桜の奇跡 作:海苔弁
「オーイ!幸人、いるかー?」
買い物袋を担いで、暗輝は水輝と共に幸人の家へ来ていた。鍵を開け、足で戸を開きながら2人はズカズカと中へ入った。
中は物家の空になっており、2人は持っていた荷物をテーブルの上へ置くと、庭の方へ出た。
そこでは、馬達に遊ばれる男の子と、その隙に幸人が小屋の掃除をしていた。
「うわー、早速扱き使ってるわー」
「オーイ!幸人ー!」
水輝の声に気付いたのか、幸人は小屋から出て来た。彼女の声に、馬の手綱を握った男の子は、こちらに顔を向けた。
「頼んだ物、買ってきてやったぞ」
「悪いな。
ここんとこ忙しくて、買いに行く暇が無かったから」
「別にいいけど……
その子?弟子として、迎えたって言う子は」
馬の手綱を引き、幸人の元へ行くと男の子は、素早く彼に引っ付き、後ろへ隠れた。
「あらま……恥ずかしがり屋さんかな?」
「いや、大人に慣れてないだけだ。
俺の知り合いだ、挨拶しろ」
後ろに隠れているこの背中を押しながら、幸人は男の子に言った。前へ出た彼は、不安そうな表情で軽くお辞儀をすると、すぐに幸人の後ろへ隠れた。
「慣れるまで、少し時間がかかりそうだね?」
「地道にやってくさ。
秋羅、馬戻しといてくれ」
頷き秋羅は、幸人が持っていた手綱を手に、馬を小屋へと戻しに行った。
「アイツ、秋羅って言うのか?」
「あぁ。先に中入っててくれ」
「はいよー」
数分後、家へ戻ってきた秋羅は、椅子に座っている2人を気にしながら、秋羅は幸人の傍へ駆け寄った。
「本当、大人に慣れてないんだね?」
「一ヶ月前に、引き取ったばかりで俺以外の大人とはまだ」
「フーン……」
「秋羅、部屋行ってろ」
2人を気にしながら、秋羅は階段を上り自身の部屋へ入った。
「そんで、引き取った理由は?」
「先日行った、依頼先でゴミみたいな扱いをされてたから。
丁度時期的に、弟子を取ろうと思ってたからな。いい機会だった」
「本部の方には?」
「2年間、休暇取った。
弟子を育てるには、それくらいの期間が必要だと、あの爺から口酸っぱく言われたからな」
「なるほどねぇ……見込みは?」
「素質はある」
「まぁ、弟子が取れれば『月影』は安定だな」
「うるさい」
「月影さん!いるか!?」
突然ドアが勢い良く開き、外から男が1人入ってきた。
「何だ?どうかしたか?
悪いが、今は休職」
「助けて下さい!!
うちの牧場に、妖怪の群れが出たんです!!」
「!」
「幸人」
「……秋羅!
ついて来い!」
フックに掛かっていた上着を手に、幸人は駆け付けてきた秋羅と男と共に、家へと向かった。彼等の後を暗輝と水輝は追い掛け、後をついて行った。
依頼人の家へ行き、中から庭を見るとそこには妖怪の群れが、においを嗅ぎ何かを探るようにして、動き回っていた。
「ざっと見ても、6匹はいるな……」
「ここんとこ、静かになってたかと思ってたけど……そうでもなかったみたいだね」
「とりあえず、退治する。
秋羅、後方から援護頼む」
「え?秋羅も戦わせるの?」
「経験だ。
秋羅、来い」
投げ渡された槍を組み立てながら、秋羅は幸人について行った。
「……水輝、治療の準備しとけ」
「私等、まだ見習いだぞ」
「緊急事態だ」
「……了解」
庭へ出た二人の元へ、妖怪達は咆哮を上げて襲ってきた。先に幸人が銃弾を放ち一等を占め、後から来た二匹の妖怪は、後方にいた秋羅に攻撃を仕掛けてきた。
襲ってきた妖怪の一匹を槍で刺し倒し、もう一匹を自身の腕に噛み付かせると、そのまま槍で串刺しにした。
襲ってくる妖怪達を、次々と倒していく秋羅……だが、その背後にボスであろう、妖怪が彼目掛けて攻撃してきた。同時に前からも、攻撃をしてきた妖怪に秋羅は戸惑い、思わず槍を強く握り頑なに目を瞑った。
“ピチャン”
頬に何かが当たった……秋羅は、恐る恐る目を開けた。
「……な……何…で?」
自身を守るようにして、四方の攻撃を体で幸人は受け止めていた。ハッとした秋羅は、すぐに立ち上がると後ろにいる妖怪を倒し、同じく幸人は前にいた妖怪に銃弾を食らわせた。
全ての妖怪を倒し終えると、幸人はその場に力無く倒れた。
「な、何で……何で、俺を」
「弟子助けない師匠が、どこにいるんだよ……
怪我無いか?」
「無い……」
溢れ出てくる涙……幸人は痛む腕を動かし、秋羅の頬を流れる涙を拭った。
「男だろう?泣くな」
「だ、だって……俺……」
必死に涙を止めようとする秋羅だが、涙は止まる気配がなかった。
その時、心地良い風が吹き彼等の髪と頬を撫でた。その風のおかげか、秋羅の涙は自然と止まった。
「あれ?涙が……」
「親父さんが、涙止めてくれたんだよ。
あんまり、大泣きするもんだから」
悪戯笑みを溢しながら、幸人はそう言った。秋羅は彼に釣られて笑顔を浮かべた。
その笑顔は、幸人の元へ来て初めて見せた笑顔だった。
夕方……眠ってしまった秋羅を、包帯だらけの幸人は背負い帰路を、暗輝達と歩いていた。
「父親が妖怪に殺されて、その現場にいた息子が犯人扱い……酷い話だな」
「それが原因で、町の連中はともかく母親まで人殺し扱いだ」
「それで、不憫に思って引き取った……
幸人らしいね」
「ほっとけ」
「けど、秋羅君いるならまた賑やかになるね!」
「秋羅も、幸人のだらしなさ見たら、さぞ口うるさくなるだろうな」
「お前等、俺を何だと思ってんだよ!」
現在……
ソファーで寝る幸人……
「寝るなら自分の部屋で寝ろ!」
そう怒鳴りながら、秋羅は掃除道具を手に彼を叩き起こした。
「いいだろう、俺がどこで寝ようと」
「その後片づけしてるのは、どこの誰だ!」
「その辺に関しては、感謝しても仕切れません」
「幸人!」
「相変わらず、騒がしいねぇお前等」
そう言いながら、暗輝は水輝と共にリビングへ上がった。
「無断で入ってくるな」
「いいじゃねぇか、別に」
「そうそう!」
「ったく……」
「そういやお前、本部の方から命令が下ったんだって?
闇市で、買い物とか何とか」
「闇市で珍しいガキが売られてるから、それを買い取って保護しろと」
「よく行けるよね?弟子連れて」
「亡くなったクソ親父のおかげで、慣れてるからな」
「そういや、商人だったもんな。
親父さん、闇市の」
「下っ端だったがな」
「あれ?でも、確か闇市って親子か親族関係で行かないと、駄目だったんじゃなかったっけ?」
「それだったら平気だ。
倅と言っとけば、何とかなる」
「おいおい……」