桜の奇跡 作:海苔弁
麻袋に出来た穴から、外を見ていた美麗は縛られている手を動かしながら、辺りを警戒していた。
薄暗いランプが照らす中、いくつもの牢屋がありその中に、さらわれたであろう女子供が、手足に鎖の枷を着けられ閉じ込められていた。
彼等がある一室に入る音と共に、美麗は麻袋から出された。雷戯に腕を掴まれ無理矢理立たされると、その部屋は蝋燭の明かりだけで照らされていた。
(……不気味な部屋)
「連れてきたぞ、大将。
お望みの子供」
雷戯の声に、暗闇の中からゆっくりと姿を現す女性……
腰まである長い髪を、ポニーテイルにし隠すように垂らしている前髪から見えるのは、左顔に大火傷の跡かあった。赤く光る目を、美麗に向けながらゆっくりと歩み寄った。
「……この子が、あの例の子?」
「そうだ……
珍しいだろう?白い髪に大将と同じ、赤い目。
結構な高値で、売れると思うぜ?」
キョロキョロと辺りを見ていた美麗の顔を、無理矢理大将に見させながら雷戯は話した。
ジッと見つめ合う美麗と大将……
その時、美麗は何かを思い出したのか、彼女を見つめながら口を開いた。
「李咲?」
「!!」
その名を聞いた途端、大将は顔を隠しながら後ろへ下がり息を乱した。そして、キッと美麗を睨んだ瞬間、彼女の頬を思いっ切り引っぱたいた。
「すぐにそいつを、地下牢に入れろ!!」
「え?」
「た、大将?」
「早くしろ!!」
叩かれた拍子に、座り込んでいた美麗を担ぐと雷戯は3人を連れて、その部屋を出ていった。
1人になった大将は、壁を力任せに殴った。
(何故……何故あの小娘が……
クソ!!)
「おい、幸人どうした?」
小型無線機を耳に当てていた幸人は、険しい顔をしながら無線機を離した。
「無線機から、音が聞こえなくなった……」
「!!」
「それって、美麗に」
「アイツの声を最後に聞こえなくなった……
無事でいるといいんだが……」
『クソ!!アジトはどこにあるんだ!
空から偵察しても、それらしき建物は無い……』
「婆落ち着け、血圧上がるぞ」
すると彼等の元へ、ネロが舞い降り背から人の姿をした紅蓮が飛び降りた。
「紅蓮!」
『奴等のアジトが見つかった』
「!!」
『どこだ!?そこは!』
『ついて来い』
ネロに向けて、紅蓮は頷くと町の方へ駆けて行き、その後をネロと幸人達は追い掛けていった。
地下牢……
鉄の扉がある部屋の前で、凛は見張るように立っていた。そこへ、腕に包帯を巻いた雷戯がやって来た。
「ガキの様子は?」
「ん~……大人しく寝てますね」
ドアにつけられていた鉄格子の小窓から、凛は中を覗きながら言った。
中では、置かれているベッドの上で、美麗は毛布に包まって眠っていた。
「薬が効いてるみたいですね」
「効かなきゃ困る。
ったく、注射如きであんな暴れるか?」
「嫌いなんだろう?」
「嫌いでも、あんな暴れるガキ初めてだ。
クソ、噛み付かれた傷がまだ痛む」
「3人掛かりで抑えて、やっとでしたもんね?」
2人が外で話している中、美麗は毛布の中で体を震えさせながら、丸まっていた。
(嫌だ……嫌だ……
帰りたい……帰りたい……
帰る?どこに?
どこでもいい……帰りたい……
あそこに……
晃)
港に来た幸人達……
紅蓮は、指を差しながら説明した。
『あの奥の倉庫に、地下へ行く階段がある。
美麗はその中だ』
「倉庫の地下ねぇ……
道理で、見つからないはずだわ」
『入るには、あの見張り9人を倒すことだ』
『なるほど……
幸人、陽介、準備しろ』
「了解」
「応」
「え?何、するの?」
「俺なんか、スッゲぇ嫌な予感がするんだけど」
「私も……」
見張りをしていた盗賊の一人が、足音に気付き振り返った。次の瞬間、脳天が撃ち抜かれた……倒れた盗賊に気付いた他の仲間達が、武器を構える余裕もなく次々に撃ち抜かれ、襲撃の報せを報告する前に、見張りは全員倒された。
全員いなくなり、安全を確保すると幸人は、建物の影に隠れている秋羅達に合図を送った。
「うわぁ……本当に殺っちゃった」
『こういう輩は、捕まえて檻にぶち込んでも、また同じ事を繰り返す。
殺って当然だ』
「……」
『それで、どこなんだ?
地下へ続く階段は』
『ここだ』
積まれていた荷物を、炎で燃やし紅蓮はそこから現れ出た階段を指差した。
「……ちょっと、ヤバいな」
「だな……」
「暗輝、ここで花琳と待機だ。
下手したら、外にいる仲間が戻ってくる可能性が高い」
「分かった」
「待って。
これは私の依頼よ。依頼主の私が行かなきゃ、意味がないじゃない」
「また地獄を見るぞ。
それでもいいのか?」
「別に構わないわ」
「……
分かった。
秋羅、代わりに残れ」
「わ、分かった」
互いを見合い頷くと、紅蓮を先頭に地下へ入って行った。
暗い空間……そこで丸まっていた美麗は、ゆっくりと目を開けた。
目に映る光景……暗い世界の中、一筋の光が差し込んでおり、そこに目を向けた。
近付く光……その光に辿り着いた時、彼女の足に地が着いた。
(……どこだろう……
ここ……?)
風に乗って、ヒラヒラと飛んでくる花弁……花弁が飛んでくる方向を、美麗は振り返り見た。
そこは、木の柵で囲まれた2階建ての家だった。小さい木の扉に手を掛け、中へ入り見回った。
花が咲き誇る庭に立つ一人の男……
(……あの人……知ってる。
それに、ここも知ってる……
でも、思い出せない……)
男は、振り返り笑顔を見せた。そこへ駆け寄ろうとした時、自身が立つ横から小さい少女が駆けてきた。
『晃ー!』
呼びながら、少女は晃に飛び付いた。尻餅を着く彼は、受け止めた少女の頭を撫でながら、抱き上げた。
その光景を見た美麗は、不意に涙が頬を伝った。
(……何で……
分からない……分からない……
思い出せない……)
スッと目を開ける美麗……上から掛けていた毛布を取りながら、彼女は起き上がった。
(……)
ふと自身の手を見ると、手袋の手枷が嵌められ、足にも枷が着けられ、地面の金具に繋がれていた。
「……まただ……(あれ?何で、また?
私、昔もこんな事されたのかな……
何で、普通に生きてちゃいけないんだろう……
ただ、あそこで暮らしたいだけなのに……
あそこ?
あそこって、どこ?)」
ダラリと下ろしていた手首に、着けられていたブレスレットの妖魔石が不気味に光った。
地下へ入ってきた幸人達は、見張りにいた盗賊達を次々に倒していった。その騒ぎと共に、雷戯達がいる部屋へ下っ端が駆け込んできた。
「侵入者です!!
それもかなり強豪の!」
「全員配置に付け!
地下牢の見張り達にも、徹底的に警戒しろと伝えろ!」
「は、はい!」
「凛、テメェはガキの牢屋を頼む」
「了解」
「その他は、侵入者を見付け次第殺せ。いいな?」
「はっ!」
地下の廊下で、見張りをしていた盗賊達は、銃口を向け引き金を引こうとするが、引く直前に彼等の体に次々と弾丸が貫いた。
『全く、最近の奴は銃の扱いを知らないのか?』
「婆が異常なんだよ」
『私のどこが異常だ?』
「全部だよ!!」
『私は普通だ!』
幸人の背後から襲ってきた盗賊に、幸人と天花は同時に裏拳と正拳を食らわした。
「……お見事」