桜の奇跡   作:海苔弁

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植物園へ来た姫と美麗は、中を歩くと小さな池とベンチがある広場へ出て来た。


「ここ、私のお気に入りの場所なんだ!」

「綺麗な場所だね!姫様」

「姫様じゃないわ!

私は夜白!」

「やはく?」

「そう!

そう呼んでよ!美麗」

「良いよ!」

「やった!

それじゃあ美麗、私と遊びましょ!」


楽しそうに喋る夜白の様子に、梨白は微笑を浮かべながら眺めた。


人身売人の頭

会議室で貰った資料を捲りながら、幸人達は陽介達と話し合っていた。

 

 

「とりあえず、国境付近に俺と暗輝が行って、奴等のことを調べてくる」

 

「分かった」

 

「町にも何かしらあるかもしれないから、裏の人達に少し聞いて回るわ。

 

幸人、秋羅を貸して」

 

「あぁ」

 

「我々は、貴様等の邪魔にならぬよう城の内部と外部を警備する。

 

何か問題があったら、俺の名を使え。すぐに対応する」

 

「頼む」

 

『それじゃあ、私は私情のことでも調べるとするか』

 

 

そう言って、天花は庭にいたエルの元へ歩み寄った。

 

 

「何調べんだ!婆!」

 

『調べ終えたら話す』

 

 

エルの背中へ飛び乗ると、天花は慣れた手付きでエルの手綱を引き、空へと飛び出した。

 

 

「婆!

 

ったく、勝手な野郎だ」

 

「自己中なところ、幸人ソックリだな……」

 

 

 

 

その頃、美麗と夜白は広場に咲くシロツメクサで、花冠を作っていた。

 

 

「美麗、作るの上手いね!」

 

「へへ!

 

ママによく、作ってたから。

 

 

でも、夜白の方が凄い上手い」

 

「まぁね!

 

 

小さい頃からの遊びと言ったら、花冠を作ったりお人形で遊んだり、本を読んだり絵を描いたりしてたかな」

 

「一緒に遊んでくれる人は?」

 

「昔は居たけど、今は居ない。

 

 

お母様、お忙しいし」

 

「いた?」

 

「昔、私と遊んでくれた人が居たの。

 

年上だったけど、とても優しくて……

 

 

でも、ある日突然居なくなった」

 

「……」

 

「それからは独りぼっち。

 

城の外に出たこと無いから、私同い年の友達は1人もいなかった。

 

侍女も、皆年上ばかりだったし。

 

 

美麗は?友達、いるの?」

 

「いないよ。

 

 

私は、森で育ったから。友達と言えば、その森に住んでた動物達と妖怪達かな」

 

「……良いわね。外の世界……

 

 

私も、城の外をこの目で見たい」

 

 

作っていた花冠を、夜白は強く握りながら硝子張りになっている天窓を見上げ、空を見た。

 

 

「何で夜白は、外を見たいの?」

 

「次期皇女になるのに、外のことを何も知らないなんて、話にならないじゃない!

 

私は、ちゃんと外のことを知った上で皇女になりたいの!」

 

「……ご立派な意見」

 

「それなのに、皆危険だ危ないだけしか言わないで……」

 

「でも、それ一理あるよ。

 

外の世界って、思ってた以上に危険なことが山盛りだから」

 

「それは分かってるけど……

 

 

そうだ!

 

 

 

美麗!私のお願い、聞いて頂戴!」

 

「?」

 

 

耳打ちする夜白……美麗は、遠くにいた梨白の元へ駆け寄り彼の手を引き、夜白の元へ連れて来た。

 

 

「梨白!

 

外へ行きたいから、護衛をお願い!」

 

「……その様なご命令は、一度先生達から許可を得なければ」

 

「堅いこと言わずに!ね!

 

美麗だっているんだから!」

 

「そういう問題じゃないんです。

 

勝手に抜け出したら、大事になります」

 

「でも!」

 

「姫。

 

 

あまり、ご無理を言わないで下さい」

 

「……」

 

 

頬を膨らませて、夜白は植物園を飛び出した。

 

 

「あ!夜白!」

 

「……手の掛かる姫だ」

 

「何で出しちゃ駄目なの?

 

皇女になるなら、外の現状を知りたいって、夜白は言ってたのに……」

 

「城の奴等は出したいと思っている。

 

だが、未だに外には人身売買の従業員が国の至る所にいる。そんな中に姫を出して見ろ。

 

一発で捕まる。

 

 

それに、どんなに護衛を付けてたって、一瞬隙を見せれば、そこを取られて姫は誘拐される」

 

「…… ?

 

 

だから、私達に人身売買人を退治依頼したの?」

 

「まぁ、そうだ」

 

「……」

 

「?

 

何だ?」

 

「梨白って、無口かと思ってたけど、案外喋るんだね。

 

特に、あの姫様のことになると!」

 

「!!

 

うるさい!」

 

 

そう言って、梨白はプイッと後ろを向いた。そんな彼に、美麗は悪戯笑みを浮かべながら笑った。

 

 

 

 

街中を歩く、花琳と秋羅……裏路地へと入った二人は、ボロボロの服にハンチング帽を被り、木の枝を加えた男に話しかけた。

 

 

「グエンはどこ?」

 

「……奴に何用だ?」

 

「人身売買の盗賊について、話があるの?どこにいるの?彼は」

 

「……

 

ついて来い」

 

「ここに連れて来て頂戴」

 

「勘違いするな。

 

俺が、グエンだ」

 

 

ハンチングのつばを上げながら、グエンは不適に微笑み、二人を誘導した。

 

 

空き家となっている建物の中へ入り、床に敷いていた板を退かすと、グエンは顎で合図を送った。秋羅は花琳を後ろへ行かせながら、前へ行きそっと近づいた。そこにはしたへ下りる、階段が続いており彼は振り向きグエンの方を見た。

 

 

「そのまま下へ行け」

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「俺のことを知ってて、尋ねてきたんだろ?お姉さん」

 

「当然よ。秋羅、行って」

 

「あ、はい」

 

 

花琳に言われ、秋羅は下へ降りていき、彼に続いて二人も降りていった。

 

 

下へ降りると、そこには部屋がいくつかあり、その一室の戸をグエンは開け二人を中へ入れた。部屋には、ベッド、机、椅子に書類が溜まった棚が二つ置かれていた。

 

 

「ここには、人身売買の情報を持つ奴等が住むアジトだ。

 

 

外には、いつどこに奴等がいるか分からない。けど、ここなら話しても平気だ」

 

「なら、早速聞かせてもらうわ。

 

奴等はどこにいるの?」

 

「神出鬼没だ。

 

人をさらった後、奴等を付けるが必ず見失う。

 

 

どこにアジトがあるかは、まだ誰も知らない。どちらかと言うと、こちらもお手上げ状態だ」

 

「じゃあ、もしさらわれたら」

 

「もう諦めろだ。

 

成す術がない」

 

「……」

 

「人身売人の頭がどんな奴かは、分かる?」

 

「……」

 

 

その質問に、グエンは資料棚から、一冊のファイルを出し数ページめくり、あるページを机の上に置き、二人に見せた。そこには、横顔の女の姿が写った写真と、数枚の紙がファイリングされていた。

 

 

「その女が、売人の頭・香月。

 

年齢も出身地も不詳だ。分かっているのは、奴が現れてから、人身売人の動きが活発になった」

 

「……この人が……」

 

(この女……どこかで……)

 

 

“コンコン”

 

 

突然戸を叩く音がし、グエンは扉の裏へ回るよう指示しながら戸を開けた。

 

 

「何だ?」

 

「情報です。

 

香月が、ある子を目に着けたらしいです」

 

「容姿は?」

 

「長い白髪に赤い目をした女性。

 

年齢は10代。傍には倭国にいる大黒狼を連れていると」

 

 

その話を聞いた秋羅と花琳は、互いを見合って驚いた。

 

 

「分かった。

 

引き続き、監視を頼む」

 

「はい」

 

 

扉を閉め、彼が去って行くとグエンは2人の顔を見てすぐに察したのか、香月の写真を差し出した。

 

 

「これを仲間に見せろ。

 

そんでとっとと、あの悪党を捕まえろ」

 

「……何故私達に?

 

あなた、このスラム街では誰一人信用しないはずじゃ」

 

「お前等の目に、嘘が見えない。それだけだ……」

 

「……お前、まさか」

 

「……

 

 

5年前、恋人をな。

 

 

ずっと探しているが、手掛かりが一つも」

 

「……」

 

「ほれ、さっさと行け。

 

見送るからよ」

 

 

机に置いていた木の枝を銜え、グエンは2人を外へ出した。




「キャー!」


夜白の楽しそうな叫び声に、見張りをしていた討伐隊の者達は、そちらに目を向けた。


紅蓮に乗った夜白は庭を駆け回っており、紅蓮の後を虎が追い駆けていた。

駆け回り、紅蓮は美麗の元へ戻り止まった。


「あ~!楽しいー!

こんな大きな狼に乗るのは、初めてよ!」

「私の国には森を守る狼達がいて、その狼達は一匹一匹、凄い大きいの!」

「森を守っているって事は、妖怪なの?」

「獣妖怪。

でも、獣妖怪の一部は人を襲ったりはしないよ。


人が、酷いことしない限り」


ふと頭に過ぎる記憶……ボーッとしている彼女に、紅蓮は体を擦り寄せた。


「私はそんな事しないわ。妖怪が住む場所を、壊すようなことは決して」

「そう言う人だけだったら、良かったのに。

そうすれば、妖怪も人も仲良く暮らせるのにね」

「そうね!

美麗は、倭国のどこに住んでいるの?」

「幸人と秋羅が住んでる家だよ。

2人の家には、猫又っていう妖怪と牛や馬、鶏がいるんだよ!」

「とても広い家なのね。


美麗は、お父様やお兄様と一緒に暮らしているの?」

「え?違うよ」

「違う?」

「幸人は月影っていう性を持った、祓い屋。秋羅は幸人の弟子。

パパでもお兄ちゃんでもないよ!」

「では、ご両親は?」

「いないよ。

小さい頃に、亡くなった。その後、ずっと北西の森で紅蓮達と暮らしてた」

「……


でも、何で2人の元へ?」

「森にいた動物を、悪い奴等が金目当てで捕まえようとして。

その動物を見逃して、その代わりに私と紅蓮を連れてけって。そんで、その闇市場で2人に買われたの!」

「……凄いわ!美麗!

あなた、とても勇気があるのね!」

「へへ!それほどでも!」


楽しそうに話す2人の様子を、どこか羨ましそうにして梨白は眺めていた。
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