桜の奇跡 作:海苔弁
「……何の騒ぎ?」
『外で何かあったみたいだな……
ここで、美麗と待ってて』
「はい」
『美麗、起きて。
護衛の時間だよ』
「ふぁ~い……」
大きくあくびをしながら、美麗は起き上がった。起きた美麗の頭を軽く撫でると、天花は銃を持ちながら少し戸を開けて外を見た。
その行為に、夜白は美麗の傍へ行き彼女の服の裾を握った。
“パリーン”
「キャァアア!!」
『しまった!!
美麗!!姫君!!』
天井窓が割れ、見上げた美麗は夜白を囲うようにして氷を張り、硝子の破片から彼女を守った。
その時、割れた窓から何かが落ちてきた。それは黒い煙を放ち、部屋を覆った。
「美麗!!」
『美麗!!夜白!!』
煙に覆われ、視界を奪われた美麗の背後から何者かが手を添えた。
「!!」
噴き出る血……鋭い目付きで、美麗は後ろにいた者に小太刀を突き刺し攻撃した。
「……ただのガキじゃないか」
「……
悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!
大気よ、風を起こし給え!!」
風を起こし、辺りに漂っていた煙を吹き払った。煙の中にいた者は、素早く天井から釣らされていたロープを引っ張りその場から姿を消した。
煙が晴れ、立ち止まっていた天花と外で見張っていた紅蓮は、すぐに美麗達の元へ駆け寄った。
『無事か?!怪我は!』
「平気!
そうだ!夜白を」
夜白の周りに貼っていた氷を解き、美麗は彼女の手を引き天花の元へ行った。
「夜白!!」
勢い良く戸を開け、夜白の名を叫びながら女性は駆け込んできた。
「お母様!!」
そう言いながら、夜白は母親の元へ駆け寄り抱き着いた。
その光景を見て、ホッとしながら天花は割れた窓硝子と窓を交互に見た。
『……(まさか)』
「天花ぁ!
夜白のママが、王室へ来てって」
『分かった』
幸人達がこの事を知ったのは、報せへ来た討伐隊の部下からの報告だった。
彼等はすぐに城へ戻り、王室へ駆け込んだ。中には、玉座に座る夜白の母と母の傍に立つ夜白、その近くに梨白、天花、美麗、陽介、紅蓮がいた。
「あ!幸人!秋羅!」
天花の傍にいた美麗は、紅蓮と共に2人の元へ行った。
「襲撃があったって、聞いたが……
姫君もお前も、無事みたいだな」
『誰に教わったかは知らないが、しっかりと戦えていた。
そのおかげで、姫君も彼女自身も襲われることもさらわれることもなかった』
「流石!」
「紅影、これで全員か?」
玉座に座っていた夜白の母は、彼女と共に段を降り花琳の元へ歩み寄った。花琳は軽く一礼をしながら、返事をした。
「はい、女王様」
「堅くならなくて宜しい。
美麗と言ったな?
大事な娘を守ってくれて、ありがとう」
「ありがとう!美麗!」
「へへ!」
「これで確証したな」
「あぁ」
「確証?」
「……今回人身売買の盗賊団の標的は、美麗だ」
「え?」
「そんな……」
「裏の情報から、今回の標的の容姿と彼女の容姿が一致しています」
「……」
「と言うことだから……
梨白、次からは一人でお願い」
「分かった」
「え?美麗は?」
「彼女は、我々と一緒に行動させ」
『美麗は私と行動して貰う』
不安そうな顔をしていた美麗の頭に、手を置きながら天花は言った。
「婆……
年寄りにそんな事」
言い掛けた幸人の腰に、天花は強烈な回し蹴りを食らわせた。もろに食らった彼は、腰を抑えながらその場に蹲った。
『生憎、私は貴様等と歳は然程変わらない。
婆扱いするでない!!』
「へ、へい……」
「幸人、大丈夫か?」
「痛そう……」
「蹲ってないで、とっとと持ち場に戻れ」
『それじゃあ、私達は紅影の森にでも行くとするか』
「森?何で?」
「森にネロ達がお留守番してるの」
「ネロ?」
「竜の名前。
ママになったのに、まだ甘えん坊なんだ!」
「まぁ!私も一度会ってみたい!
お母様!私も!」
「分かったわ。
夜白、私はこれから仕事です。大人しくしていて下さい」
「……はい」
「梨白、夜白をお願いね」
「……あぁ」
数人の使いを連れて、夜白の母は部屋を出て行った。
「……梨白」
「?」
美麗に手招きされ、梨白は屈み彼女に耳を近寄せた。美麗は、小声で質問した。
「夜白と兄妹?」
「は?何言っているんだ……
そんな訳ないだろう」
「え?違った?
おっかしいなー」
彼等の様子を、玉座近くにいた者がジッと見ていた。その目線を、天花は見逃さず美麗を連れて王室を出て行った。
森へ来た美麗と天花……
エルから降りた美麗の元へ、ネロ達は駆け寄り頭を擦り寄せてきた。
「ハハ!くすぐったいよ!」
『一時も、離れたくないんだよ。
さて……
出て来たら?じゃないと、帰る時の言い訳、出来ないぞ』
天花の声に応えるようにして、茂みから黒いフード付きのマントを着た夜白が、フードを取りながら姿を現した。
「あ!夜白!」
『母上から駄目だと言って、城から抜け出すところ……
真白ソックリだな』
「真白?」
「誰?」
『貴様の曾祖母様さ』
「曾お祖母様?
あれ?確か、美麗も私のことを見て“真白”って……」
『当たり前だ。
貴様の曾祖母様は、一度だけ祖国へ来たことがある』
「曾お祖母様が?」
『あぁ。
美麗にも、一度会っている。覚えてないか?』
「う~ん……
あんまり……ただ、真白の事は覚えてる。夜白と同じで凄い優しくて明るくい人だったよ!」
「まぁ!美麗ったら!
それより、その竜があなたが言っていたネロ?」
「そうだよ!」
自身に擦り寄るネロの頭を撫でながら、美麗は手招きをし夜白を呼んだ。夜白は恐る恐る近寄り、彼女の隣に立った。美麗は彼女の手を握るとその手を、ネロの頭に乗せた。
「み、美麗!」
「大丈夫!ほら」
「……」
夜白に撫でられたネロは、口を顔に近付けると彼女の頬を舐めた。
「ね!」
「え、えぇ!」
その時、何かの物音に美麗は警戒態勢を取りながら、辺りを見回した。
「美麗?どうしたの?」
「……さっきの奴と同じ気配がする……」
「え?」
『美麗、エルに乗ってすぐにここから』
「させんわ!!」
その声と共に、茂みから黒い盗賊の服に身を包んだ者が姿を現し、前にいた夜白の首にナイフを当て人質に取った。
「夜白!!」
「そこを動くな!姫の命は無い!
美麗と言ったな?」
「……」
「姫を助けたければ、お前が身に着けているバックと小太刀を外せ」
「え……」
戸惑う美麗……その時、美麗の傍にいたエルは、鳴き声を放ち始めた。それに合わせて、ゴルドとプラタも鳴き声を上げ、ネロは盗賊に向かって咆哮を放った。咆哮から来る風で、盗賊の顔を隠していた布が取れた。
「!!」
『やはり貴様だったか……』
「……り、柳遠?」
そこにいる柳遠は、弱々しく心配性な彼ではなく、強靱な体と鋭い目付きになっいた。