桜の奇跡 作:海苔弁
「幸人、顔怖いわよ」
「当たり前だ。
ただでさえ、危険な町にいるのに……」
「ここで白状するわよ。
依頼を手伝って欲しいのは、確かよ。
けど、どうしても美麗に手伝って欲しいことがあったの」
『美麗に手伝い?』
「梨白が護衛に就く、姫君。
丁度、彼女と同い年なの。皇女って地位のせいで、友達が1人もいないのよ。ご両親もお仕事でお忙しいし……
そのせいか、かなりの我が儘姫になっちゃったのよ」
「それで、同い年の美麗と友達にさせようと……」
『その姫様にご兄弟(姉妹)は?』
「ウーン……まぁ、掟に従って、兄弟(姉妹)はいない」
「掟?」
「まぁ、追々話すわ。
さぁ、榊少尉がお待ちよ。行きましょう」
少し納得いかない表情を浮かべながら、幸人は中へと戻った。
中へ入ると、そこには特別部隊の制服を着た陽介がいた。
「うわぁ……面倒な奴がいるわ」
「紅影はともかく、何故貴様がここにいる」
「幸人は、私の依頼を受けている最中よ」
「なら良いが……
よくこの町に、美麗を連れて来ようと思ったな」
「訳は花琳に聞け」
「あとで話すわよ」
「つか、何でお前ここにいんだよ」
「今回の任務の、監視役だ。
つい先日、少尉に上がったばかりだからな。榊は」
「相変わらず、上から目線だな……大空は」
「仕方ねぇよ。そいつ、貴族出身なもんだから」
「君も相変わらずだね。天海」
「今は月影だ」
「悪い悪い……
それで、その子が天海…月影の弟子かい?」
「そうだ」
「月影秋羅です。よろしくお願いします」
「よろしく。
で、その子は?」
いつの間にか、部屋に入ってきていた鈴を着けた虎と戯れている、美麗を見ながら幸人に質問した。
「何だ?教えてないのか?」
「少尉になったばかりだからな。
教えていないし、資料もまだ渡していない」
「そっか……
ンじゃ、ここで覚えておけ。
彼女は、夜山美麗。最後の半妖であのぬらりひょんの、子供だ」
「そ、その子が!?」
驚きのあまり、大声を上げてた榊に美麗は驚き、彼の方を見た。
「……噂では聞いてたけど、まさか本当にいたなんて……
確か、こないだ起きた妖怪の襲撃事件で月影が連れてきた半妖の子が、関わってるって聞いたけど……」
「まぁ、極一部な」
「……」
「た、大変です!!
姫様が、お部屋からいなくなりました!!」
血相を掻いて入ってきた男は、息を切らしながら言った。
「いなくなったって……まさか、さらわれた?!」
「ち、違います!!
ここ最近になってから、急に城の外が見たいと言い出して……外に出ようと、脱走することが」
「何だ?その皇女」
「好奇心旺盛なんだな。その皇女さん」
幸人達が話している最中、美麗は虎と共にバルコニーへ出て行き、天花の元へ行った。
『ん?どうかしたか?』
「姫様がいなくなったんだって」
『姫様……
あれか?』
「?」
手摺から身を乗り出し、下を見ると黒い布で頭と顔を隠した少女が、何かを警戒しながら走っていた。
「あれ、姫様?」
『だろうな』
「よし!捕まえる!」
縁に飛び乗った美麗は、そこから飛び降りた彼女の後をエルが追い駆けていった。
『……相変わらず、危険きわまりない行動だな』
駆ける少女の前に、エルは舞い降りた。少女は驚き、その場に尻を着き、エルが起こした風で被っていた布が取れた。
灰色のボブカットに、桔梗の髪飾りを着け、紫色の目で、エルから降りた美麗を見た。
美麗は彼女と目が合った瞬間、誰かの姿と重なって見え、そして呟いた。
「真白?」
「え?」
「……あ!違った」
「だ、誰?」
「夜山美麗。
月影と紅影っていう、祓い屋の人達と一緒に任務でここに来たの」
「祓い屋?
私の護衛する人達のこと?」
「そうだよ!
さ、姫様!城の中に帰ろう!」
「嫌よ!!城の外を見たいの私は!!」
「……でも今戻らないと」
「いたぞ!!」
角から現れた数人の兵士を見て、少女は美麗の後ろへ隠れた。美麗は駆け寄ってくる兵士達を、気にしながら彼女を見た。
「姫様、探しまたよ!
さぁ、柳遠様がお待ちです。お部屋へ戻りましょう」
「嫌よ!!
私は、城の外を見たいの!!見せてくれるまで、お部屋へは戻らないわ!」
「姫様!我が儘を言わないで下さい!」
姫の手を兵士が掴んだ瞬間、美麗は兵士の手に空手チョップを食らわせると、彼女をエルに乗せ飛ばすとバルコニーへ行った。
バルコニーへ降りたエルの背中から、美麗は飛び降りると駆け寄ってきた天花に抱き着いた。
『全く、相変わらず危険なことをするな。美麗は』
「へへ!
天花、ほら!姫様」
降りようとしている姫に手を貸しながら、美麗は彼女をエルから下ろした。
「……凄いわね。
妖怪を扱うなんて」
「エル達は特別だから!」
「……」
「ひ、姫様!!」
窓を開けて、バルコニーへ出て来た男は、姫の姿を見るなりすぐに駆け寄った。彼の後に続いて幸人と花琳、梨白が出て来た。
「またお部屋を抜け出して!!
このじいや、どれほど心配したか」
「部屋を出ようと出まいと、私の勝手でしょ!」
「姫様!!」
「まぁまぁ、柳遠。
姫様が、ご無事だったんですから、良かったではありませんか」
「そうよ!この人の言う通りよ!」
「姫様!!」
「お説教はこのくらいにして。
姫様、今日から王位継承式終了まで、私の弟子・梨白と月影の子供・美麗の2名が、護衛させて貰います」
「え?
美麗が?」
隣にいた美麗に、姫は顔を向けた。美麗は向いてきた彼女に、笑いかけた。
一瞬笑った姫は、梨白を見た。彼は、目が合うとすぐに逸らした。
「さぁ姫様、お部屋へ戻りましょう」
「……嫌!
これから、美麗と植物園に行くわ!
美麗、行きましょう」
美麗の手を引き姫は、バルコニーから部屋を出て行った。2人の後を、紅蓮と梨白は追い駆けていった。
「姫様!!
全く、我が儘なんですから」
「すっかり気に入っちゃったのね。美麗のこと」
「美麗も美麗で、普通に付き合ってるから、互いに気に入ったって事じゃないんですか?」
「フフ…そうね!」
バルコニーに目を向ける陽介……花琳達を中へ入れると、幸人は彼の手を引きバルコニーへ出させた。
「……は?」
エルの頬を撫でる天花の姿に、陽介は目を疑った。彼の目に、天花は手を止め歩み寄った。
「……おい幸人!
貴様、俺を騙しているのか!?」
『幸人は騙して等いない。
私は本物だ』
「……だって……
祖母様は、もう30年も昔に……」
「それが、目の前にいるんだよ」
陽介の前に来た天花は、彼を抱き寄せた。
『デカくなったな、陽介。
死んだ祖父さんに、ソックリだ』
「……」
不意に落ちる涙……陽介は、泣き声を上げまいと口を手で抑えた。その様子を見た天花は、ふと泣くのを我慢している幸人を抱き寄せ、2人の頭を撫でた。
撫でられた2人は、天花に手を添え服を強く掴むと、声を殺しながら泣いた。
『……全く、泣き虫だな……
相変わらず』
目に涙を溜めながら、天花は2人をしっかりと抱き締めた。