桜の奇跡 作:海苔弁
茂みから不意に出て来た、美麗と紅蓮の姿に気を取られその隙に、背後から幸人と水輝が2人の溝と首を殴り気を失わせた。
「油断しない」
「全くだ。
水輝、紅蓮達とここ頼む」
「アイヨー」
「美麗、行くぞ」
「うん」
エルと紅蓮の頬を撫で、美麗は先に行く幸人の後をついて行った。
中へ入り、岩に縛り付けられている秋羅元へ着き、幸人はすぐに縄を切り立たせた。口に着けられていた布を取り、彼は一息に吐いた。
「見た所、大丈夫そうだな」
「あぁ。ただ、後頭部がちょっと」
「外に水輝待たせてるから、あとで診て貰え」
「あぁ……あ、そうだ。
こいつのも、解いてくれないか?」
そう言って、秋羅は足下にいた白狼の子の方を向いた。白狼は、美麗の甘えるようにして体を擦り寄せ鼻先で、しゃがんだ彼女の頬を突っ突いていた。
「白狼?」
「あいつ等が売ろうとしてる商品?って言っていた」
「枷取れる?」
「外出たら、口枷は外す。
先に」
岩に繋がれていた鎖を切り、幸人は白狼の子を抱き上げた。
「こっから出るぞ。
いつあの野郎が戻ってきても、おかしくない」
“バーン”
「銃声?!」
「まさか!!」
白狼の子を秋羅に渡し、幸人は銃を持って外へ向かった。
外には、銃口を出て来た幸人に向ける、ウルスがいた。見張りをしていた水輝達にも、彼は雷の刃を向け動けなくしていた。
「全く、人の可愛い部下を痛めるとは、いい度胸をしていますね?」
「だったら何だ」
「幸人!大丈……!?」
中から出て来た秋羅に、躊躇無くウルスは雷の刃を向けた。それを見て、何とも思わなかった彼が動こうとした時、幸人は慌てて動きを止めさせた。
「合図送るまで、動くな」
「り、了解」
「さーて、洞窟にいるお嬢さんを捕まえにでも、行きますか」
銃口を幸人に向けながら、ウルスは洞窟の中へ入ろうと足を踏み入れた時だった。
「凍てつく氷の槍よ、貫け!!」
その声と共に、奥から氷の槍がウルス目掛けて飛んできた。氷の槍に怯んだウルスは銃口を下げ、その隙に幸人は銃を取り出し、水輝達を囲んでいる雷の刃目掛けて、弾を撃ち放った。
「幸人!秋羅!」
奥から出て来た美麗は、ウルスの目を盗み外へ出て行き、入り口付近にいた幸人達の元へ駆け寄り身構えた。
「小癪な!!」
「観念しろ。
秋羅とテメェが売ろうとしていた白狼の子供は、こちらに返して貰う」
「何?!」
既に紅蓮の背後にいる白狼の子を見たウルスは、驚きの顔を隠せないでいた。やがてその顔は、怒りに染まり激しく指を鳴らした。
次の瞬間、四方八方に雷が落ちた。雷の音に、美麗は耳を塞ぎその場に座り込んだ。
「その白狼を渡さない限り、雷は止みません!」
「相変わらず汚い野郎だな……」
さらに威力を上げる雷は、やがて近くの木々に当たり火を点けた。
「嘘だろう!!」
「いいんですか?森が燃えても?
さぁ、白狼を渡しなさい。そうすれば、雷は止みますよ?
さぁ!!」
勢いが収まらない雷に、耳を塞ぎしゃがんでいた美麗は、鳴り止まない音に耐えられず、ついに泣き出してしまった。泣き声に共鳴するかのように、彼女から妖気が放出し出した。
その時、鳴り響く雷を巨大な雷が止んだ……
「な、何だ?!」
「雷が……」
「止んだ……のか?」
するとそこへ、雷神に釣られ創一郞達が駆け付けた。雷神は、幸人と創一郞を交互に見ると、手に雷を溜め出した。
「……!
創一郞!!」
「分かってる」
「え?え?な、何?」
「説明は後でする。
水輝!」
既に察していたのか、水輝は座り込んでいる美麗を持ち上げ、エルに乗せると自身も乗りエルを飛ばした。
その場から逃げていく幸人達を追い駆けようと、前へ出たウルスだったが、足下にバチバチと稲妻が走り、道を塞がれた。
「ど、どうなっていやがる?!」
手に雷を溜めた雷神は、微笑みを浮かべて雷を地面へ叩き付けた。
“ドーン”
爆発のようにして、雷が落ちた……それと共に雨が降り出し、木々を燃やしていた火を消していった。
その中を、幸人達は離れた場所にあった岩場で、雨宿りをしていた。
「す、凄い雷でしたね」
「そして、こんな時に雨……」
「でも、この雨のおかげで森の火は消えてるみたいだよ」
「まさしく、天の恵みだな」
微かになる雷の音に、美麗は幸人にしがみ付き鳴り響く度に、彼の服の裾に顔を埋めていた。
「すっかりビビってるな?」
「さっきまで、私に引っ付き虫だったのに」
「いちいち文句言うな」
「何で私じゃなく、幸人なのさ!!」
「知らねぇよ!!んなもん」
その時、雷神が岩場へ降り立ち、幸人達の前に姿を現した。雷神は雷の音を止ませ、幸人にしがみ付いている美麗を見詰めた。
「……やっぱり、あいつお前のこと知ってるみたいだな」
「でも私、本当に知らない」
「とか言って、忘れてるだけじゃないのか?」
「一度会った妖怪は、妖気ですぐに分かる!!!」
「その記憶が、物心つく前だったら話は別じゃねぇのか?」
「え?」
「可能性は高いな。
お前の親父さん、結構知り合いいるみたいだし」
「いて当然だよ!
晃が言ってた!私のパパは妖怪の総大将だから、色んな地に知り合いや友達がいるって!」
「その内の一人なんじゃねぇのか?」
「その内の一人……?」
不意に撫でられ、美麗は振り返った。
控え目だが、優しく彼女の頭を撫でる雷神……頭から頬へと手を移した時、バチッと何かが当たりそれは幸人達にも感じた。
電流のように伝わった彼等の脳裏に、ある映像が流れた。
生前のぬらりひょんに抱かれた幼い美麗……
彼女を抱かせて貰えた雷神は、嬉しく思わず雷を放ってしまった。
その音に驚き、美麗は大泣きし暴れた。慌てて彼女をぬらりひょんに返し、申し訳なさそうに雷神は頭を下げた。落ち込む彼に、ぬらりひょんは微笑みあやし泣き止みかけた美麗を、再び見せた。
恐る恐る、雷神は手を伸ばし人差し指を差し出した。その指を、彼女は握った。
その行為に雷神は、嬉しく笑いぬらりひょんを見た。彼も釣られて笑みを見せ、美麗と雷神を交互に見た。
遠い日……彼等に笑みを残して、映像はそこで途絶えた。
「……い、今のって……」
「雷神の……記憶?」
「……」
彼等の反応に、雷神は慌てて手を引っ込めて後ろへ隠した。彼の行為に、美麗は疑問を持ち首を傾げながら、見詰めた。
「赤ん坊の頃に、会っていたのか……」
「ぬらりひょんが死んだ後、お前何してたんだ?」
『……』
「……なぁ、妖怪って喋れるんじゃねぇの?」
「そのはずだけど……」
「ねぇ、口開けて」
おもむろに、水輝は雷神に近付き言った。雷神は引き攣った顔をしながら、首を傾げた。
「水輝、近い。少し離れろ」
近過ぎていた彼女を引き離し、幸人は口を指差しながら少し開いた。その行為を理解した雷神は、口を開けた。開いた口を、美麗は興味津々に覗いた。
「……あ。
舌が無い」
「え?」
「やっぱり……」
「何がやっぱりなんだ?」
「水輝、何か知ってるのか?」
「書物で読んだから、本当かどうかは分からなかったんだけど……
昔、国や村で災いが起きるとその土地に住む妖怪の舌を切る風習があったって……」
「舌を切る?!」
「本当かどうかは、定かではない。
そう言った記録は、何も残ってないから。話だけが充満しているってだけ」
「そんじゃあ、この雷神は昔災いの為に、舌を切られたという事か」
「恐らくね」
彼等が話をしている間に、美麗は後ろで組んでいる雷神の手に触れた。雷神は驚き、彼女を見た。
「……何か、懐かしい。
パパのこと、あんまり覚えてないけど……この温もりは、何か覚えがある」
そう言いながら、美麗は彼の手を自身の頭に乗せた。雷神は、恐る恐るその手で彼女を撫でた。
嬉しそうに笑う美麗……その笑顔に釣られ、雷神は微笑み彼女の頭を撫で続けた。