桜の奇跡 作:海苔弁
村へと帰ってきた幸人達。村に着くなり、女の子達は一斉に親の元へと駆け寄り抱き着き泣き喚いた。親達は自分の娘達を抱き締めながら、感涙していた。
詳しい話は朝にすることにした幸人達は、宿へと戻り眠っていた紫苑を、ベッドへ寝かせた。
「……なぁ、幸人。
あの屋敷にいた、白髪の男……あれって、妖怪なのか?」
「何で?」
「女達を助けてる間、あいつのこと気になったからそっちに目を向けたんだ……
そしたらあいつ、紫苑のことを撫でてて」
「……」
「呼び出した妖怪って、凄い凶暴だって本に」
「分からん。
俺もそう教わった。だから、紫苑と紅蓮からその話を聞いて、少し驚いている」
「……半妖」
「?」
「紫苑の奴、半妖だから……他の妖怪達からは、襲われることはないんじゃ」
「んなわけねぇだろ。
妖怪同士でも、殺し合いはする」
「じゃあ何で!」
「俺が知りたいぐらいだ」
それから数日後……
幸人の元へ許可証が届いた……それを村長に見せた彼は、報酬と受け取っていた。報酬の数を数えながら、幸人は話した。
「本当に、命の恩人を売っていいんですかね」
「え?」
「あのグリフォンは、昨日の事件を全て把握していた。
喋ることが出来ないから、鳴き声を上げたり畑を荒らしたりして、知らせようとしてたんじゃないんですか?」
「……」
「まぁ、売ったもんはもう仕方ないですが……
祖父さんがここへ連れてきた理由は、多分この村を妖怪達から守るため」
数え終えた札束を、鞄の中へとしまうと幸人は外へと出て行った。
「何なの……まるで私達が悪いみたいじゃない!!」
「落ち着いて。事実そうだろう」
「っ……」
牧場……柵に乗りグリフォンの嘴を撫でる紫苑。グリフォンは気持ち良さそうに、喉を鳴らしそして彼女に擦り寄った。
「あ、幸人」
「話は終わった。
連れてくぞ」
「うん」
柵の鍵を開けると、幸人はグリフォンの手綱を引いた。グリフォンは外へと出て、柵の鍵を閉め手綱を紫苑に渡しそのまま村の外へと出て行った。
「さぁて、どうやって連れて帰ろう……」
「汽車に乗せようにも、乗せられねぇだろう?」
「だよな……」
「誰かが、こいつの背中に乗ってこいつを誘導しながら、家に行くしかないぞ」
「んな危険なこと出来るか」
二人が話している間、グリフォンは傍にいた紫苑を銜え、勢いを付けて投げ背中に乗せた。
「……秋羅、幸人」
「ん?どうかし……」
グリフォンを乗り熟している、紫苑の姿を見て幸人と秋羅は顔を合わせた。
「……紅蓮、一緒に行け」
『ヘーイ。
紫苑、そいつに乗って帰るぞ』
「大丈夫なのか?道分かるか?」
『俺が誘導する』
そう言いながら、紅蓮はグリフォンの背中に跳び乗った。二人が乗ったと同時に、グリフォンは助走を付けてそのまま飛んでいった。
「……無事に帰って来いよ……紫苑、紅蓮」
「行くぞ」
夕方……
家へ帰ってきた幸人達。戸を開けると、中では暗輝が夕飯を作っていた。
「あれ?暗輝さん、いたんですか?」
「まぁな。
何か、今日帰ってくる気がしてな!
夕飯まだだろ?作っといてやったぜ」
「助かりました~!」
「悪いな暗輝。馬の世話押し付けて」
「別にいいって!」
「瞬火も今回は急で悪かったな」
『別に良い』
「あれ?紫苑と紅蓮は?」
「え?まだ帰ってきてないのか?」
「……やっぱり、空の上へ」
「不吉なこと言うな!」
それからしばらくした後、外からグリフォンの鳴き声が聞こえてきた。幸人達が外へ出ると、牧場へ降り立つ一つの影があった。ランプを持ちそこへ近寄ると、紅蓮と彼に抱かれて一緒に、グリフォンから降りる紫苑がいた。
「ぶ、無事だったぁ……」
「何が無事なの?」
「こっちの話だ」
グリフォンの手綱を引きながら、紫苑は秋羅に案内された小屋へと言った。ずっと空いていた小屋の戸を開け、グリフォンを中へと入れた。グリフォンは少し戸惑った様子で、自身の柵の中をぐるぐると回った。
「まぁ、次期に馴れるさ」
差し伸べた紫苑の手に、グリフォンは嘴を触れさせ彼女の頬を舐めた。
「本当に懐かれたな。紫苑」
「うん。空飛んでる最中、色んな所見せてくれたんだ」
「そりゃあ、良かったな。
そういや、そいつに名前付けないとな」
「名前?」
「紅蓮にも名前付けてるだろ?
それと一緒に、そいつにも名前付けてやらねぇと」
「……」
「何か候補あるのか?」
「……
エル」
「?」
「エル……
名前、エル」
「エルか……
いい名前だな!」
夜……眠りに付く幸人達。その時、小屋にいたエルが鳴き声を上げた。鳴き声で目を覚ました紅蓮は、大あくびをして体を伸ばすと、外へと出た。
小屋の戸を開け中へ入ると、エルは鳴くのをやめた。柵の中へと入り傍に座ると、エルも座り紅蓮は横になり目を瞑った。落ち着きを取り戻したのか、エルは体を伏せ眠りに付いた。
「へ~、この子が新しい家族のエル君かぁ!」
翌日、暗輝と共に来た水輝は、小屋から出ていたエルを興味深く見ていた。
エルは紫苑の手から餌を食べているものの、自身の周りを歩き回る水輝をチラチラと睨んでいた。
「水輝、あまり周り歩かない方が」
「平気平気!
暗輝の動物で馴れてるから!」
「いっつも噛み付かれてるけどな」
「っ」
エルの体を診ていた暗輝は、前へと回り紫苑の肩を叩いた。
「こいつの口、開けさせてくれねぇか?」
「うん」
嘴に手を触れさせた紫苑は、上と下を押し上げ下げ暗輝に中を見せた。彼は中を見ながら、舌を手に取り触り診た。
「特に目立つ異常は無い。
少し栄養失調気味だけど、しっかり食べる物食べればすぐに回復する」
「やっぱりあいつ等、何も世話しなかったんだな」
「無理もねぇよ。
扱い方が分からない生き物の世話なんざ、したくは無いからな」
「そりゃそうだ」
診察を終えたエルは、首を一振りすると紫苑を銜え勢いを付けて、自身の背中に乗せた。前足を上げると、エルはその場から駆け出した。
「あらら、行っちゃった」
「軽い散歩だろう」
『俺を置いてくな!!』
エルを追い駆けていった紅蓮は、飛び立つ前に人の姿へと変わり、彼の背に飛び乗った。
エルは二人を乗せ、そのまましばらくの間空を飛び回った。
とある森……
水に映るエルに乗り笑みを浮かべる紫苑を見る、九本の尾を持った人影。
楽しそうにする彼女の姿を見て、その者は静かに微笑んだ。