桜の奇跡   作:海苔弁

136 / 228
スッと目を開ける幸人……


(……夢?)


痛む体を動かしながら、彼は起き上がった。ふと、手に何かが触れているのに気付き、手元を見た。

自身の手に頭を乗せ、眠る美麗……その姿が一瞬、夢で出て来た美麗と、同じ名を名乗ったあの少女と重なって見えた。


(……まさかな)

「あれ?幸人、起きたの?」


外から帰ってきたのか、髪を結いながら水輝は、部屋の中へ入ってきた。


「今さっきな」

「変な夢でも見た?」

「何で?」

「顔にそう書いてある」


眠っている美麗に、水輝はずり落ちていた毛布を掛けた。


「そんで、何の夢?」

「……よく分かんねぇ。

婆が出て来た……それから」


先程見た夢を、幸人は眠っている美麗の頭を撫でながら、覚えいる限り水輝に話した。


「不思議な夢だな……」

「全くだ」

「……もしかしたら、ミーちゃんの封じられてる記憶の一部が、何らかの力で幸人に見せたのかも知れないね。


刻まれた記憶……

それを見たんだろうね」

「かもな……幸輝と秋人って言ったら、100年前の月影だからな」

「一文字ずつ、2人の名前が入ってるね」

「まぁ、言われてみれば……」


刻まれた記憶

「遅い!!」

 

 

洞窟の外にいた熊と呼ばれている男は、傍にあった小石を蹴り飛ばしながら、イライラしていた。

 

 

「信吾の倅、何をやっていやがる!」

 

「未だに雷神の攻撃が、来ますね……」

 

「仲間を人質に取れば、さっさとやってくれるもんだと思っていましたが……

 

やはり一筋縄では、いきませんね」

 

 

外で彼等が話している間、意識を取り戻していた秋羅は、どうにか縄を解こうと必死に手を動かしていた。

 

 

(クソ~、全然解けねぇ。

 

助けを呼ぼうにも、口枷着けられてるし……

 

 

オマケに、歩き回ろうにも岩に縛り付けられてちゃ、動けねぇし。

 

 

しっかし)

 

 

秋羅は、ふと下を見た。自身の膝に頭を置き、丸まり眠る白狼の子供がいた。

 

 

(白狼って、人に懐くのか?

 

美麗には、懐いてるみたいだが……でも、あいつ元々森育ちだから、しょっちゅう白狼に会ってただろうし。懐いて当然か……

 

 

あ~あ、さっさと助けに来いよ)

 

 

 

柵の鍵を開け、中へ入る創一郞達……

 

幸人は弾を補充しながら、あの男の事を創一郞達に話した。

 

 

「ウルス……それがあの男の名か?」

 

「正確には、コードネーム。

 

あいつの本名は、俺も知らない」

 

「何であいつ、月影さんの事『信吾』って呼んだんですか?」

 

「信吾は、俺の生みの親の恋人の名前だ。

 

ガキの頃、何回かそいつに釣られてよく闇市に顔を出してたからな。

 

多分、そん時に会ってんだろうよ。俺が覚えてないだけで」

 

「フーン……」

 

「俺は空から探索する。いいな?」

 

「別に構わねぇよ」

 

「美麗、エル借りてくぞ」

 

「うん」

 

「水輝、美麗を任せるぞ」

 

「ハイヨー」

 

 

そう言い残し、幸人はエルに乗り飛び立った。創一郞は敬と共に別の方向へと向かい、美麗は水輝と紅蓮と共に森の中へと入って行った。

 

 

森の中を歩く美麗達……

 

自身達が歩く道に、低級妖怪達が歩き回っていた。

 

 

「随分と、低級妖怪達が多いね。この森」

 

「雷神の森だから、いるんじゃないかな。

 

あの町、ちゃんと雷神と自分達の住処を分けてるから、全然妖怪被害がないみたいだよ」

 

「なるほど。妖怪とちゃんと共存できてるって事か……

 

このご時世に、珍しい町もあるんだな」

 

「共存できてないよ」

 

「?」

 

「私が晃と住んでた町は、妖怪達が野良猫や野良犬みたいに、いつも道端や屋根にいたもん」

 

「それは凄いな」

 

「でも襲うこと無いよ。

 

住処もちゃんとあるし……悪戯はしてたけど、人を襲ったりはしなかった」

 

「本当に、妖怪と共存が出来ていたんだね」

 

「うん!」

 

 

すると、紅蓮が突然足を止め耳を立て辺りを見回した。彼と同じく、美麗も辺りを警戒し始め小太刀の柄を掴み、水輝の傍へ行った。

 

 

「何?どうしたの?」

 

『こっちに何かが近付いてくる』

 

 

不意に吹く風が、辺りの木々をざわつかせた。その時どこからか、雷の鎖が飛んできた。鎖は水輝を巻き込み、木の幹に巻き付いた。

 

 

「水輝!」

 

「動くな!」

 

 

突然聞こえる声……紅蓮は唸り声を上げながら、聞こえてきた方を睨み美麗の傍に立った。

 

茂みから出て来たのは、あの男……ウルスだった。

 

 

「……お前」

 

「あなたから出向いてくれるとは……

 

随分と成長しましたね?お嬢さん」

 

「……早く水輝を離して」

 

「えぇ、もちろん。

 

私の願いを聞いてくれるのであれば」

 

「願い?何?」

 

「また、闇市で売られてはくれませんか?」

 

「……」

 

「あなたを売った後、色々なものを売りました。

 

けど、あなたに匹敵するほどのものが一つも無いんですよ。

 

あなたが私の願いを叶えてくれるのであれば、仲間を解放しこの森から退散致しましょう」

 

「……」

 

「残念だけど、その子は今討伐隊の手の中にいるから、さらったりでもしたら、討伐隊が黙ってないよ!!」

 

「!?」

 

「水輝を離して!!今すぐ!!」

 

「……ならば、死んで貰います。

 

 

あなたに!!」

 

 

身動きが取れない水輝の首目掛けて、ウルスは短剣を振りかざした。

 

次の瞬間、彼の足下に銃弾が当たった。放たれてきた方に向くと、空からエルが降り立った。エルの背中から、銃を持った幸人が降り、銃口を彼に向けた。

 

 

「今すぐそいつから離れろ」

 

「おやおや……毒を食らっても、まだ動けたとは」

 

「まだ体に痺れは残っているがな。

 

美麗、エルに乗れ」

 

 

後ろへ下がり、エルの背中へ美麗は飛び乗った。紅蓮は、幸人の傍へ行き攻撃態勢を取った。

 

 

「どうする気ですか?私を撃つんですか?

 

撃てば、あなたの仲間は返せません……そしてなりより、この女が一緒に死ぬことになります」

 

「秋羅がいる場所なら、既に知っている」

 

「何?!」

 

「それに……」

 

 

何かを言い掛けた幸人の視線に、ウルスは視線の方向を見た。そこには、雷神が水輝の鎖を切り裂き、彼女を抱え幸人達の元へ戻るところだった。

 

 

「雷神をいつの間に!?」

 

「そういう事だ……

 

あばよ」

 

 

煙玉を投げ付け、辺りに煙を放った。黒い煙が漂っている隙に、幸人達はその場から去って行った。

 

しばらくして、煙が晴れ誰もいないのを見たウルスは、傍にあった木を思いっ切り蹴った。

 

 

「小癪なガキが!!すぐに追い付いてやる!!」

 

 

怒鳴りながら、ウルスは当たりに雷を当たり散らし、そこから去って行った。




彼等が辿り着いた場所……そこは、洞窟付近にある、川だった。


「フゥー、何とか逃げ切れたか」


紅蓮の背から降りた幸人は、一息吐きながら辺りを見た。同じように、エルから降りた美麗は幸人の元へ駆け寄った。雷神から降ろされた水輝は、彼に礼を言いながら幸人の元へ行った。


「さっきはどうも」

「あぁ。

ギリギリ間に合ってよかった」

「とか言って、本当はエルに乗って上から私達を見てたんじゃ無いのぉ?」

「んな訳ないだろう。

勘だ、勘」


2人が話していると、雷神が歩み寄ってきた。彼等をジッと見て、軽く会釈した。


「本当に雷神は、私達の味方みたいだね」

「だな……?」


自身に近寄る雷神に、幸人の後ろにいた美麗は、スッと顔を出し雷神を見た。


「ミーちゃん、雷神さんとお知り合い?」

「ううん。会ったこと無い」

「そうか……」

「さぁて、とっとと秋羅救い出すぞ」

「ハーイ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。