桜の奇跡 作:海苔弁
「……
ネロ!駄目!!」
慌ててネロの顔を自身に寄せ、目の前にいる竜を美麗は睨んだ。その後ろから、花琳と梨白が現れ出てきた。
「あら?確かこの子……」
「半妖の美麗です」
「……」
「ねぇ、幸人はどこ?」
「……えっと」
「美麗!」
駆け寄ってきた秋羅の元へ、美麗は寄り後ろへ隠れた。
「あれ?梨白に花琳さん」
「……秋羅、幸人は?」
「部屋で寝てますけど……何ですか?」
「アリサ、マリウスいる?」
「あ、はい」
「ちょっと、中に入らせてくれない?
空の旅で疲れたわ」
マリウス宅へと入った花琳は、アリサが入れた紅茶を飲みながら向かいに座っている、マリウスと幸人に目を向け口を開いた。
「幸人、マリウス……
お願いがあるの」
「丁重にお断りします」
「右に同じく」
「人の話を最後まで聞きなさい!!」
「嫌なこった。
どうせ、依頼手伝えだろう?」
「あら?よく分かったわね」
「何年、テメェと付き合ってると思ってんだ」
「だったら、最後まで聞いてよ!話」
「“話”だけな」
「僕も、“話”は聞きます」
(滅茶苦茶、話を協調してる……)
「実はね、私達の国……志那国で、近々王位継承式があるの。
その王家から、私達に護衛として王女についていて貰いたいと依頼が来たの」
「そんなの自分でやれ」
「梨白君は、お強いでしょ?」
「話を最後まで聞きなさい!
その続きが肝心なのよ!」
「とっとと話せ」
「もう!
護衛任務の他に、人身売買をやっている盗賊を潰して欲しいって依頼があるの。
いくら梨白でも、そこまで手が回らない。
それに、盗賊となれば何人いるか分からない。そこで」
「俺達に泣き付いてきたって訳か」
「変な言い方しないでよ!!」
「事実でしょ?」
「マリウス!」
「依頼内容は分かりましたけど、僕等は行けません。
別の依頼が入っていますので」
「俺は体が治り次第、日本へ帰る。
帰って、自分のベッドで寝たい」
「マリウスは良いとして、幸人……
アンタのは、願望よ!」
「帰らせろ。
本部の会議以降、帰ってねぇんだぞ!!こっちは!!」
「確かに……俺等、本部からこっちに来たんだもんな」
「そうそう」
「手伝いなさいよ!マリウスの依頼は受けたんでしょ!」
「依頼料で決まる」
「僕の場合、依頼料の他にお酒とソーセージをあげました」
「それ相応の依頼料は、貰わねぇとな?」
「相変わらず、下水男ね」
「そりゃどう…!」
嫌な笑みを浮かべていた幸人の頭に、天花は強烈な拳骨を食らわせた。
「……だ、誰?」
『人の弱みに漬け込んで、金を毟り取ろうとするところ、あの馬鹿ソックリだ。
女が依頼してんだろ!!話を通せ!!』
「婆が話挟むんじゃねぇ!!」
『親に向かって、婆とは何だ!!』
「親じゃねぇだろ!!
曾祖母だろ!!」
『どっちも一緒だ!!
紅影!!』
「あ、はい!」
『依頼は引き受ける!!
こいつに、依頼料と志那国一の酒を褒美として与えろ!いいな?!』
「わ、分かりました!」
「婆!!」
『貴様、脳天ぶち抜かれたいか?』
銃口を向け、鋭い目で睨んできた天花に、幸人は冷や汗を掻きながら首を左右に振った。
裏庭……花琳達が乗ってきた竜達に対して、ネロは今にも襲い掛かろうとしていた。そんなネロを、美麗は自身の膝に頭を無理矢理乗せ撫でながら、警戒心を解かそうとしていた。
「ネロ、大丈夫だよ。
私が傍にいるから。ね?」
呼び掛ける美麗の声に、ネロはどこか安心したような表情になり、彼女に甘えるようにして擦り寄った。
『落ち着いたみたいだな』
「うん……?」
後ろから服を引っ張られ、振り向くとそこにはゴルドとプラタが鳴き声を放った。そして腕に頭を入れると、母親のネロと一緒に、美麗の膝に頭を乗せた。
するとそこへ、秋羅と梨白がやって来た。
「秋羅」
「幸人が治り次第、梨白達と一緒に志那国行くぞ」
「……お家帰らないの?」
「依頼が来たから、それを終えてから」
「……」
数日後……
ネロとエルの体に、荷物を着ける秋羅。唸り声を上げるネロを、美麗はずっと頭を撫でて機嫌を宥めていた。
「必要な荷物、全部積み終えたぞ」
「分かった。
おい水輝、いい加減立ち直れ」
「立ち直れるわけ無いだろう……
お前等は良いじゃん!!ミーちゃんと一緒にいられるんだから!」
話は数日前に遡る……志那国に行くこととなった幸人達。だが、水輝は自身の仕事の都合のため、帰国しなければならなかった。
その事で、水輝は今日までずっと落ち込んでいた。
「安心しろって水輝!俺がキッチリ、やっといてやるからよ」
「やるやらないじゃなくて!!
私はミーちゃんの」
「喧しい!」
「お黙り!」
ウジウジ言う彼女に、花琳と幸人は拳骨を食らわせた。大きなタンコブを作り伸びた水輝を、マリウス達が待つドラゴンの背中へ投げ飛ばした。
「とっととその馬鹿連れて、日本へ行け」
「……君、もう少し丁寧に扱って下さい」
『ぐだぐだ言っている暇があるなら、とっとと行動に取れ。そうじゃないと、任務中に死者が出る』
「……ごもっともです」
いつの間にか意識を取り戻した水輝は、悔し涙をハンカチで拭きながら、美麗に手を振りマリウス達と共に、先に日本へ帰った。
「やっと行った」
「兄ながら、毎回手こずる」
「あんなのと、よく一緒にいられるな」
「兄妹だからな」
「……」
『時間が無駄だ。行くぞ』
「ヘーイ」
幸人は花琳が乗る竜へ、暗輝は梨白が乗る竜へと乗った。エルの背中に、秋羅と紅蓮が乗り、美麗が飛び乗ったネロの背中に、天花は乗り彼女の後ろへ座った。
花琳を先頭に、一同はマリウスの家……英国を後にした。
飛び立つ彼等の姿を、妖精達は妖精の森から見送り、見届けると森と共に霧の中へと姿を消した。