桜の奇跡 作:海苔弁
スッと目を開ける、幸人……傍には、切り刻まれた巨樹と、体を伸ばす創一郎がいた。
「……?
気が付いたか?」
「……!!
あの男は!!」
「とっくに追い払った。
いきなり起きると、体に響くぞ」
彼の言葉通り、体に激痛が走り幸人は体を抑えて蹲った。そんな彼を心配してか、エルは幸人の頬に嘴を当て、頭を擦り寄せた。
「……美麗は?」
「マグマ止めに行った。
もう、止まったみたいだがな」
「……」
「地獄の祓い屋になるなら、事前に言え。
止めるこっちの身にもなれ」
「うるせぇ。
テメェが鈍ってるだけだろうが」
エルの嘴を撫でながら、幸人はそう言った。
するとそこへ、雷神が降り立ち少し慌てた様子で、幸人達を交互に見ると、先を飛び振り返り彼等を見た。
「……ついて来いってか?」
「らしいな」
身を屈めたエルの背中へ、幸人は乗った。エルは雷神の傍へ行き、その後を創一郞はついて行った。
マグマを凍らせた美麗は、息を切らしながら氷の板に膝をついた。顔を上げ、何とか再び立ち上がった彼女は、氷を作りながら、火山口へと向かった。
火山口付近へ着いた美麗は、辺りを見て誰もいないのを確認すると、氷で陣を作り出した。
「悲しき水と氷の精霊よ……我が失いし心の傷よ……
古き契約に従いて、我が意に従い嵐を運べ !!」
右手に水の玉、左に氷の玉を作り出した美麗はそれを合わせるようにして、両腕を上げ重ねた。
二つの玉は一つとなり、激しさを増していた。
「霰雹霙!!」
水と氷の玉を、美麗は火山口へ投げ入れた。玉は途中で激しく光り、一面を凍らせた。中を凍らせた玉の光りは、流れ行くマグマも凍らせ流れを止めた。
氷から出る煙を、縁から美麗は見下ろしていた。
「と、止まった……
ハァァァ……」
深く息を吐きながら、その場に座り込み、外していたブレスレットを嵌めた。
すると、美麗の髪を撫でるように風が不意に吹いた。
そして、それは突如として起きた……
“ドーン”
「!?」
飛び起きる美麗……凍らせたはずの口から、燃え盛る炎とマグマが、勢い良く噴火していた。
「何で……
さっき、止めたはずなのに……」
再びブレスレットを外すと、美麗は手に冷気を溜め氷を放ち、炎を消そうとした。だが炎は消えることなく、勢いを増していった。
そこから逃げようにも、走る体力が残っていなかった美麗は、その場に膝を付いた。
「……無理……走れない」
炎に呑み込まれそうになった時、何かが美麗を抱え空へと上った。
上から見える、先程まで自身がいた場所には、火の粉が飛び散っていた。抱かれている者に、美麗は顔を向けた。
彼女を抱えていたのは、雷神だった……
「……雷神」
『……』
安堵の息を吐きながら、雷神は美麗の頭を一撫ですると、近くの森へ降り立った。そこには、エルと幸人達がおり、降り立ち雷神から降りた美麗は、歩み寄ってきた幸人に体を預けるようにして、倒れ込んだ。
「かなり体力、減ってるな。
顔色も悪いし」
「噴火を止めるために、妖力を解放したんだろう」
エルの傍に寝かせ、幸人は銃に弾を補充すると、火山を見た。
「創一郞、まだ動けるな?」
「当然だ」
「だったら行くぞ。
エル、ここを頼む」
エルの頬を撫でると、幸人達は雷神と共に火山へ向かった。
火山へ来た幸人達……だが、そこには無数の妖怪とウルス達が立っていた。
「何だ?妖怪の大将にでも、なったのか?」
「えぇ。少し特殊な技を手に入れたので……指を鳴らせば、ここにいる妖怪達は私の下部同然」
「……雷神、早く行け。
お前なら、この噴火を止められるんだろう?」
幸人の言葉に、雷神は力強く頷いた。その答えに、幸人は自身に襲ってきた妖怪を、撃ち倒した。
「行け!!」
襲い掛かってきた妖怪達に、雷を放った雷神はそこから飛び立ち、火山へ向かった。
火山口へ辿り着いた雷神は、両手を挙げ妖気を溜め始めた。妖気に釣られるようにして、明るかった空が曇り始め、そこから雷が何発も鳴った。
鳴り響く雷は、雷神の溜めている玉に当たり、玉は大きくなっていった。一定の大きさになった時、バチバチと鳴る玉を、火山口へ投げ入れた。
“バーン”
激しい爆音と共に強烈な光が、辺りを照らした。
鎮まる火山……
息を切らし、それを見た雷神は幸人達の元へ行った。
戻った雷神は、攻撃をしているウルスの背中に手を当て、そこから何かを引き出した。
「ば、馬鹿な……」
引き出されたウルスは、白目を向き力無くその場に倒れた。
「……なる程……
妖怪の力だったって事か」
「禁忌を犯したって訳か」
引き出した力を、雷神は空へ放ちそれは巨大な雷を起こした。
「終わったか……」
「先生!!
やっと見つけた!酷いですよ!!俺を置いていくなんて!!」
茂みから文句タラタラ言いながら、敬が現れ創一郞に歩み寄った。
「置いて行かれるお前が悪いんだ」
「またそうやって、責任逃れをして!!」
ギャーギャー文句を言う敬と言われている創一郞を無視して、幸人は雷神と共に先を歩いた。
エルの傍で横になる美麗……
何かの気配を感じた彼女は、スッと目を開けた。
そこには、自身の頭を撫でる母・美優の姿があった。
「……ママ」
『お疲れ様。
よく頑張ったわね』
「噴火は?」
『止まったわよ。
あの人のお友達が、止めてくれたの』
「……
ねぇ、ママ」
『?』
「私、そんなにパパに似てるの?」
『どうして?』
「今まで会ってきたパパの知り合い、皆私を見て必ずパパと間違えるの」
『……そうねぇ……
お父さんの若い頃に、美麗はとても似ているわ』
「……
私、パパよりママに似たかった」
『あらあら、この子ったら』
美麗の前髪を撫で分けると、美優は額に軽くキスをした。
『お休み。
ママはいつも、美麗の傍にいるからね』
そう言って、美優は風と共に去って行った。その後、激しい眠気に襲われた美麗は、重くなった瞼を閉じ眠りに付いた。傍にいたエルは、嘴で彼女の頬を軽く突っ突くと、傍に座り寄り添うようにして眠った。
避難所で、怪我人の手当てをする水輝と秋羅……
「ママー!
晴れてるのに、雷鳴ったよ!」
「鳴った鳴った!」
外から中へ入ってきた子供達が、そう言いながら怪我をした親の元へ駆けて行った。
そんな子供達に聞かせるようにして、一人の老婆が話し出した。
「そりゃきっと、雷神様ね」
「雷神様?」
「なーに、それ?」
「雷神様は、ずっと昔からこの国の守り神だよ。
雷を鳴らしている時は、悪い妖怪達から私達を守ってくれているんだ」
「へぇー」
「凄ぉい!」
楽しそうに話す彼等を見て、秋羅は水輝と顔を合わせて、ホッと安堵の息を吐いた。