桜の奇跡 作:海苔弁
「なーんも、手掛かり無し」
「当たり前だ。
12年前に焼け落ちているんだ」
「過去に戻って、調べてぇ……」
「無理言うな」
「……
そういや、この木まだ残ってたんだな」
「みたいだな。
遊具も、当時のままだ」
草が絡み錆付いている遊具で、奈々と美麗は遊んでいた。彼女達の傍で、エルと紅蓮は見張るようにして移動しており、それを見た保奈美は、少々呆れながら彼女達を止めに行った。
「ガキは呑気で良いよなぁ」
「そう言うあなたも、顔に余裕がありますね?」
「何だと」
「ほら、喧嘩しない。
マリウス、喧嘩売らない」
「僕は喧嘩売ってません」
「アンタのその言い方が、喧嘩を売ってるの!
ガキ大将だった太蔵にもそうやって喧嘩売って、いつも私が止めたんじゃない」
「あのゴリラが勝手に怒って、理不尽な言い掛かりを付けて殴ってきたんです」
「あのね!!」
「兄妹喧嘩は底までにしとけ」
「そうだそうだ。
30過ぎて、何喧嘩してんだ」
「兄妹じゃないわよ!!」
「兄妹じゃありません!!」
「しかし、これだけ探しても無いとなると……
この手紙は、一体誰が」
「他の卒業生が送ったとか?」
「真っ先思い、卒業生を徹底的に調査し発見し手紙について聞いたが、そんな手紙は送っていないとのことだ」
「ありゃりゃ……」
「ねぇ、院長室ってどこ?」
甘えてくるエルの頭を撫でながら、美麗は誰振り構わず聞いた。
「院長室?」
「さっき調べた建物の1階よ。
確か、玄関から入って角を右に曲がった、奥の部屋がそうよ」
「分かった。ありがとう!」
エルの頬と嘴を撫で彼等から離れると、美麗は建物の方へと駆けて行った。
「おい、美麗!」
「どこ行くんだ!」
「屋敷!」
「もっと詳しく言え!」
「呼び止める暇があるなら、追い駆けるぞ」
「だな……あ~、面倒臭ぇ」
「秋羅達は、ここで待機」
「あ、あぁ」
「言っとくが、大地達もだからな」
「何でよ!!」
「美麗の奴が怖がるから、一生傍に来るな」
「言い方!!」
焼けた施設の中へ入り、焼け落ちた木材があちこちに落ちている部屋に、美麗は入った。
「えっと……」
黒くなった机を動かし、美麗は床を手探りした。そこへ幸人達が辿り着き、何かを探る彼女を幸人は掴み上げた。
「やっと捕まえた」
「ん?」
「“ん?”じゃねぇよ」
「何探してんの?」
「地下室の入り口!」
「地下室?」
「こんな部屋に、そんなのあるわけ」
「昔、晃が入って行くの見たんだもん!」
「!?」
「美麗、それ本当?」
「本当!
この机の辺りで、2人が下に行くのが見えて……」
「それで地下室か……
まぁ、噂にはあったけどな。
院長室に、秘密の部屋があるって」
「それ、僕も聞いたよ。
でも、誰も院長室に真面に入ったことが無いから、本当かどうかは……?」
床を探っていた葵は、何か気付いたのか床を指でなぞった。
「葵、どうかしたか?」
「ここの床だけ……妙な一本線が」
「……水影、ちょっと良いか」
「うん」
携帯用の灯りを照らしながら、創一郞は地面を調べた。調べていくと、金具が見つかり彼はその取っ手を引き上げた。
線が引かれた部分の板が、取っ手と共に上がり大人一人が入れる穴が、そこから現れ出た。
「地下室だ!」
「本当にあったとは……」
「数十年の時を得て、知るとはな」
幸人から降ろされた美麗は、葵が開けた隙間に入り、穴を覗き込んだ。
「……!
灯りだ!」
「!?」
彼等が驚いている間に、美麗は穴へ飛び込んだ。
「美麗!!
ったく、ジッとしていられないのか!あのガキは!」
「葵、ロープを頼む。上へ上がる際、必要になる」
「分かった」
「保奈美はここで待機しててくれ」
「え、えぇ」
「陽介、行くぞ」
幸人が先に穴へと飛び込み、彼に続いて陽介、創一郞、迦楼羅と飛び込んでいった。
先に穴の中へ降りた美麗は、携帯用のライトを点け辺りを照らした。道を見付けると、彼女はその先を歩いて行った。
歩いている最中、ふと昔の記憶が蘇った……
『あら、この子……』
『美麗……
仕様が無いなぁ。ほら、おいで』
小さかった彼女を、晃は抱き上げ抱っこした。一緒にいた院長は、不意に彼に質問した。
『お嬢さん、お年は?』
『もうじき、7歳です』
『それでは、学校の手配は?』
『無理ですよ。
この子、僕の傍から離れられないんです』
『大丈夫ですよ。初めは皆』
『皆と違うんです……
傍を離れれば、大泣きです。手が付けられないほどに暴れて』
『しかし、それでは』
『大丈夫ですよ。
僕が、責任を持ってゆっくりとこの子を育てていくつもりです。
僕はこの事同じくらい、長く生きられますから』
抱かれ自身にしがみつく幼い美麗を、晃は愛おしそうに抱き締め頭を撫でた。
それを思い出した美麗は、自身の頭に手を置いた。
(……晃、今どこにいるんだろう。
ちゃんと、ご飯食べてるのかな)
灯りを先の道に照らしながら、美麗は奥へと進んでいった。
美麗が奥へ行った頃、幸人達は穴の中へ降りていた。
「本当に地下室があったんだな……」
「院長の部屋は、一部の人しか入れなかったからな」
「そういえば、悪戯で入ろうとしたらクッソ怒られたっけなぁ」
「お前はいつも怒られていたもんな」
「うっ」
「道はあるか?幸人」
「奥に続いている。進むぞ」
「あぁ」
各々の灯りを照らしながら、彼等は奥へと進んでいった。
奥へ歩くと、開けられたドアが一つあり中へ入った。
「あ!幸人!陽介!」
中には、部屋を見回す美麗がおり彼女は先に入ってきた幸人の元へ歩み寄った。
「何だ?この部屋」
「灯り追い駆けてきたら、ここに。
それより、机の上に本が置いてある」
彼女が指差す方向には、言う通り机に本が一冊置かれていた。幸人はその本を手に取り、表紙を捲った。
「何か書いてあるな……」
「何て書いてあるんだ?」
「……『これを読んでいる方へ。
あなたがこの本を取り、読んでいるということは私はもちろん、アスル・ロサはもうこの世にはいないという事ですね』
迦楼羅、保奈美達を呼べ。秋羅達に見張り任せて。
美麗、秋羅の所に戻ってろ」
「う、うん」
「わ、分かった」
数分後、保奈美達が部屋へとやって来た。全員が揃ったのを確認すると、幸人は本に書かれている文字を再び読み出した。
「『まず始めに、この施設はぬらりひょんと祓い屋達の手で建てられた、建物です』
「え?ぬらりひょんと?」
「『建てられた理由は、ぬらりひょんの実父と祖父が闇の力に陥っていた。そんな彼等を、祓い屋達は己の力と命を引き換えに、闇に陥ったぬらりひょん達を代々封じていた。
その力を受け継ぐために、この施設には祓い屋になれる素質を持った者達、またその可能性がある者達を育てるための施設だった』」
「つまり、私達は試されていたって事か……」
「『その事を歴代の院長達は、後継者へ伝えていった。
そんなある日、妖怪博士である夜山晃がぬらりひょんの娘を連れて、やって来た』」
「もしかして、美麗のこと?」
「ちょっと待って……
それ書いた人ってまさか……」
「恐らく、美麗が幼少期に訪れたことがあると言っていた時期……100年前の院長の遺書か、又は日記」
「『彼は忠告しに、この施設へやって来た。
その忠告は……
『100年後、ぬらりひょんは別の姿で復活する』」
「……晃は、予知していたの?」
「婆の話だと、晃は不思議な力を持った奴だったらしい」
「予知しても、おかしくない……」
「幸人、続き」
「いや……
ここで、終わってる」
「……ハァ!!?」
「何でよ!!」
「知らねぇよ!!次のページ捲ったら、真っ白なんだよ!」
「何なんだよ!!このクソ院長!!」
「三日坊主か!?」
「死人に怒鳴るな」
“ガタン”
突然何かが落ちた音に、彼等は驚き辺りを見回した。
地面に目を向けると、そこには写真立てが落ちており、陽介はそれを拾った。それは、院長を真ん中に生徒達が写った写真だった。
「……これって……」
落ちてきたであろう棚を見ると、そこには同じような写真が何枚も飾られていた。写真立てから、壁に飾られた写真がいくつもあり、一番端に飾られた写真には、翠達が写っていた。
「アタシ達の写真?
つか、これ卒業した時に取った集合写真ですよ!」
「そうなると、隣のは俺等か……」
「こんなに卒業生がいたのね……」
「皆、祓い屋の素質があった奴等だったのか」
「……?
ねぇ、陽介、幸人」
「ん?」
「何だ」
「この写真、私の見間違いなら良いんだけど……
この写真に写っている、この男女……どっかで見たこと無い?」
「?」
壁に飾られた写真に写る、左腕の無い逞しい体の男と、ウェーブの掛かった髪を下ろした女を水輝は指差した。
「……元帥?この男」
「隣に写ってるの、所長じゃね?」
「……」
「え?
待って……
あの2人、ここの出身だったって事?」
「みたいだな……」
「えー……」
「元帥、この頃から腕が無かったのか」
「だな……」
「なぁ先輩。
何で写真、俺達の代までしかないんだ?」
「?」
「だって、俺達の一つ下の後輩達いたんですよ?
それが何で、そいつ等の写真がないんだ」
「……役目を終わったか。
もしくは、撮る必要が無いと判断したか」
「それはあるかもな」
「あくまでも、祓い屋の跡継ぎを育てるための施設。
俺達が出た時点で、多分もういなかったんだろう。
ここに並べられている写真を見る限り、恐らく祓い屋になる又はなった奴等が写った写真だけが、ここに残っている」
「え?何で分かるの?」
「この写真に写ってる男、多分師匠だ」
「え?!」
「他の写真にも、恐らく歴代の祓い屋達が写っているわ」
「……本当に、祓い屋育成のための施設だったのか」
「……」
並べられた写真達に写る、自分達と歴代の卒業生達……
写っている彼等は、この施設の真実など知らずに育ち、楽しい時を施設で過ごし、そして卒業していった。
自分が、施設へ来た理由など知らずに……
写る彼等の顔は、純粋無垢な笑顔に満ちていた……それは、幸人達の写真の自身達もそうだった。