桜の奇跡 作:海苔弁
あぁ……嫌な音……
この音の直後、娘は死んだんだ……それを合図に、次々に死んでいった。
殺す……
撃った奴も、ここにいる奴等全員!!
滴り雪の上に落ちる、赤い血……
宙に浮いていた柊は、目を光らせ二つの武器に、全ての妖力を吹き込み四方八方に攻撃した。
生き残っていた村人達は、逃げ惑うも次々と胸を貫かれていった。さらに、幸人達にも攻撃の手が伸び彼等はすぐに防ぎながら、自身達に助けを求めてきた村人を守護した。
「ありゃ完全に、暴走しているな」
「いや、見れば分かるよ」
「呑気に話してないで、何とかしろ!!アンタ等、祓い屋と討伐隊だろう!!」
「そう言われてもね、半妖だから攻撃は出来ないんだ」
「そうそう」
「まぁ、もうちょっとの辛抱だ。
時期に救急隊が来る」
その時、雷と風の攻撃が同時に、彼等を襲い掛かってきた。武器を構え、防ごうとした時だった。
「柊!!」
響く声……柊は攻撃を止めゆっくりと、声の方へ振り返った。
紅蓮から降りる美麗……見えない彼女の姿に、柊は地へ足を着かせ手で探りながら歩き出した。
息を整えながら美麗は柊の元へ駆け寄り、そして探る手を握ると、彼に抱き着いた。握られた手で、柊は抱き着いている彼女の頭を触り、頬、首と順に触るとその場に膝を付き彼女の頬を包むようにして手を置いた。
「美麗……ああ、美麗」
「柊……
もうやめよう。やめて、北西の森に帰ろう」
「北西の森……あぁ、麗桜が住んでた森だね」
「皆いるから、そこへ帰ろう。ね?」
静まり返る木の根……荒ぶっていた風と雷は、その光景を見ると力を収めた。宙に浮いていた二つの武器は、天狗の姿へと変わり彼女を見た。
「落ち着いたみたいだな」
「そうみたいね」
「……?」
葵の隣にいた村人は、隠し持っていた銃を彼等に向けそして、震える手で引き金を引いた。
“バーン”
貫く弾……血飛沫が、美麗の顔に付いた。そして、貫いた弾は彼女の腕を掠り、雪に埋もれた。彼の姿を見た天狗達は、己の力を振り絞り、銃弾を放った村人を八つ裂きにした。村人は血塗れとなり、その場に倒れた。
「……ひ…柊?」
「とうとう……撃たれちゃった……」
「……!」
美麗の前で、力なく倒れる柊……仰向けに倒れた彼は、最後の力を振り絞って手を挙げた。美麗はすぐにその手を握り、自身の頬を撫でさせた。
傍にいた天狗達……雷流と秋風は、彼の傍に座り顔を見た。その時、曇っていた空から、太陽が顔を出し辺りを照らした。
「……!
柊、目」
無造作に生えた前髪の間から見えた、柊の赤い瞳に光が戻っていた。彼は両眼から涙を流して、美麗の頬を撫でながら微笑んだ。
「あぁ……やっぱり、同じだ」
「え?」
「青い目……
やっぱり、麗桜の子供だ……」
そう言い、美麗の頬を撫でた……やがてその手は、力無く雪の上へ落ちた。半開きとなった目からは光が消え、流れ出た涙は、寒さゆえに静かに凍った。
「……柊?
柊……ねぇ、柊……柊!
起きてよ!ねぇ!
もっと、パパの話をしてよ……もっと、家族のことを話してよ……私、まだ聞いてないこと、いっぱい……
柊ぃ!」
大粒の涙をポロポロと流しながら、美麗は彼の体にしがみつき泣き喚いた。その泣き声は山中に響き渡った……
後から駆け付けた秋羅達は、すぐに状況を呑み込んだ。
時雨は口を抑えて、涙を流した。奈々は彼女のコートの裾を掴みながら、声を抑えながら泣き、秋羅は悔しそうに涙を流した。
『……また一つ、消えたか。
紅蓮、後は任せる』
そう言って、リルは森の中を駆けていった。
その時……彼女の泣き喚く声に応えるかのようにして、柊の体に突如異変が起きた。
体から生えてくる、無数の草花……美麗は、とっさに体から離れた。雷流は彼女を抱き上げ、その場から離れさせた。彼の体は草で覆われて行き、やがて巨木へと成長していった。辺り一面に生えている木々を覆うような、巨大な木へと。
その数時間後だった……救急隊が到着したのは。
殺された村人達の亡骸を全て回収をしていく、救急隊……柊の木は、大地達研究員の手の下、調べられていた。近くで巨木も見上げていた幸人は、傍で調べている大地に声をかけた。
「大地、どうだ?」
「どうって……別に、その辺に生えている木々と変わらない。まぁ、違うって言うなら柊の木を含めてこの辺り一帯の木々には全部、妖気があるってことくらいね。後、森の中にあった池も」
「妖気がある?
それって……」
「恐らく、全部の木が柊の一族の亡骸からなったもの。池はその水を使う一族から出たもの」
「……なるほどな。
力を使って大地に、緑や水を絶やさないようにしていた……柊の言う通りだったってことか」
「とりあえず、この村全体は討伐隊の保護区にしたわ。
まだ、調べたいことは山ほどあるし。それに、彼等から住処を奪ってはダメよね?」
美麗の傍から離れようとしない、二人の天狗を見ながら大地は言った。
紅蓮の胴に顔を埋め横になる美麗……心配そうに、傍にいたエルは嘴を彼女に近付け、頭を軽く撫でた。
「さっき、陽君付きで彼女の体調べたけど……
相当妖気を吸われたみたいね。それと一緒に体力も吸われていて……
目は元の赤になっていたけどね」
「そうか……」
「まぁ、僕チンからの診断だからちゃんとは言えないけど……
当分の間は、絶対安静。妖力を回復させることに専念してね」
「そうした方が良さそうだな。
その間の依頼は、俺と秋羅でやるか」
「頑張れー。
アッ、そうそう……これ、彼女に渡しといて」
そう言って、大地は蓋が閉まった試験管を、幸人に渡した。その中には、数個の種が入っていた。
「何だ?これ。種か?」
「柊の木から取れたの。
と言うより、落ちてきたって言えばいいかしら?」
巨木を見上げながら、大地は言った。微風が吹き周りの木々を揺らした。木々は木の葉をざわつかせ、ユラユラと揺らいだ。
二人が話している中、暖かいお茶が入ったカップを持った秋羅は、美麗の元へ歩み寄った。
「お茶だ。飲めるか?」
ムクッと起き上がった美麗は、腫れた目を擦りながら、差し出されたお茶を受け取りゆっくりと飲んだ。
「調査が終わり次第、家に帰るってさ」
「……」
「傷、痛むか?」
「平気……」
彼女を見下ろす秋羅に、鋭い視線が刺さった。鋭く睨み、今にも攻撃しそうな雷流と秋風に、彼は見ながら苦笑いした。
「秋羅は私達の味方。
敵視しなくていいよ」
美麗の言葉に、二人は武器を下ろし彼から目を離した。
「……扱いに慣れてることで」
「……ねぇ」
「ん?」
「……
晃はどこ?」