桜の奇跡 作:海苔弁
(……逃げなきゃ……
逃げなきゃ……早く)
取れかけていたもう一つのブレスレットを、美麗は手に掛け外そうとした。
“ガチャ”
美麗が閉じ込められていた部屋の前で、倒れている凛……
彼女の周りに、黒い魂がフワフワと飛び回ると、体の中へスッと入って行った。
黒いオーラが一瞬放たれた……凜はスッと目を開けた。
「……あなたの体を、借りるわ。
今から、私は凜……さぁ、美麗を探さなくてわ」
開く扉……外から入ってきたのは、天花と幸人だった。同時に、ブレスレットが外れた。美麗は入ってくる二人に警戒しながら、ふらつく足で立ち上がった。
「婆、本当にこの部屋にいるのか?」
『間違いない。気配はする』
「気配って……」
『いるのは間違いないよ。
幸人だっけ?足元、見てごらん』
足元を照らすと、床には水溜りが点々としていた。陽介に部屋の戸を閉めさせ、幸人達はランタンの明かりを辺りに照らし、彼女を探した。
「……?
美麗!」
部屋の隅で立っていた美麗を、幸人は見つけた。
「探したぞ。さぁ」
近づこうとした幸人に、美麗は氷の柱を立たせ威嚇した。咄嗟に後ろへ下がった彼は、ランタンの明かりを美麗に照らした。
青い瞳に、涙を溜め体を震えさせながら、美麗はそこに立っていた。
「美麗……!(もう一つのブレスレットが外れてる……
やばい……今妖力を抑えてるのは、あのペンダントだけだ。もし、あれも外れたら)」
「……」
『幸人、下がって』
「え?」
『ドアの前に、陽介と立っててくれ』
「……」
『天花は後からお願い』
『分かった』
ランタンを置き、幸人はドアの前に立った。彼を目で追っかけた美麗の前に、晃と天花は立った。
「……」
『おいで、美麗。
何も怖いことはしないよ』
優しく声を掛ける晃に、美麗は身を縮込ませてもう後がない後ろへ下がろうと必死だった。
『何もしないよ。
一緒に帰ろう。ね』
「……」
“帰ろう”……
その言葉に、反応した美麗は浅く息をしながら晃と天花を見た。
『一緒に帰ろう。美麗』
差し伸べてくる晃の手に、美麗は恐る恐る手を出し触れた。その瞬間、彼の手が凍り付いた……それを見て、怯え出した美麗だったが、晃は後ろへ下がろうとした彼女を引き寄せ、しっかりと抱き締めた。
『ほら、もう大丈夫。
僕等と居れば、安全だからね。だから、怯えることはないよ』
「……」
『もう、実験はしないよ。
だから美麗、一緒にここから出て帰ろう』
晃の問いに、美麗は頷き彼に抱き着いた。彼女を抱き直し、晃は地面に落ちていたブレスレットを拾い、ドアの前に立っている幸人達を呼んだ。
「平気なのか?」
『もう大丈夫だよ。
天花』
『あぁ。
美麗、ちょっと後ろ向いててね』
懐から針金を出した天花は、美麗の頭を掴み猿轡の鉤を解錠しようと、鍵穴に差し込み弄った。怖がり動こうとする美麗を、抱いていた晃は宥めなが大人しくさせた。
『大丈夫、大丈夫。
口に着けてる物を、外すだけだから。少し我慢しようね』
美麗を宥める晃を見て、陽介は隣にいた幸人に言うように口を開いた。
「まるで、親が怖がる小さい我が子を宥めているようだな」
「ああ見えても普通に100を超えている大人だ。だが、妖力を抑えてる関係上、幼く見えるのは仕方ない事。
それに、今は妖力を解放している状態……恐らく、今の美麗は100年前、本部で保護されていた頃の姿だろう」
「貴様に説明されずとも、理解している」
「だったら、説明させるな」
『よし、外れた』
猿轡を外された美麗は、晃の肩に頭を置いた。
「晃は良くて、俺は駄目ってか?」
『そう言うな』
「それより、体は大丈夫なのか?貴様」
『え?どういう事?』
陽介が指差す方に目を向けると、晃の体は一部が氷付けになっていた。
『ありゃま』
『足はともかく、手に何か嵌めておくか』
『さっきの枷でも、嵌めておく?』
『冗談でも、それは止せ』
『だよね……』
枷という言葉に、美麗は怯えだし晃の服を強く掴み冷気を放った。
『それ見ろ、晃が変なこと言うから怖がってるじゃないか』
『ゴメンゴメン。
ほら、氷溶かすから降りよっか』
そう言いながら、晃は美麗を降ろした。降ろされた彼女は、晃の服の裾を掴みながら、辺りを警戒するように警戒するように、キョロキョロしていた。
「かなり警戒しているようだな……」
「何か、別の奴見ている様だ」
『ブレスレット着けて、二・三日寝れば元通りになる』
『天花の言う通り』
体から淡い炎を出し、晃は氷を溶かした。少し煙を出しながら、一息吐くとしがみついている美麗の頭を撫でた。
『少し、落ち着いたみたいだね』
「どういう事だ?」
『陽介、美麗の足下を見てみろ』
「?」
立っている美麗の足下には、水溜まりも水も氷も何も無かった。
「……」
『妖力が落ち着いた証拠だ』
『さぁ、外に出よう。
ここ、あまりいたく……
そう簡単に、出られそうに無さそうだね』
「?……!」
振り向くと、そこには数匹の妖怪が立っていた。妖怪の姿に、美麗は晃の後ろへ隠れ怯えだした。
『あ~らら、美麗の妖気に寄って来ちゃったのかな?』
『呑気なことを言ってないで、とっとと逃げる準備をしろ。
幸人!陽介!戦闘用意!』
妖怪の鳴き声を合図に、3人は銃弾を放ち襲ってくる妖怪達を倒していった。咄嗟に美麗の耳を塞いだ晃は、彼女に微笑みながら目隠しになるように、前に屈んだ。
『大丈夫、大丈夫。
すぐ終わるからね。
天花、派手にやるのもいいけど、程々にね。一応、子供が見てるんだから』
『だったら、目隠しでもしていろ。
戦場に、大人も子供も関係ない』
『相変わらず、厳しいこと言うねぇ、君は』
ムッと晃を睨み付けながら、天花は懐から煙玉を出しその場から陽介達と走り出した。モクモクと煙が上がる中、晃は美麗を抱え先に行く彼等の後を追い駆けていった。
出口へ続く階段を、花琳は香月と上っていた。その時、上から物音が聞こえ香月は怯えた様子で、花琳の服の裾を掴み後ろに隠れた。
「大丈夫よ。そのまま私の後ろに隠れてて」
「……はい」
鉄扇を手に、警戒しながらゆっくりと登って行った。すると、上から傷が出来た盗賊が転がり落ちていき、花琳はふと、上を見上げた。出入り口付近に立つ、秋羅は暗輝息を切らしながら、そこに立っていた。
「花琳!?何でお前が」
「子供を保護したの。
暗輝、この子を連れて一旦城へ戻って頂戴。
秋羅、私と一緒に来て頂戴」
「いいのか?ここが無防備になるけど……」
「構わないわ。
これから、地下で戦闘が始まるから、人手が必要なの」
「それだったら、秋羅が必要だな。
あ、そうだ……
港に留まってる奴等の船から、さらわれた奴等救い出して、城に連れてくぞ」
「構わないわ。
できるなら、全員助け出して城に連れてきなさいと、女王様からのご命令よ」
「そうこねぇとな!!
ほら、行くぞ!」
「あ、はい!」
「香月、その人について行けば、安全な場所へ行けるわ。そこで会いましょう」
「え?香月って」
「後で説明するわ。
秋羅、行くわよ」
「は、はい!」
下へ降りていく彼等を見送ると、不安そうな表情を浮かべた香月に、暗輝は微笑みながら肩に手を置いた。
「大丈夫。花琳は強いんだぜ!
今まで、何人もの強靭を倒してきたんだ。心配いらねぇよ!」
「……きょうじん?
どういう意味?」
「……
後で、教えてやるよ。それより、城へ行こう」
「はい……」