桜の奇跡 作:海苔弁
「おいおい……あれ、なんだ?」
「……俺が、知りたい」
港付近へ集まる無数の妖怪。その光景は、まるで百鬼夜行のようだった。
「幸人!!ねぇ!」
気を失っていた幸人は、美麗の声でやっと目を覚ました。起き上がり辺りを見回すと、壊れた壁の破片がそこら中に散らばっており、その上に秋羅達が座っていた。
「……何がどうなってんだ?」
「妖怪が壁をぶち抜いて、ここに突進してきた」
「?」
「秋羅達は何とか避難できたけど、陽介と幸人は一歩遅れて……」
「崩れる瓦礫に巻き込まれたってわけか……陽介は」
「あの三人を地上に連れて行くって、花琳と」
「そうか……
お前は平気か?」
「……よく分かんない。
何か、頭の中がグルグルしてて……変な記憶が混ざってるって感じで……
そうだ……ねぇ、紅蓮は何で刺されたの?
私、何も」
「いっぺんに質問するな。
城に戻ったら、一つ一つ説明する。いいな?」
「……うん」
立ち上がり瓦礫の間を通りながら、幸人は秋羅達の元へ駆け寄った。
「妖怪共は、どういう状態だ」
「突進した奴なら、さっき天花さんが」
『ゆっくり話してる暇は無い。
早くここを』
“ドーン”
『逃さん!!』
突然どこからか飛び降りてきた妖怪は、美麗に目を付けると力任せに吹き飛ばした。飛ばされた彼女は、壁に体を叩き付けられ、そのまま瓦礫と一緒に地面へ落ち倒れた。
『美麗!!』
「何だ!?いきなり!!」
『極上の餌のにおいがして来てみたら……
美味そうだな?その女子』
「におい?
!!まさか!」
『ブレスレットが二つ取れてるせいで、美麗は今自分の妖力を抑えきれてないんだ……』
咳き込みながら起き上がった美麗は、傍にいた天花に抱き着いた。
『秋羅、美麗を頼む!
幸人!まだ戦えるな!?』
「バッチリだ!」
「天花待って!私も…痛!」
立ち上がろうとした美麗は、足に激痛が走りその場に尻を着いた。
『怪我しているんだから、大人しくしていろ!』
2丁の銃に弾を補充すると、天花は襲い掛かってきた中級の妖怪の脳天を撃ち抜いた。
2人が妖怪達を足止めしている隙に、秋羅は美麗を抱き上げ部屋を出ようとしたが、そこへ回り込んでいた数匹の妖怪が道を塞ぎ、彼等に襲い掛かった。
その時、炎が襲い掛かってきた妖怪達を消し去った。振り向くと、そこには炎を纏った紅蓮が大黒狼の姿で立っていた。
「紅蓮……なのか?」
すると、その姿を見た妖怪達が次々と、後ろへ下がりだした。
「な、何だ?
妖怪が、下がってる」
「……
秋羅、降りる」
「怪我は?」
「平気」
降ろされた美麗は、痛む足を引きずりながら、手を差し伸べた。だが、紅蓮は彼女の手を見向きもせず、妖怪達の方へ向くと咆哮を上げた。
「紅蓮?」
『何だ?
この咆哮は……』
咆哮に、妖怪達は攻撃をやめ後ろへ下がった。唸り声を上げながら、美麗を突き飛ばした妖怪に向けて、炎の玉を吹き出し攻撃した。咆哮に怯んでいた妖怪は、玉をもろに当たり焼け倒れた。
「……嘘だろう……」
『……自我を忘れているな……
幸人、美麗を担いでこの部屋から出るぞ。退路を開く!!』
「分かった。
秋羅、走れ!!」
自身達に襲い掛かってくる妖怪達を、次々と撃ち抜いていった。銃声に紛れて、幸人は美麗を担ぎ先に走っていた秋羅と共に、部屋を出て行った。
『行ったか……
紅蓮、こっちに』
差し伸ばした手が、光の粒となり始めた。天花は、自身の両手を眺めた。両手両脚の先から、光の粒がフワフワと空へ運ばれ、自身の体が消えかかっていた。
『嘘だろう……
紅蓮!!すぐに』
突如空から雷が鳴り響いた……その音に、走っていた秋羅達は足を止めた。
「な、何だ?」
「雷?」
雷で壊れた天井から、舞い降りる一匹の獣……
『……貴様は、確かあそこで』
『……時間だ。
お前も、分かっているだろう?』
『……』
『だがその前に、この黒狼を正気に戻すか……
さぁ、戻れ。お前には、やらなければならないことがあるだろう』
そう言い、生え伸びていた角を紅蓮の額に当てた。すると、そこから妖気が吸い取られていった。吸い取られた紅蓮の目は正気に戻り、頭を激しく振りながら辺りを見た。
『……俺、何が』
『……』
『これでいい。
さて……お前等は、どういう罰を与えようか?』
数発の雷を落とす獣に、攻め込んでいた妖怪達は怖じ気つき、一斉に身を引いた。
『……紅蓮』
『?』
『美麗のこと、頼んだぞ』
それだけを伝えると、天花は粒になり天へと昇って逝った。
『……月が真上に昇った時、あの場所へ来い。
小娘を連れて』
『え?あの場所?』
『場所は、あの西洋妖怪が知っている』
『……』
雷を放ち、獣は妖怪達を引き連れてその場を去った。
地下から出て来た幸人達……秋羅が出た直後、出入り口になっていた階段が崩れた。
「……!
紅蓮!!天花!!」
「先に城へ戻ってろ!!
陽介、来い!」
崩れた階段を跳び越え、陽介と共に幸人は建物の裏にある森へ行った。
秋羅の腕にいた美麗は、追い駆けようとした時だった。突如森から、出て来た妖怪は咆哮を上げてそこにいた美麗達に攻撃した。
「消えろ!!邪魔するなぁ!!」
秋羅の腕から降りた美麗の体から、妖気のオーラを放ちその力を糧に手から氷の刃を出しその妖怪に攻撃をした。倒れた妖怪を前に、美麗は地面に座り込み自身の手を見た。
「……何……今の」
座り込んだ彼女を、秋羅は抱き上げた。抱き上げられた彼女は、スッと目を閉じそのまま眠ってしまった。
「眠っちまった……」
「妖力を使い過ぎたのね」
「……」
「ここは2人に任せて、私達は城へ戻りましょう」
ふと空を見ると、晴々とした青空から数発の雷が大きい音と共に落雷した。それを合図に、町を襲っていた妖怪達が、次々と撤退していった。
「妖達が、去って行く……」
「あの雷……ここの妖怪達の親玉か何かか?」
森へ来た幸人達……土煙が上がる所へ行くと、崩れた天井を伝い出て来た紅蓮が、頭を振りながらそこに現れた。
「紅蓮!」
『?
幸人か……美麗は』
「秋羅達と一緒だ」
『そうか……』
「それより、曾祖母様は?」
『……消えた』
「え?」
「は?」
『時間制限があったみたいだ。
それで、時間が来てさっき』
「……」
「……婆らしい、別れだな」
「……」
被っていた帽子の鍔を掴み深く被りながら、陽介は下を向いた。幸人は、ポケットから煙草を取り出し、それを吸いながらしばらく空を眺めた。