桜の奇跡 作:海苔弁
「早い……」
窓の外を見ていた紫苑は、汽車のスピードに少々驚きながらも、窓にへばり付き外を見ていた。向かいの席に座っていた秋羅は、得意気に話した。
「一応、汽車だからな。
馬や狼よりは、早いと思うぞ」
「紫苑は乗るの初めてなのか?」
「……初めて?」
『何回かは乗ってるが、ほとんどが貨物列車だ。
オマケに、逃げ道を知られないように目隠しされてたし』
「何か、聞かない方が良かったか?」
『別に構わん。
紫苑が逃げたいと言えば、あんな場所簡単に逃げ出せる』
「それはそれで凄いぞ」
長い冬が終わり春が近付く頃、幸人の元へ依頼が届いた。
汽車で5駅程行った場所にある、都会から離れた小さな村に住み着いている妖怪の駆除をして欲しいと、依頼があった。
「住み着いてる妖怪の駆除って言うけど、飼ってるのか?」
「襲いに来るのはまだしも、飼うってどういう神経してるんだが……」
「俺等も人のこと、言えねぇだろ?」
「あ……」
目的地である駅に着き、幸人達は汽車を降りた。車両から降りた紫苑は、興味津々に辺りを見ながら駅を見た。
後から降りた秋羅は、構内を歩き回る紫苑を押さえながら、幸人に質問した。
「そういや、どこなんだ?依頼主の家は」
「この町を出た先にある小さな町だ。
今から歩いて行けば、夕方頃にはその町に着く予定だ」
「そんじゃあ、早く行こうぜ。
少しでも早く着けば、仕事内容聞けるし」
「だな……っと、その前に」
紫苑の後ろへ回った幸人は、彼女の着ていたコートの帽子を彼女に被せた。
「髪の色が珍しいから、裏の奴等から目を付けられる可能性が高い」
「裏の奴等?
地下にいた、あいつ等みたいな?」
「ま、そうだ」
「俺等から、離れるなよ!」
『そんなもん被って無くとも、紫苑に近付く輩はこの俺が』
「町の中では絶対に、狼になるな!!」
『は、はい……』
町を歩く幸人達。紫苑は右へ行ったり左へ行ったりと、見る物全てが珍しいのか、チョロチョロと動いていた。彼女を見失わないように、紅蓮は後からついて行き二人の後を秋羅がついて行った。
町の広場へ出た時だった。中心部に建っていた時計塔から、巨大な音が町全体に鳴り響いた。
「で、デケぇ音……」
「ビックリしたぁ……って、紫苑は?」
『音にビビって、俺の後ろにいる』
「あれ…何?」
「ビビらなくていいぞ……
あれはな、時計塔って言って大きな音を出して時間を報せる物なんだ」
秋羅の説明を聞く紫苑。そんな彼女を、人混みの中である人物が目を付けていた。
町にあった飲食店で、幸人達は昼食を取っていた。ご飯を食べながら、幸人と秋羅は自分達に向けられている目線の主を警戒していた。
「……幸人」
「……秋羅。
紫苑を連れて、先に町の外に出てろ」
「分かった」
二人が小声で話していた時、紫苑は何かの気配を感じたのか、辺りを警戒しだした。それは紅蓮も同じだった……彼は、鼻を動かしながら辺りを見つめ、そして店の隅の席に座っている怪しい男の姿を見つけた。
(……あいつか)
誰も見ていないのを確認すると、紅蓮は指を鳴らした。
次の瞬間、男の服に突如燃え上がり、飲み物を飲んでいた男は燃える服に気付き、慌てふためいた。
その様子を見て、幸人達は金をテーブルに置き、知らん顔で店を出て行った。
『ざまぁ見ろ』
「やっぱお前か」
「あいつ、私達のこと見てたけど……」
「お前狙いだろうな」
「早く町から出ようぜ」
「その方がいいな。
紫苑、行くぞ」
「うん」
夕方……
目的の町へ来た幸人達は、村へと入り村長の家へ向かった。家に着くと、傍に牧場がありその隅に生えている木の下に、首を鎖で繋がれた獣がいた。
「何だ?あれ」
「珍しいな、西洋の妖怪がここにいるなんて」
「西洋の妖怪?」
「確か名前は、グリフォンだ」
「グリフォン……へ~」
「月影様ですか?」
家から出て来た男は、そう言いながら幸人達の元へ歩み寄った。寄ってくる男に警戒しながら、紅蓮は紫苑を自身の後ろへ隠した。
「この村の村長、宮内と言います。
さぁ、中へ。お話はそれから」
「分かりました」
中に入り、案内された部屋に行くと二人は、置かれていた椅子に座った。紫苑は部屋に置かれていた本棚に、目を奪われ眺めそして、一冊を取り出すと幸人達の傍に座り読み出した。
「珍しい本ばかりですね」
「それは全て、祖父が集めた物です」
「祖父さんが?」
「えぇ。
祖父は異国で、妖怪の研究をしていました。そしてある日、どこからかあの獣を連れて帰ってきたんです。
まぁ、祖父がずっと面倒を見ていたので、誰も文句は言いませんでした。
しかし、先月祖父が亡くなってしまいまして……それと共に、あの獣が夜中に突然鳴くようになってしまい……それだけなら未だしも、人の庭を荒らし回るようになって……」
「まさか、あの妖怪を駆除して欲しいって事か?」
「はい……正直、うちで世話するのはもう……」
「……」
「……許可書はありますか?」
「え?」
「異国の妖怪を、ここへ持ち込む場合、妖討伐隊から許可書を貰わなければなりません。
無断で持ち込んだ場合、それ相応の罰則が課せられます」
「そ、そう言われても……全ては祖父がやっていたので、許可書がどこにあるかなど!」
「では、上の方に連絡し祖父の名前を探させますので、彼の名前を」
「あ、は、はい……」
名前を聞くと幸人は、立ち上がり電話を借り掛けた。その間、紫苑は部屋を出た。
「おい紫苑!」
『俺が付く』
「分かった」
「妹さん、どうかしたんですか?」
「多分、外にいるあれに興味を引かれたのかと」
外へと出た紫苑は、グリフォンにゆっくりと歩み寄った。グリフォンは彼女に気付くと、鳴き声を上げながら立ち上がった。
紅蓮は狼の姿へと変わり、彼女の前に立ち唸り声を上げた。
「紅蓮、大丈夫」
『いいのか?』
「うん。平気」
紅蓮を後ろへ行かせると、紫苑はグリフォンの方を見た。ジッと見つめる紫苑……彼女の目を見たグリフォンは、鳴くのをやめ急に大人しくなった。
「え?あった……んですか?」
電話を終えた幸人は、メモられた紙を見ながら宮内にそう言った。
「あるにはありました。
しかし、飼い主が死んだという事になると、この許可書は破棄されます」
「そ、そんな!!
そちらで、引き取ることは出来ないんですか!?」
「引き取るって」
「出来なければ、即刻あの妖怪を駆除して下さい!!
村長の立場として、あれがいるのは迷惑なんです!!僕は、扱うことが出来ないんで……」
「……引き取るとなると、手続きが必要となってここにいる期間が予定より、ずっと長くなりますが……」
「それでも構いません!!お願いします!」
深々と頭を下げる村長に、幸人と秋羅は少々困った顔をして互いを見合った。