桜の奇跡   作:海苔弁

14 / 228
夜……


村へと帰ってきた幸人達。村に着くなり、女の子達は一斉に親の元へと駆け寄り抱き着き泣き喚いた。親達は自分の娘達を抱き締めながら、感涙していた。


詳しい話は朝にすることにした幸人達は、宿へと戻り眠っていた紫苑を、ベッドへ寝かせた。


「……なぁ、幸人。

あの屋敷にいた、白髪の男……あれって、妖怪なのか?」

「何で?」

「女達を助けてる間、あいつのこと気になったからそっちに目を向けたんだ……

そしたらあいつ、紫苑のことを撫でてて」

「……」

「呼び出した妖怪って、凄い凶暴だって本に」

「分からん。

俺もそう教わった。だから、紫苑と紅蓮からその話を聞いて、少し驚いている」

「……半妖」

「?」

「紫苑の奴、半妖だから……他の妖怪達からは、襲われることはないんじゃ」

「んなわけねぇだろ。

妖怪同士でも、殺し合いはする」

「じゃあ何で!」

「俺が知りたいぐらいだ」


新しい家族

それから数日後……

 

 

幸人の元へ許可証が届いた……それを村長に見せた彼は、報酬と受け取っていた。報酬の数を数えながら、幸人は話した。

 

 

「本当に、命の恩人を売っていいんですかね」

 

「え?」

 

「あのグリフォンは、昨日の事件を全て把握していた。

 

喋ることが出来ないから、鳴き声を上げたり畑を荒らしたりして、知らせようとしてたんじゃないんですか?」

 

「……」

 

「まぁ、売ったもんはもう仕方ないですが……

 

祖父さんがここへ連れてきた理由は、多分この村を妖怪達から守るため」

 

 

数え終えた札束を、鞄の中へとしまうと幸人は外へと出て行った。

 

 

「何なの……まるで私達が悪いみたいじゃない!!」

 

「落ち着いて。事実そうだろう」

 

「っ……」

 

 

牧場……柵に乗りグリフォンの嘴を撫でる紫苑。グリフォンは気持ち良さそうに、喉を鳴らしそして彼女に擦り寄った。

 

 

「あ、幸人」

 

「話は終わった。

 

連れてくぞ」

 

「うん」

 

 

柵の鍵を開けると、幸人はグリフォンの手綱を引いた。グリフォンは外へと出て、柵の鍵を閉め手綱を紫苑に渡しそのまま村の外へと出て行った。

 

 

 

「さぁて、どうやって連れて帰ろう……」

 

「汽車に乗せようにも、乗せられねぇだろう?」

 

「だよな……」

 

「誰かが、こいつの背中に乗ってこいつを誘導しながら、家に行くしかないぞ」

 

「んな危険なこと出来るか」

 

 

二人が話している間、グリフォンは傍にいた紫苑を銜え、勢いを付けて投げ背中に乗せた。

 

 

「……秋羅、幸人」

 

「ん?どうかし……」

 

 

グリフォンを乗り熟している、紫苑の姿を見て幸人と秋羅は顔を合わせた。

 

 

「……紅蓮、一緒に行け」

 

『ヘーイ。

 

紫苑、そいつに乗って帰るぞ』

 

「大丈夫なのか?道分かるか?」

 

『俺が誘導する』

 

 

そう言いながら、紅蓮はグリフォンの背中に跳び乗った。二人が乗ったと同時に、グリフォンは助走を付けてそのまま飛んでいった。

 

 

「……無事に帰って来いよ……紫苑、紅蓮」

 

「行くぞ」

 

 

 

 

夕方……

 

 

家へ帰ってきた幸人達。戸を開けると、中では暗輝が夕飯を作っていた。

 

 

「あれ?暗輝さん、いたんですか?」

 

「まぁな。

 

何か、今日帰ってくる気がしてな!

 

 

夕飯まだだろ?作っといてやったぜ」

 

「助かりました~!」

 

「悪いな暗輝。馬の世話押し付けて」

 

「別にいいって!」

 

「瞬火も今回は急で悪かったな」

 

『別に良い』

 

「あれ?紫苑と紅蓮は?」

 

「え?まだ帰ってきてないのか?」

 

「……やっぱり、空の上へ」

 

「不吉なこと言うな!」

 

 

それからしばらくした後、外からグリフォンの鳴き声が聞こえてきた。幸人達が外へ出ると、牧場へ降り立つ一つの影があった。ランプを持ちそこへ近寄ると、紅蓮と彼に抱かれて一緒に、グリフォンから降りる紫苑がいた。

 

 

「ぶ、無事だったぁ……」

 

「何が無事なの?」

 

「こっちの話だ」

 

 

グリフォンの手綱を引きながら、紫苑は秋羅に案内された小屋へと言った。ずっと空いていた小屋の戸を開け、グリフォンを中へと入れた。グリフォンは少し戸惑った様子で、自身の柵の中をぐるぐると回った。

 

 

「まぁ、次期に馴れるさ」

 

 

差し伸べた紫苑の手に、グリフォンは嘴を触れさせ彼女の頬を舐めた。

 

 

「本当に懐かれたな。紫苑」

 

「うん。空飛んでる最中、色んな所見せてくれたんだ」

 

「そりゃあ、良かったな。

 

そういや、そいつに名前付けないとな」

 

「名前?」

 

「紅蓮にも名前付けてるだろ?

 

それと一緒に、そいつにも名前付けてやらねぇと」

 

「……」

 

「何か候補あるのか?」

 

「……

 

 

 

 

エル」

 

「?」

 

「エル……

 

名前、エル」

 

「エルか……

 

 

いい名前だな!」

 

 

 

夜……眠りに付く幸人達。その時、小屋にいたエルが鳴き声を上げた。鳴き声で目を覚ました紅蓮は、大あくびをして体を伸ばすと、外へと出た。

 

小屋の戸を開け中へ入ると、エルは鳴くのをやめた。柵の中へと入り傍に座ると、エルも座り紅蓮は横になり目を瞑った。落ち着きを取り戻したのか、エルは体を伏せ眠りに付いた。

 

 

 

「へ~、この子が新しい家族のエル君かぁ!」

 

 

翌日、暗輝と共に来た水輝は、小屋から出ていたエルを興味深く見ていた。

 

エルは紫苑の手から餌を食べているものの、自身の周りを歩き回る水輝をチラチラと睨んでいた。

 

 

「水輝、あまり周り歩かない方が」

 

「平気平気!

 

暗輝の動物で馴れてるから!」

 

「いっつも噛み付かれてるけどな」

 

「っ」

 

 

エルの体を診ていた暗輝は、前へと回り紫苑の肩を叩いた。

 

 

「こいつの口、開けさせてくれねぇか?」

 

「うん」

 

 

嘴に手を触れさせた紫苑は、上と下を押し上げ下げ暗輝に中を見せた。彼は中を見ながら、舌を手に取り触り診た。

 

 

「特に目立つ異常は無い。

 

少し栄養失調気味だけど、しっかり食べる物食べればすぐに回復する」

 

「やっぱりあいつ等、何も世話しなかったんだな」

 

「無理もねぇよ。

 

扱い方が分からない生き物の世話なんざ、したくは無いからな」

 

「そりゃそうだ」

 

 

診察を終えたエルは、首を一振りすると紫苑を銜え勢いを付けて、自身の背中に乗せた。前足を上げると、エルはその場から駆け出した。

 

 

「あらら、行っちゃった」

 

「軽い散歩だろう」

 

『俺を置いてくな!!』

 

 

エルを追い駆けていった紅蓮は、飛び立つ前に人の姿へと変わり、彼の背に飛び乗った。

 

エルは二人を乗せ、そのまましばらくの間空を飛び回った。




とある森……


水に映るエルに乗り笑みを浮かべる紫苑を見る、九本の尾を持った人影。


楽しそうにする彼女の姿を見て、その者は静かに微笑んだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。