桜の奇跡 作:海苔弁
まだ妖怪と人間が共に暮らしていた頃、この村は妖怪と人が共に暮らしていた。ところが、自我を失った妖怪達は、次々に自身の家族を襲い亡き者にしていった。
生き残った村人で、どうにか妖怪達は倒すことに成功した。だが、半妖は生き残ってしまった……
「その半妖を、退治して欲しいと?」
「まぁ、そうですね」
「半妖にご家族は?」
「……」
「?
どうかされましたか?」
「いや……いたには、いたんですが……
まぁ、年で」
「……」
「とりあえず、その半妖に会わせて下さい」
「え?すぐに退治してくれないんですか?」
「半妖となれば、半分は人間。
話を聞き、こちらの判断で保護します」
「保護って……
倒してくれるんじゃないのかよ」
「何か言った?」
「あ、ううん。
何でも無いよ」
家を出て、村の外れにある林を歩き、その中に建つ塔へ着いた。村長は持ってきていた鍵の束から、一つの鍵を選び、施錠されていた扉を開けた。
「この塔の、最上階の部屋に半妖はいます」
「何でこんな所に」
「……まぁ、色々あったんですよ」
「……」
「それじゃあ、私は別の仕事があるので」
そう言って、村長は陽介に鍵の束を渡すと、そそくさとそこから去った。
「何なの?あれ」
「何か、関わりたくないって感じだな?」
「それより、早く美麗の目隠し取れ」
「あぁ、そうだった」
手を繋いでいた美麗の目隠しを、秋羅は外した。美麗は瞬きすると、塔の中を見回った。
「村長、彼女が半妖に気付かなかったわね?」
「目を怪我してるって伝えただけで、すぐに無関心になってたもんな」
「半妖だっていう、目印でもあるのかしら?」
「や、やっと……着いた」
長い階段を上り終えた幸人達は、膝に手をつきながら息を切らしていた。
「さ、流石に……三十路を過ぎている僕チンには、キツい」
「だらしねぇ」
「全くだ」
「同い年なのに」
「君等と一緒にしないでよ!!」
「騒がないの!
この奥の部屋に、半妖がいるんだから」
保奈美が注意している時に、美麗は何の躊躇もなくドアを開けた。
大きな窓から差し込む外の明かりが、部屋を照らしていた。その窓近くに、ベッド、キャビネットが置かれ、向かいには書棚が二個置かれていた。ドア付近には、小さいキッチンと引き戸が開けっ放しになった、シャワールームがあった。
『誰?』
声の方に目を向けると、窓際に置かれた椅子に座る一人の男性がいた。
無造作に伸びた青い髪から、赤く染まった目を彼は美麗に向けた。
「美麗!勝手に……」
『やけに外が騒がしいと思えば……
君等、誰?』
「えっと……」
「お初にお目に掛かります。
私(ワタクシ)、妖討伐隊大佐の大空陽介と申します。
この度、こちらの村長からご依頼を受け、あなたにお会いに来たまでです」
『討伐隊……
君は、僕を殺すの?』
「いえ。
上から、あなたを保護するようにとご命令が下っております」
『そうか……
紹介が遅れたね。
僕は柊。草花に命を与える妖怪と人の間に産まれた者さ。
ねぇ、そこに麗桜がいるの?』
「え?」
「りお?」
「誰だ?」
「パパはもう亡くなってるよ」
書棚の前にいた美麗が、そう答えた。その声に柊は、美麗の方を向いた。
『……今、何て?』
「?
パパは亡くなってるよって……」
『……君の名前は?』
「美麗。
よ……伊吹美麗だよ」
名を聞いた途端、柊は持っていた杖を倒し美麗に向けて、手を伸ばした。彼女はすぐに何かを理解したかのようにして、彼の傍へ行き伸ばしてきた手を握った。
柊は握ってきた美麗の手を触り伝い、頬に手を当て優しく撫でた。
『……そうか……
麗桜、子供出来たんだ……よかったぁ』
「?
パパを知ってるの?」
『麗桜とは、友達だよ。
目が見えていた頃、色々な場所へ一緒に行ったんだよ』
「柊さん、目が……」
『……20年前、ある事故でね』
光の無い赤い目で、柊は美麗を見つめながら頭を撫でた。
『髪の質は、お母さん譲りかな?』
「本当?!」
『うん。麗桜は少し固かったけど、君は柔らかい』
「ねぇねぇ、パパのこともっと教えてよ!」
「お、おい、美麗」
『いいよ別に。
麗桜の子供に、僕も会いたかったし、お話したかったから』
「……」
「一つ聞いていいか?」
『ん?』
「半妖と人間の、判別ってできるのか?」
『できるよ。
半妖は、真っ赤に染まった眼を持って生まれるんだ』
「美麗も赤いもんな。目の色」
「ママも赤かったよ」
『え?赤いの?美麗の目』
「あぁ。柊さんと同じ、赤い色」
『……おかしいなぁ。
ぬらりひょんの血を引いた子供は、ぬらりひょんと同じ目……麗桜と同じ青い目を引き継ぐはずなのに』
「え?」
『てっきり、麗桜と同じ色かと思っていたんだけど』
「私はママ似だって、天狐がよく言ってたよ!」
『天狐が言うなら、何か秘密があるのかもね』
「秘密?」
『君には内緒のことだよ』
楽しそうに話す美麗を置き、幸人達は部屋を出た。
「すっかり懐いたな、美麗」
「まさか、生き残りの半妖が美麗の父上と知り合いだったとは」
「ねぇ、あとで彼調べてもいい?」
「限度を考えるなら、調べてもいいが」
「ちゃんと制御するわよ」
「……お前、オカマになるか男になるか、どっちかにしろよ」
「どっちでもいいでしょ。僕チンは僕チンの道を突き進んでいるだけ」
「……気色悪」
「奈々ちゃん!!」
「ガキに何言わせてんだよ」
テーブルに広げた背景の絵を、柊は並べていった。並べられた絵を、美麗は物珍しく眺めた。
「凄ぉい……
これ全部、柊が描いたの?」
『目が見えていた頃にね。
絵を描くのが好きで、よく麗桜に色々なところへ連れて行ってくれては、絵を描いていたよ』
「……何で目が見えなくなったの?」
『ちょっとね……
美麗』
「?」
『彼等と一緒にいて、幸せ?』
「うん!」
嬉しそうに返事をした美麗に、柊は微笑みを浮かべながら彼女に手を伸ばした。伸ばしてきた手を、美麗は握り傍へ行った。
『……その優しいところは、麗桜ソックリだね。
あ、そうだ……美麗、一つ聞いてもいいかな?』
「何?」
『君と一緒にいた仲間の中に、半妖は何人いるんだい?』
「半妖は私だけだよ。
というより、生き残っている半妖は今まで私以外いないって、幸人達が言ってたよ」
『……おかしいなぁ』
「それがどうかしたの?」
『君等の中に、二人半妖の気配がしたんだ。
気のせいだったのかな……』
「二人?
今一緒に着てるのは……幸人と秋羅、葵と時雨、保奈美と奈々、陽介と変人研究員の8人だよ」
『他は?』
「あとは、黒狼の紅蓮とグリフォンって言う妖怪のエルだよ」
『……そうか。
ねぇ、美麗』
「ん?なーに?」
『君のお母さんのこと、話して貰っていいかな?』
「ママのこと?」
『うん。お願いしていい?』
「いいよ!」
美麗は覚えている限りの、母・美優の話を柊にした。彼女の楽しそうな声に、笑みを浮かべながら柊は黙って聞き続けた。
え?恋人?
『あぁ……スッゴい綺麗な女性でね。
桜色の長くて綺麗な髪を、腰下まで伸ばしてるんだ。
目の色は、柊みたいな綺麗な赤い目で』
赤い目って……
その人、まさか半妖?
『そうだよ』
……いつか、君の恋人に会いたいなぁ。
『今度連れてきてあげるよ!
無論、恋人じゃなくて……
妻として』