桜の奇跡 作:海苔弁
窓の外を見る、奈々と美麗。彼女達の隣には、秋羅と時雨が座っていた。
隣席では、鼾をかく幸人と創一郞、本を読む葵と保奈美が座っており、少し離れた別席には、翠と迦楼羅が座り、その隣席には火那瑪と邦立、敬が座っていた。
「本当に乗る汽車を変えるとは……」
「凄く残念がってたよね。
大地さん達、滅茶苦茶悔しそうにしてたし」
「だね」
「そろそろ、降りる準備をして頂戴。
後二駅で着くから」
「ハーイ」
「美麗、幸人起こしてこい」
「うん」
通路側に座る幸人に、美麗は座ると大きく開く口に氷の礫を入れた。
突然の冷えに、幸人は飛び起きた。隣で寝ていた創一郞の口にも、同じように氷の礫を入れた。彼も飛び起き、口から礫を出した。
「な、何だ!?」
「い、いきなり冷たいのが……」
「起きた?」
「美麗、テメェ」
「良い目覚ましじゃない」
「暗輝の目覚ましより、マシだろう?二人共」
「……」
駅を降りると、そこは喉かな場所だった。
「凄い静かな所……」
「本当……
駅以外、何も無い……」
「ここから少し歩いた先に、小さな町があってその先に施設があるの」
「じゃあ、結構歩くんだ」
「まぁ、そうね」
「先行ってる!」
「あぁ……って、先行くな!!
秋羅!止めろ!!」
「美麗、待てぇ!!」
「あらあら、相変わらず猪突猛進ですね」
「そう言うなら、どうにかしろ」
「子供は一人で充分です」
追い駆けていた秋羅の前で、エルに乗った美麗はエルを飛ばした。飛んで行く2人を、彼は何も出来ずオロオロした。
すると、エルを止めるようにして竜が目の前に飛び止まった。
「コラコラ、お父さんから離れちゃいけませんよ」
「エルと一緒だから、平気だよ!」
「空から追撃あるから、下がれ」
「……嫌なこった!!」
手綱を思いっ切り引き、上へと美麗はエルを飛ばした。彼女の後を、梨白とアリサはすぐに追い駆けていった。
その様子を、下から見ていた幸人は軽く息を吐きながら、先に行った迦楼羅達の後に続いて歩き出した。
「あれ?幸人、美麗は良いの?」
「花琳達に任せる」
「人任せはいつも通りだね」
「ほっとけ」
しばらく歩き、小さな町で道を聞くと出て行き喉かな林道を歩いて行った。
「何か、妖怪が一匹も出て来ませんね……」
「本当……
今まで、依頼場所まで行く道々に必ずって程現れたのに」
「この辺りは、昔から妖怪があまりに近付かない土地だからね」
「え?何で?」
「詳しくは知らないけど……
噂だと、美麗の父ちゃんがこの辺りに結界張ったって話だ」
「美麗のパパさん、凄ぉい!」
「迦楼羅、あまり奈々に変なこと吹き込まないで!」
「ヘイヘイ」
「そろそろ着くぞ」
林道を抜けた先にあったのは、壊れ草だらけになった柵。その柵を越えた先には、巨木の隣に焼け落ちた屋敷が2軒あった。
「何も、変わってないわね……」
「本当」
広い庭に降り立つ2頭の竜と2頭のドラゴン……それに釣られて、エルが降り立った。
「あ、美麗達着いた」
「拳骨、食らわせるか?お父さん」
「迦楼羅、脳天ぶち抜かれたくなければ、すぐに撤回しろ」
「すみません……何も言いません」
「さっさと娘引き取って下さい、お父さん」
首根っこを掴まれた美麗を差し出しながら、マリウスは幸人に言った。怒りを抑えているのを察したのか、美麗はマリウスから離れると一目散に駆け出し、その後を幸人は何も言わずに追い駆け、追い付くと一発拳骨を食らわせた。
「やっぱり拳骨を食らわせたか」
「幸人はあれだな……お父さんには、向かないな」
「ある程度成長すれば、まだ平気かも知れないけどね」
しばらくして、水輝達が到着し中へ入ると彼等は幸人達と同じように、中を探索しだした。その間、秋羅達は焼け残っていた部屋や物を見たりしていた。
「どこも真っ黒だな」
「随分、長い間放置されていたみたいですね。
焦げた箇所に、草が生えています」
「言われてみれば……」
「焼けた家が、蔦の家になったって感じね」
蔦を触りながら、時雨は辺りを見回した。焼けた部屋には、煤が着いた人形が落ちており、それを彼女は手に取った。
「この施設には、何人孤児がいたんですか?」
焼かれた壁を指で触れていた暗輝に、時雨は質問した。
「俺達がここを出た頃には、ザッと20人から30人近くはいた。
下は0歳から上は18まで」
「それが一夜で……」
「火が点いたのって、やっぱり妖怪が」
「まだ分かってない。
火の不始末も考えられたが、見回りの奴が自分が寝る前に、火元は必ず確認していたし、出火場所を調べたが特に酷い所が見つかっていない……
検証の結果、施設の奴等も施設の建物も、妖怪の仕業だろうって話になったんだ。
火事の日、夜だったから目撃者もいないし……施設の奴等には生き残りがいない」
「真実は闇の中って事ですか」
「まぁ、そうだな。
部屋に3人いるはずなのに、誰一人火事に気が付かないなんて事、あんのかな」
「え?3人?」
「3人で部屋を使ってたんだ。年はバラバラだけどな。
だから、煙とかで上が気付いてもおかしくないんだけどな……」
「……確かに」
「言われてみれば」
「って言っても、もう12年前の事だから調べようが無いし!」
その頃2階の部屋では、焼け残った本棚と棚に並べられた本を、美麗と奈々、保奈美と葵は見ていた。
「本が残っているなんて、不思議ね……全部燃えてもおかしくないのに」
「残ってるだけでも、有り難いよ。
火事は嫌いだ……何もかも、奪ってしまうから」
「そういえば、あなたのご家族も確か」
「妖怪が放った炎で、皆燃えたよ。
しばらくの間、炎が駄目でよく幸人達の後ろに隠れて、料理してたっけ」
「火を使う料理は皆、私達の担当で、野菜を洗ったり切ったり、食器を洗うのがあなたの担当でしたものね」
「今はちゃんと、火を使えるよ」
「奈々も料理できるよ!」
「はいはい、そうね」
「美麗は?」
「出来るよ!
小さい頃から、晃と天花に教わってるから!」
「それじゃあ、秋羅がいなくても安心ね」
しばらく本棚を見ていると、ある一冊が目に留まった。美麗は、その本を手に取り慎重にページを開いた。そこには、掠れた字で男女の名前が書いてあった。
「美麗、何か見つかったの?」
「何か本に、字が書いてる」
「字?
何て書いてあんの?」
「うんとね……
『ほなみ……こう』」
「ハーイ、そこまで!」
前から保奈美は、美麗から本を取り上げた。
「これ以上は読まなくて良い」
「アーン。まだ読んでたのにー!」
「2人共、隣の部屋を見てきて頂戴」
「ママ達は?」
「もう少し調べたら、行くよ」
「分かった。
美麗、行こう!」
「うん」
2人は部屋を出ていった。
出て行った後保奈美は、ソッと本の表紙を開き、中を見た。そこには確かに、『ほなみ・こういち』と書かれており、2人の名前の間に線が一本引いていた。
「……」
「保奈美、こういちの事好きだったんだね」
「!!
そ、そんなんじゃ!」
「恋なんて、個人の勝手だよ」
「葵!!」
「怒らない怒らない。
顔、真っ赤だよ」
「もう!!からかわないで頂戴!」
『ここは確かに安全だよ。
けど、いつかは襲われる』
『それは百も承知しています。
しかし、手を貸せるのは祓い屋達だけです』
『……残っていた書物には、こう書かれていました。
禁忌を犯したぬらりひょん、地獄の底から地上に蘇りし時は、9人の祓い屋の命を持って、これを鎮めよ』