ち前のジト目で被害者的立場だった男性に視線を向け、無駄に流暢な英語で革新的な言葉を投げかける。

 

「こんな処でバカンスかい、ロベルト=カッツェ大統領?」

 

「……つ、ついに一目で俺のことが分かる奴に出会えた!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 フレンダ=セイヴェルンは危機に瀕していた。

 空港爆破の直後に人の波にさらわれたフレンダは、そのまま流れに逆らうことなく移動に移動を重ね、とあるショッピングモールへと連行されてしまった。正直『コイツラ全部吹き飛ばしてやろうか!』ぐらいのテロリズム的直観に襲われなかったと言ったら嘘になる。

 さて、ここで話を戻そう。

 ショッピングモールに移動したフレンダが、一体全体どういう危機に瀕しているのかというと――

 

「ひっっさしぶりに会ったわね、この爆弾女……ッ!」

 

「ひぃぃっ!」

 

 夏休み中に起きたいざこざでボコボコにした覚えがある第三位とばったり遭遇☆

 

 前髪からバチバチと青白い火花を放つ第三位こと御坂美琴に肩をギュッと掴まれ、フレンダはがくがくぶるぶると大袈裟に体を震わせる。

 そして、そんな面白い光景に自分だけが入れないことが許せない悪戯精神旺盛な軍用クローンは逆サイドからフレンダの肩を掴み、

 

「新たな弄り対象が爆誕って訳かにゃーん?」

 

「だ、第三位がもう一人!? い、いやなんかこっちの方が無駄に大人びてるって訳よ! く、詳しくは言えないけれど、結局、胸のサイズがオリジナルに比べて異常に大きい……ッ!」

 

 その言葉の対象である貧に……もとい慎ましやかなお胸をお持ちの第三位の超能力者はバチバチバチィッ! と大量の火花を放ちつつ、

 

「べんとらべんとらーっ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ロベルト=カッツェ。

 その名を聞けば誰もが「あー、あの人ね」というぐらいに有名な――というか、アメリカ合衆国の事実上の大統領であるロベルト=カッツェは、米国始まって以来の異端的な大統領である。

 記者からの質問には不真面目に答え、民衆の前だろうがプライベートだろうがテレビ番組中だろうが関係なく下ネタのオンパレード。更には悪い噂が立ち上る会社へのブラックジョークをプレゼント、などというある意味での正直な態度で一躍有名になってしまった――俗に云う『米国の恥部』だったりする。

 しかし、そんな馬鹿正直っぷりやユーモアの豊富さが功を奏したのか、アメリカ国内での支持率は歴代でもトップクラスに位置する程。やっぱり男共ってエロばっかか、という副大統領のローズラインのセリフはもはや伝説級の名言扱いとなっているとかいないとか。

 そんな感じで有名なのに何故かハワイに来てからは本人だと気づかれていなかったロベルトは――

 

「ヘッドギアボーイ! その特徴的なヘッドギアにサインを書いてやろうか?」

 

「これはヘッドギアじゃなくてゴーグルだし! っつーかアンタのサインとかいらねーし!」

 

「いやいや別に遠慮する必要はねぇぜヘッドギアボーイ。俺の顔を一目見ただけで大統領本人だと分かる。それだけでユーが俺の大ファンだってことは火を見るよりも明らかだ!」

 

「っつーか逆に現米国大統領を一目見てわかんねーって方がおかしくね!? アンタ自分が思ってるよりも結構キャラ濃いッスからね!?」

 

「そういえば、この間の会見中に『エロ水着をもっと流行らすべき』って言ったら支持率上がったんだよなぁ」

 

「否定はしねーがそれでイイのかアメリカ人! なんか世界トップの国の将来が心配になって来た!」

 

 やっぱり外国人って苦手だーっ! と頭を抱えるヘッドギアボーイ。

 

「ってぇ、そんな無駄話してる場合じゃねーんスよ! なんでアンタがハワイに? 行方不明で副大統領たちが焦ってる中バカンスとか、流石に笑いの範疇を越えてるッスよ?」

 

「何でボーイがそんな裏事情を知ってるのかについてはツッコまないでいておいてやる」

 

 感謝しろよ? とウィンクする大統領様を見た流砂の額にビキリと青筋が浮かんだ。

 そんな流砂の様子なんかには気づかないロベルトは、先ほど流砂が気絶させた黒人の大男が持っていた拳銃を器用にくるくる回転させ、

 

「ちょっとアメリカを救いに来たのさ」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ロベルト=カッツェと邂逅した流砂が向かったのは、先ほどフレンダ達が逃げ込んだショッピングモールだった。

 その理由は至って簡単で、ショッピングモール内でドンパチ騒ぎが始まった、という報告が上条から届いたからだ。

 指の関節をパキポキ鳴らしながら足を急がせる流砂の隣で、拳銃を構えながら並走するロベルトは余裕そうに言葉を放つ。

 

「結局、ボーイたちの目的は俺と同じってことでオーケー?」

 

「まぁ、最終到達地点は違うッスけど、このハワイ島の危機を救うってコトに関しちゃ同じッスね。っつーかマジでその武器で行く気? 俺がもっと高性能な拳銃貸してやろーか?」

 

「おいテメェ何でウチの敷地に危険物持ち込んでんだ! しかもそれって学園都市製だろ? 危険物のレベルを超えてるぜデンジャラスボーイ!」

 

「拳銃国家なんだから銃の持ち込みぐれー見逃せよ」

 

「それを見逃せば全国各地のテロリストがハワイ島に雪崩込んでくることになるぜ?」

 

 凄くこの場にそぐわない会話を繰り広げながら、大統領とゴーグルの少年は足を急がせる。

 と、そんな中。

 流砂は凄く信じがたい光景を目の当たりにする。

 

「んなっ!? 何で学園都市最強が血塗れでぶっ倒れてんだよ!」

 

 黒煙が漂うショッピングモールの中に、その少年の姿はあった。

 色素が全く感じられない白髪に、血液の様におどろおどろしい真っ赤な瞳。それだけでも十分すぎるほどに異常なのに、女性のように華奢な体と白磁よりも色素を失った白い肌がその特徴にプラスされてしまっている。

 一方通行(アクセラレータ)

 本名不詳の学園都市最強の超能力者。

 そんな、事実上の科学サイド最強が、何の変哲もないショッピングモールで瀕死の重体になってしまっている。

 彼の強さを十分すぎるほどに知っている流砂は、流石に自分の目を疑った。全ての超能力者が結託しても不可能であろう光景を前に、言葉を完全に失ってしまっていた。

 しかし、それでも意識の切り替えは早かった。

 「大統領!」「オーケー!」確認作業と共に能力を解放し、スタートダッシュを切る。弾丸のように放たれた身体を一方通行に拳銃を構えていた女の身体に突撃させ、摩擦音と摩擦熱と煙を発生させながら急ブレーキで急停止。

 倒れ伏す一方通行の腕を掴み上げながら、流砂は冷や汗交じりに質問する。

 

「どーしたどーした? ついに最強の座から陥落ッスか?」

 

「……その減らず口を叩き潰すぐれェの余力はまだ残ってンだが……ッ!?」

 

「ごめんなさい。本当にごめんなさい!」

 

 ギロリ、と獣のような睨みを利かされ、流砂は恥も外見も無く土下座を決行する。

 他の襲撃者たちを拳銃で撃ち抜いた所から戻ってきたロベルトは土下座中の流砂を怪訝な表情で眺め、

 

「ジャパニーズはみんなこんな公衆の面前でジャパニーズDOGEZAを披露するのか?」

 

「誤解です! 流石に日本人全員を敵に回したくねーから言っときます。これは特殊な事例です!」

 

「……っつゥかソイツ誰だよ」

 

「どいつもこいつも朝のニュースを観ない派か! くそっ、やっぱりヘッドギアボーイがレアパーソンだったってだけなのか!?」

 

「いいからさっさと名乗れこのアメリカ野郎」

 

「あぁん!? 良いぜ名乗ってやるよ! 其の耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」

 

 どこかしら凄く悲しそうなオーラを纏ったロベルトはドンッと胸板を拳で叩き、

 

大統領様だよ(・・・・・・)クソッタレ!」

 

 




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 次回もお楽しみに!

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