桜の奇跡   作:海苔弁

134 / 228
水輝が着いたのは、翌日の昼過ぎだった。


「話は迎えに来た敬から聞いたよ。

容態は?」

「汗が凄い。昨日の夜から、熱も出て来てる」

「……皮膚の色は?」

「昨日と変わらない。

治るか?」

「とりあえず、毒抜きする。

創一郞、幸人を抑えて。敬、アンタも!」

「あ、はい!」


手帳を取り、何かを書くと水輝は紙を一枚破りながら戸を開いた。外には、開けようとしていた美麗が驚き、水輝を見つめていた。


「ミーちゃん、ここに書いている物買ってきて」

「幸人は?」

「今から治すから、その間に。ね?」

「うん」


紙を手に、美麗はマントに付けられていたフードを被り、階段を下っていった。


「何で、美麗を」

「苦しんでる彼の声を、聞かせる訳にはいかないよ。

ただでさえ、幸人と秋羅が傍にいなくて不安なんだから」

「なるほど……」

「ほら、とっとと抑える。

創一郞も抑えて!」


酸っぱい林檎

洞窟……その中で、あの男は火を焚いていた。それを囲うようにして、他の仲間達が座っていた。

 

 

「旦那、本当に祓い屋達はあの雷神を追い払ってくれるんですか?」

 

「追い払って貰わないと、困りますよ。

 

何せ、大金が掛かっているのですから」

 

 

拘束具を付けられた白狼の子供が、怯えた目で彼等を見ていた。

 

 

「この森にも、白狼がいたなんて……」

 

「大金だけではありません。

 

 

こちらには、人質がいますからね」

 

 

未だに意識を取り戻さない、秋羅の顔をじっくりと見ながら、男は不敵な笑みを溢した。

 

 

 

袋を手に美麗は宿へ戻ってきた。部屋の戸を開けると、背中に包帯を巻いた幸人が、俯せて横になっており傍には丁度ビニール手袋を取る水輝と、肩と首を回す創一郞、壁に凭り掛かり真っ青な顔を浮かべる敬がいた。

 

 

「お帰り、ミーちゃん」

 

「買ってきたよ。頼まれた物」

 

「ありがとう。そこの机に置いといて」

 

「うん!

 

ねぇ、何でこいつ顔真っ青なの」

 

「ちょっと、色々あったんだよ」

 

「いや、俺……」

 

「敬、少し風に当たってこい」

 

「は、はい」

 

 

フラフラと歩きながら、敬は部屋を出て行った。

 

 

「それで、今現在の状況は?」

 

「月影の弟子…秋羅が人質として、敵側にいる。

 

返す条件は雷神を追い払うこと。

 

 

だが、雷神は町に攻撃的な雷を落としていなかった。落としていたのは、敵の主犯。雷神が起こしていた雷は、森の中にある火山がいつ噴火してもおかしくなく、それを伝えるためのもの」

 

「噴火って……知らせたのか?その事は」

 

「一応。でも、あんまし信じてはくれなかったがな」

 

「濡れ衣の方を晴らさないと、無理だろう。

 

敵の情報は」

 

「さっき言った通り、雷を使う奴だ。それ以外は、闇市の関係者とまでで他は不明だ。

 

ただ、その敵……月影のことを知っているようだった。月影も、アイツのことは知ってるみたいだったしな」

 

「……」

 

「アイツ、知ってるよ」

 

 

袋から林檎を取り出した美麗は、不意に言った。二人は驚き、互いを見合い美麗に問い掛けた。

 

 

「知ってるって……何で?」

 

「アイツ、北西の森に来た奴だもん。

 

 

そこにいた動物をさらおうとしてて、咄嗟に私と紅蓮が身代わりになるって言ったら、すんなり聞き入れてくれて。

 

私達を売った時、予想より良い値段がついたって、あいつは言ってた」

 

「値段って……」

 

「そういや、お前闇市に売られてたって話だもんな?

 

奴の名前とか、聞いてないのか?」

 

「知らなーい。

 

 

あ、そういえば……熊って呼ばれてたよ」

 

「熊?」

 

「そんなにガタイがよかったのか?」

 

「ヒョロヒョロだ。

 

他は?」

 

「無い。

 

水輝、林檎!」

 

「ちょっと待っててね。すぐ剥くから」

 

「おい甘やかすな。

 

まだ質問の途中だろうが」

 

「君の質問なんて、答える気無いだろう?」

 

「あ?」

 

「ねぇ、秋羅はいつ助けに行くの?」

 

「月影が起き次第だ。

 

火山をどうにかしないと」

 

「探索とか、しなくて良いの?」

 

「する場合、単独は無理だ。

 

あの野郎の仲間がいて、この中の誰かが捕まったら元も子もない」

 

 

創一郞が真剣な話をする中、皮を剥いて貰った林檎を、美麗は丸かじりし美味しそうに食べた。

 

 

「テメェ……」

 

「君の話は、聞きたく無いとさ」

 

「……」

 

「エル達の所、行って来る!」

 

 

二つの林檎を手に取った美麗は、部屋を出ていった。擦れ違いに外から帰ってきた敬は、駆けて行く彼女を見送った。

 

 

「元気そうだね~、ミーちゃん」

 

「……」

 

「どうした?何か、心配事?」

 

「いや……

 

 

アイツ、相当無理してるなぁって」

 

 

 

小屋へ来た美麗は、エル達がいる所へ行き林檎を差し出した。エルは林檎を嘴で銜えると、そのまま勢い良く上へ投げ口でキャッチし食べた。紅蓮は地面で少し転がすと、一口で食べた。

 

ずっと笑顔を保っていた美麗……しかし、その表情は徐々に崩れていき、不安に満ちていった。

 

 

(……幸人……秋羅)

 

 

手に持っていた林檎を、美麗は一口囓り口に入れた。

 

 

「……何か、酸っぱい。

 

この林檎」

 

 

座り込み目を擦る美麗に、紅蓮は慰めるようにして頬を舐めた。舐めてきた彼を、美麗は笑みを浮かべて頭を撫でた。すると、傍で見ていたエルが自分も撫でて欲しいと言わんばかりに、美麗に頭を擦り寄せきた。

 

美麗は空いていたもう片方の手で、エルの頬を撫でてやった。

 

 

 

夕方……

 

美麗の様子を見に、水輝は小屋へ来た。小屋では、紅蓮のお腹を枕に眠る美麗と彼女が外から見えないように、前へ座っていた。

 

 

「やっぱり寝てるか」

 

「創一郞、やっぱりって?」

 

「こいつ、昨日の夜寝てなかったんだ。

 

 

俺が月影達の部屋であいつを看ている間、俺達の部屋で寝かせてたんだ。

 

だが、敬の話だと寝てなかったらしい。

 

雷が多い国だ。特に夜は。その雷の音で、眠れなかったんだろうな」

 

「何でそんな事知ってるんだ?」

 

「半分は寝ていたが、もう半分は起きていた。

 

その起きていた時に、そいつが部屋に入ってきて月影の様子を看に来て、ずっと部屋にいたからな」

 

「その間、寝たふり?」

 

「まぁな」

 

「あれだけ荒れてたのに、弟子が出来てから、まぁ丸くなって」

 

「ほっとけ」

 

「昨日の敵は今日の友って?

 

 

ミーちゃん」

 

 

小屋の柵を開け、エルの喉を一撫でし退かすと、水輝は美麗を起こした。彼女は眠そうな目を擦りながら、ムクッと体を起こし、水輝を見た。

 

 

「もう遅いから、お部屋行こう。ね?」

 

「……幸人は?」

 

「大丈夫。静かに寝てるよ」

 

 

水輝の手を借り立ち上がったその時……

 

 

“ドーン”

 

 

激しい雷の音に、美麗は耳を塞ぎその場に座り込んだ。空を見ると、そこには雷神……ではなく、あの男が雷を起こしていた。

 

 

「また起こしやがって……

 

宿に戻ってろ。敬!来い!」

 

 

どこからか帰ってきた敬を呼びながら、創一郞は駆けて行った。彼に続いて、何か文句を言いながら敬は走って行った。

 

 

「ミーちゃん、立てる?」

 

 

座り込んでいる美麗を立たせた水輝は、彼女と共に宿へ戻った。




夜中……


ベッドで眠っていた美麗は、スッと目を開けた。ゴロゴロと鳴る雷に怯えながら、彼女は幸人が眠るベッドへ行った。俯せから仰向けに寝かされた彼の手に、美麗は触れ頬を付けながらそのまま目を閉じ眠りに付いた。


夜の散歩をしていた水輝は、あくびをしながら部屋へ戻ってきた。幸人のベッドで眠る美麗を見た彼女は、隣に置かれていたベッドの毛布を、彼女に掛け自身も布団へ入り眠りに付いた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。