桜の奇跡 作:海苔弁
城へ帰ってきた秋羅達は、すぐに傷の手当てをされた。その数時間後、遅れて幸人達は帰ってきた。怪我を負っていた紅蓮を、暗輝に受け渡すと幸人と秋羅は誰とも会話を交わすこともなく、部屋へ閉じ籠もってしまった。
数日後……
部屋で眠っていた美麗は、目を覚ました。ボーッとする中、部屋を一通り見回すと何かに気づいたのか、ベッドから飛び降り部屋を出た。
「あれ?起きたかい?」
声が聞こえ振り向くと、数枚の資料を持った榊が立っていた。
「随分、ゆっくり寝てたね?
起きれるって事は、体の方はもういいのかな?」
「えっと……
天花達は?」
「天花?
その人は知らないけど……
秋羅君は多分、外に……って、おい!」
榊の横を通り、庭へ出た。庭へ出ると、そこには討伐隊の兵士が見回りしており、彼等と目が合いそれと同時に、後から追い駆けてきた榊の言葉に、兵士達は一斉に美麗を捕まえようとし出した。
美麗は華麗に避けながら、兵士達に攻撃し庭中を逃げ回った。角を曲がった際、何かにぶつかり頭を軽く振りながら見上げた。
「……あ!
秋羅!」
「何やってんだ?お前……」
「いたぞ!」
追い駆けてきた兵士達の声に、美麗はすぐに秋羅の後ろへ隠れた。
「な、何てすばしっこいんだ……」
「あの、美麗が何かやりましたか?」
「急に部屋を飛び出したから、追い駆けちゃって……」
「そのまま追いかけっこ!」
「……」
「ねぇ秋羅、天花は?」
「そ、それは……」
「?
あと、紅蓮はどこ?」
「紅蓮なら、別室だ。
行くか?」
「うん!」
紅蓮が眠る部屋で彼の治療をしていた暗輝は、戸が開く音に気付き振り返った。
そこには、美麗と秋羅がおり先に入ってきた彼女は、まだ眠っている紅蓮に抱き着いた。
「紅蓮の様子は?」
「今んとこ、問題は無い。
寝てるのは、多分妖力を使い過ぎたんだろう。美麗と同様に」
「……」
「ねぇ、紅蓮いつ起きる?」
「もう少ししたら起きるよ」
「よかった!
ねぇ!天花は?天花は、どこにいるの?」
美麗の言葉に、二人は困った表情をしながら互いを見合った。その様子に、彼女は首を傾げると秋羅の元へ行った。
「ねぇ、秋羅。天花は?」
「……」
「秋羅?」
「……
美麗、落ち着いて聞いてくれ」
「……」
「天花さんは……天花さんは、もういないんだ」
「え?」
「地下から出たあの日に、突然いなくなってな……
幸人達が探しに行ったんだけど、どこにも」
「……何で……」
「?」
「何で天花、いなくなっちゃったの!
何で!」
「美麗……」
大粒の涙を流しながら、美麗は秋羅の服を引っ張りながら言った。
「何で!!何で、皆いなくなるの!!」
「美麗!」
「パパは森に行ったきり、帰って来なかった!!
ママだって、突然いなくなった!!
何で!!何で、皆」
言い掛けながら、美麗はフラッと倒れた。倒れた彼女を、慌てて秋羅は支え横に抱き上げた。
「まだ回復しきってなかったんだな……」
「……」
「無理もねぇよ。
突然、大事な奴がいなくなったんだ……混乱するに決まってる。
ましてや、美麗は中身がまだ甘ったれのガキと変わんねぇんだ」
「……確かに、そうですよね。
俺も、親父が死んだ時全然信じられませんでしたから」
眠っていた美麗は、暗闇の中をゆっくりと落ちていた。
スッと目を開けると、映画のスクリーンのように記憶が流れた。
母・美優に抱かれた幼い自分が、父・麗桜を見送っていた。しかし、それを最期に麗桜が自分達の元へ帰ってくることはなかった。
その1年の後、ベッドに寝込んでいた美優に頼まれ、美麗は花を摘みに行きその花を持って帰った。だが、その間に美優は亡くなった……理解できなかった幼い自分は、亡くなった彼女の周りに、摘んできた花を並ばせた。
その事を思い出した美麗は、涙を流しながら目を覚ました。外は既に暗く、涙を拭きながら美麗は起き上がった。その時、不意に戸が開き外から人の姿をした紅蓮が入ってきた。
「紅蓮!?何で……」
『……ちょっと来い』
「え?」
『早くしろ』
「え、待って!」
先行く紅蓮について行くと、庭にエルがいた。寄ってきたエルの頭を撫でる美麗を、紅蓮は問答無用で背中へ乗せ自身も乗ると、エルに合図を送った。
紅蓮の合図に、エルは翼を羽ばたかせある場所へと向かった。
とある丘へ辿り着くと、エルは身を低くし鳴き声を発した。美麗は恐る恐るエルから降り、辺りを見回した。彼女に続いて降りた紅蓮は、黒狼の姿へなり彼女の傍に立った。
辺りには、丘を埋め尽くすよう若葉が生い茂った木々が生え並んでいた。
「……凄ぉ……
(あれ?ここ、前にも……)
?」
風に当たりざわめく木々の音と共に、それは現れ振り返った。
「……!!
天花ぁ!!」
木の前にいた天花に、美麗はすぐに駆け寄り飛びついた。飛び付いてきた彼女を、天花は受け止め屈みながら撫でた。
『ごめんな。急にいなくなって』
「どこに行ってたの?
どこを探してもいなかったって」
『……美麗』
「?」
『私はもう、傍にはいられない』
「え……
何で……私が悪いから?」
『違うよ。
私は、元々この世の者じゃない。それは美麗も分かるだろう?』
「うん……」
『この世界の節理で、死んだ者は美麗や幸人達が住むこの世界にいちゃいけないんだ』
「じゃあ何で、天花は……」
『美麗を、守りたかったから。その願いで、この世に来れたんだ。
だが、その役目はもう果たした』
「……!
天花、体」
天花の体は徐々に光の粒となり、粒は天へと昇っていくようにフワフワと飛び出した。
『時間だ……』
そういって、天花は後ろに挿していた物を抜き、美麗に手渡した。それは、彼女が持っていた小太刀だった。
『私は消える……だが、魂はずっとこの小太刀の中で生きる。
ずっと傍にいるよ、美麗』
受け取ったと共に、天花は空へと消えていった。小太刀を強く握りながら、美麗は泣き喚いた。その泣き声は辺りの山々、森、そして志那国まで響き渡った。
スッと目を開ける幸人……
何かが光りその光を気にしながら起き上がると、目の前に半透明の天花が立っていた。
「……婆。
陽介、起きろ!」
「何だ……騒々しい…」
目を擦りながら起きた陽介は、彼女の姿を見て声を失った。固まっている二人に、天花は抱き寄せた。
『別れを言いに来た……
陽介、働き過ぎて体を壊すんじゃないよ。
幸人、手抜きもいいがたまにはビシッとしろよ。
あと二人共、美麗のことを頼んだぞ。
おい、泣くな……
貰い泣きするだろう。
貴様等にまた会えてよかった。立派に成長していて……私の自慢の曾孫だ。
じゃあな』
声を殺して泣く、二人の頭を撫でながら天花は静かに、天へと昇って行った。消えると共に、二人は地面に塞ぎ込み、明け方まで人知れず泣き続けた。