桜の奇跡 作:海苔弁
幸人は、村長が用意してくれた宿に泊まり、そこから暗輝の元へ電話していた。
「え?!一ヶ月もそっちに滞在するのか!?」
「あぁ。
異国の妖怪引き取らなきゃいけなくなってな。その手続きで、ここにしばらく足止めだ」
「そりゃ災難だな」
「終わり次第、帰る。
と言うわけで、家にいる馬達の世話お願い。瞬火にもそう伝えといてくれ」
「ハーイ。
お返しは、今度飲みに付き合え」
「ヘイヘイ」
電話を切り深く溜息を吐きながら、幸人は部屋へ戻った。戻ると、中に置かれていたベッドに紫苑は横になり眠りについており、彼女に秋羅が布団を掛けていた。
「紫苑の奴、寝たのか」
「今さっき」
「……あれ?紅蓮は?」
「あのグリフォンの所だ」
「何だ?もう仲良くなったのか?」
「様子見だろ。普通に」
牧場へ来た紅蓮は、辺りを見回し誰もいないことを確認すると、狼の姿へと変わり柵を跳び越えた。グリフォンは彼の姿を見るなり、立ち上がり寄ってきた紅蓮に毛繕いをした。
紅蓮もお返しに毛繕いをし、傍に横たわるとあくびをして眠りに付き、グリフォンも眠りに付いた。
翌朝……
「月影様!!月影様!!」
朝早く、部屋の戸を激しく叩く音に、幸人と秋羅は起きた。
「どうしたんだろう?」
「さぁ」
ベッドから降りた幸人は、部屋の戸を開けた。そこにいたのは、血相をかいた村長だった。
「どうしたんです?こんな朝早くから」
「いないんです!!」
「え?いない?
何がです?」
「子供が……
子供がいなくなったんです!!」
いなくなった子供の家へ行く幸人と村長。その家には事件を聞きつけて来た村人達が、集まっていた。
人混みを掻き分けて、家の中へと幸人は入った。中では、泣き崩れる母親と彼女を宥める父親がおり、村長に釣られ娘の部屋へと案内された。
部屋は窓が開いており、争った痕跡が無かった。
「ここの娘さんの名前と歳は?」
「芽以と言って、歳は13歳です。
話しですと、今朝起こしに行ったら物家の空に」
「……」
宿へと戻ろうとした時、ふと宿を見ると中から紫苑が袋を持ち出て来た。気になり彼女の後をついて行くと、辿り着いた場所は、村長の牧場だった。柵を跳び越え向かった先にいたのは、紅蓮と彼の傍で添い寝するグリフォンだった。
(いつの間に仲良くなったんだが……)
駆け寄ってきた紅蓮に、紫苑は袋から出した木の実をあげた。すると、彼女はグリフォンの傍には行かず、彼が見える範囲に座り込んだ。
(……ほっといた方が、良さそうだな)
眺めていた幸人は、そう思いその場を離れた。
「子供がいなくなったねぇ……」
宿に戻ってきた幸人は、事件の内容を秋羅に話した。
「何か、俺等が行く所頼まれる所、子供がいなくなる事件多いな」
「子供の肉の方が新鮮だからな」
「じ、じゃあ俺も」
「狙われやすいのは、15歳以下の女だ。
お前は19歳の男だろ」
「いやそうだけど……
少しは心配しろよ~」
「はいはい」
村長の牧場でグリフォンを眺める紫苑。すると裏口が開き、その音に振り返ると家の中から女性が出て来た。
「……紅蓮、隠れて」
紫苑の指示に従い、紅蓮は茂みの中へと姿を隠した。
「アンタ、確かあの祓い屋達と一緒にいた……」
「……紫苑」
「フーン……紫苑って言うんだ」
「……それ、何?」
女性が手に持っていたバケツを指差しながら、紫苑は彼女に質問した。
「これ?
その化け物にやる餌。やりたくないんだけど、飢え死にしちゃ可哀想だからって。
全く、祖父さんも祖父さんよね!家族にこんな怖い化け物押し付けて、自分はさっさとあの世に逝っちゃったんですから!」
「……」
話を聞いた紫苑は、グリフォンと女を交互に見ると、バケツを指差して言った。
「……やろうか?餌」
「え?」
「あいつの餌……やろうか?」
「いいの?」
「うん」
「じゃあお願い!」
嬉しそうにバケツを紫苑に渡すと、女性は家の中へと入った。その直後、狼の姿となっていた紅蓮が茂みから出ると紫苑の元へ駆け寄った。
『無責任な女だな?』
「嫌々やるより、私がやった方が早いじゃん」
『紫苑がいいなら、別にいいんだけど』
「平気。行こう」
グリフォンの元へ先に紅蓮が駆け寄り、話をするようにして鼻を合わせ、目を合わせると紅蓮は後ろを振り返り紫苑を見た。
見られた紫苑は、落ち着いた様子でゆっくりと歩み寄り、そして近くまで行くとバケツを置き様子を見た。グリフォンは鳴き声を上げると、ゆっくりと近付き嘴をバケツに入れ餌を食べ始めた。
「……紅蓮」
何かを言おうとした紫苑に、紅蓮は彼女の元へ寄り添い膝に頭を乗せた。そんな彼の頭を、紫苑は撫でながらしばらくグリフォンを眺めた。
夕方……
風が出て来た頃、紅蓮に抱き着きいつの間にか眠っていた紫苑は目を開けた。眠い目を擦りながら辺りを見回すと、一人の少女が村を歩いていた。
『日が暮れるのに、どこへ行こうとしてんだ?』
「さぁ……」
その時、大人しかったグリフォンが突然立ち上がり、鳴き声を上げ暴れ出した。落ち着かせようとする紫苑だったが、グリフォンの上げた前足が、彼女の腕に当たりそのまま飛ばされてしまった。
騒ぎに気付いた村長が、すぐさまグリフォンを大人しくさせ紫苑は、彼の奥さんに釣られ家の中へと入った。
「紫苑!」
報せを受けやって来た秋羅は、村長の家に入り勢い良く部屋の戸を開けた。
「秋羅さん」
「紫苑の奴が怪我したって聞いて……」
「彼女なら平気です。
腕を傷付けられましたが、数日すれば完治します」
「そうですか……
で、紫苑は?」
「そ、それが……」
牧場へ来た秋羅……外には、包帯を巻いた手で紫苑はグリフォンの頬を撫でていた。グルフォンは気持ち良さそうに、彼女に擦り寄り甘えていた。
「随分、懐かれたみたいだな」
声を掛けながら、近寄ってきた秋羅に紫苑は振り返り彼を見た。
「傷、大丈夫か?」
「平気」
「なら良いけど……」
「悪気あって、蹴ったわけじゃない」
「え?」
「……何かを伝えようとしてたみたい」
「何かって……何だ?」
「分かんない」
夜中……
紅蓮に寄り添い眠るグリフォンは、目を開けそして鳴き声を上げた。傍で寝ていた紅蓮は目を開け、辺りを見回した。
二人の少女が、男と一緒にどこかへ歩いて行くのが見えた。
(……何だ?
確か、夕方も)
気になった紅蓮は、離れて彼女達の後をついて行った。