桜の奇跡 作:海苔弁
(……夢?)
痛む体を動かしながら、彼は起き上がった。ふと、手に何かが触れているのに気付き、手元を見た。
自身の手に頭を乗せ、眠る美麗……その姿が一瞬、夢で出て来た美麗と、同じ名を名乗ったあの少女と重なって見えた。
(……まさかな)
「あれ?幸人、起きたの?」
外から帰ってきたのか、髪を結いながら水輝は、部屋の中へ入ってきた。
「今さっきな」
「変な夢でも見た?」
「何で?」
「顔にそう書いてある」
眠っている美麗に、水輝はずり落ちていた毛布を掛けた。
「そんで、何の夢?」
「……よく分かんねぇ。
婆が出て来た……それから」
先程見た夢を、幸人は眠っている美麗の頭を撫でながら、覚えいる限り水輝に話した。
「不思議な夢だな……」
「全くだ」
「……もしかしたら、ミーちゃんの封じられてる記憶の一部が、何らかの力で幸人に見せたのかも知れないね。
刻まれた記憶……
それを見たんだろうね」
「かもな……幸輝と秋人って言ったら、100年前の月影だからな」
「一文字ずつ、2人の名前が入ってるね」
「まぁ、言われてみれば……」
「遅い!!」
洞窟の外にいた熊と呼ばれている男は、傍にあった小石を蹴り飛ばしながら、イライラしていた。
「信吾の倅、何をやっていやがる!」
「未だに雷神の攻撃が、来ますね……」
「仲間を人質に取れば、さっさとやってくれるもんだと思っていましたが……
やはり一筋縄では、いきませんね」
外で彼等が話している間、意識を取り戻していた秋羅は、どうにか縄を解こうと必死に手を動かしていた。
(クソ~、全然解けねぇ。
助けを呼ぼうにも、口枷着けられてるし……
オマケに、歩き回ろうにも岩に縛り付けられてちゃ、動けねぇし。
しっかし)
秋羅は、ふと下を見た。自身の膝に頭を置き、丸まり眠る白狼の子供がいた。
(白狼って、人に懐くのか?
美麗には、懐いてるみたいだが……でも、あいつ元々森育ちだから、しょっちゅう白狼に会ってただろうし。懐いて当然か……
あ~あ、さっさと助けに来いよ)
柵の鍵を開け、中へ入る創一郞達……
幸人は弾を補充しながら、あの男の事を創一郞達に話した。
「ウルス……それがあの男の名か?」
「正確には、コードネーム。
あいつの本名は、俺も知らない」
「何であいつ、月影さんの事『信吾』って呼んだんですか?」
「信吾は、俺の生みの親の恋人の名前だ。
ガキの頃、何回かそいつに釣られてよく闇市に顔を出してたからな。
多分、そん時に会ってんだろうよ。俺が覚えてないだけで」
「フーン……」
「俺は空から探索する。いいな?」
「別に構わねぇよ」
「美麗、エル借りてくぞ」
「うん」
「水輝、美麗を任せるぞ」
「ハイヨー」
そう言い残し、幸人はエルに乗り飛び立った。創一郞は敬と共に別の方向へと向かい、美麗は水輝と紅蓮と共に森の中へと入って行った。
森の中を歩く美麗達……
自身達が歩く道に、低級妖怪達が歩き回っていた。
「随分と、低級妖怪達が多いね。この森」
「雷神の森だから、いるんじゃないかな。
あの町、ちゃんと雷神と自分達の住処を分けてるから、全然妖怪被害がないみたいだよ」
「なるほど。妖怪とちゃんと共存できてるって事か……
このご時世に、珍しい町もあるんだな」
「共存できてないよ」
「?」
「私が晃と住んでた町は、妖怪達が野良猫や野良犬みたいに、いつも道端や屋根にいたもん」
「それは凄いな」
「でも襲うこと無いよ。
住処もちゃんとあるし……悪戯はしてたけど、人を襲ったりはしなかった」
「本当に、妖怪と共存が出来ていたんだね」
「うん!」
すると、紅蓮が突然足を止め耳を立て辺りを見回した。彼と同じく、美麗も辺りを警戒し始め小太刀の柄を掴み、水輝の傍へ行った。
「何?どうしたの?」
『こっちに何かが近付いてくる』
不意に吹く風が、辺りの木々をざわつかせた。その時どこからか、雷の鎖が飛んできた。鎖は水輝を巻き込み、木の幹に巻き付いた。
「水輝!」
「動くな!」
突然聞こえる声……紅蓮は唸り声を上げながら、聞こえてきた方を睨み美麗の傍に立った。
茂みから出て来たのは、あの男……ウルスだった。
「……お前」
「あなたから出向いてくれるとは……
随分と成長しましたね?お嬢さん」
「……早く水輝を離して」
「えぇ、もちろん。
私の願いを聞いてくれるのであれば」
「願い?何?」
「また、闇市で売られてはくれませんか?」
「……」
「あなたを売った後、色々なものを売りました。
けど、あなたに匹敵するほどのものが一つも無いんですよ。
あなたが私の願いを叶えてくれるのであれば、仲間を解放しこの森から退散致しましょう」
「……」
「残念だけど、その子は今討伐隊の手の中にいるから、さらったりでもしたら、討伐隊が黙ってないよ!!」
「!?」
「水輝を離して!!今すぐ!!」
「……ならば、死んで貰います。
あなたに!!」
身動きが取れない水輝の首目掛けて、ウルスは短剣を振りかざした。
次の瞬間、彼の足下に銃弾が当たった。放たれてきた方に向くと、空からエルが降り立った。エルの背中から、銃を持った幸人が降り、銃口を彼に向けた。
「今すぐそいつから離れろ」
「おやおや……毒を食らっても、まだ動けたとは」
「まだ体に痺れは残っているがな。
美麗、エルに乗れ」
後ろへ下がり、エルの背中へ美麗は飛び乗った。紅蓮は、幸人の傍へ行き攻撃態勢を取った。
「どうする気ですか?私を撃つんですか?
撃てば、あなたの仲間は返せません……そしてなりより、この女が一緒に死ぬことになります」
「秋羅がいる場所なら、既に知っている」
「何?!」
「それに……」
何かを言い掛けた幸人の視線に、ウルスは視線の方向を見た。そこには、雷神が水輝の鎖を切り裂き、彼女を抱え幸人達の元へ戻るところだった。
「雷神をいつの間に!?」
「そういう事だ……
あばよ」
煙玉を投げ付け、辺りに煙を放った。黒い煙が漂っている隙に、幸人達はその場から去って行った。
しばらくして、煙が晴れ誰もいないのを見たウルスは、傍にあった木を思いっ切り蹴った。
「小癪なガキが!!すぐに追い付いてやる!!」
怒鳴りながら、ウルスは当たりに雷を当たり散らし、そこから去って行った。
彼等が辿り着いた場所……そこは、洞窟付近にある、川だった。
「フゥー、何とか逃げ切れたか」
紅蓮の背から降りた幸人は、一息吐きながら辺りを見た。同じように、エルから降りた美麗は幸人の元へ駆け寄った。雷神から降ろされた水輝は、彼に礼を言いながら幸人の元へ行った。
「さっきはどうも」
「あぁ。
ギリギリ間に合ってよかった」
「とか言って、本当はエルに乗って上から私達を見てたんじゃ無いのぉ?」
「んな訳ないだろう。
勘だ、勘」
2人が話していると、雷神が歩み寄ってきた。彼等をジッと見て、軽く会釈した。
「本当に雷神は、私達の味方みたいだね」
「だな……?」
自身に近寄る雷神に、幸人の後ろにいた美麗は、スッと顔を出し雷神を見た。
「ミーちゃん、雷神さんとお知り合い?」
「ううん。会ったこと無い」
「そうか……」
「さぁて、とっとと秋羅救い出すぞ」
「ハーイ」