桜の奇跡 作:海苔弁
「何で、化け狐が?」
『化け狐って……
僕は妖狐。そんで名前は地狐。変な呼び名は付けないでくれ』
「妖狐でも、結局化け狐と変わらねぇじゃん」
『……』
「何で地狐がここに?」
『それはね』
「キャァァアア!!」
突然響き渡る悲鳴……彼等の元へ駆け寄ってくる女性に、秋羅は寄り彼女に手を貸した。
「どうかしたか?!」
「よ、妖怪が!
妖怪の群れが!!」
「まだいたのかよ……」
「どこにいた?」
「あ、あっち」
「秋羅、その女を安全な所へ」
「分かった」
「敬、行くぞ」
「あ、あぁ!」
妖怪の群れがいる場所へ来た幸人達……
銃口を妖怪達に向けようとした時、群れが次々と倒れていった。
「な、何だ?」
群れの中で、何かが暴れていた……その何かに、妖怪達は倒されていた。外側にいた妖怪を倒し中を見ると、そこにいたのは、小太刀を振り回し妖怪達を次々と倒していく美麗だった。
「あれ?美麗じゃね?」
「だな……」
屋根から飛び降りてきた大黒狼は、口から炎を吹き残りの妖怪達を焼き払った。
「……?
あ!幸人!」
彼の姿に気付いた美麗は、小太刀をしまいながら飛び付いた。
「随分、顔色良くなったな?」
「地狐に治して貰った!
ねぇ、秋羅とエルは?」
幸人から降り、美麗は近くを見回した。ふと、創一郞達の存在に気付くと、素早く幸人の後ろへ隠れた。
「相変わらずの反応ですね?先生」
「テメェモだろうが」
「何でいるの?」
「仕事の依頼だ。
詳しいことは、秋羅に聞け」
「はーい」
その時、空からエルの鳴き声が聞こえ、見上げると秋羅と地狐がエルに乗って、幸人達の元へ来た。秋羅達を降ろすと、エルは一目散に美麗の元へ駆け寄っていった。
「エル!」
美麗は、寄ってきたエルの頭を撫でた。エルは美麗の周りを駆け回りながら、彼女に体と頭を摺り寄せた。
「何で美麗が?」
「説明しろ」
『ここじゃなんだし、ちょっと別の所でお願いしてもいいかな?
外だと、周りの人にも聞かれちゃいそうだし』
「それもそうか。
地弧、さっき俺とエルが行った所で頼む」
『了解。
土影だっけ?この2人、借りるよ』
「え?」
何か言おうとした創一郞を無視し、地狐は白い霧を放ち、幸人達を包み込んだ。
やがて霧は晴れえると幸人が、先程地狐と出会った場所へ着いた。
『はい、到着』
「さ、とっとと説明しろ」
『そう慌てない』
話そうとする地狐に気を使ったのか、エルは美麗を加え勢いをつけて投げ、自身の背中へ乗せるとそのまま飛びだった。二人の後を、大黒狼の姿をした紅蓮は追い駆けていった。
「あんまり遠くに行くなよ!」
「いなくなったんだから、とっとと話せ」
『ハイハイ。
まず始めに、美麗は一応完治はした。でも、無理は禁物。
一部を残して、記憶は全部蘇らせた。それと一緒に、妖力を少し解放した』
「だから、雰囲気が少し違うのか……」
『まぁね。
少し、大きくなったでしょ?』
「言われてみれば……そうだな」
『妖力を抑えている分、体が小さいんだよ。
少し妖力を解放したから、そうだなぁ……丁度、普通の14歳の女の子と同じかな』
「丁度って……今まで、いくつだったんだ?」
『10歳前後って所かな。
年齢は116歳だけどね』
「成人した時の美麗って、どんな感じなんですか?」
『うーん……
絶世の美女って感じかな?
まぁ、僕等妖怪からの視点からの感想だけど。
君等人からは、どういう風に見えるかは分からないよ』
「めっちゃ見てみたい……」
『解放した時は、この世の終わりだと、思った方が身のためだよ』
「遠慮しときます」
『他に知りたいことは?』
「晃のことは、何て言っている?」
『外国に仕事。
帰ってくる日は未定って、伝えているよ』
「そうか……」
『彼の事聞いてきたら、さり気なく話を合わせて。
彼女、凄い寂しがり屋だから。晃が仕事で二・三日帰って来ないだけで大泣きして、天花がよく手を焼いていたくらいだから』
「婆の手を焼かせるとは……」
『あ、そうそう。
紅蓮のことを話しておくよ。
晃の記憶を蘇らせたから、彼の記憶を少し消したから』
「消したって……何を?」
『人になれていた頃の記憶。勿論、美麗のその部分の記憶も消したよ』
「何で?
消さなくても」
『紅蓮は晃の生まれ変わり。
人になった紅蓮の姿と、晃は瓜二つ。彼がいない今、美麗が見たらぬか喜びするだけだよ?
だから』
「消したって事か……
なるほどな」
『まぁ、普通の黒狼に戻っただけだよ』
鳴き声を発しながら、エルは幸人達の元へ帰ってきた。エルから降りた美麗は、地狐の元へ行き彼に飛び付いた。
『久し振りの散歩は、楽しかった?』
「うん!」
『それじゃあ、後は頼んだよ』
「あぁ」
「帰っちゃうの?」
『森での仕事、姉君だけに任せられないからね』
霧を起こし、幸人達を元の場所へ送ると、地狐はそのまま霧と共に去って行った。
消えた霧の所を見つめていた美麗に、エルは嘴で軽く突っ突くと、彼女に頭を擦り寄せた。
「どこ行ってんだ?お前等」
目の前に現れた幸人に絡むようにして、後ろから肩に腕を乗せながら、創一郞は質問した。
「ちょっと近くの森に」
「何話してたんだ?」
「テメェには教えられない、美麗の情報だ」
「一応俺も祓い屋だぞ。美麗の情報、俺にも寄こせ」
「嫌なこった。
変に利用されちゃ、こっちが困る」
「お前なぁ……」
「それより、この事依頼人に報告しなくていいのか?」
「とっくにした。
引き続き、頼むとさ」
「マジかよ……
あ、そうだ。水輝か暗輝呼ぶぞ」
「何でだよ」
「こいつのデータを送る研究員だ。
いなきゃ、約束果たせねぇだろうが」
「ったく、そこだけは律儀だな?」
「あっちから、変人2人を送り込まれて美麗が怖がるより、慣れてる2人がいた方がいいだろう」
「ヘイヘイ」
「泊まる宿教えろ。
そこから連絡する」
「了解」
「美麗!宿に行くぞ!」
エルと遊んでいる美麗に、秋羅は声を掛けながら幸人達の後をついて行った。彼の声を聞いた美麗は、紅蓮の背中へ乗り後を追い掛けた。
「ハァ!?美麗が帰ってきた!?」
電話越しから大声を出す暗輝に、受話器を耳に当てていた幸人は、彼の大声に一瞬耳を離し再び話し出した。
「そうだ。
そういう訳だから、お前か水輝どっちか来られねぇか?」
「俺は隣町から仕事入ってるから、今患者の所に行ってる水輝に言って、そっちに行かせるよ」
「頼む」
受話器を本体へ戻し、幸人は傍にいた創一郞に、悪戯笑みを浮かべながら言った。
「水輝が来るってさ」
「最悪だ。この世の終わりだ」
「言い過ぎだ。
性格はああだが、腕はプロだ」
「どれくらいで着く?」
「明日の昼間か、夕方には着くだろう。
仕事が終わり次第だから」
「あっそ……」
“ドーン”
突然鳴り響く雷……先に部屋にいた秋羅は、外を見ながら部屋を出て行き、裏口から外へ出て小屋の方へ行った。小屋には、雷の音で身を縮込ませる美麗が、紅蓮に抱き着いていた。
「やっぱりか……
美麗」
秋羅の呼び声に、美麗は怯えながら顔を上げた。半べそを掻いていた彼女は、歩み寄ってきた秋羅にしがみつき、再び鳴り響く雷に怯えた。
「よしよし。大丈夫だ。
さ、部屋に行こうな」
しがみつく美麗の肩に手を置きながら、秋羅は宿の中へ入った。
夜中……
鳴り響く雷……小さいながらも、その音に美麗は耳を塞ぎ布団を頭から被り怯えていた。
聞こえなくなった雷に、美麗は布団から顔を出し、ベッドから降りると、向かいのベッドで眠っている幸人の布団へ潜り込んだ。
入ってきた美麗に気付いた幸人は、目を開け自身にしがみつき雷の音に怯えている、彼女の頭を宥めるように撫でた。
「(成長しても、雷の音には慣れないか……)
なぁ、美麗」
「ん?」
「晃と一緒に暮らしてた時、雷鳴ったら晃の布団に潜り込んでたのか?」
「ううん。
雷鳴る前に、リル達がいる住処に行ってそこで一晩過ごしてた。
不思議なんだよね……
リル達に囲まれて、晃と一緒にいる時……雷の音気になら…なか…った」
その話を最後に、美麗は眠りに付いた。眠った彼女に、幸人は布団を掛け起き上がった。
(そういや、愛も怖がってたな……雷)