桜の奇跡   作:海苔弁

118 / 228
夕方、秋羅は瞬火と共に買い物から帰ってきた。キッチンへ行くと、流し台に洗われた包丁、まな板、おろしが干されていた。


「?

瞬火、お前おろし使った?」

『使うわけ無いだろう。

ずっと、お前と買い物行っていたんだから』

「だよな……




粉薬が一個無くなってる……美麗の奴、飲んだのか?」


気になり、二階へ上がり美麗の部屋を覗いた。中では、ベッドに凭り掛かり眠る幸人と、彼の手を掴みながら美麗が眠っていた。


「……」


ふと、机の上を見ると置かれていたお粥は手付かずだったが、その横に置かれた皿は綺麗になくなっていた。


「……何食ったんだ?


幸人、幸人、起きろ」


秋羅の呼び掛けに、幸人は目を開け寝惚けた顔をしながら、大あくびをした。


「何だ?帰ってたのか」

「さっきな。

何食わせたんだ?お粥は手付かずみたいだけど」

「婆直伝の飯。


あぁ、あと薬は飲ませた」

「……え?!

飲んだのか?!薬」

「飯に混ぜて飲ませた。

そしたら、すぐに眠った」


握れていた美麗の手を離させ、ベッドに転がっていた猫の抱き枕を抱かせ、半分剥いでいた毛布を掛けた。


(……何か、美麗の奴……

天花さんと再会して別れてから、妙に幸人に懐いてるよなぁ。


やっぱり、曾孫だからにおいとか雰囲気が一緒なのか?)


昔の料理

それから、薬を飲み続けるが美麗の熱は一向に下がる気配が無かった。

 

発熱してから一週間後、診察に来た水輝は計り終えた体温計の温度を見ながら、渋い顔をして美麗の額に手を置いた。

 

 

「解熱剤はちゃんと飲んでるよね?」

 

「あ、はい」

 

「……それでも、熱が下がってない。

 

別の薬を試してみるか」

 

「嫌だ!!もう飲まない!!」

 

「そんな事言わないで。

 

飲まないと、その熱下がらないんだよ?ミーちゃん」

 

「嫌だ!」

 

「ミーちゃん……」

 

「……

 

 

 

 

注射しない?」

 

「え?」

 

「……治っても、注射しない?

 

実験もしない?」

 

「何言ってんだよ。俺等そんな事」

 

 

言い掛けた秋羅を、幸人は人差し指を口の前で立てて黙らせた。

 

 

「何もしないよ」

 

「本当?」

 

「うん。

 

それより、私達は早くミーちゃんに元気になって貰いたいんだ」

 

「……」

 

「だから、お薬飲もう。ね?」

 

 

黙って頷くと、美麗は毛布から出て来た。水輝はスプーンに、液状の薬を入れそれを彼女に渡した。渡された薬を、美麗は嫌な顔をしながら、一気に飲んだ。

 

 

「苦い……もう飲まない!」

 

 

そう言って、美麗は毛布を頭から被った。毛布の上から、水輝は彼女を撫でると、幸人達と共に部屋を出た。

 

 

 

「なぁ幸人」

 

「?」

 

「美麗の奴、何でさっきあんな事聞いたんだ?

 

俺等、実験だの注射だのやったことないのに」

 

「熱で記憶が混乱してんだろう。

 

昔の記憶とごちゃ混ぜになってんだよ」

 

「確かにそうだね。

 

最初に診察しようとした時、ミーちゃん、私の白衣姿を見ただけで怯えて、拒否してたけど……

 

私が白衣脱いだら、すんなり診察させてくれたし」

 

「……」

 

「それで、あの解熱剤で熱下がるのか?」

 

「分からない。

 

この解熱剤も効かなきゃ、最終手段として注射するしかない」

 

「え……ま、マジですか?」

 

「大丈夫。

 

彼女を眠らせてから、注射はするから。まぁ、素直に薬を飲めばの話だけど」

 

 

その時、突然玄関のドアが勢い良く開いた。中へ入ってきたのは、掠り傷を所々に付けた紅蓮だった。

 

 

「紅蓮!?」

 

「どこに行ってたんだよ!今まで」

 

『美麗は?まだ熱、あるか?』

 

「まだあって、今寝てるけど……

 

 

ねぇ、その瓶に入ってる水は?」

 

『薬だ』

 

 

そう言って、紅蓮は二階へ上がり美麗の部屋に入った。戸を開ける音に、目を開けた彼女はすぐに起き上がった。

 

 

「紅蓮……傷」

『美麗、口開けろ!』

 

「え?」

 

『飲め!』

 

 

瓶の蓋を開けた紅蓮は、美麗の口を無理矢理開けると、薬を流し入れた。苦い味が口に広がった美麗は咽せ、そして凄い吐き気に追われた。

 

紅蓮は傍にあった、空の桶を取りそれを彼女の口元へ持ってきた。それを待ってましたかのようにして、美麗は勢い良く嘔吐した。

 

口から出て来たのは、黒い泥のような物だった。

桶の半分まで吐いた美麗は、疲れ切り倒れた。虚ろな目で目の前にいる紅蓮を見つめながら、彼の伸ばしてきた手を軽く握ると、深く息を吐きながら眠ってしまった。

 

 

 

黒い泥のような物が入った桶を、紅蓮は牧場の真ん中へ置いた。彼は人から黒狼に姿を変えると、口から炎を噴き出し、その泥を桶ごと燃やした。

 

 

 

「妖力の溜め過ぎ?美麗が?」

 

 

リビングで、呼んで貰った暗輝から手当てを受けながら、紅蓮は話していた。

 

 

『ここへ来る前に何度か美麗の奴、高熱出したことがあったんだ。

 

その度に、体内に溜め込んでた妖力をさっきの薬を使って、吐き出させてたんだ』

 

「さっきの薬って……あれ、何の薬?」

 

「テメェ、今までどこに行ってた。

 

エルをあんなに、疲れさせて」

 

『一度に質問するな。

 

 

エルに手伝ってもらって、北西の森に行ってた。

 

あの薬は、半妖の妖力を安定にさせる効果がある草から、作ったものだ。探すのに苦労したんだぞ』

 

「まぁ、これで熱が引いてくれれば、いいんだけどね」

 

『引くに決まってんだろう。

 

美麗は、あの薬で何度も高熱治してるんだから(なんだ……美麗の熱は、今回が初めてのはずなのに……)』

 

 

 

夜……

 

 

秋羅が作ったお粥を、嫌がらず普通に美麗は食べていた。食べながら熱を測っており、時間が経つと水輝は体温計を取り温度を診た。

 

 

「……凄い……

 

 

もう微熱になってる」

 

「マジかよ……」

 

「私の解熱剤は、一体何だったんだ……」

 

「そう落ち込むな、水輝」

 

「吐いたら楽になった」

 

「本当に、妖力が堪ってたんだな……」

 

「ごめん……ごめんよぉ、ミーちゃん!

 

そうとは知らず、無理矢理苦い薬飲ませて!

 

 

お詫びに、何か欲しいのある?」

 

「林檎!」

 

「それ食ったら、剥いてきてやるよ」

 

「天花のがいい!」

 

「え?天花さんの?」

 

「それって、何?」

 

「あぁ、あれか。

 

作ってくるから、ちょっと待ってろ」

 

 

そう言って、幸人は下へ降りた。その後を、秋羅と暗輝はついて行った。

 

 

「幸人は、何を作ったの?」

 

「ん?

 

擦り林檎。天花と同じ味がするの!」

 

 

キッチンへ来た幸人は、籠に盛られていた林檎を一つ取り洗うと、慣れた手で皮を剥いていった。

 

 

「天花さんの林檎って、擦った奴だったのか」

 

「ガキの頃、風邪引きゃこれ食わして貰ってたからな。

 

擦った林檎に、レモンと少量の砂糖を入れてな」

 

「幸人でも、風邪引くのか……」

 

「引くわ!

 

まぁ、しょっちゅう引いてたのは陽介だったがな」

 

「あぁ、確かに。

 

アイツ、施設にいた頃しょっちゅう引いてたもんなぁ」

 

「そんで、幸人がずっと傍にいて」

 

「くだらねぇ事言うと、テメェ等の首引き千切るぞ」

 

 

 

幸人が作った擦り林檎を食べ終えた美麗は、紅蓮の胴に頭を乗せ眠ってしまった。そんな彼女に、水輝はベッドから毛布を取りそれを掛けた。

 

 

「明日か明後日辺りには、熱は引いてると思うよ。

 

ご飯もしっかり食べてたし」

 

「そうか……」

 

「妖気堪ったのって、やっぱり海外の妖怪から」

 

「かも知れねぇな。

 

知らず知らずの内に、取り込んでたんだろう」

 

「そんじゃあ、また明後日来るよ」

 

「あぁ、ありがとな」

 

「いいって」




数日後……


「エル!こっち!」


晴々とした青空の下、美麗はエル達と牧場を走り回っていた。


「すっかり元気になったな。美麗の奴」

「先週まで、高熱で弱ってたなんて思えないな」

「そういえば、幸人は?」

「本部に送る報告書書いてます。

何か、書いてなかったみたいで」

「またかよ……」



机に無造作に置かれた書類の山……その横で幸人は、ソファーで仮眠を取っていた。

眠る彼の前に、現れる天花……彼女は、微笑み浮かべると、幸人の頭に手を置き何かを囁くと、スッと消えた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。