桜の奇跡 作:海苔弁
何かに切り落とされ、幹に禍々しい巨大な傷を付けた木々がいくつも並んでいた。
「な、なんだ……これ」
「この傷……
もしかしたら、この村天狗が住んでるのかもね」
「天狗?」
木の幹に出来た切り傷に触れ、大地は辺りを見ながら話した。
「この切り傷、多分この地域に住んでるって言われてる大鳥様の仕業よ。
研究室にあった資料に、同じ傷の写真がいくつもあったわ」
「じゃあ、この被害は」
「可能性は高い。
でもおかしいわね……大鳥様は、確か何もない限り暴れたりはしないって聞いたけど」
「暴れたってことは、何かあるんだろう」
「とりあえず、村へ戻ろう」
「だな。
?」
どこからか聞こえる、聞き覚えのある鳴き声に幸人は、ふと空を見上げた。
空を猛スピードで飛んでくるエル……幸人達の前に降り立つと、彼等の背後に回り背中を押し出した。
「お、おい、何だ?」
「ついて来いって、意味かしら?」
「……!
まさか」
「幸人、どうかした?」
「すぐに村へ戻るぞ!!
陽介!!」
「ちょ、ちょっと!幸人!」
「相変わらず、息がピッタリ」
「また走るの!?
研究員には、キツいよ~!!」
「柊!!」
彼の傍から引き離された美麗は、自身を止める村人達から離れようとしていた。
「美麗!」
「とっとと立て!」
「祭壇に連れて行け」
「はい」
「祭壇?
待って!!祭壇って何!?何で柊が…!」
大声を上げた美麗の頬を、村長は引っぱたき黙らせた。勢いで倒れた彼女は、頬を抑えながらすぐに起き上がった。
「美麗?大丈夫?
美麗!」
「……?
そういや、アンタの眼……赤いな?
半妖か」
「だったら何?」
「……
二人共、やるぞ」
「え?」
「待って!!その子は、祓い屋の子だ!!
勝手にそんな事を決めては」
「黙れ!!化け物!」
「うっ!」
「柊!!」
「アンタは大人しくしてろ!」
抑え込もうとした村人に、美麗は目付きを変えて後ろ蹴りを食らわせた。それを見て、怯んだ村人の気配を感じた柊は、彼等から腕を振り払い妖気を放った。
すると、壁の隙間という隙間から蔦が生え伸び、村人達を攻撃した。攻撃を食らった彼等は、すぐに部屋を出ていきそれと同時に、扉が勢い良く閉じ内側から蔦で施錠した。
息を切らしながら、柊はその場に膝を付いた。そして苦しみ出し、自身を中心に蔦が生え伸び、部屋を覆い始めた。柊の元へ寄ろうとした美麗の足元にも、蔦が生え道を塞いだ。蔦から逃げようと後ろへ下がる彼女の服に付いていた種から芽が出ると、それは後ろから美麗を覆う様にして囲い、蔦の中へ閉じ込めた。
生え伸びていく蔦は、塔を覆い尽くすようにして伸びていった。その状況を見た、森の方から駆けつけた幸人達は、立ち尽くしていた。
「な、何だ……これ」
「……!
美麗!!」
幸人が塔の扉に手を掛けた時、中から血相を掻いた村人達が飛び出してきた。
「そ、村長さん!?」
「は、祓い屋!助けてくれ!!」
「いきなり襲ってきたんだ!!」
「半妖は理性があるから、何かしない限り攻撃なんかしないはずよ!」
「そう言ってるが!
俺達は攻撃されてんだ!!」
「それだけじゃない!
あの中に、アンタの仲間がいるんだぞ!!」
「!!」
辺りが静かになり、恐る恐る美麗は目を開けた。
(……ここって……)
腰ポーチから、携帯用の松明を出し美麗は中を照らした。周りは蔦で覆われており、彼女は小太刀を鞘から抜くと、覆われている蔦を切り中から出た。
「……柊……
柊!柊!
柊!!」
美麗の声に応答するかのようにして、窓を覆っていた蔦の一部が引っ込んでいき、外の光が差し込んだ。
手で顔を覆い、椅子に座り凹む柊の姿があった。
「柊?大丈」
「近寄らないで!!美麗!!」
「!」
「ごめん……大声出して。
僕、もう抑えられないんだ……下手をすれば、君の妖力を奪いかねない。
今こうして、君に攻撃しないようにするだけで、手一杯なんだ……」
柊の泣き声が、美麗の耳に届いた……腕に嵌めていたブレスレットを取った彼女は、ズカズカと柊の元へ寄り、顔を覆っている手を掴み、その手にブレスレットを嵌めさせた。
「……美麗、これは」
「妖魔石で作ったブレスレット……」
「妖魔石……
まだ、あったんだ」
「これで……妖力、抑えられるでしょ?」
「……」
「地狐達が言ってた……
私は、妖力が他の妖怪達より多いって……それを自分で抑えられないから、妖魔石を着けてるって」
「そうか……」
「……ねぇ」
「?」
「何があったの?
20年前」
「……」
村長の家へ集まる、村人達……
「……つまり、あの塔に住んでた柊の妖力が暴走して、今に至るって事か」
塔に行った村長を含む数名の村人から、話を聞いた幸人は、簡潔に話をまとめそれを彼等に伝えた。幸人の言葉に、村長達は強く頷いた。
「暴走した原因は?」
「え?」
「半妖って、人と同じように理性がちゃんとあるから、理由が無いと人を襲ったりはしないよ?
そうだよね?ママ」
「えぇ」
「現に、私達といる美麗ちゃんは、普通に大人しいもの」
「そ、それとこれとは」
「彼女も半妖。
あなた方は、目を見ていますよね?美麗の」
「……」
「まぁ、その事については後でだ。
本題に入る。陽介」
「先程、塔を調べたところ……
入り口は、あの門一つという事が分かりました。
そして、その門は内側から厳重に施錠がされている」
「現在、中にいるのは……
塔に住む半妖・柊と仲間の美麗の2名。中の問題はもちろんだが、一番に片付けなきゃいけねぇのは、森にいる天狗の封印だ」
「天狗の封印の前に、柊をどうにかしろよ!!」
「そうよ!!そうすれば、大鳥様は」
「馬鹿!!それ以上、喋るな!」
話そうとしていた女性を、傍にいた男性は慌てて止めた。その様子に、疑問を持った陽介と幸人は互いを見合い、アイコンタクトを取ると、口を開いた。
「あなた方、何か隠してませんか?我々に」
「いえ、それは……」
「……
話せねぇなら、俺等祓い屋は仕事をしない」
「!?」
「月影の言う通り。
僕等祓い屋は、人や村、街を壊そうとする妖怪達から、君等人を助けることが仕事」
「訳も無く、人を襲う妖怪はこの世に数多くいます。
しかし、極一部には己の住処を荒らされ、そのことに怒りで我を失った妖怪もいます。
言いたいことわかりますか?」
「……」
「あなた方、この村の住人じゃありませんよね?」
半妖の村……
100年前、ぬらりひょんが生存していた頃、半妖だけが住む村が多数あった。
その村は、そこに住む妖怪達により人間や狂暴な妖怪達から守られていた。
だが、ぬらりひょん亡くなった後、半妖の暴走を恐れた人間達により、次々と村を壊し半妖を殺害していった。
討伐隊は、半妖は一人の人間と見なしており、殺害すれば殺人罪として罰されていた。