桜の奇跡 作:海苔弁
意識を取り戻したのか、美麗はゆっくりと目を開けた。
「あ!美麗、起きた!」
奈々の声に、攻撃して来る蔦を防ぐ時雨の後ろにいた大地は、すぐに彼女の元へ駆け寄った。
「ぬらちゃん、大丈夫?」
顔を覗き込んできた大地に、美麗は驚き思わず顔面に拳を食らわせた。鼻から血を流しながら、彼は仰向けに倒れいなくなると、美麗はすぐに起き上がり部屋の隅へ隠れた。
「相当警戒してるね。おじさん」
「おじさん言うな!!
クソ!血が止まらない!」
ポケットからティッシュを出し、それで鼻血を大地は止めていた。
「顔近付けるから、そうなるんですよ!」
攻撃して来る蔦を槍で切り落とすと、秋羅は美麗の元へ駆け寄った。
「立てるか?」
「……柊は?」
「アイツなら、外にいる」
「!
頭下げて!!」
そう言われ、咄嗟に秋羅は頭を下げた。その直後、彼の頭上を勢い良く振ってきた蔦が、通過した。
「ここ出る前に、この蔦をどうにかしねぇと」
「風で蔦を切るから、準備して!」
そう言って、美麗はふらつく足で立ち上がると、足下に氷で陣を描いた。
「悲しき風の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」
美麗の周りに吹き荒れる風……その風を、美麗は自身の差し伸べた手に集めた。
「鋭い刃と為せ、その者を切り刻め!」
吹き荒れる風は、襲ってきた蔦を全て切り裂いた。退路が開くと、秋羅は倒れかけた美麗を担ぎ、時雨達と共に部屋を飛び出し、階段を駆け下り外へと飛び出た。
暴走する柊の力……風と雷を交互に放ち、逃げ惑う村人達を攻撃した。放たれる攻撃が、民家や畑に当たり壊していった。
「どうにかしてくれ!!討伐隊だろ?!アンタ!」
「少し黙れ!!
貴様等が巻いた種だろうが!」
攻撃してきた根に、陽介は銃弾を放ち防いだ。すると、四方から鎖が伸び、柊の動きを封じた。
「四方縛り、成功」
「少し、暴れ過ぎだよ」
「思い出の家まで、壊すことないでしょう?」
『彼等が住んでいる時点で、もうこの村の家全てが汚れているよ』
静かに言いながら、柊は目から一筋の涙を流した。
塔から出て来た秋羅達は、近くの森に身を潜めていた。疲れ切り横になっていた美麗の傍に、エルは心配そうな声を発しながら顔を覗かせた。覗き込んできたエルの顔を、美麗は優しく撫でた。
その時、茂みがざわつき秋羅と時雨は美麗達の前に立ち身構えた。
「……紅蓮」
出て来たのは、紅蓮とリルだった。紅蓮は横になっている美麗の元へ寄り、顔を擦り寄せた。紅蓮の頬を撫でる彼女の元へ、リルは近付きその気配に紅蓮は退くようにしてエルの元へ行った。
『……妖気はかなり吸われているが、平気のようだね?』
「柊は?」
『村の方だ』
「……行かなきゃ」
起き上がり、ふらつきながら美麗は立ち上がった。
「ちょっと!
そんな体で行けるわけないでしょ!
ただでさえ、妖気を吸われて同時に体力も吸われているのよ!!」
「うるさい!!
お前等がここに調査しに来なかったから、柊の家族も仲間も、皆お前等人間に殺されたんだ!!」
大地に怒鳴る美麗の目が、一瞬青くなった……その目に、彼は驚き黙り込んだ。
(何で、目が……)
(ブレスレットもアミュレットも外れてないのに……)
「何のための討伐隊だ!
半妖は人と同じ扱いなんだろう?何で柊の仲間が、人間に殺されなきゃいけないんだ!!」
その怒鳴り声に反応したのか、突然木の根が無数に生え美麗の周りを囲った。木の根に覆い被さるようにして、氷の壁が張られた。
「美麗!!」
「な、何?!これ!」
『……柊、暴走しているな』
「え?」
『紅蓮!早く氷を溶かしな!』
傍へ駆け寄ってきた紅蓮は、すぐに炎を吹き氷を溶かした。氷が無くなると同時に、木の根が生え伸び紅蓮達を攻撃してきた。
「またかよ!!」
「アンタ科学者でしょ!何とかしなさいよ!!」
「そう言われても、こっちだって今策練ってる最中だ!!」
『美麗……』
どこからか聞こえる声……
目を閉じていた美麗は、ゆっくりと目を開いた。
「……木の根?
!
柊!柊!」
その声に応答するようにして、後ろから物音が聞こえた。恐る恐る振り返ると、木の根が人の姿を作りその姿は柊の形となった。
「……柊」
『美麗』
柊の姿となった木の根に、美麗は抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、柊は受け止めしっかりど抱き締めながら、探るようにして頭を撫でた。
『ごめん……君の妖力を奪ってしまって』
「平気……
ねぇ、もうやめよう。こんな事してたら、柊の体持たないよ?」
『そうだね……
でも、もう無理なんだよ。
僕の体と心は、復讐と恨みで染まってしまった』
そう言って、柊の周りに黒い炎が沸々と燃えだした。美麗はすぐに、柊から離れた……その瞬間、彼の姿を形作っていた木の根が、黒い炎に包まれ燃え出した。
ハッと気付いた時には、周りは既に黒い炎に包まれていた。逃げられずにいた時、突如光が差し込みその中から、手が差し伸ばされその手は、美麗の襟を掴み彼女を持ち上げた。
炎の中から出された美麗は、秋羅に抱えられて外へと出た。
「怪我は?」
「見たところない」
「ねぇ、柊は村の方にいるんだよね?」
「幸君達が止めてるから、そのはずよ」
「……紅蓮、お願い」
駆け寄ってきていた紅蓮の背に、美麗は乗ろうとした。だが、その行為を秋羅がすぐに止めた。
「美麗!待て!
妖気を奪われてる、今のお前に」
「助けなきゃ!!
柊が戻れなくなる!」
青い目を秋羅に向けて、美麗は言った……彼は掴んでいた美麗の手をソッと離し、彼女を見つめた。
「……昔、聞いたことがある。
妖怪は、闇に堕ちると二度と元には戻れなくなるって……敵味方関係無しに、暴れて襲い掛かって、最後には討伐隊の手によって、殺される。
それが多くに見られるのが、半妖。
人でもない妖怪でもない彼等は、双方から虐げられて行き場を失った。
だから、いなくなったんだよ……半妖は。
どんなに国が、半妖は一人の人間として扱うって言っても、偏見は変わらない!」
「美麗……」
「柊は……柊は、私の知らないパパのことを、いっぱい知ってる。
もっと聞きたい…もっと知りたい……
それに、もう誰も失いたくない!!いなくなるのは嫌だ!!
だから、死なせたくない!!」
「……
先に行け」
「え?」
「秋羅!」
「俺等は後から行く。
先行け」
しばらく秋羅を見つめると、美麗は紅蓮の背に乗り森を駆けていった。
「秋羅!いいの?!」
「……誰だって、大事な奴を亡くしたくない」
「秋羅さん?」
「……」
『話の分かる小僧のようだな?』
「そういや、お前誰?」
『北全域の守る黒狼の長だ』
「長……
って事は、まさか……リル?」
『その通りだ』
「こんな所でお目に掛かるとは……」
『麗の扱いが酷ければ、紅蓮に言ってこちらへ連れ戻そうと思っていたが、聞くと相当お前達を気に入ったようだな?』
「ハハハ……そりゃどうも」
『だが、これからどうなるか』
「?」
「どういう事?」
『……柊は、あの子の記憶を少し弄ったみたいだな』
木の影に隠れ、陽介は無線で誰かと連絡を取っていた。
「分かった、すぐに伝える。
幸人、あと一時間したら救援隊がこちらへ到着する」
「わぁー、ありがてぇ」
「絶対思ってないでしょ?」
「あいつ等、余計なことしかしないからな」
「事実でも、そういう事言わない」
“バーン”