桜の奇跡   作:海苔弁

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揺れる体……

眠っていた美麗は、薄らと目を開けた。


「とりあえず、今回の騒動はあの闇市の野郎の仕業だったって、依頼主には報告する」

「頼む」

「にしても、凄いッスよねぇ。

火山だった山が、氷山になっちまって」

「まぁ、あの氷なら溶けないさ。

永久にな……」


何かを知っているかのようにして、幸人は話ながら、ずり落ちてくる美麗を背負い直した。


(氷……

そういえば……晃が言ってたな……


私の氷は、私が死なない限り溶けないって……)


白狼の怒り

数日後……

 

 

森へ来た幸人達は、辺りを見回りながら歩いていた。

 

 

「見た所、異常ないみたいだな」

 

「そうだな」

 

 

 

彼等が森へ行っている頃、宿に残っていた水輝は眠っている美麗に、ずり落ちた布団を掛けた。

すると、開けていた窓の縁に座る、雷神が心配そうに美麗を見詰めていた。

 

 

「大丈夫だよ、雷神。

 

ミーちゃん、妖力を使い過ぎるといつもこうだから」

 

『……』

 

 

縁から降りた雷神は、恐る恐る手を伸ばしソッと頭を撫でた。

 

すると、美麗はスッと目を開けた。ビクッとした雷神はすぐに手を引っ込め、窓から外へ出て隠れた。

 

 

「雷神?」

 

「あらあら、隠れちゃった」

 

「……あれ?

 

幸人達は?」

 

「森を見に行ってるよ。

 

ミーちゃんも行く?」

 

「行く」

 

 

靴を履いた美麗は、窓を開けるとそこから飛び降りた。飛び降りた先には、エルがおりエルの背中に彼女は跨がっていた。

 

 

「ナイスタイミング」

 

「森行くね!」

 

「あぁ。私は残ってるから。

 

 

雷神、ミーちゃんのことよろしくね」

 

 

先に行くエルの後から出て来た雷神は、頷くと彼女達の後を追っていった。

 

 

 

森へ着いた美麗は、エルから降りると辺りを見回しながら、雷神と共に歩いた。

 

 

「綺麗な森……

 

北西の森みたい!」

 

 

嬉しそうに話す美麗の表情に、雷神は微笑んだ。しばらく歩き、森を抜けると川へ着いた。

 

同じようにして、川を挟んだ反対側の森から幸人達が出て来た。

 

 

「あ!幸人!秋羅!」

 

「何でお前、ここに?!」

 

 

川を突っ走り彼等の元へ駆け寄った美麗は、秋羅に飛び付いた。受け止めた彼は少々驚きながらも、すぐに安堵の表情を浮かべて彼女の頭を撫でた。

 

 

「体調の方は良いみたいだな」

 

「うん!全然平気!

 

雷神達と一緒に、ここまで来たの!」

 

「いねぇと思ったら、美麗の所に行ってたのか」

 

「森の中、見回したけど……特に異常は無い。

 

必要な箇所には、手は出したが」

 

「ラルが来てないから、多分平気だよ。

 

この森に何か異常があれば、すぐに飛んでくるし!

 

 

それより、紅蓮は?」

 

「白狼の子供を送り届けるって言って、外の森の方に行ったきりまだ……」

 

「外の森……?」

 

 

ざわつく森……雷神は警戒するようにして、辺りを見回した。

 

 

その時、茂みから飛び出て来た大白狼・ラル……その影から出て来た白狼の子供は、秋羅を見付けると一目散に彼の元へ駆け寄った。

 

 

「どうしたんだ?お前」

 

「ママと一緒じゃないの?」

 

『母親は、もういない』

 

「え?」

 

 

寄ってきたラルの頬を、美麗は撫でた。すると、後ろから紅蓮が現れ彼女の元へ寄ると体を擦り寄せた。

 

 

「ラル、さっきの意味って……」

 

『母親は、数日前に別の人の手によって殺られた』

 

「そんな……」

 

『見付けたら、すぐにそいつの頭を噛み砕くつもりだがね』

 

「こ、怖ぇ……」

 

「噛み砕く前に、私が刺し殺しとくよ」

 

「そんな笑顔で、怖いことを言うな!」

 

『しかし、この町から贄でも貰うか』

 

「!?」

 

『何を驚いている……

 

白狼を一匹殺すという事は、人の子一人消えるという事だ』

 

「だからって、この町から」

 

『運がなかったんだな……』

 

「イヤイヤ、そんな言い方しなくても」

 

「何でそんなに嫌がるの?」

 

「え?」

 

「普通じゃん。

 

他人の物奪ったら、奪い返すなんて」

 

「……あのな、美麗。

 

人の世界と妖怪の世界は、ルールが違うんだ」

 

「でも、生きてることには変わらないじゃん。

 

私が住んでた北西の町は、自分達で育てた果実や野菜をあげる代わりに、森の木を倒したり川の水を貰ったり、動物達の命を貰ってたよ。

あと、木を倒して住処を無くした鳥達のために巣箱と餌場を設置したし。

 

 

白狼を殺したなら、誰か犠牲になるか森に何かを捧げるかどっちかしないと妖怪から守って貰えなくなるよ」

 

『流石、美麗だ。よく分かっている』

 

「晃達から、よく言われてたから」

 

「でも、そんな事聞き入れてくれるか……」

 

「とりあえず、町長に取り合ってみよう」

 

 

幸人達が話している間、白狼の子供は秋羅から美麗に擦り寄り甘えるようにして、伸ばしてきた彼女の手を甘噛みしてきた。

 

 

「こいつ、警戒心まだ無いのか?」

 

「うん。

 

このくらいの頃は、まだママ達にベッタリだから」

 

 

『美麗は相変わらず、美優さんにベッタリだね』

 

 

ふと聞こえる晃の声……それと共に、蘇る記憶。

 

思い出した美麗は、顔を曇らせて甘えてくる白狼の頬を撫でた。

 

 

「……晃が言ってた。

 

 

私は小さい頃、ママにベッタリだったって」

 

「え?」

 

「パパが死んだ後……

 

ママが傍にいないと、いつも大泣きしてたって。

 

 

だから病気になった時私、片時も離れなくて凄い大変だったって、晃がよく言ってた……」

 

「そうか……

 

お前、結構甘えん坊だもんな。16になってんのに」

 

「実感が無い。

 

 

奈々も16だけど、保奈美にベッタリだよ」

 

「ハハハ……そうだったな」

 

「秋羅、俺と創一郞で町長に話し付けてくる。

 

その間、敬と一緒に森の見回り頼む」

 

「分かった」

 

「こいついるなら、私雷神と別行動取る」

 

「そんな言い方しなくても良いだろう!!」

 

「フン!」

 

「美麗!!」

 

「まぁまぁ」

 

「そんじゃ、頼んだぞ」

 

「あ、あぁ」

 

 

幸人と創一郞がいなくなると、美麗は紅蓮の背中へ乗った。

 

 

「紅蓮達と一緒に、森の中駆けてくる」

 

「危ない所、行くなよ」

 

「うん!」

 

 

返事をしながら、美麗は紅蓮を走り出させた。その後を、白狼の子供は追い駆けていった。

 

 

「何か、すっかり森の人って感じだな……」

 

「森の生活が長かったからな」

 

 

擦り寄ってきたエルの頬を撫でながら、秋羅は敬に言った。

 

 

 

夕方……

 

 

森入り口付近に、作られた祭壇。そこにはいくつもの供物が置かれていた。

その様子を、森の高台から美麗は紅蓮の背中から見下ろしていた。

 

 

バチバチと鳴る、松明の音と共に大白狼……ラルが姿を現した。供えられた物のにおいを順々に嗅いでいき、置かれていた肉の塊を銜えると、そのまま森の中へと姿を消した。

 

 

「い、良いのか?もう……」

 

「平気だよ!」

 

 

高台から降りてきた美麗は、紅蓮から降りると秋羅達の傍へ駆け寄りながら言った。

 

 

「今回は大目に見てくれたみたい。

 

まぁ次は無いよ」

 

「怖いこと言うな……お前」

 

「あの白狼の子供は、どうなるんだ?」

 

「ラル達が育てるから、平気だよ」

 

「そうか」

 

「依頼終わったから、明日には帰るぞ」

 

「全く、余計な仕事増やしやがって……

 

依頼料、プラスにするからな」

 

「何でそうなんだよ。

 

だったら、美麗の面倒見たんだから、その世話代寄こせ」

 

「知るか、んなモン」

 

「テメェ!」

 

「創一郞に世話なった覚え、無い」

 

「この小娘!!」

 

「ちょ、師匠!子供に暴力は!!」




彼等が依頼を行っている頃、各祓い屋達と討伐隊本部に、一通の手紙が届いていた。


それは、彼等にしか分からない手紙……




決して、届くはずの無い所から届いた、手紙。
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