桜の奇跡 作:海苔弁
「暴れない方がいいわよ?
怪我するから」
注射器を手に、香月は美麗の前に姿を現した。
「まさか、また会えるなんて……
あなたも聞いたことがあるでしょう?
半妖の血を浴びると、長生きになれるって。
じゃあ、その血を体に入れたら、どうなるのかしら?」
「……知らない……
そんなの知らない!!」
「ほら、暴れない……
血を採るのに、このブレスレットは邪魔だから外しましょうか?」
「!!
駄目!!外しちゃ!!」
「大丈夫。すぐに返すわ」
「駄目!!駄目!!」
ブレスレットに香月の手が触れた……美麗は何とか逃げようと暴れるが、無駄な行為に終わり留め具が外された。
「!!
嫌だ……
嫌だぁぁあ!!」
額に描かれていた雪の結晶の模様が、美麗の体全体に広がった。
「!」
何かを感じた幸人と花琳は、攻撃の手を止め辺りを見回した。
(……何だ?
この妖気)
「……幸人、この気配」
「……
とっとと美麗探すぞ」
弾を補充しながら、幸人達は奥へと進んだ。
その頃、外では異様な空気が漂っていた。その空気を、外で見張りをしていた秋羅と暗輝は感じ取り、警戒するようにして辺りを見回した。
「何だ?この空気……」
「……同じだ。
美麗が、妖力を発揮した時と」
「え?
それって、ヤバいんじゃ……」
「……?!
暗輝さん、あれ!」
侵入時に倒したはずの、盗賊達が次々と起き上がった……姿を変えて。
「な、何だ……あれ」
「秋羅!戦闘準備しろ!!」
「あ、はい!」
同じ頃、志那国王家に妖怪達が侵入していた。待機していた討伐隊は、全隊員出動し襲ってくる妖怪達を次々と倒していった。
城に残っていた梨白は、王室に入ってくる妖怪達を倒しながら、夜白と母親達を避難させていた。
(……やっぱり、残って正解だった)
「お兄様、上!!」
天井から飛び降りてくる妖怪を、梨白は鉄棍棒で突くと地面へ突き刺した。
「ここは危険だ。
早く避難するぞ!」
彼等を誘導しながら、梨白は王室から出て行った。
外へ出た時だった……
「お兄様、あれ!!」
「?
!!何だ……あれ」
港付近から空へと禍々しい煙が上がっていた。
「お兄様、美麗達……大丈夫ですよね?」
「……大丈夫だ。
先生も皆も強い……無事だ。
(先生……)」
(……帰りたい……帰りたい)
壁に手を掛けながら、美麗は歩いていた……彼女が歩く箇所には、一瞬氷が張るが溶けて水になっていた。
彼女が歩いている頃、幸人達は香月の部屋に着いていた。中には、気を失い倒れた彼女がいた。
「おい、大丈夫か?」
「……」
幸人の呼び掛けに、香月はゆっくりと目を開けた……
彼女は、何かが抜けたような目で彼を見ながら、辺りを見た。
「……ここは?」
「?」
「あなた、名前は?」
「……香月」
「……」
「ねぇ、お父さんとお母さんは?」
「え?」
「あれ?
お父さんとお母さんが、私を助けに来て……それで……」
「香月、そのくらいにしときましょう。
さぁ、立って」
花琳の手を借りて、香月は立ち上がった。何かに怯えているのか、震える手で花琳の腕を掴んだ。
「大丈夫よ。もうすぐ外へ出られるわ」
「本当?」
「えぇ」
「……」
「話がごちゃごちゃになってるな?花琳」
「……何か訳があるかもしれない……
急いで、美麗を探しましょう」
その時、ここへ近付く足音が聞こえてきた。幸人と陽介は銃を手に、ドア付近に立ち構えた。足音に怯えた香月を、花琳は宥めながら後ろへ行かせた。
近付き、入ってきた者に2人は銃口を向けた。同時に2人にも、銃口が向けられた。
「婆……」
『貴様達か……ビックリしたぁ』
「……?
後ろにいるのは?」
『君の曾孫、君ソックリだね』
『からかうな』
「……その容姿……紅蓮か?」
『まぁ、半分正解だな』
「え?」
「……まさか」
『そのまさかだよ。
それより、美麗はどこ?』
「この部屋にはいないわ。
いたのは……」
花琳にしがみついている香月に、晃は天花と顔を見合わせた。晃は歩み寄り、怖がっている彼女の頬を撫でながら、目を見た。
『……彼女からは、いなくなってるよ』
『美麗を追い駆けたって事か?』
『それか、次の器を探しているか。
よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。
僕等といれば、安全だから』
優しく掛ける晃の声に、香月は薄らと微笑んだ。
『彼女を早く、外に』
「だな。
花琳、頼む」
「えぇ。
香月、一緒に外へ出ましょう」
「……うん。
ねぇ、私のお父さんとお母さんは?
この牢屋にいるはずなの」
「後で、この人達が見付けたら連れてくるわ。
今は、先に外に出ることを優先しましょう」
「……」
頷くと香月は、花琳と一緒に外へと向かった。
後ろにいた天花は、ふと地面に落ちている物に目を向け、それを拾った。
『……幸人。
早く美麗を探し出さないと、ヤバいぞ』
「?」
首を傾げる幸人に、天花は拾ったものを見せた。それは、留め具が壊れたブレスレットだった。
「……ヤバいどころじゃない。
下手したら、俺等を攻撃するぞ」
『彼女を見付けたら、逃げないように見張っててくれ。
後は、僕がやるから』
「平気か?
妖怪化した美麗は」
『敵味方関係無しに攻撃する…だろ?
大丈夫。それはね……そうでもしないと、酷いことをされるって、記憶してるからだよ』
「……それって」
『無駄話している暇は無い。
とっとと探しに行くぞ』
『そうだね』
幸人に一瞬、微笑みを浮かべた晃は先に歩き出した天花の元へ駆け寄り、並んで歩いて行った。
壁に凭り掛かり、座り込む美麗……息を乱しながら、自身の手を見た。
(……周りが……凍ってく……
早く……逃げないと……
また、実験台に……嫌だ……嫌だ)
ふらつきながら立ち上がった美麗は、歩き出そうとした時だった。
目の前に立つ人に、美麗はゆっくりと顔を上げた。
そこにいたのは、雷戯だった……
「テメェ、どうやって……」
「……」
「こちら雷戯。
逃げ出したガキ、見付けた。合流地点へ連れて行く。
と言う訳だ……大人しくして貰うために、こいつを打たせて貰うぞ」
そう言いながら、出した注射に美麗は怯えだし震えながら目に涙を溜めて、後ろへ下がり逃げようとした。
だが、後ろには既に羅臼が待ち構えており、彼は美麗の腕を掴み関節技で拘束し、雷戯の元へ連れてきた。
「テメェ、さっきと何か様子違うな?」
「嫌だ!!嫌だ!!
帰る!!帰る!!」
「悪いが、帰れねぇよ。
連れてくぞ」
「応」
「嫌だ!!嫌だ!!」
「(あんまり、着けたくはなかったが……)
抑えてろ」
床へ倒した美麗の口に、猿轡をした。声が出せなくなった彼女は、さらに暴れ手を縛っていたロープを解こうともがいた。
「しっかし、何なんだ?
この異様な空気は」
「そこら中に、妖気が漂ってるって感じだな」
「流石半妖。
感じるのか?」
「まぁな」
美麗を担ごうとした時だった……彼女を囲うようにして、現れ出た氷の柱。
生え出た柱の一部が、美麗の縄を切り手が使えるようになった。すぐにロープを解くと、一目散に怯んでいる雷戯を横切り、駆けて行った。
「逃がすな!!追え!!」