桜の奇跡 作:海苔弁
彼の元へ、天狗が舞い降りてきた。互いを見合うと、柊は姿を変えた……天狗も同じく金剛杖に姿を変え、その杖を柊は手に持った。するとそこから強風が巻き起こり、辺りの草木を撒き散らした。
風が止み、スッと目を開ける柊……その目は光は無いが、殺意に満ちていた。
“ドーン”
突然鳴り響く爆発音……その衝撃で、村全体が揺れた。
宿にいた幸人達はすぐに、外へ飛び出した。彼等と同じように、村人達も各々の家から外へ出た。
「な、何だ……」
「物凄い妖気だな」
「……!!
ママ、あれ!」
奈々が指差す方向に、保奈美達は目を向けた。
空から舞い降りる、妖怪……舞い降りた妖怪は、殺意に満ちた目で、村人達を順々に見ていった。
「……まさかお前、柊?」
誰かが言った言葉に、妖怪……柊は幸人達に目を向けた。
『……話は聞いただろう?
この人達から』
「……」
『ここは、元々は半妖だけが住む村だった……
ここを守り、共に暮らしていた大鳥様と……平和に暮らしていた。
けど、ある日突然こいつ等が現れた……そして、問答無用で僕の娘を殺した。
次々と、僕の仲間、家族を殺していった。
最後に残った僕を殺そうとした時、大鳥様が怒りこの人達の仲間を数人殺した。
マズいと思ったんだろうね……僕を殺すのをやめて、あの塔に閉じ込めた。逃げ出さないように、目を潰されてね』
「潰されたって……」
「つくづく、酷いわね。アンタ達」
「だ、だって」
「ガキみてぇに、言い訳すんな!!」
「っ!」
『もう生きるのは疲れた……
あなた方には、ここで今から死んで貰います』
目を光らせた瞬間、地面から無数の木の蔓が生え、村人達に攻撃していった。その攻撃から、彼等は叫び声を上げながら、逃げ出した。
「何て妖力……」
「こんな妖力、一体どこから」
「考えてる暇はない。
早く、止めるぞ」
「だな。
秋羅、お前は時雨と奈々を連れて美麗を頼む。
ここは、俺等がやる」
「分かった」
「暴走止めたら、すぐにこの制御装置着けるから、なるべく早くね」
「自分でやるか?大地」
「暴走を止めて下さい。お願いします」
「よろしい」
塔へ着く秋羅達……扉に手を掛けようとした瞬間、扉に地面から生えた蔦が絡み合い施錠した。
「是が非でも、美麗ちゃんを渡したくないみたいね……」
「……」
「……ねぇ、紅蓮は?」
「え?
そういや、いないな……
なぁ、誰か今日紅蓮の奴を見たか?」
「いいえ……」
「見てないよ……」
「ねぇ、紅蓮は美麗ちゃんと一緒じゃないの?」
「いや、紅蓮の奴確か、黒狼の長に挨拶して来るって言って、山の方に……」
「行ったのって?」
「昨日、この村についてしばらくした後」
「……」
「……
お前等、ここで塔を開ける方法を考えといて!!
俺は、紅蓮達を探してくる!!」
そう言って、森へ行こうとした時だった。
茂みから現れる、三本の尾を持った大黒狼……その異様な大きさに、奈々は秋羅の後ろへ隠れ、時雨は彼の腕に引っ付いた。
すると、大黒狼の後ろから紅蓮が姿を現した。軽く首を振ると、紅蓮は口から炎を吹き出し塔の扉を焼き払った。
「す、凄ぉ……」
「探しに行く必要、無くなったな……」
「そうみたいね……!!
秋羅!!」
燃やされた扉の破片から、蔦が生え伸び入り口を塞いだ。
「そ、そんな……」
「本当に美麗を……!!
伏せろ!」
そう言って、秋羅は二人を押し倒した。その直後、雷の光線が倒れた3人の頭上を通過した。
秋羅達の前に現れる、天狗……槍を手に、天狗はゆっくりと地面へ降り立った。
「天狗って、一匹だけじゃなかったの?!」
『やはり、闇に手を染めたか……秋風』
三本の尾を持った大黒狼は、静かに言った。そして、歩みを進め秋羅達の前に立った。
『さっさと美麗を、あの塔から連れ出せ。
ここは、我々が引き受ける』
「え?何で……」
『柊の奴、やはり雷流達と手を組んだか……
ぬらりひょんの子供が現れたことをいいことに』
「それって……」
『小僧、早く美麗を連れ出せ。
この塔から、妖力が溢れ出ている……』
「溢れ出てるって……!!」
何かを察した秋羅は、すぐに塔へ向かった。同時に紅蓮は、塞がれていた蔦を燃やし彼を中へ入れた。彼の後を奈々達は追いかけていった。彼等を攻撃しようとした雷流に向かって、エルは翼を羽ばたかせ、風を起こし辺りに雪を撒き散らした。
『さぁ、この塔には誰も入れはしないよ』
鎌鼬を起こす柊に、幸人達は攻撃を順々に放っていた。だが、攻撃は風と彼が全てを防いでいるせいで、攻撃が一向に当たらずにいた。
「クソ!!弾が当たらない!!」
「残念ながら、水も全然出せないよ!
水を出せば、氷漬けだ」
「こちらも無理よ!
大地、何とかならないの?」
「ちょっと待って!!今調べてるんだから!!」
「それにしても、これだけの妖力いったいどこから……」
「……」
「……まさかとは思うが」
「え?何?」
「出たぁ!!
!?
そうか!!
幸君!陽君!そいつを倒す前に、ぬらちゃんを助け出して!!」
「あ!?
どういう事だ!」
「彼の腕に着いている何かが、塔から出てる妖気を吸収してるの!
そこにいるのは、恐らくぬらちゃん!」
「親友のガキを、餌にしてるって事か!?」
「そんな事をしてまで……」
「相当恨みが強いって事ね」
「それより、腕に着いている何かとは何だ?」
「うーん……
ブレスレットみたいなやつだね。ぬらちゃんが嵌めてるような」
「まさか、妖魔石!?」
「妖魔石って、確か妖力を抑えるんじゃなかったっけ?」
「それもあるけど……
最近の調べで、分かったことがある。
妖魔石は、抑えることも出来れば、放出することも出来る。
でもそれだけではなく、自身が持っている妖魔石を誰かに、渡すことで妖力の受け渡しが可能になるの!」
「美麗はその事を知って?」
「知らないはずだ!」
「だが、記憶を取り戻していたとしたら?」
「!?」
「一部が戻り、その能力を知っていたとしたら、美麗は彼と手を組んだことになる」
「あり得るね!
何しろ、ぬらちゃんは部分的に記憶を取り戻しているから、妖魔石の事を知ってておかしくないわ」
「……」
目を開ける美麗……腕を動かそうとした時、何かが巻き付き動かせなかった。
それだけではなかった……足に頭、腹に何かが巻き付き身動きが出来ない状態だった。
(……何、ここ……
柊?)
声を出そうにも、口にも何かが巻かれ声が出せなかった。
辺りは暗く、自分がどこにいるのかも分からないでいた。
『美麗』
「!」
声がし、振り向こうとしたが、頭が動かせず目で辺りを見た。
『大丈夫。姿が見えなくても、すぐ傍にいるよ』
「……」
『怖がらなくて大丈夫。
この中にいる方が、安全だと思ってね。
さぁ、もう寝なさい』
その言葉に答えるかのようにして、何かが動き美麗の目を塞ぐようにして巻き付いた。振り払おうとするが、頭を拘束され、身動きが取れない彼女は、必死に声を出そうとした。
『お休み。
大丈夫。君が眠っている間、ずっと傍にいるよ』
首にチクッと何かが刺さった……その瞬間、強烈な睡魔に襲われた美麗は、そのまま意識を失った。