桜の奇跡 作:海苔弁
「花琳!いつになったら、国に着くんだ?!」
「もう少しよ!
この山を越えたらすぐだから!」
「随分、山奥にあるんだな?」
「まぁね!」
「全く、何でまた数日間もの間ドラゴンの背中に乗らなきゃいけねぇのか」
「ドラゴンじゃなくて、竜よ!竜!」
「同じだろ?」
「同じじゃないわよ!
東洋の竜と西洋の竜は、そもそも姿が違うわ。
東洋は私達が今乗っているような、蛇の姿に鱗を纏い、そして四つの脚がある。
西洋はマリウス達が乗っていたような、二足歩行のトカゲの姿に、巨大な翼を生やし二本の腕を持っている」
「東洋の竜がその姿なら、美麗が乗っているネロは何なんだ?」
「あれは特異よ。
東洋の竜は、時々翼を生やした竜が産まれることがしばしばあるから」
「へ~」
「さすが、委員長」
「その呼び方、やめて」
岩山を超えた先にあったのは、城がまるで町を見下ろすように建つ場所だった。その近くにある森に、花琳達は竜を下ろさせた。
「こんな所に、竜を置いといて良いのか?」
「この森と土地は、私の所有地だから平気よ」
「でも喧嘩は絶えないね」
花琳達の竜は、ネロ達に向けて鳴き声を放ち、ネロ達も負けじと鳴き声を放っていた。
「他の竜とは仲良く出来てるのに、何であの子だけ」
「ネロ、竜の総大将みたいだから」
「総大将?」
「日本にある、竜の里にいるある奴の話だと……
100年前、日本にある竜谷を作ったとされている伝説の竜で、俺等人と手を取り合い助け合い、この地で生活をし生きていた。だがある日、伝説の竜は人間の手によって連れ去られ、それ以降目撃されていなかったそうだ」
「だそうだって……
ただの伝説じゃない。それが何で竜の総大将なのよ!」
「その竜の里いた竜達が、ネロを見た時頭を下げていた。主の命令を無視して」
「……」
睨むネロを美麗は自身に向かせ、頭と頬を撫でた。それを見たゴルドとプラタは、彼女が着ていたポンチョの裾とスカートの裾を銜え引っ張った。引っ張られた美麗は、その場に尻を着きそれを狙ってか、二匹は甘え声を出しながら彼女に擦り寄った。
「よく懐かれてるわね。この子」
「北西の森にいた頃からの仲だそうだ」
「ふ~ん」
『無駄話いいから、早く行こう。
日が暮れる』
「だな。
花琳、案内頼む」
「ええ。
けどその前に……」
ネロの頭を撫でていた美麗の傍へ、花琳は歩み寄りった。そして、彼女のポンチョのフードを頭に被せた。
「あの町は人身売買の目的に、外から来た者を誘拐する。そして、商品として他国へ売られてしまう。
その被害者が、主に女子供。特に子供は値段が高く付くから」
「一番狙われやすい……」
「そういう事。
あとで、顔が隠せる物をあげるわ」
浅く被されたフードを、美麗は深く被ると天花を見上げ笑顔を見せた。その笑顔に釣られ、天花も微笑み彼女の頭に手を置いた。
森を歩き抜けると、幸人達は花琳を先頭に城下町を歩いた。賑やかな声と、家と家の間の上に提灯がいくつも下がっており、周りには華やかで豪華な飾りが飾られていた。
「凄ぉ……」
「王位継承式があるから、町はそれで賑わっているのよ」
「まぁ、賑わってるのはここにいる奴等だけじゃねぇみてぇだな?」
裏路地へ続く道や、建物と建物の間の道には怪しげに満ちた者達が、何かを窺うように身を潜めていた。彼等の目を美麗は、フードの裾を持って見ないようにしながら、傍にいた天花の手を握った。
「一部は孤児達だが、過半数は」
「人身売人か」
「そういう事」
「近くに施設とか、ないんですか?」
「この国には、孤児を育てる施設はないわ。
お金がそこまで行き届いてなくてね。子供を雇ってくれる、仕事も見つからないし」
「じゃあ、どうやって」
「主に、私の職や探偵、城に仕えている者の駒として、お金を稼いでいるわ。
城では特に、城と国を守る兵士からすれば、外部の情報は貴重」
「情報を持っていけば、それ相応の金が貰えるってわけか」
「そう。
でも、それは危険がつき物。
情報を取りに行ったきり、帰って来なかった子供が、この町には多数いるわ」
どこか悲しい目で、花琳は路地裏から顔を出し人々の目を気にしたり、物乞いをする子供達を眺めた。
城門前へ付くと、門番に話を付け花琳は幸人達を手招きし、城の中へと入った。
中は綺麗な草花と木々が咲き誇っていた。道の脇には、いくつもの小さな噴水と池があり、中を覗くと気持ち良さそうに鯉や魚が泳いでいた。
「外と比べて、中は凄ぇな」
「王族だからな」
「天花、金魚!」
噴水の縁に膝を乗せ、美麗は水の中を泳いでいる金魚を指差しながら、傍にいる天花に話した。
「すっかり溶け込んでいる……」
「まぁ、外より中の方が安全だからな」
使用人に案内され、幸人達は応接室へ入った。扉が閉まると、美麗はフードを取りバルコニーへ出て行き、外を眺めた。
「ワァー!天花!町が見渡せるよ!」
「美麗!外に出るなら、フードを被れ!」
「風で脱げるから嫌だ!」
すると、バルコニーへ紅蓮を乗せたエルが降りてきた。エルから降りた紅蓮は、すぐに姿を大黒狼へ変わった。
「エル達も着いたか」
「あまり、私達の前以外では人と狼の姿を交互に見せない方が良いわ。
この国じゃ、妖怪も売り物にしてるみたいだから」
『分かった』
「……?」
町を見渡していた美麗は、何かに気付いたのか手摺から身を乗り出し下を見た。
「……幸人!あれ!」
彼女に呼ばれ、幸人はバルコニーへ出て行き、指差す方向を目にした。
中庭にいる、数人の討伐隊の制服を着た者達……
「あれは……討伐隊(だが、制服が少し違う)」
『ほぉ、特別部隊か。
まだあったとは』
「特別部隊?」
『海外で妖怪の被害があった時、討伐隊の中で最も優秀な隊員を集め、特殊な訓練をし海外へ出動する部隊だ』
「へ~。
そんな隊があったのか」
『知るのは、少尉になってからだ』
「そんじゃ、俺が知るわけねぇか」
「幸人!
城の人が話始めるって!」
「分かった!」
『私はここにいる。
討伐隊がここにいるとなると、私の説明が面倒だ』
「そうだな。
美麗は連れて行くぞ」
『構わん』
「美麗、行くぞ」
「ハーイ」
エルと紅蓮の頭を撫で、天花に手を振りながら、幸人と共に部屋へ入った。寄ってきたエルの頬を撫でながら、天花は話した。
『約束果たしたんだな……幸輝は』
部屋へ入ると、席にはすでに数名の男と討伐対の者が1人座っていた。幸人は軽く礼をすると、美麗を秋羅の隣に行かせ、自身の席に行った。
「全員座りましたので、お話を」
「はい。
では、先に依頼内容の確認を。
我が国は、祓い屋である紅影花琳様とそのお弟子・梨白様に二つの依頼を申しました。
今回王位継承式で、正式にこの国の女皇となる姫様の護衛と、人身売買をしている盗賊を潰す事です。
ここまではよろしいでしょうか?」
「変わり無い」
「皇女様の護衛はするのに、国の護衛はしなくていいの?」
「国の護衛は、こちらにいます倭国から派遣していただいた、妖討伐対の方々にお任せします」
男の隣に座っていた男は、軽く礼をしながら口を開いた。
「今回の任務責任者である、榊真一郎少尉です」
「後で、お時間いただけます?
少々、お話がありますので」
「無論です」
「話を戻させて貰います。
姫の護衛は、どなたが就くおつもりで」
「うちの愛弟子、梨白と月影の子供、美麗を就けさせるつもりです」
「花琳!!てめぇ!!」
「静かにしなさい。
まだ話中ですよ」
「っ……」
「では、姫様をこちらへ連れてきますので、その間榊少尉とお話の方を」
「えぇ」
一部の男は部屋から出て行き、少尉だけとなった瞬間、幸人は花琳の首根っこを引っ張り、バルコニーへ出て行った。
「依頼内容を知っている人が、連れて行かれた」
「先生は、何を考えているんだか……」