桜の奇跡 作:海苔弁
美麗が、幸人達の元へ来て2回目の春を迎えた。
「美麗が北西の森へ帰ってから、三ヶ月……
全く、連絡無いな?」
遊びに来ていた暗輝は、秋羅が出したお茶を飲みながら言った。
「そうですね……
結構かかるって言っていたんで」
「エルの様子は?」
「一応、飯は食べるんですけど……
半分残して、そのまま大人しくしてるって感じですね。
無断で小屋から出ないし、騒がないし……」
「完全に飼い主がいなくて、寂しくなってる病だな」
「紅蓮いてくれたら、まだよかったんですけどね……」
「絶対お断りだ」
「受けろ、依頼」
とある日、突然来た創一郞と幸人は言い合っていた。その様子を、別席から敬と秋羅は観戦していた。
「中々依頼受けてくれないな?お前の師匠」
「美麗奪って、仕事妨害した奴に手なんか貸したくない」
「いつまでも引っ張るなぁ、お前等」
「俺等はしつこいんでね」
「あれ?肝心の美麗は?」
「療養で、北西の森に戻ってる」
「療養?何でまた?」
「お前に答える必要は無い」
「いい加減折れろよ。
二時間も話してて、疲れたぞ」
「そんじゃあ、とっとと帰れ。
そして、二度と来るな」
「お前……
俺以外の祓い屋の依頼を受けて、何で俺の依頼を受けない?」
「あいつ等は、俺の条件を呑み込んでくれるし、報酬をくれるからなぁ」
「……条件は?」
「倍の依頼料と報酬料だ」
「人の足見やがって……」
「嫌なら、とっとと帰れ」
「……」
汽車に乗る幸人達……目的の駅へ着き、列車から降りる幸人と秋羅を前に、深く溜息を吐きながら煙草を吸う創一郞が敬と共に駅を見回していた。
「何深い溜息吐いてんだよ」
「当たり前だ。人の足見て、あれだけ金の請求すれば、誰だって溜息は吐く」
「だったら別の奴に頼めばいいだろう」
「他の奴等は、全員仕事だ。
海影と紅影は、海外だし」
「なるほど、それで絶対に頭を下げたくない月影に、頼んだって訳か」
「一言余計だ!」
敬の頭に拳骨を二発食らわせながら、創一郞は怒鳴った。家畜車から出したエルは、彼等を見ると隙を見て、頭を二・三発突っ突いた。
「いい加減、こいつを躾け治せ!!」
「無理無理。
こいつが言う事聞くのは、美麗だけだ」
駅を出て、しばらく道を歩き、彼等はとある一軒家に着いた。家の中へ入り、庭が見える部屋へ案内された。
庭では秋羅がエルの傍に就き、エルは庭を見回しながら箱座りし、彼に頭を寄せた。
「お待たせしました。
依頼人の、守部と言います」
「祓い屋の土影だ。
依頼内容は、手紙で読んで一応把握はしている」
「それでは、こちらの鍵を」
少し錆びた鍵を、守部は創一郞に渡した。鍵を手に、創一郞は幸人達に話をしながら、人気の無い所を歩いていった。
「雷神様?」
「この国は、雷が多い国でな。名前もその名の通り、雷の国。
その雷神様が、この国の守護神として、崇められているんだが……
どういう訳か、最近攻撃的な雷が町に落ちるようになった」
「何でまた?」
「俺が知りたいくらいだ。
そして、今回の依頼はその雷神様を退治して欲しいという内容だ」
「退治って……
雷神様って、この町の守護神なんですよね?何で?」
「邪魔になったんだろう。
ましてや、攻撃してくる妖怪だ。いらないも同然なんだろうよ。守護神だろうと何だろうと」
鍵の掛かった柵を解錠し、彼等が中へ入ろうとした時だった。
“ドーン”
「うわっ!」
「な、何だ!?」
突然落ちてきた雷……それと共に、森の影から何かが飛び出ていった。
「何か町の方に行ったぞ!」
「追い駆けるぞ!
敬、来い!」
「あ、はい!」
「気を付けろよー」
「テメェ等も来い!月影!!」
“ドーン”
町へ着くと、四方八方に雷が落ちていた。近くに立っている避雷針に当たるも、次の雷に応じることが出来ないでいた。
「避雷針が全く役に立ってねぇ……」
「とりあえず、あの飛び回ってる雷神を止めるぞ」
「ヘイヘイ。
秋羅、住人の避難頼む」
「分かった」
「敬、お前も行け」
「ウーっす」
武器を組み立てながら、秋羅は敬と共に町の中へと駆けていった。
「俺は空から奴を攻めるから、創一郞は下から攻めろ」
幸人はエルの背に乗ると、銃を片手に空へと飛び上がった。
空から襲ってくる雷神を幸人は、銃弾を放ち攻撃した。雷神は放ってきた弾を軽々と避けると、幸人目掛けて雷を撃ち放った。
「エル、上だ!!」
手綱を引き、エルは上昇し雷を避けた。その時、エルは何かの音に気付いたのか、辺りをキョロキョロと見回すと、鳴き声を発しながらどこかへ向かいだした。
「エル!どこに行くんだ!?」
エルが行き着いた場所は、国から離れた森だった。何かを探し回り、そして見付けたかのようにそこへ駆け付けた。
駆け付けた場所には、地狐がいた。2人の姿に少々驚きながらも、彼は微笑んだ。
「何でお前が?」
エルから降りた幸人は、驚きながら地狐に問い掛けた。彼は、寄ってきたエルの頬を撫でながら、答えた。
『美麗の治療が終わってね。
彼女を君等の元へ返そうと思って、霊気を辿ったらここに』
「そんで、美麗は?」
『彼女なら、紅蓮と一緒に町へ行ったよ。
すれ違いになったかな?』
地狐の言葉を理解したのか、エルは幸人の背中を突っ突き自身の背中に顔を向けながら、鳴き声を発した。
『早く会いたいって』
「分かった分かった」
『僕も乗せて貰うよ。
美麗と君等に、話しておきたいことがあるからね』
2人が乗ると、エルは助走を付け翼を広げると飛び立った。
国へと到着する幸人達……戻った頃には、既に雷は収まっていた。人気のない場所に、エルを着陸させ降りた。
「……創一郞の奴、止めたのか?」
『妖怪の気配はないみたいだね』
「そうだな……」
別のケースから銃を取り出し、彩煙弾を上へ向けて放った。
「これで、来るとは思うが……」
彩煙弾の音に、振り返る秋羅と敬と創一郞……
「彩煙弾だ!」
「見りゃあ分かる」
「幸人の奴、あっちにいるみたいだな」
「みてぇだな。
行くぞ」
「ヘーイ」