桜の奇跡 作:海苔弁
夜空に浮かぶ月が、地に積もった雪を照らしていた。
雪に反射した月明かりが、柊の暗い部屋を照らしていた。
「……柊、ここ電気無いの?」
「多分、もう切れてるよ。
目が見えていた頃は、変えていたんだけど……
見えなくなってからは、もう」
「……」
「暗いのは、嫌い?」
「ちょっと苦手」
その時、戸が開き外から陽介と幸人が入ってきた。
「あ!幸人、陽介!」
「柊、貴様にはしばらくの間護衛を付けることにした」
「護衛?
何で?僕には必要ないかと……」
「明日、研究員の大地がテメェの体を調べて、異常が無ければ本部へ連れて来いと、ご命令が下った」
「本…部……
待って……それって、柊に酷いことするの?」
「え?」
「何もしないよね?柊に。
ねぇ!何もしないよね?ただ、保護するだけだよね?ねぇ!」
陽介の服を掴み、美麗は必死に訴えた。その様子に、陽介は幸人と目を合わせた。幸人はすぐに美麗の方に向くと、彼女を自身の方へ向かせた。
「何もしねぇよ。
本部で、キッチリ保護する」
「……本当?
本当に何もしない?」
「しない」
幸人の答えを聞いて、美麗は深く息を吐きながら落ち着きを取り戻した。
「美麗?どうかした?」
「……何でも無い」
「……」
「柊……
護衛に、夜山美麗を就ける」
「え?
いいの?」
「大丈夫だ。
大地の調べの時は、俺が来る」
「……」
「じゃあ、俺等はこれで。それだけを伝えに来ただけだから」
「ねぇ、紅蓮達は?」
「エルは小屋で大人しくしてる。紅蓮は、何か用があるって言って、山の方に行ったな」
「多分、リルに会いに行ったんだ」
「リル?」
「誰だ?」
「黒狼の長。
あと、北西の森の守り主」
「そうか……
それじゃあ、俺等はこれで」
「失礼する」
「こ、殺さずに保護する?」
翌朝、幸人達は柊を保護すると、村長に話していた。
「半妖は、今では希少な人間。
殺す訳にはいきません。本部の準備が整え次第、柊を連れていきます」
「そ、それは困ります!!」
「なぜ、困るんですか?」
「そ、それは……」
「?」
「と、とにかく困るんです!
連れて行くのは、やめて下さい!!」
「……」
柊宅……
土の入った植木鉢を持った美麗の手を触り、植木鉢を触ると、柊は妖気を放った。
すると土から、芽が出てそれはすぐに成長し綺麗な赤い花を咲かした。
「ワァー!」
「凄ぉい!
時雨さん、見てみて!何もなかった土から、花が咲いたよ!」
「本当……」
「今は、これくらいしか使えないよ。
あまり多く使うと、体力が持たないから」
「そっかぁ……」
「ねぇ、柊のパパとママはどっちが妖怪だったの?」
「父上だよ。
20年前に、亡くなったけどね」
「ママは?」
「母上も。
と言うより、僕の家族は皆20年前に、亡くなったよ……」
キャビネットの方を向きながら、柊は話した。彼と同じ方に、秋羅達は顔を向けた。キャビネットには、写真がいくつも飾られていた。
その中に写るのは、美麗の父と自身の両親と写る柊、紫色の長い髪に桃色の目をした女性と二人の子供と一緒に写る柊……時が経ったのか二枚の内、一枚はベッドで横になる女性を中心に、二つの家族と柊が写り、もう一枚は四つの家族とその中心に柊が写っていた。
「……これって」
「皆家族だよ。
20年前、あんなことが無ければ、今頃曾孫に恋人が出来ていたと思うよ」
「何があったの?20年前」
「……この村が、僕等を殺したのさ」
「え?」
「……ごめん、今の話聞かなかったことにしてくれ」
「……」
「美麗」
「何?」
「ちょっと、傍に来て。
すまないけど……少しの間、彼女と二人っきりにしてくれないかな?」
「え?構いませんけど」
「じゃあ、お願い」
互いを見合い、秋羅達は部屋を出た。
二人っきりになった柊は、美麗を自身の膝に乗せるようにして、抱き締めた。その際、握っていた杖が倒れ、美麗はそれを目で追い掛けながらも、柊の顔を見上げた。
「……?
柊?泣いてる?」
「ごめん……
ちょっとの間、こうさせて……」
強く抱き締められた美麗……彼女の頬にポツポツと水が滴った。その際、美麗は母が亡くなった時のことを不意に思い出した。自然と出て来た涙に、彼女は柊の胸に顔を埋めた。
幸人達が去りしばらくした後、村長は村人数名を集め、話をしていた。
「何!?殺さないだと!」
「本部の方で、保護するらしい」
「そんな事したら、大鳥様の怒りが……」
「やはり、20年前に全てをやっておくべきだった……」
「全くだ……
アイツだけ、取り残したのは間違いだったな……」
場所は変わり、柊が住む塔……
彼の元へ来ていた大地は、簡単な健康診断をしていた。その間、美麗はずっと幸人の後ろに隠れヒョッコリと顔を出しながら、様子を窺っていた。
「……あの、そんな隠れなくても何もしないよ?」
「来て早々、採血しようとしたのはどこの誰だ?」
「はいはい!悪うござんした!」
「で?どうなんだ?体の様子は」
「調べたところ、眼以外は別に問題無いわ。健康そのもの。
血液は、帰って詳しく調べてみるわ」
血が入った試験管をケースに入れた大地は、幸人の元へ歩み寄った。それと入れ違いに彼の後ろに隠れていた美麗は、離れていき柊の傍へ寄った。
「……何か、心の傷が」
「自業自得だ」
「うぅ……」
「そんじゃ、美麗。
あと宜しくな」
「ハーイ」
大地の背中に蹴りを入れながら、幸人は部屋を出ていった。
「……美麗」
「何?」
「人は好き?」
「え?
嫌いな奴はいるけど、好きな奴もいるよ!」
「……そうか」
「柊は?」
「……僕は人が嫌いだね。
自分達のために、他人を犠牲にしてまで生きようとして」
「柊?
!」
石壁の間から生え伸びる、蔦……それは徐々に成長していき、部屋を覆っていった。
「柊……柊!」
「!」
美麗の声で、ハッと我に返ったのか生え伸びていた蔦が、成長を止め引っ込んでいった。
「柊、大丈夫?」
「……」
「柊?」
「……美麗」
「?」
「君、記憶封じられてるね?」
「え?」
「いつか、その記憶蘇らせてあげるよ。
君にも、大事な人がいたんだね」
「大事な…人?」
その時、どこからか妖怪の咆哮が響いてきた。美麗は、窓の縁に手を置き硝子にへばり付く様にして、外を見た。遠くにある木々が、何かに押し倒されたかのようにして、次々と倒れていた。
「妖怪だ……
幸人達に知らせてくる!」
そう言って、美麗は部屋を飛び出した。部屋を出ていく寸前に、柊は彼女の服に小さな種を付けた。
(……安心して、麗桜。
君の子供は、必ず守るから)
当の外へ出た美麗は、外にいたエルに飛び乗り、幸人達が止まっている宿へ向かった。
人気のない所へ、エルを着陸させると、美麗は背中から降り敷地へ入ろうとした時、ちょうど宿から秋羅と時雨、奈々が出てきた。
「秋羅!時雨!」
「美麗!」
「よかった!
今、様子を見に行こうと思ってたの」
「森から、妖怪の声が」
「お前にも聞こえたか。
幸人達が、今調べに行ってる。俺等はこの村の警護だ」
「村は私達に任せて、美麗ちゃんは柊さんのところに」
「うん」
待たせていたエルに乗り、美麗は塔へ戻った。
塔へ戻り、美麗は柊の部屋へ入った。窓際に座る、彼の元へ寄ろうとした時、閉めたはずのドアが突然、勢いよく開いた。
「柊……
悪いがもう、我慢の限界だ」
そこに立っていたのは、村長を中心に立つ、村人達だった。
村の掟。
1.夜は出歩いてはならない。
2.大鳥様を怒らせてはならない。
3.村の秘密を、他言してはならない。
4.半妖を自由にしてはならない。
大鳥様。
最北端一歩手前の森に住む天狗様。雪と氷を自由自在に操ることができる。