桜の奇跡 作:海苔弁
それでも尚、その子を育てるのか?
『育てるよ……
この子は、二人が残した大事な子供。
それに時が経てば、何れこの子は君達妖怪の、総大将になるよ』
……
『僕は、この命が尽きるまで彼女の傍にいるつもりだよ。
だから、心配しないで……リル』
突如として、地面が激しく揺れた……震動に、村人達は騒ぎ出し数人が外へ出た。その瞬間、地面から生え伸びた木の根が、彼等の胸を貫いた。
『逃しはしないよ。
罪は償って貰うから』
宙に浮く柊に、木の根から逃れた村人達は、腰を抜かし恐怖に満ちた表情で、彼を見上げた。
次の攻撃を仕掛けようとした時、突如後ろから銃弾が彼の横を通過した。振り向くと、そこには銃口を彼に向ける幸人が立っていた。
「相手にするなら、まずこっちからにしろ」
『君等を相手にして、僕に何の得があるの?』
「まぁ、ないな。
だが、こうやってやっておかないと、討伐隊への報告が、後々面倒になるんだ」
『フーン……とてもそうには見えないけど』
「まぁ、これは建前だ。
美麗を返して貰おうか?」
目付きを変えた幸人の前に、柊は舞い降り不敵な笑みを浮かべながら答えた。
『嫌だね。
君等人間に、彼女を渡すわけにはいかないよ。
あの子は、麗桜の子供……次期妖怪の総大将になる子だ。そして今、僕のために色々力になってくれてるし』
「……
憎いか?人が」
『憎いさ……殺したいほど。
ずっと抑えていた……けど、美麗を傷付けられたら、いても立ってもいられなかった。
それだけじゃない……もっと昔から、抑えていたものが、今回のことで全部噴き出したんだ!
僕の妻や子供、家族に仲間をこの憎くて仕方の無い人間共が殺したんだ!!』
狂ったかのように発狂する柊に、村人達は怖じ気付いていた。
『人間が妖怪を殺しても、罪にはならないのに……何故妖怪が人間を殺したら、殺されるんだ!!』
「そんなの当たり前じゃない!!
あなた達妖怪には、私達人間には無い力をいくつも持っているわ!!そんなの使ってやり合ったら、ズルいじゃない!」
前へ出てきた女に、柊は木の根を操り攻撃した。飛ばされた彼女は、木の幹に体を打ち付け雪の上へ倒れた。
『人に無い力?
あって当然だろう?僕等妖怪は、その力を使って大地に、緑や水を絶やさないようにしていたんだから。
ここは、元々森も湖も無い山地だった。
そこに、僕達一族と水を使う一族、そして数名の人間がここへ来た……初めは失敗ばかりだった。何度も何度も挑戦して、やっとここまで来た。
雪は止まないけど……木々は生い茂、水は豊富。強力な妖怪が来ても、雷流と秋風が村を守ってくれた。
何十年も掛けて、僕達が作り上げた村を君等人間は奪ったんだ……何もしていない、君等がね!!』
怒りに任せ、柊は金剛杖を天へ翳した。すると尖端から雷の球が浮かび、それを村人達が群がっている場所へ投げ落とした。
落とした瞬間、凄まじい音と共に雷が彼等の体に当たった。
『流石麗桜の子供だよ!!
本当に素晴らしい妖力だ!!』
高らかに笑う柊……銃口を向けていた幸人と陽介は、銃を下ろし彼をしばらく見つめた。
塔へ来た秋羅達……幸人から借りた火炎放射器で、入り口の蔦を燃やすと中へ入り、階段を駆け上った。そして問題の扉へ着いた。
「……あれ?
何か、違うよ」
「え?」
扉に違和感を感じた奈々は、扉に近付きソッと触った。すると扉は、音を立てながらゆっくりと開いた。
「開いた……」
「どうして……昨日は開かなかったのに」
「その前に、早く美麗を連れ出そう。
考えるのはその後だ」
そう言って、秋羅はランタンに明かりを灯し、部屋の中を照らした。部屋は前回とは全く異なり、そこら中に蔦が生い茂、家具類には以前の面影が一つも無かった。
「何か、不気味な部屋」
「この部屋、かなりの妖気が充満しているね……
警戒を怠らないように」
「はい」
「こないだ来た時は、もっと綺麗な部屋だったのに……」
「……?
秋羅さん、あれ」
何かを見付けた奈々は、指を差しながら秋羅の裾を引っ張った。
指を差した方向に顔を向けた……天井から床にびっしりと伸びる蔦。その中腹部分に、蔦の繭が作られていた。
「何だ?これ……」
「大っきい繭」
「どうやら、この繭から妖気を放出しているみたいね。
……?
秋君、中から生命反応が!」
「!?」
持っていた携帯用のナイフを手に、閉じている蔦を切り裂き、中を見た。
背中と腕を覆う無数の管……壁に凭り掛かるようにして、美麗は座っていた。
「美麗!!」
覗いた穴をさらに大きく開き、秋羅は中へ入り美麗をそこから引きずり出した。
横に抱き、床へ下ろし背中と腕を繋ぐ管を、全て引き抜いた。
「美麗!!目を開けろ!!美麗!!」
「ちょっと失礼」
秋羅の隣に座り、大地は彼女の首を触り閉じていた目に、ペンライトを照らした。
「脱水症状起こしてるわね。
少し弱いけど、脈はあるから問題無い」
「よかったぁ……」
「早く美麗連れて、ここを出よう!」
「あぁ」
美麗を抱き上げ、秋羅達は外へ出ようとした。次の瞬間、秋羅は足を取られ上へと引き上げられていき、上がる寸前に美麗を時雨に渡した。
「秋羅!!」
「何あれ!?」
「妖気が充満してるから、妖怪化しやすいのよ!」
「つまり、この蔦は柊が動かしているんじゃなくて、妖気が動かしているって事ですか?」
「……多分そうだと思うけど」
「分からないなら、分からないって言って下さい!!」
「お前等騒いでないで、俺を助けろ!!」