桜の奇跡   作:海苔弁

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「美麗、美麗。起きてるか?」


志那国から帰ってから、一ヶ月が過ぎた。

遠出の依頼も無く、簡単な依頼を熟す日々を幸人達は過ごしていた。


そんなある日、お昼を過ぎても美麗が起きてこなかった。不思議に思った秋羅は、部屋の戸をノックをしながら彼女の名を呼んだが、中からは何も反応が無かった。


「(どうしたんだ?いつもなら、もう起きてエル達に餌やってる頃なのに……)

美麗、入るぞ」


中へ入り、明かりを点けベッドを見た。頭から毛布を被った美麗が眠っていた。


「……美麗、どうした?」

「……」

「調子悪いのか?

ちょっと、顔見せて見ろ」


秋羅の言葉に、美麗は目元だけ毛布から顔を出し、秋羅の方を向いた。出た彼女の額に手を置くと、手が燃えるように熱かった。


「酷ぇ熱じゃねぇか!」


秋羅が額から手を離すと、美麗はすぐに毛布を被った。


「顔出せ!顔!


幸人!ちょっと来てくれ!」


美麗の部屋へ来た幸人は、彼女の熱を測った。真っ赤になった顔を出した美麗の額に、秋羅はタオルと氷を置いた。


「……かなり高いな。


今から水輝呼んでくる」

「分かった」


後遺症

数時間後……玄関を勢い良く開けた水輝は、すぐに二階へ上がり、美麗の部屋へ入った。

 

 

「水輝さん!早く、美麗を診て下さい!」

 

「すぐに診るから、そこを退いて。

 

ミーちゃん、ちょっと体触るよ」

 

 

手を伸ばしてきた水輝に、美麗は嫌がるようにして毛布を被った。

 

 

「美麗!それだと、水輝さんが診られねぇだろう!」

 

「秋羅、いいよ。

 

この熱、いつからか分かる?」

 

「気が付いたのが、昼過ぎなんで……いつからかは」

 

「まだ詳しくは分からないけど、パッと診たところ、熱以外の症状が無いみたいだね。

 

咳はしてないみたいだし……

 

 

嘔吐とかは?」

 

「してないです」

 

「食欲は?」

 

「……あるとは思うんです。

 

今朝から、何も食べてないんで」

 

「そっか……

 

 

ミーちゃん、お腹減ってる?」

 

 

水輝の問いに、美麗は首を左右に振った。その答えを見た水輝は、着ていた白衣を脱ぎ、腕捲りをしながら美麗の毛布を剥ぎ、顔だけを出させた。

 

 

「ちょっと首を触るよ。大丈夫、痛い事はしないから」

 

「……」

 

 

丸まっていた美麗は、水輝の方に体を向かせた。水輝は、首を軽く押すようにしながら触り、首に掛けていた聴診器で、彼女の胸やお腹の音を聞いた。

 

一通り終わると、眠ってしまった美麗に毛布を掛け、秋羅と共に部屋を出た。

 

 

 

「ストレスからくる熱?」

 

 

椅子に座った水輝は、美麗の診断結果を秋羅と幸人に話していた。

 

 

「私の結果ではね。

 

胸やお腹の音を聞く限り、至って正常。

 

首も触ってみたけど、別に腫れてるわけではなかった……

 

 

けど、あの熱は異常。普通の人であの熱が出たなら、何かしらの症状があってもおかしくない」

 

「それで、ストレスからくる熱って訳か……」

 

「最近、ミーちゃんに何かした?

 

彼女が嫌がるような」

 

「最近って言っても、別に嫌なことはさせてないし。

 

あると言ったら、志那国でちょっと」

 

「ちょっと?

 

何かあったの?」

 

「敵に捕まって、鎮静剤打たれた」

 

「……それだね。原因」

 

「けど、一ヶ月も過ぎてるから別に」

 

「そう簡単に、忘れられないよ。

 

特にそれ(注射器)にトラウマがあるというなら、尚更。その時平気でも、後々になって体に出ることはある。

 

 

それから、もう一つ。

 

ミーちゃん、もしかしたら半妖にしか掛からない病気にかかっているのかも知れない」

 

「!?」

 

「私は“人”専門の医者。

 

半妖に関しての知識は、皆無だ。人からの目線で言えば、ストレスからくる熱だけど、半妖として診るなら原因不明だ」

 

「……」

 

「とりあえず、解熱剤は置いて行く。気休めにしかならないかも知れないけど。

 

 

とにかく、あの熱をどうにかしないと。あと、無理矢理にでもいいから、何か食べさせて。

 

多分、あの熱で体力をかなり消費しているはずだから」

 

「分かった」

 

 

解熱剤を渡し、水輝は帰っていった。

 

 

「……薬置いてったはいいが、美麗の奴飲むかな」

 

「何か問題か?」

 

「美麗、薬飲むの凄ぇ嫌がるんだよ。

 

 

前も、飲ませるだけで2時間掛かったし」

 

「だったら飯に混ぜれば良いだろう」

 

「それが出来たら苦労しねぇよ!」

 

「とにかく、何か食べさせて薬飲ませろ。

 

俺はその間、報告書書いてくる」

 

「お前も少しは手伝えよ!幸人!!」

 

 

秋羅の言葉を無視して、幸人は自身の仕事部屋へ入った。

 

秋羅は、深く溜息を吐きながら、瞬火と共にキッチンへ行った。

 

 

 

 

数時間後……

 

 

「さぁて、お粥は作ったはいいが……

 

果たして、この薬を飲んでくれるか」

 

『お粥に混ぜて、食べさせるのが手っ取り早いんだが……』

 

「だから、それが出来ないから困ってんだよ……」

 

 

 

部屋へ入り、机の上にお粥と水が乗ったトレイを置き、眠っている美麗を起こした。

 

秋羅に起こされた美麗は、不機嫌そうな表情を浮かべて起き上がった。

 

 

「そんな顔すんなよ。

 

飯食ったら、すぐ寝ていいから」

 

「いらない」

 

「食わなきゃ駄目だ。

 

水輝さんから、薬貰ってんだから」

 

「飲まない」

 

「飲まねぇと、その熱下がらないぞ」

 

「嫌だ!!」

 

「美麗!!」

 

「嫌だ!!飲まない!食べない!」

 

「薬はともかく、飯は食わねぇと!」

 

「嫌だ!!」

 

『凄い嫌がりっぷりだな……

 

子供でいう、イヤイヤ期か?』

 

「ただ単に、熱で頭が混乱してんだと思う。

 

混乱というか、昔の性格が引き出てるのかも知れない」

 

『……』

 

「仕様が無い、お粥ここ置いとくから食べたくなったら食えよ。

 

 

俺、少し買い物行ってくるから。瞬火、手伝い頼む」

 

『大丈夫か?美麗一人で』

 

「一人で……

 

 

そういや、紅蓮の奴はどこ行った?」

 

『エルの所にでも、いるんじゃないのか?』

 

 

 

エルがいる小屋の戸を開けた秋羅は、瞬火と一緒に中を覗いた。

 

 

『……物家の空だな』

 

「どこ行きやがった……アイツは」

 

『あれだな……

 

紅蓮がいない分、誰に甘えていいのか分からなくなってるんだろうな、美麗は。

 

風邪で弱っている子供は、いつもの倍以上親に甘えたいものだ』

 

「子供でも、アイツは100歳超えだぞ」

 

『妖の世界で、100歳はまだ子供だ。

 

 

私は200歳を超えているがな』

 

 

 

毛布を頭から被り、眠ってた美麗はスッと起き毛布の中から顔を出し、部屋を見回した。

 

 

「……紅蓮?

 

紅蓮……紅蓮」

 

 

応答が無いのを不思議に思った美麗は、重い体を起こしベッドから降りた。

 

 

「……紅蓮……

 

紅蓮……(どこ行ったんだろう……)」

 

 

ふらつく足で、部屋を出ようと戸を開けた。すると目の前に、幸人が立っていた。

 

 

「そんなフラフラで、どこ行こうとしてんだ?」

 

「紅蓮がいないから……探しに」

 

「アイツなら今、出掛けてる。

 

 

時期に帰ってくるから、布団に戻れ」

 

「……」

 

 

ボーッとしていた美麗は、フッと意識が無くなり倒れた。倒れてきた彼女を、幸人は慌てて支え横に抱くと、そのままベッドに寝かせた。

 

 

(……お粥、冷めてるな……

 

手は付けてないと……薬も飲んだ形跡がない。

 

 

本当に嫌いなんだな……)

 

 

ベッドに置かれていた猫の抱き枕を、紅蓮代わりに抱き着くようにして、眠っている美麗を幸人はしばらく眺めた。




『幸人、陽介、ほら!

林檎擦ってきたよ』

『擦ってきても、それ食った後どうせあの苦い薬だろう?嫌だよ』

『ガキ』

『何だと!』

『コレ!喧嘩するな!


大丈夫。お前達は私の自慢の曾孫だ。

薬なんて、平気なはずさ!』

『……』


渡された皿に盛られた擦られた林檎……それを二人は、息を合わせるようにして口に入れた。

甘酸っぱい味が、口の中に広がった……風邪で食欲が無くなっていたのに、不思議と食べられた。


『ほら、やっぱり飲めた』

『?』
『?』

『その擦り林檎、お前達の嫌いな薬が掛かってるんだよ』

『嘘……』
『マジかよ……』

『だけど、ちゃんと食べて薬も飲んだ。

流石、私の曾孫だ!』


しわしわの手で、天花は陽介と幸人の頭を撫でた。二人は互いを見合うと、笑みを浮かべて天花に微笑んだ。
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